【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
石になった人たちの回復祝に、ホグワーツは午後の授業を中止してパーティーを開くことになった。
大広間は色とりどりに飾られてテーブルにはたくさんの料理が並んでいる。
天井は抜けるような青空で、時折白い鳥が羽ばたいている。ジニーやコリンに混じってサキもみんなの拍手で迎えられた。
照れくさそうというよりもバツが悪そうな顔だ。
久々に見るサキはなんだか少し太ったような気がする。一ヶ月近く病院で美味しいものを食べて過ごしたんだから当然だろう。
立食会のようになっていたので、ハリーはすぐにサキを捕まえた。
「ハリー!」
「おかえり」
サキはロン、ハーマイオニーと軽くハグして次にジニーを引っ張ってきた。
「ほら、ジニーも」
「さ、サキさん!」
ジニーの顔が髪の毛よりも真っ赤になる。ロンがヒューヒューと茶化すとハーマイオニーがそれを諌める。全然変わらない光景が戻ってきた。
ハリーがジニーにハグするとジニーは息ができなくなってよろよろとベンチの方へ歩いていく。
サキは笑いながらそれを見ていた。
「大丈夫?具合」
「うん。一ヶ月の間めちゃくちゃ検査したから人生で一番健康だと思うよ」
サキはグーで殴る真似をした。ハリーは笑いながらそれを受ける。
「よかった。元通りだね」
「…そうだね」
ハリーが元通りと言った時にほんの少しの間があった。しかし疑問に思う間もなくサキは駆け出してしまう。
「ドラコにもちゃんと挨拶しないと!またね」
サキはスキップするように人混みを縫うように行ってしまった。
「あれ?何だもう行っちゃったのか」
ロンがつぶやく。
「ハリー、料理が入れ替わったよ」
「あ、うん。今行く!」
パーティーではフリットウィック先生率いる合唱団が発表し、軽音バンドを組んでいるハッフルパフの六年生がステージを披露したり、と学園祭の様相を呈していた。
宴もたけなわというところでダンブルドアが壇上に上がった。
「さて、諸君らはこのあとベッドに入ったらイースター休暇に入るわけだが、休暇が終わってからは学年末試験が待っておる!決してここで気を抜かないように…」
お決まりの文句が一通り並び、みんなの意識がイースター休暇に引っ張られる頃に挨拶は終わった。
秘密の部屋の怪物が倒されたことなんてみんなもう気にしてないみたいに、休暇の予定を話してベッドへ向かう。
ハリーは大広間に一番最後まで残った。人がほとんどはけてがらんとした大広間は少し寒かった。天井は青から紫、そして黒に変わり星星が瞬いている。
「ハリー、帰らないの?」
ふいに入り口の方から声をかけられた。
サキが扉の横から顔を出して広間を覗き込んでいる。
「サキ、まだか?」
ドラコの声にサキが「先行っててー」と返事する。
「ああ、うん。もう寝るよ。どうせ僕は休暇で帰らないけど」
「私もだよ」
サキはハリーをジロジロ見てなかなか出ていかないグリフィンドールの一年生が出てくのを見てから広間に入ってきた。
「人がいないと寒いね」
「うん。…大丈夫?」
「大丈夫。途中まで一緒に行こう」
フィルチが追い出したそうに箒を構えているのを目のはしで捉えた。ハリーとサキは苦笑いしながら大広間を出ていき、松明の明かりだけで照らされた薄暗い廊下を歩く。
「秘密の部屋で、トムと何喧嘩してたの?」
「え?ああ…」
ハリーは秘密の部屋での死闘を思い出す。
トム・リドルとの会話を覚えてる限り話す。サキは聞いてるのか聞いてないのかよくわからない気の抜けた相槌を打って隣をてくてく歩く。
「へー、あの人って混血だったんだね。純血主義者なのに。アドルフに告ぐみたい」
「なにそれ?」
「マンガだよ。日本のマンガ」
スリザリンの寮に続く階段まで来てしまった。しかしサキが不意に横道にそれて、二人は風が吹き抜ける渡り廊下を歩いた。
月明かりしかないような暗さだが隣にいるサキの顔ははっきり見える。
「あのね…ハリー。私、君に内緒にしていることがたくさんある」
「…なに?」
サキの珍しく深刻そうな声色に思わずドキッとする。
サキが立ち止まる。ハリーも止まって、サキの次の言葉を待った。
「私、両親がいないでしょ。それで、今スネイプ先生が後見人なの」
「え…そうだったの?」
ハリーは当然びっくりした。いままで全くそんな素振りを見せなかっただけに意外だった。
「ああ、だから去年スネイプを庇ったんだ?」
「うん…ごめん黙ってて。ハリーは先生が嫌いだからなかなか言い出せなくて」
「そんな!いいよ、気にしないで」
それに後見人にしては随分公平に扱われていたというか…身内びいきがすごいスリザリンなのに冷たくあしらわれてるようにすら見えてむしろ哀れんでいたくらいだった。
「それだけじゃないんだ」
サキはハリーの目を見た。ハリーもその目を見つめ返す。月の光でまつげの影が落ちてる。キラキラ光った2つの目。今までこんなに見つめ合ったことはなかったけれど、なぜか既視感を感じた。
「トムは私に、魂の形がとっても似てるって言った」
青白い肌。艷やかな黒髪が目にかかって影をつくる。
「私、蛇語が喋れるの」
急に強い風が吹いて、月明かりが雲に遮られた。
「私の父親はヴォルデモートかもしれない」
サキの顔は陰ってしまって表情が読み取れない。
そしてその衝撃的な発言にハリーの思考は固まってしまった。
「証拠はないけど、否定する証拠もないんだ」
「そんな事…どうして…今言うの?」
ハリーはサキを気遣う余裕なんてなく、思ったことを口にした。
「言わなきゃいけないと思ったから」
雲が通り過ぎて月明かりがもどった。サキは目を伏せてうつむき気味だ。
「ヴォルデモートは絶対戻ってくる。そしたら私、捕まると思う。まあこれは、娘とか関係なくだけど…」
「そんな、ホグワーツにいれば大丈夫だよ。ダンブルドアや、それこそスネイプだっているし…」
「でも二年連続まんまと彼にしてやられた。きっと逃げられないよ。…ううん、逃げられない前提で動くのが正しい」
「そりゃ、そうかも知れないけど」
「だからハリー、私を信じないでほしい」
「馬鹿なこと言うなよ!」
ハリーは声を荒げた。
「入学して、寮が違っても仲良くしてきた友達にそんなことを言われるなんて。悲しいよ」
「だって私勝てないよ。子どもだもん」
「それだって…君を嫌いになる理由にはならないよ……」
「…………」
サキは自分の影に視線を落とした。
ハリーも何も言えずに俯くサキの足元を見た。
サキは何も言わず後ろを向いて、地下牢の方へ去っていった。
一人残されたハリーはしばらく立ちすくんだ。寒空の下、サキの言ったことを反芻し、また胸がいたんだ。
とぼとぼと寮に帰るとハーマイオニーが心配そうに声をかけてきた。ろくに返事もしないでハリーはベッドに潜り込んだ。
そして、気まずいままホグワーツに夏が訪れた。
青々とした緑に包まれた森が車窓の向こうで猛スピードで流れていく。
また夏休みがやってくる。
秘密の部屋編完結