【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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04.仲介人は情報通

結局ドラコの初陣は散々な結果に終わった。スリザリンはスニッチを獲得できず、ドラコはキャプテンに怒られ寮はお通夜ムードだった。

話しかけられるのを拒否するドラコを見て、サキは夜はどこか別のところに逃げたいと思ったがフィルチの取り締まりが苛烈になっているので諦めた。

見事チームを勝利に導いたハリーはロックハートに骨抜き(文字通り)にされていたため医務室にいる。

秘密の部屋騒ぎをつかの間忘れさせたロックハートのやらかしだったが、翌日にはどうやらコリン・クリービー(カメラ小僧)が秘密の部屋の怪物にやられたらしい。

クィディッチのことなんて忘れたようにみんながみんな実しやかに憶測を囁きあっていた。

サキは夜間外出もままならないどころか放課後廊下をうろつくだけでも厳しく理由を聞かれるのにウンザリしていた。

「仕方ないわよ」

ストレスを溜め込んだサキに、薬を作る息抜きに図書館に来たらしいハーマイオニーが諭すように言った。

そして言いにくそうに続けた。

「ねえ、サキ…あなた、フレッドとジョージに魔法薬の材料を横流ししてるんですって?」

「…身に覚えがないな」

サキはハーマイオニーから視線をそらした。はたから見ればほとんどバレないほどの表情の変化をハーマイオニーは目敏く見つけていた。

「夏休みにフレッドとジョージ宛に荷物を送ったらしいわね。鉢植えに見せかけてたけど、あれって催眠豆の苗木よね?」

サキは苦虫を噛み潰したような顔をした。

実はマクリールの屋敷にある庭園は魔法薬に使える、ギリギリ法律に抵触しそうな植物が満載だった。

庭を掃除する途中でそれを発見し、小遣い稼ぎにフレッドとジョージに売りつけていたのだった。

その中で催眠豆は第2種魔法薬原材料に指定されており、未成年による株分けは禁止されている。

まさかそれを、よりによってハーマイオニーに嗅ぎ付けられるとは。

何故ばれたのだろう?

まさかあの二人、寮に苗木を持ってきたのか?

実はサキの読み通り、フレッドとジョージは苗木を持ち込みこっそり男子寮で栽培していたのだが、それをサキが知るのは2年後のことだ。

「それで、魔法薬学の得意な貴方は二角獣の角の粉末なんて持ってないわよね?」

「友達に脅迫されるとは…」

「言っとくけどサキ、私は友達も大事にするけど法律も大事にするわよ。…学校の規則はたまに破るけど」

「まあ別に隠してるつもりもなかったんだけどさ…二角獣だっけ」

しかし植物系以外となると魔法の道具を作るときに最後に塗る釉だとかに使うものしか持っていない。

二角獣の角の粉末は木製家具の仕上げに塗りこまれることもあるが多くの場合比較的安価なユニコーンの角が使われる。発色もユニコーンの方がよく、二角獣のものが使われるのは稀だ。

「うーん。持ってないな…通販でもめったに見かけないし」

「通販?そんなものあるの?」

「あるよ。毎月購読してる。魔法具の材料になる木とかが載ってるんだ。珍品が入荷するとダイレクトメールが来るんだよね」

「変わった趣味してるのね」

「ハーマイオニーこそ。作る気なんだね?」

まさか、ポリジュース薬?と含みを持たせると言わずともハーマイオニーはわかったらしい。

「本当にやる気なの?ドラコは絶対何も知らないよ」

「わからないわ。何か掴んでるかもしれないし…それに、ハリーと仲のいい貴方に漏してない事もきっとあるわ」

「…ハーマイオニー…もしかしてこっそり薬作るの楽しんでる?」

「否定はしないわ」

ハーマイオニーはふっと笑った。楽しんでやってるというならサキがいくら制止しても無駄だろう。

「楽しんでるなら私もまぜてよ」

「勿論よ。できれば当事者の毛を集めて欲しいの」

「毛なら全然余裕だけど、角の粉末と…多分毒ツルヘビもだよね?あれは多分スネイプ先生の薬品庫に行かなきゃ手に入らないよ」

「そうなのよね」

ハーマイオニーはふうっとため息をついた。迷いがあるようだがもうそこからちょろまかすしか道はない。

「放課後は守りが固いから、やるなら授業中ね」

「そうだね。…爆発でもさせる?」

「名案だわ」

サキとハーマイオニーは作戦(といっても爆発させてスネイプを引きつけておく時間)を決め、秘密の部屋に関しての持ってる知識を交換しあった。

「いけない!交代の時間を忘れてたわ。ロンが怒っちゃう」

ハーマイオニーは時計を見て慌てて消えていった。サキもまた本を読む気にならなかったので寮に帰った。

 

材料の窃盗は膨れ薬を作ってる時に、サキの爆発を合図に実行された。

ドラコがロンとハリーにいたずらしてる隙に、どうしたって爆発しないはずの膨れ薬を爆発させたのだ。

ハリーは飛び散る膨れ薬を避けるのに精一杯で、ハーマイオニーがふっと消えるのさえ見届けられなかった。

スネイプはサキに何をどうして爆発したのか厳しく問いただしたが、サキは白々しく「あまりにも不味そうなのでつい砂糖を入れたら…」と答えていた。スリザリンにもかかわらず罰則を食らっていたのは申し訳なかったが、膨れ薬で鼻が10倍に膨らんだドラコを見て愉快な気持ちだった。

 

