【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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08.恋とはどんなものかしら

サキの休日はスキャバーズ事件により水泡に帰した。仲直り記念にみんなで陽気にドライブでもしようと思っていたのに、次はロンとハーマイオニーが険悪になってしまった。

スキャバーズはカバンごとクルックシャンクスに引き裂かれかけたが幸い無事だった。ただ以前より衰弱してるらしくロンはピリピリしっぱなし。ハーマイオニーも触発されてイライラしてる。

そんな二人を気軽にドライブに誘えってのも無理な話だ。

そういうわけでフレッド、ジョージとリー・ジョーダンとの届いた薬草の取引でも案の定スキャバーズの話題が出た。

 

「あのボロ雑巾みたいなネズミ、そんなに大事だったんだ」

サキの素朴な感想にフレッド、ジョージは肩をすくめた。

「ロンの初めての友達だからな」

「無理もないさ」

「長生きだね。ほんとにネズミ?」

ハーマイオニーの猫、クルックシャンクスはずっとスキャバーズを付け狙ってるらしい。もしこれからロンの機嫌が治ったとしてもまたこういう事があるかもしれないと思うと憂鬱だ。

「ロンには悪いけど、どこが可愛いかわかんないね。ネズミだぜ?病気を媒介する」

「そう言うなよ兄弟」

サキが実家で栽培してる催眠豆の苗と乾燥させた葉っぱを小銭と交換する。マグル界なら警察が寄ってくるような光景だ。

「毎度どうも」

「あ、サキ。今度のホグズミードには行く?」

「ううん。罰で行けない」

「そうか。俺たちゾンコの店に行くから欲しいものがあったら買ってくるけど」

「別に私はイタズラ好きじゃないからなあ…でもなんか面白そうなのあったら買ってきて。1ガリオン以内で」

「なんだよ、結構太っ腹じゃないか。でもそれじゃあ自分で買った方がいいよ。買い物ってのは体験だからな」

「そう、アトラクション。ま、お土産程度に買ってくるよ」

「ありがとね」

サキの持ってきた催眠豆がどのように使われるのかは神のみぞ知る。とりあえず小銭をポケットにしまって校内をフラフラ散歩する。明日はホグズミード、さらにはハロウィンパーティーということでみんなウキウキだ。

サキも武者震いが止まらない。

なぜなら明日、ドラコと仲直りしようと決めてるからだ。

 

ドラコはまだ手を吊ったままでパンジーのべったり介護をうけている。けどどこかイライラしてるみたいで嫌味っぽい。魔法薬学でサキとザビニが組んだりするとネビルに対して嫌味を言うという二次被害が続出している。

ハリーと仲直りできた日からドラコのイライラは余計酷くなっている気がする。

 

でもするんだ、仲直り。

だってそうしたいから。

 

やるぞーと気付けの意味も込めてハグリッド製の濃ゆいコーヒーを一気飲みした。頭がガンガンした。

嫌な予感がしてたがカフェインのせいでその日はなかなか寝付けず、談話室に最後まで居残る羽目になった。宿題も溜まっていたのでそれを眠くなるまでこなしていたが、だんだんやっつけ仕事になってきたのでガラス越しに湖を眺めた。

月の光も届かない真っ暗な湖。談話室の明かりに照らされた藻が揺らめいているのが辛うじてわかるくらいに光がない。

この湖には巨大イカが居るらしいが、光におびき寄せられてやって来たりしないんだろうか?

真っ暗なガラス窓からイカの姿を見つけようと眺めてるうちに眠りに落ちた。

目を覚ますとスリザリン生が起きてきて朝食をとりに向かっていた。

たしかホグズミード行きは朝食後すぐなので急いでドラコを捕まえなきゃいけない。サキは慌てて広間に向かった。

ドラコはもう起きて身なりも整え座っていた。パンジーが恭しくフォークに刺したフルーツを口元に差し出してる。なんだかとてもイライラしたのですぐそこに歩いていきドラコの口に入る前に食べてしまう。

