【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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05.決闘クラブと噂話

決闘クラブの朝、アザだらけのサキをパンジーが不気味がっていたがサキは気にしなかった。ズボンでわからないがドラコも同じくらい膝に痣があるはずだった。

決闘クラブにはスリザリン生からも多々参加者がおり、同学年なのに一回りも大きなミリセント・ブルストロードに絡まれて困っていた。

いつも一緒にサキの陰口を叩くパンジーとダフネはいなかったが、こいつは集団よりも一人でいた方が強く出られるらしい。ぜひ私と組みなさいよと言ってるがサキはお断りだった。早々に彼女の視界から逃げてしまおうと画策しているうちにロックハートが壇上に躍り出て長々と口上を述べる。

スリザリン生の多くは早く戦わせろといいたげに苛立っていた。

「…では、私のお相手をしていただく勇敢な先生を紹介しましょう。セブルス・スネイプ先生です!」

派手派手しいマントのロックハートと対照的にいつも通りの陰気な格好と表情でスネイプが出てくる。

嫌々って感情を人間型にこねたらああいう顔をするんだろうな、とサキはぼんやり思った。

道理でこの間授業の質問をしに行った時やけに不機嫌だったわけだ。てっきり薬泥棒がばれたせいだと思ってたがタイミング的にこっちだろう。

当然周りもざわつく。あのスネイプと、いんちきロックハートの対決だ。一部の女子を除いてみんながスネイプがロックハートをこてんぱんにするのを待ち望んでいるのが伝わってくる。

「まず挨拶ですね。そして、後ろを向いてカウント!3.2.1で…」

ロックハートが指揮者みたいに杖を振り回すと、スネイプはナイフで切り込むように呪文を叩きこんだ。

武装解除呪文はロックハートの体を貫いて、杖が遠くへ弧を描きながら飛んでいく。

舞台で派手にすっ転ぶロックハートをみて悲鳴と歓声が上がる。

「は、はじめに武装解除呪文をみせるとは、いい選択ですね!」

取り繕うように言うロックハートをスネイプは冷笑した。

「生徒たちにやらせた方が決闘クラブを開いた趣旨に沿っていると思いますが?」

「ああ、おっしゃる通りだ。それじゃあみんな二人組になって!」

サキはとっさにハーマイオニーの後ろに隠れてミリセントをかわした。しかしロックハートに見つかってしまい、ハーマイオニーが組まされてしまった。

ごめん!というジェスチャーにハーマイオニーは苦笑いを返した。

ハリーは大慌てでロンと組んでしまい、それを見てがっかりしたドラコはザビニと組んでいた。

サキは取り残されたネビルと目があった。

「ネビル…よろしくね」

「ごめんよ、サキ。僕なんかで…」

「大丈夫!避けるの得意だから」

ロックハートの号令を聞いて、ネビルは自信なさそうに杖を構えた。サキはこの上なく不安だったが、少なくともロンの折れた杖相手よりマシな結果になるだろうと腹をくくる。

次の瞬間には呪文が飛び交った。と思いきやものの10秒ほどで呪文を唱える声はやんで殴打音やら悲鳴が聞こえる。

サキはいくら待ってもこないネビルの攻撃を立ったまま待った。

「やめろ!やめなさい!みなさん呪文で戦わないでどうするんですか」

見ると周りのみんなは取っ組み合いの喧嘩中で、ハーマイオニーに至ってはミリセントにチョークをかけられている。完全にプロレスだ。

数組ぐらいしかまともに呪文を飛ばし合っていない。

低学年はそりゃこうなるだろう。

「手本をお見せするのがいいかもしれませんね…ポッター!是非みんなに見せてあげましょう!君の完璧な決闘をね」

ロックハートが名案だと言わんばかりの輝かしい笑みでハリーの腕を掴んで壇上に引っ張り上げた。

マルフォイは待ってましたと言わんばかりに自分から壇上に上がろうとする。

「そいつのメガネをカチ割ってやれ!」

スリザリンからヤジが上がる。スネイプは咎めるような目でじろりと観衆を見回したが、ロックハートはハリーへのヤジも自分への声援のうちと勘違いしているらしくなぜか手を振っていた。

「さあ真剣勝負ですよ。お互いしっかり開始線について、杖を構えて!…ハリー、君なら勝てるよ」

ロックハートは器用に周りに聞こえる声でそっと囁き一歩下がった。

サキとハイタッチして壇上に自信満々に上がるドラコをハリーは睨んだ。

「…負けるのが怖いか?ポッター」

「お前こそな、マルフォイ」

ハリーとドラコはにやりと笑った。ちょうどついさっきの動きが準備運動になった。

マルフォイなんかには負けない!

