【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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02.セブルス・スネイプの回想②

スネイプはサキに自身がかつて母を監視していたことは告げた。しかし一番重要なところは話せずじまいだった。

神秘部に入省してからずっと行方が掴めなかった彼女は卒業後一度として連絡をよこさなかった。今思うと自身の魔法がヴォルデモート卿に悪用されることを嫌ってのことだったんだろう。

現に神秘部のエイブリーを使ってマクリールの情報を洗いざらい調べさせたらしい。しかし残念ながら彼女は氏名と学校での成績以外なんの手がかりも残さず、さらに入省以来一度も出勤してきていないということが分かった。神秘部という場所柄もあってか同僚は誰もそんなことを気にしてなかったようで大した情報はつかめなかった。

そこで白羽の矢が立ったのがセブルスをはじめとする元友人達だった。しかし残念ながら誰も彼女の消息を知らなかった。はじめからいなかったんじゃないかと疑うほど鮮やかに彼女は消え去ったのである。

しかし彼女は在学中たった一度だけセブルスに連絡をよこした。それを報告したために彼女はヴォルデモート卿に捕まえられるに至った。

 

闇の帝王の命令を受けて彼女の屋敷に行った。鬱蒼とした森の中に佇む幽霊屋敷はまるで人々から忘れられて何世紀もたった遺跡のようだった。時間がそのまま淀んで溜まって澱を成してしまったただ広いだけの屋敷に彼女は母を亡くしてずっと一人で住んでいたらしい。

 

「嵌めたわね」

 

死喰い人に囲まれながらリヴェンは笑った。

セブルスは何も言えなかった。初めてあった日、彼女の額に滲む血を見たとき感じた気まずさを思い出した。

 

その時の笑みが、サキの笑みにそっくりなのだ。

 

「先生、これほんとにあの部屋に入ってたんですか?」

本で埋まった部屋から運び出された本をがむしゃらに別室にある空の本棚に詰めながら、サキはひいひい悲鳴を上げていた。

運び出された本の量はあきらかに部屋の体積を超えておりしまえどもしまえども片付かなかった。あまりの量にスネイプもうんざりしていたところだった。

「休憩を入れよう」

スネイプの提案にサキはすぐにのっかっていそいそと台所へ向かっていった。

スネイプも魔法で埃を払い、掃除道具を軽く整理して台所へ行った。

台所にある小さなテーブルには乱雑に日刊予言者新聞やカタログ、羊皮紙の束が散らかっていたのでそれもまとめておいた。

日刊予言者新聞の一面はこうだ。

【シリウス・ブラック。アズカバンから脱獄す‼】

不快な顔が大写しでこちらに向かって何やら喚いている。

スネイプはサキが持ってきたマグカップをその顔の上においてやった。

「新聞なんて購読していたのか?」

「え?ああ、夏休みの間だけですけどね。新聞紙って荷物を包んだり窓を拭くとき便利なので」

読むためではないらしい。

 

シリウス・ブラックとリヴェンには浅からぬ交流があった。

シリウスとリヴェンが初めて喋ったのは、彼女が6年生、セブルスが3年生のときだった。

闇の魔術に詳しいことや"あの"マクリールの愛弟子扱いされていたこともありスリザリン内での立ち位置は確立されていた。しかしその分リリーとの溝は深まる一方で、さらにあの忌々しいポッター達からしばしば喧嘩をふっかけられていた。

彼女は相変わらず一人で湖畔や禁じられた森の辺りで本を読んだり何か作ったり気ままに過ごしており、セブルスは何か嫌なことがあったとき彼女に同行してぼーっと景色を眺めていた。

その時の目下の悩みはリリーとの関係の悪化だった。ぽつりぽつりと悩み事を打ち明けるセブルスにリヴェンは「へえ」「ふうん」「そう」くらいの返事しか寄越さなかったが変に干渉されるより気が楽だし日記にグチグチ書いたりするよりはまだ気が晴れた。

その日は底なし沼だと噂されている禁じられた森の沼のそばで釣りをしていた。

リヴェンは気まぐれに生き物を収集してみてそれが何に使えるかとかどんな味がするかとか、そういうのを調べるという趣味があったらしい。そのため魔法生物飼育学では先生にいたく気に入られていた。

全く変化のない濁った水面を眺めていると、背後から落ちた枝を踏む音が聞こえた。

振り返るとジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック。そしてリーマス・ルーピンがいた。腰巾着のペティグリューは禁じられた森が怖くて逃げたんだろう。