「ちょっと!!」

パンジーが抗議するように睨んできた。ドラコは驚いた顔してこっちを見てる。

パンジーは無視してドラコを見つめた。

「ちょっと話あるんだけど」

「なんだよ…」

「ここじゃなんだし外行こうよ」

ドラコは不機嫌そうだが文句を言わず付いてきた。パンジーも付いてきそうになったがドラコが制した。

二人は大広間をでてすぐそばの中庭へ出る。昨日の夜雨が降ったようで芝生は濡れて朝日を浴びてキラキラ光っている。

 

「ドラコ、仲直りしよう」

「…仲直り?ふん。」

ドラコはやっぱりまだ怒ってて視線さえ合わせてくれない。サキは自分を奮い立たせるように半歩ドラコに近寄った。

「あの時は私どうかしてた。悩みすぎて腐ってた!それはごめん」

ドラコからの返事がないのでサキはそのまま続けるしかなかった。

「でも私やっぱりドラコと今のままは嫌だ。前みたいにまた…楽しくやりたいよ」

ヨレヨレの制服のままのサキと、パリッとした私服のドラコ。こうやって離れて見てみるといかに自分がドラコと不釣り合いかわかる。今まで仲良くしてくれてたほうが不思議だったのかもしれない。

 

「前みたいに、ポッター達とも仲良くするんだろう?」

 

ドラコはやっと口を開いた。サキはその意味を測りかねて逡巡してから答えた。

「ハリーとも、仲直りしたよ。だから元通り…」

「勝手だな、随分。自分で一人でいいとか言っておいて次は元通りなんて」

「……返す言葉もないよ」

サキはドラコの厳しい言葉に痛む胸をぎゅっと手のひらで押さえつけた。確かに自分は身勝手だ。

「本当にごめんなさい」

「……」

そしてまた沈黙。遠くからざわざわと談笑が聞こえてくる。

「ポッターと、仲良くはできない。僕は…あいつが嫌いだ」

「どうして?去年一昨年って結構仲良く…」

「それは君がいたからだよ!いっつも間に君がいた」

「だ、だからまた私が間に挟まればさ!」

「それが嫌なんだ!」

いつの間にか二人して怒鳴り合ってた。ドラコがやっと顔を上げてこっちを見てる。怒ってるせいで白い顔が仄かに赤くなっている。

 

「なんで?ドラコはそんなにハリーと喧嘩したかったの…?」

「そんなわけ無いだろう!僕は、好きなやつが嫌いなやつと仲良くしてるのが嫌なんだ!」

 

 

きゃあっ…と女子の歓声が聞こえた。

歓声?

我に返って周りを見回すといつの間にか周りに人だかりができていた。ドラコもハッとして周りを見る。

「ち、ちがう!そういう意味じゃない!」

ドラコは大慌てで訂正しようとするが逆効果で、周りを取り囲む野次馬のクスクス笑いにかき消されてしまう。ダメ押しに人混みからでてきたコリンがシャッターを切った。

「おめでとう二人とも。こっち向いて!記事にしなきゃ!」

「ふざけるなクリービー!そのカメラをよこせ!」

「わあ!やめて!助けて!」

場は乱闘直前になってその騒ぎを聞きつけたパーシーまでやってくる。

「こら、なにをやってる!」

「マルフォイ照れるなよ」

「いいからフィルムを消せー!」

その騒ぎを遠巻きに見ていたハリーとロンはあんぐり口を開けた。マルフォイとコリンとパーシーが取っ組み合いになってる横でサキもぽかんとしていた。

スリザリンの女子に肩を叩かれてやっと今何が起きてるのか理解したらしい。真っ直ぐ人混みをかき分けて逃げ出した。

たまたま通りかかったルーピン先生により三人は引き離され、軽い説教をされてるころには野次馬たちは解散した。

 

「ねえ…ハリー……どうするの?」

「えっ、どうって……」

「マルフォイがサキに告ったんだぜ?どーすんのさ!」

「こく…告ってたの?今の?!」

「そうにしか見えなかったろ!」

「わーお…」

「わーおって。いいのかよ」

「いいのかって…どうして?まあちょっとびっくりだけど…」

話が通じないなあと言いたげにロンがため息をついた。そうこうしてるうちにホグズミード行きの列車の時間になってしまったのでロンは慌てて駅へ行ってしまった。

多分列車は今の騒ぎについてで持ちきりだろう。

 