ハリーはぎゅっと杖を握りしめてドラコを見つめた。

「タラントアレグラ!」

まずドラコの呪文がハリーに当たった。ハリーの足がタップダンスを踊り始めると観衆は笑い出した。

ドラコがバカにしたように笑った瞬間、ハリーはここぞとばかりに呪文を唱える。

「ブラキアビンド!」

腕縛りの呪いは見事に決まり、ドラコの腕が後ろに回って体勢が大きく崩れる。ハリーはタップダンスを踊ったまま次の呪文を繰り出そうとした。

「くっ…サーペンソーティア!」

ドラコは杖を取り落とす前に呪文を繰り出した。

しゅっと閃光が走り、閃光が蛇へと変化する。

しかしその直後ドラコに全身金縛り呪文がかかり、ドラコは硬直して倒れた。

蛇は凶悪に舌を出して威嚇する。観衆は静まった。

サキが気絶したドラコをかばうように壇上に上がった。

しかし蛇はサキを無視して観衆をじろじろ眺め、そしてジャスティンを睨みつけるとじりじりと這い寄る。

襲われる!とハリーは思った。

『やめろ!』

ハリーの叫びに蛇が振り向いた。その目はヴォルデモートを連想させて、体がぎくっと固まる。

蛇はちろちろ舌を出して値踏みするようにハリーを見ている。

僕が襲われる…

そう思った時、サキが蛇に気付かれないようにそっと近づき鎌首を擡げた蛇の頭を思いっきり殴りつけた。

周りから息を飲むような小さな悲鳴が聞こえた。

蛇はべしゃっと舞台に叩きつけられ、動かなくなる。サキはすかさずローブをかぶせた。

「捕まえた!」

サキは嬉しそうだったが、周囲はついていけなかった。

スネイプは慌ててドラコを蘇生させてサキの捕まえた蛇へ杖を向けた。

「ヴィペラ・イヴァネスカ」

蛇はローブを残して灰になって消えてしまった。

「ふざけてるつもりなのか?」

ジャスティンが思い出したように大声でハリーを非難した。

ハリーは何故自分が責められているかわからずおろおろと周りをみまわす。

「助けてもらったくせに何言ってるんだ?」

サキがそんなジャスティンに食ってかかろうとしたがスネイプが腕を掴んで止めた。しかし気が立っているせいかジャスティンはいつもの冷静さを失ってサキの方へつっかかっていく。ロックハートも慌てて止めに入り決闘クラブでまた決闘が起きそうになった。

ハリーは手招きしているロンとハーマイオニーとともに大急ぎで大広間から抜け出した。

 

「君、なんで教えてくれなかったんだ?」

ロンの言葉にハリーはただ疑問符を浮かべるだけだったが、どうやらハリーは蛇に呼びかけた時に蛇語をしゃべっていたらしい。蛇語を話せる人をパーセルマウスというが、それは魔法界でも稀有な存在だとハーマイオニーが説明を加える。

「そして…サラザール・スリザリンもパーセルタングだったの」

「嘘だろ…そんな、僕…知らない!」

「わかんないぜ。遠い遠い先祖かもしれないし…。少なくとも明日から君、噂の中心だろうな」

「笑えないよ!僕はただジャスティンを助けようとしたんだ」

「そうだったの?けしかけてるようにしか見えなかったよ」

 