「やっ」

軽薄な掛け声にジニーは飛び上がるほど驚いた。

ジニーはここのところ、自分の記憶が途切れ途切れになっていた。今も思わずぼーっとしてしまい、危うくまた知らないところに自分が来てしまっているのかと勘違いした。

「大丈夫?」

「サキさん。…どうしてそんなところに?」

「罰則でね」

階段に沿って大量にかけられた絵画。ジニー二人分くらい上の位置でサキがハシゴにまたがり埃を取っていた。

「あらら、埃かぶっちゃってる」

サキはスルスルと滑るように梯子を下りて、ジニーの肩と髪にかかった埃を払った。ごめんね、と微笑むサキに一瞬心を許しそうになったが、ゆるむ自分の心を引き締める。

「また具合悪そうだね」

「あんな事件もあったから…」

「ああ、ショックだよね。…ねえジニー」

サキがジニーの顎をそっと抑えて視線をしっかり合わせた。そらすことができない。

「ハロウィンの日にうずくまってたのは、もしかしてトイレからの帰りだったりする?」

「えっ…」

予想外の質問にジニーは口をつぐむ。その日は、丁度記憶が途切れ途切れになり始めた日だからだ。

そして、トイレというのはミセス・ノリスが石にされた廊下に最も近い嘆きのマートルのトイレのことだろう。

「わ、わかりません」

「わからない?」

しまったとジニーは視線を逸らした。サキはジニーを離して、優しく頭を撫でた。

「そっか。わからないのか。じゃあしょうがないよね」

「何でそんなことを聞くんですか?」

「いやね、あの日君がうずくまってた階段の方から何かが這いずる音が聞こえたんだよ。ひょっとしたらそれが秘密の部屋の化け物かもしれないでしょ。見なかったかなあって」

「ごめんなさい、見てません」

ジニーは早く寮に帰りたかった。

サキは、ハリーたちといると愉快なお友達然としているがこうして1人で対面するとわかる。

この人は、呆けたふりして腹の底で何を考えているか全くわからない。

ジニーはハリーと仲良くしているサキにはじめから良い印象を持っていなかったし、正直言って嫉妬していた。

だが、その負の感情がどこからくるのかわからなかった。

この人はまるで何も考えてない明るい人みたいに見えるけど、ハリーとマルフォイたちの間で多くの情報を抱え込んでいるはずだ。しかしそれを決して双方に漏らさない。

ジニーのことも、パーシー以外には漏らさない。

秘密を持ちすぎてるくせにそれをおくびにも出さないから怖いんだ。

「私、寮に帰ります」

そして私も、彼女に秘密を握られかけている。

「そう?ねえジニー」

「なんですか?」

「一度鏡を見たほうがいいよ。ほっぺたが汚れてる」

「…どうも。それじゃあ」

サキから足早に逃げていき、ジニーは寮に入る前にトイレで鏡を確認した。

自分の疲れた顔をよく見ると、頰に微量の血液が付いていた。

「うそ…」

ジニーは必死に石鹸をこすりつけて血の付いた頬を洗った。

また、記憶がない!

記憶がないのに違和感がない!

ぞくぞくと立つ鳥肌が止められなかった。

 

どうして?

どうして私の顔に血が付いているの?

まさか、またー

 

ジニーが密かに、そして静かに病んでいくのをサキだけが気がついていた。

ジニーに散々心の中で罵られたサキだが、本人は全く知らずにまたハシゴを登って絵画に積もった埃をはたき落としていた。

 

ジニーも見てないのか…てっきり口封じか何かをされてあんなに怯えてるんだと思ったのに

 

バシバシとはたきを打ち付けるせいで絵画の中から非難の声が上がるがサキは上の空だ。

 

けれどもあの頬についた血は異常だ。やっぱり事件に巻き込まれてるんじゃないか?

 

次の絵画はフィルチの腕でも届かない位置だったので、魔法を使ってはたきをかけた。

埃がはるか下の絵画までふわふわと落ちていくのがわかる。

秘密の部屋が開かれたとして…人を石にしてるのは部屋の怪物。

司令塔は誰だろう?

ジニーが脅されてると考えれば人間だが…

「こら貴様!なにをやっとるんだ!」

考えの途中でカンカンになったフィルチの声が聞こえてサキははたきがけを中断した。

「言われたことをやってるじゃないですか!」

「埃が、みろ!一階で山になってるんだぞ。それも掃除しなけりゃ罰は終わりじゃない」

「ええ?!そんなあ…」

しかし今のフィルチは猫がやられてもはや狂ってるといっていいほど攻撃的だ。サキがいくら言っても無駄だろう。

諦めてひたすら埃を払っているうちに、サキは自分の考えていることを忘れた。

 

「サキ!ちょうどいい」

ドラコが分厚い呪文集をぱたんと閉じて杖を振りながらサキを呼んだ。

「決闘の練習をさせてくれ!」

ドラコが何を言ってるか一瞬理解できなかったが、大々的に貼られた決闘クラブの告知を思い出した。

二つ返事でサキが了解し、2人はお互い呪文をかけたり避けたりした。

クラッブとゴイル相手だと避ける事もしてくれないし、呪文があまり成功しないのでこっちも避ける練習ができないらしい。

「ハリーたちも参加するって言ってたな」

サキは盾の呪文を出そうと四苦八苦しながら言った。

「当然!僕が勝つ!」

サキは去年の秋を思い出していた。ドラコがハリーたちをはめるつもりで決闘を申し込んだが、結局サキのせいで本当に決闘をする羽目になり結果的に三頭犬のいる小部屋にみんなで飛び込んでしまった。

「リベンジマッチだ」

「何言ってるんだよ。あれはポッターの反則だったろ」

「そうだっけ?」

サキはドラコが吹っ飛ばされて笑い転げてることしか覚えてなかった。

普段の授業よりよっぽど熱心に呪文をかけるドラコとサキは周りがみんなベッドに行くまで延々と転び転ばしあっていた。

 


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