【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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12.秘密の部屋②

ロックハートは意気揚々と水浸しのトイレの中にやってきた。高そうなスラックスが濡れるのを嫌ってちょっとまくってる。

「先生、どうしてここに?」

「秘密の話はもう少し小声ですべきですよ、ハリー。でもまさか本当に秘密の部屋を見つけてしまうなんて!」

ロックハートはパイプの中を覗き込んだ。ハリーとロンは突然の乱入に驚き真意を掴みかねていた。

「さあ、それじゃあまずは…」

ロックハートは不意にロンの肩を押した。

バランスを崩したロンはパイプに真っ逆さまに落ちていく。ハリーはとっさに手を伸ばしてロンのローブの端っこを掴んだ。がくんと腕が引っ張られ、ハリーもパイプの中に吸い込まれそうになる。しかしロックハートはそんなハリーのローブを踏みつけてなんとか二人の落下を止めた。

しかし助けたわけではないようだ。

「君たちは下に降りて何もいないか確認するんだ。いいね?」

「先生、なんでこんなことを!」

「ふざけるな!」

ロンが泣きそうになりながら叫んでいる。しかしパイプの中で反響してしまうため上の方にはよく聞こえない。

「ギルデロイ・ロックハート最新作、『秘密の部屋のヒミツ』なんて馬鹿売れ間違いなしだ!けれど私は探偵でいえば安楽椅子型なんでね…君たちはいわば鵜飼の鵜ってわけです」

「すぐに先生たちが来るぞ…」

「それなら尚更都合がいい。正直秘密の部屋の怪物とは会いたくない。会うまでのスリルをしっかり体験しておいてほしい!そのための君達ですよ」

「あなたがそんな人だったなんて…散々冒険してきたのに怖いんですか?」

「言ったろう、安楽椅子型だって…。安心したまえ。先生たちが来る前に忘却術をかけますからバレることなし。来た先生によってはもしかしたらバジリスク退治も私の功績になるかもしれませんね?」

「やっぱりろくなやつじゃ無かったろ?!」

ロンが穴のそこで誰に対してかわからないがそう言った。

ロックハートはにやりと笑うとハリーのローブを離した。二人はパイプの中をすごいスピードで落ちていった。

 

 

 

 

 

「トム…」

サキが短い眠りから覚めると、すぐそばにトムが座っていた。いや、トムは日記の中にしかいないからやっぱりこれは夢なんだろう。

「よくこんなところで寝れるね」

「慣れてるから…ってそうじゃないよ。私を殺す気なんだね」

「そうだね。計画が予想以上に狂ってしまったから」

「よく本人目の前にして言えるね」

「ところで、この中には入らないの?」

「入り方がわからないんだよ」

「簡単さ。開けって言えばいい。特別な言葉でね」

「特別な言葉?」

トムは立ち上がって扉の彫刻を指でなぞる。じっと見つめられるとこんな状況でなければドキドキするくらいきれいな顔だ。流石に殺されかけているので許したりしないが、この顔できっと随分得をしただろう。