ロンの予想通り、それからハリーがスリザリンの継承者だという噂は全校に広まるところとなった。話は尾ひれがついて、ハリーが蛇を出してけしかけたことになっている。

蛇を殴って撃退したサキはというと一部のハッフルパフ生から《スネークイーター》というかっこいい異名で呼ばれていた。

元からスリザリンで浮いていたサキが実は継承者の敵でハリーとは裏で戦い続けている、とレイブンクローの噂好きの女子が話しているのをみて、ハリーはうんざりした。

「蛇はね、頭を殴ればしばらく動けないんだよ。昔テレビでインドの蛇遣いがやってたんだ」

サキは喧嘩を仕掛けた罰則でまた掃除をさせられていた。大広間の天井の蜘蛛の巣取りのためにとんでもない高さのはしごから降りてきたサキは埃と蜘蛛の糸で真っ白だった。

「噂って無責任だよね」

ハリーの言葉にサキはウンウン頷く。

「また寮にいづらくなっちゃった」

「僕もだよ」

二人で話すのを遠巻きに眺めてなにやら小声で話すグリフィンドール生をチラッと見てハリーは言う。

「一緒に野宿でもする?そろそろ寒くて辛いけど…」

「いや…サキはそれ以上フィルチの反感を買わないほうがいいよ」

「…やっぱり?」

サキの掃除した箇所の床は埃まみれだった。

「掃除下手だね…」

「大味なだけだよ」

サキはやれやれとモップをバケツに入れて今度は床を掃除し始めた。ジャスティンも罰則のはずだがここにはいない。

「ジャスティンは?あー、例の件で誤解があるからちゃんと正そうと思ったんだけど」

「あっちは図書室の掃除だったかな?あの時はごめんね、なんか余計ことが大きくなっちゃうとはおもわなくって」

「いいんだ。君が怒ってくれて嬉しかったよ」

ハリーはサキに頑張れと言い残して図書室へ向かった。

ハリーがジャスティンを探してウロウロしていると、ハッフルパフ生の集団がピンズの目の届かない隅でこそこそと話していた。

ジャスティンという名前が聞こえてハリーは思わず聞き耳を立てた。

「ジャスティンのやつ、可哀想にな。ハリーに目をつけられたって…」

「でもハリー・ポッターがスリザリンの継承者って本当なの?だって例のあの人はスリザリン出身で彼はグリフィンドールじゃない」

「いーや、わからないよ。ほら…例のスリザリンの女子」

「サキ・シンガー?」

「あの子の協力者だって言ってる子もいる」

「まさか!」

「先生たちの目をかいくぐるためにハリー・ポッターを影で操ってるらしいぜ」

「おかしいよ。サキが継承者の敵でハリーを止めたって方が筋が通ってる!ハリー・ポッターはパーセルタングだ。あれってすごくレアなんだぞ?」

「あれ?そもそも蛇を出したのはマルフォイじゃなかった?」

とんでもない憶測ばかりが飛び交っており、こうして噂が作られていくと思うとハリーは気が遠のきそうだった。

思わず影からぬっと出た。噂話をしていたアーニーたちが驚き言葉を失うのがわかった。

「えーっと、やあ。僕ジャスティン・フレッチリーを探してるんだけど…」

「あいつに何の用だ?」

アーニーは恐々と言う。

「ほら、決闘クラブの時の誤解を解いておきたくって…見てたろ?蛇を止めたの」

「ああ、見てたよ。君が蛇と話してシンガーがそれをぶん殴ったのをね」

マトモじゃないぜ、と後ろでハッフルパフ生の誰かが囁いた。

「言っとくけど、あれは僕が蛇を止めたんだ!動きが止まって僕の方を睨んでただろ?サキはそれを力尽くでやっつけた。それだけだよ」

「どうだかね。なんせ僕たち蛇語はわからないもの」

なおもこちらの言うことを聞かないアーニーにハリーは苛立った。

「僕が犯人ならー」

ハリーの怒声にハッフルパフ生が悲鳴をあげて積まれた本を崩した。

「自分の寮の生徒を狙うもんか!」

マダム・ピンズが飛んでくるより早く、ハリーは怒り狂って図書室から出て行った。

 

 

「…なにしてるの?」

 

サキが教科書を取りに寮へ戻る途中、ジニーは掛けられた声に反応せずに呆然と廊下に立ち尽くしていた。

「ジニー?」

ジニーは名前を呼ばれても反応せずにじっと手元を凝視している。

暗い廊下だ。隙間風が寒い。

「君、一体なにをしてるの?」

サキは様子のおかしいジニーに再度呼びかける。

黒い四角い何かを持って一歩も動かないジニーは一言で言えば異様だ。

「何を持ってるの?」

サキは思わず駆け寄って肩をぐっと引き寄せる。ジニーが水面に揺れる影みたいにぐらっと傾いて、サキの方へ倒れ込んでいた。

手に持っていた黒い何か…手帳だ。それが落ちて転がる。

ジニーは荒い息を吐いていて実に辛そうだった。

「ジニー、ねえ…大丈夫?」

「……サキ…」

落ちた手帳に注意を払うことなく、ジニーはサキの手を振り払って明るみへのろのろと歩き出す。

「あのね、ジニー。そっちはダメだ」

「……なぜ?」

「人が倒れてる。じきに騒ぎになる」

ジニーの顔が真っ青を通り越して真っ白になるのがわかった。

「私、何してたの?」

「さあね」

弱々しいジニーの手を無理やり掴んで、サキは有無を言わせず医務室へ向かった。

マダム・ポンフリーはあまり理由を問わない人だから大丈夫。だとかボーッとしてたんだよ。とかジニーを慰めるようなことを言いながら歩いてるが、ジニーの反応は薄かった。

サキは、音を頼りにあの薄暗い廊下へたどり着いた。

湿った肉を引きずる音。

そして、声。

 

「まずは…そうですね。チョコレートミルクがあります。私は少々出かけます」

マダム・ポンフリーはジニーをベッドの一つに通すと慌ただしく上着を羽織った。

「…また、犠牲者ですか?」

サキの言葉に実に悩ましいと言いたげにため息をついた。

「そうです。犠牲者です。…貴方も早く寮へ帰りなさい。ここは安全だから」

「はい。それじゃあ…」

サキはマダム・ポンフリーに急かされるように医務室を出て、寮へ帰った。

寮へ帰るとハリー・ポッターがジャスティン・フレッチリーを石にしてついに校長に呼びだされたと話題になっていた。

興奮したパンジーまでサキに話しかけてきた。

「マグル生まれはもう安全じゃないわね。貴方のお友達も近々やられちゃうんじゃないの?」

「…さあね」

ゴーストもやられたと言う知らせはますますスリザリンの怪物を恐ろしいものにしていった。

死せるものをも殺す化け物。

その正体をみんなが予想しあった。

サキは男の子で群れてるドラコに近づくのは気が引けたので、そのまま人の少ないベッドルームへ戻った。

 

「…T・M…リドル……」

 

そして、ジニーの落とした古ぼけた黒い革の手帳の表紙をそっと撫でそこに書かれた名前を呼んで首をかしげた。

 

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