「おやおや。デートの邪魔だったかな?スニべルス」

「失せろ、ポッター」

ぴりっとした空気が充満した。しかしリヴェンは完全に無視して水面を眺めている。

「なんだよその態度。今日ジェームズに足縛りの呪いかけたの、お前だろう」

シリウスがしゃしゃり出てきた。どうやらお礼参りにきたらしい。

はじめこそやられっぱなしだったセブルスだが最近はやられたら必ずやり返すことにしていた。それは彼らも同じで、際限ない仕返しの連鎖の真っ最中というわけだ。

「ウィンガーディアム…」

セブルスの態度が気に食わないらしいシリウスが突然杖を振った。

釣り竿を持っていたセブルスはすぐに杖を抜くことができず、あっという間に宙に浮いて沼の上で宙ぶらりんになる。

「仕返しだ!」

そしてそのまま沼に真っ逆さまに落ちてしまった。水面は大きく波打って、真っ黒い水がはねる。

セブルスは水を飲まないようにして必死に上へもがいた。

咳き込んで目をこすると、リヴェンが釣り竿をおいて三人と向かい合っていた。

今まで何も反応がなかったリヴェンが突然動き出して動揺したのか、三人は困ったような警戒したような何とも言えない顔をしていた。

「呪文をかけたのは君?」

ここからはリヴェンの表情は見えないが特別怒った感じもない普段通りの声色だった。

「僕だけど…なんです?なにか?」

シリウスはなおも挑戦的だ。

リヴェンは「へえ」と言うと三人の方へ近づく。シリウスはびっくりして半歩下がったがすぐにリヴェンを睨みつけた。杖をぎゅっと握り直す。

まさかやばい呪いでもかけるつもりじゃないだろうな。

セブルスは慌てて岸へ泳いでいく。

リヴェンは杖を抜くではなく足を振りかぶり、シリウスの向こう脛を革靴で思いっきり蹴り飛ばした。

「いっ…!」

男女とは言え3歳差。しかも成長期に入ったばかりの少年と背の高い彼女では力の差があった。魔法使いらしからぬ突然の暴力に驚いたシリウスは体勢を崩し、首根っこを捕まえられる。

そのままリヴェンは力任せに沼の方へシリウスを投げ飛ばした。(残念ながら)沼には落ちなかったが枯れ葉と腐葉土にまみれて情けなく地面に転がる。

「なにすんだよ!」

ジェームズが食ってかかろうとしたがリヴェンは杖を抜いていた。

「せっかくかかってたのに逃げちゃったじゃない」

「ふざけんな…」

「喧嘩なら勝手にやればいいわ。でも邪魔するなら私怒るわよ」

「頭おかしいんじゃないのか?!魚ぐらいで!」

「魚のほうが大事だもの」

いまいち話の通じないデンジャラスなスリザリン生を見てジェームズもシリウスもたじろいでいた。リーマスははっとした顔をしてジェームズの袖を引っ張る。

「この人、マクリールだよ!スリザリンの狂犬!」

「えっ?!」

そんな二つ名はセブルスも初耳だったがどうやら彼女の噂は他の寮で尾ひれがついて広がってるらしい。シリウスでさえ慌てて立ち上がってジェームズたちのもとへ走ってく。

捨て台詞を吐いてシリウスたちは去っていった。

リヴェンは釣り竿を拾ってまた糸を垂らした。

「…あの」

「いやよ。汚いから」

沼に落ちたセブルスを助ける気はないらしかった。しかたなく自力で這い上がり、たっぷり水を吸ったローブを絞った。

自分のために怒ったわけじゃないのは明らかで、それはそれで少し悲しかった。

それから三人組のイタズラは止むかと思いきや、今までと変わらずやられてはやり返しの繰り返しだった。

リヴェンはというと、何故かあの三人組とたまに話していた。魔法薬に使われる植物の温室の前やフィルチの没収物保管庫の前でよく見受けられた。

あの三人と仲がいいんですか?と聞くと

「どの三人?」

と返された。

この人は他人に興味がないのかもしれないと時折悩んだ。

 

今思うとあれはポッターやブラックを盗みの実行犯にしてたんだろう。彼女はだいぶ手グセが悪かった。

ふとサキが庭で世話している植物たちをみた。自生したりしない希少な魔法植物がちらほら見受けられる上に、去年より数が増えている気がする。

「親子か…」

「なにがです?」

「いいや。なんでも…」

 


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