サキも立ち上がり、同じように扉に向かう。

「うーん、開けゴマとか?」

「違う違う。ほらこれ、蛇がいるじゃないか」

確かにたくさん蛇の彫刻がある。スリザリンは本当に蛇が好きだったんだなーとほのぼのしそうになったがわざわざ凝った彫刻で扉を作ったのはそれだけではないんだろう。

「スリザリンの特徴はパーセルタング…蛇語使いだ」

「私、そんなの喋ったことないよ」

「喋ろうとしたことないだろう?試すだけ試しなよ。ハリー・ポッターだって喋れるんだろう?」

サキはちょっと躊躇った。ずっと封じ込めてきた疑惑が鎌首をもたげた。知らんぷりしてた事実。

決闘クラブのあの日、けしかけられたヘビを諌めたハリーのシューッという蛇の言葉。

あれが何を言ってるか、サキは直感で理解できていた。

あのときはたまたま勘が冴えてたんだとか、状況的にああ言ってるに違いないと納得していたが…。

もしここでこの扉を開けることが出来てしまったら。

ここから先はきっと開けてはいけないパンドラの箱だ。そんな気がする。嫌な予感がする。

「トム、どうせ君は喋れるんでしょう?だったら君が開けてよ」

「僕はそれを確かめたくてしょうがないんだ。君が死ぬ前にそれだけは知っておかないと」

「どうして…」

「わからない?」

「わからない」

気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

生理的嫌悪感がつま先から登ってくる。

「トム…君は誰なの?」

「ここを開けられたら教えてあげるよ」

ここまでくれば、引き金に指をかけられたようなものだった。トムはそっと導くようにサキの手を取り蛇に触れさせた。

精巧な彫刻の鱗の一枚一枚まで指先に感じる。

ただ一言言えばいい。

 

『開け』

 

 

 

 

 

ハーマイオニーがマクゴナガルに事情を説明してるのとほぼ同時にマルフォイもスネイプに秘密の部屋の場所を知らせた。

スネイプはすぐさま立ち上がり、トイレとは違う方向へ走っていく。

「先生、どこへ行くんですか」

「校長室だ。ドラコ、君はここで待ってろ。間違えてもパイプに入るな、絶対に」

おいてかれたマルフォイはかと言ってここで待っているなんてこともできずにマートルのトイレへ戻った。

しかしトイレからはハリーとロンの姿が消えていた。

「あいつら…まさか…?」

マルフォイは一瞬中に入ろうか迷った。しかしそのあまりにも暗いパイプの中を見て躊躇した。

「おーい!」

中に向かって大声を出す。わんわんと反響して、とてもどこまでも続くパイプの先に届くとは思えなかった。マートルに何があったかきこうにも、何処か別のトイレに逃げたのか全く気配がない。そうこうしているうちにそとから足音が聞こえ、ハーマイオニーとマクゴナガルが飛び込んできた。

「マルフォイ!なぜあなたがここに…」

「マルフォイにはスネイプ先生に伝えるように頼んだんです。スネイプは?」

「校長室に行った」

「セブルスが校長室に?…わかりました。直にフリットウィック先生がいらっしゃるでしょう。スプラウト先生が急ぎでフクロウ便を出しているはずです。…ポッターとウィーズリーは…」

「それが戻ってきたらいなくなっていて…」

「そんな!何かあったんだわ」

ハーマイオニーががくんと座り込む。

「これは大至急向かったほうがいいでしょうね…マルフォイ、ミスター・フィルチに大至急縄梯子を持ってくるように伝えてください」

「そんなもたもたしてられない…!」

「サキが消えて一日です。まだ余裕はあります。そしてなにより、私達にとってはあなた達も守るべき生徒です」

マクゴナガルは毅然と言った。そして杖を抜いて穴へ向かっていった。

 

 

二人は穴の底につくと、悪臭に顔を顰めながら明かりを灯す。

ぬらぬら光るトンネルがどこまでも続いている。まるで下水道だ。

「どれくらい下なんだろう?」

「わからないけど…多分ここ、湖の下じゃないかな。めちゃくちゃ湿ってるし」

「ロックハートのやつ、降りてきたら袋叩きにしてやろう」

「降りてくるかな?」

二人が話していると、ドスンと音を立ててロックハートが落下してきた。慌てて杖を構えなおして二人に向ける。

「さて…進みましょうか?」

ロックハートはトンネルの雰囲気に完全にビビってる。まさか秘密の部屋が豪華なソファ付きのものだとでも思ってたんだろうか?想像以上に頼りない味方にハリーは心の中でため息をついた。味方というか脅迫してくる敵だけど、バジリスクと遭遇したらきっと盾にもならないだろう。

曲がりくねったトンネルはどこからか肉を引きずるような音や獣の吐息が聞こえてくる。

そのたびにロックハートは降りてきたことを後悔しているんだろう。さっきから後ろにいるはずのロックハートが遅れ気味だ。

自分で降りてきて馬鹿じゃないかと思う。

ロンもすっかりロックハートに対する敵意が萎えたらしく、セロハンテープで補強した杖をしょっちゅう弄っている。

「ひっ」

ロックハートが落ちていた石を蹴飛ばして悲鳴を上げた。ロンも釣られて驚いてしまい顔を赤くしながらロックハートに怒鳴った。

「いい加減にしろよ!もう!」

「ムリもないだろう!聞こえないのか?さっきからずっと後ろに……」

ロックハートが言いかけた途端、トンネルの中にずるずるという音が響いた。今までより近い。

ハリーは無言で杖を構え直す。ロンも同様だ。

ロックハートは腰を抜かしながらも目をしっかり抑えて杖を構えている。(どうやって呪文をかけるのかわからないが)

「バジリスクかな」

「わからない…」

肉を引きずる音はそこかしこから聞こえてきたが確実に近くなってるのは間違いなかった。

ずる、ずる

ずず…

ずる

まるでジワリジワリと死神が忍び寄るように音は近づいてくる。

音が上の方からしてきた時、天井から大きめの石が落ちてきた。

「うわあああ!」

石はロックハートの足を直撃した。

それを攻撃だと思ったロックハートは突然周囲に呪文を飛ばしまくった。

「先生!違う!落石です!先生!」

パニックに陥ったロックハートの呪文は運悪く弱くなっていた壁にあたったらしい。ロックハートを止めるために襲いかかったロンとハリーの間の天井が崩れ、二人は分断されてしまった。

轟音がトンネル内に響き、土煙がもうもうと立ち込めた。

ハリーはすぐに泥の中から立ち上がって積み上がった瓦礫をなんとか崩そうとした。

「ハリー、聞こえる?」

「聞こえるよ!そっちは大丈夫?」

「ロックハートの大馬鹿、止まらないもんだから思わずチョークをかけちゃった…どうしよう、大丈夫かな?」

「息は?」

「してる」

「わかった…ロン、とりあえず僕は前に進む!君はなんとかここを崩せないかためして!きっとすぐにハーマイオニーたちが来るから」

「わかった。すぐ追いつくから!」

 

ハリーは奥へと続く闇を見据えた。

この先にサキはいる。

 

 

 

 

 

 

篝火が燃えている。冷え切った体をほんの少しでも温めようと、サキはその壁に寄りかかった。

左手に握りしめた日記を見る。

「夢…だよね?」

「そうじゃないよ」

トムが部屋の中心に立っている。主のような優雅さで。

サキの足から力が抜けていく。

「はじめは僕を倒したらしいハリー・ポッターを捕まえるつもりだった。ジニーから色々聞かされていたからね。…かの偉大なハリーは、私のことを好きになってくれたりしないわよね。だって彼は生き残った男の子だもの…。ハッ。11歳の小娘の恋バナは、なかなか退屈だったよ」

 

「悪趣味だね」

サキは座り込みながらトムの言葉をゆっくり咀嚼する。

 

「けどまさか、ジニーの手から日記を奪うやつが出てくるとは思ってなかった。しかも…こんなに魂の形がそっくりな子が」 

 

僕を倒したらしいハリー・ポッター?変な伝聞形。

 

「そこで計画は一時見直し。君と会話してくうちにちょっとずつ僕は君の魂に踏み込んでいった。不思議な気分だったよ。鏡を覗いてるような気分だった」

 

魂の形ってなんだろう。

 

「よく見たら顔立ちも…似てなくはない。どうだろう、瞳とかが似てるんじゃないか?その上蛇語が話せるなら、もう決まりさ」

 

私はあなたみたいに冷たい目をしていない。

 

「トム、君はもしかして」

 

トムは優しく微笑んだ。ゾッとするほど優しい笑みで毒のように甘ったるい声で告げた。

 

「そうだよ、サキ。僕はヴォルデモート卿の、16歳の姿だ。そして君はどうやら僕の家族みたいだね?まったく、変な気分だ」

 

 

 

 

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