ハリーは一人残されてやっと今目の前で起きた事を整理できた。

サキが仲直りしようとしたら喧嘩がヒートアップしてマルフォイがうっかりサキに告白した。

そういう事らしい。

マルフォイがサキの事好きなんだろうと言うのはなんとなく知ってたけど…。

ええー?という感じ。

ハリーは恋愛沙汰に全く免疫がなかった。去年はパーシーをからかったりジニーに好かれたりしてたけど身近には感じなかった。

周りの友達も好きな女子がどうこうとかそういう話は一切しなかったし、今突然降り掛かったラブコメの風に戸惑うばかりだ。

あ…サキとの今日の約束、多分なかったことになるな…。

などと考えながらぼーっと歩いてると、誰かにぶつかった。

「あ、すみません」

「ああ、なんだハリーじゃないか。なにをしてる?」

「いえ…ちょっと、ぼーっとしてて」

「ホグズミードは?」

「行けないんです…許可がなくて」

「そうか。良ければわたしの部屋でお茶でもどうかな。ちょうどグリンデローが届いてね」

闇の魔術に対する防衛術の教室は去年とは打って変わってごちゃごちゃしていた。大きな水槽や瓶詰めの何か。得体のしれないものがたくさん置かれている。不気味というよりはなんだかワクワクする汚さだ。

「調子はどうだい。何か悩み事?」

「あ、いえ。大したことじゃないんです」

ルーピン先生は何かとハリーに気を使ってくれる。ティーバッグの紅茶と古くて湿気たクッキーを食べて談笑してると、ガンガン、と荒くノックされた。

ルーピン先生が立ち上がりドアを開けるといつもよりむっつり不機嫌なスネイプ先生が立っていた。

「やあ、セブルス。おっとそちらは…」

「あ、こんにちは」

サキの声が聞こえた。

驚いてスネイプの後ろの方を首を伸ばして覗いてみると、サキが肩身狭そうにスネイプのローブの影に立っていた。

「いつもありがとう。そこのデスクに置いてくれるかな」

スネイプはハリーとルーピンを交互に見て煙の立つゴブレットをデスクに置いた。サキはハリーを見つけると軽く手を挙げて微笑んだ。

「すぐ飲み給え」

「はい、はい。そうします」

「一鍋分煎じたがもっと必要とあらば…」

「多分明日また少し飲まないと。セブルス、いつもありがとう」

「礼には及ばん」

スネイプは礼には及ばんとはとても思ってなさそうなくらい苦々しい顔をしていた。ニコリともせず部屋を出ると、サキの背中を押して教室に入れた。

「お友達といろ。ルーピン教授はお暇なようだからな。我輩と違って」

「ちょっ、ちょっと。さっきの私の話聞いてました?」

サキの抗議も聞き入れずスネイプはバタンとドアを閉じて行ってしまった。

取り残されたサキは気まずそうに愛想笑いしながら立ちすくんでいた。ルーピンは微笑みながらサキに席を勧めた。

ハリーもどんな顔すればいいかわからなくてとりあえず微笑んだ。

「やあシンガー。驚いたよ。セブルスとそんなに仲のいい生徒は初めて見た」

「いや、まあ…身内なもので」

「わたしとしても出来ればもう少し彼と仲良くしたいのだけどね。…無理だろうな」

ルーピンはスネイプの持ってきたゴブレットの匂いを嗅いで鼻をクシャッとさせた。

「先生、その薬…」

ハリーが心配になって声をかけるとルーピンはなんてことなさそうに答える。

「ああ。わたしは昔から煎じるのが苦手でね…スネイプ先生に調合してもらってるんだ。酷い匂いだけど、複雑な薬でね」

「ルーピン先生が飲んでたんですね、それ。材料とかひたすら用意させられてたんですよ。罰則で」

「それはすまなかったね。じゃあシンガーに乾杯だ」

ルーピンは一口飲んで身震いした。サキがそれを見て、くすっと笑う。

 

「…じゃあ車のことチクったのルーピン先生だったんですか?」

「ああ。驚いたよ。フォード・アングリアが校内にあるんだから」

「あれ、僕達が暴れ柳に突っ込んじゃったんです」

「とんでもない事をするね」

黄昏時になるころには三人ですっかり打ち解けてサキの家出話やネビルが真似妖怪でスネイプに鷲の帽子をかぶせた話をして盛り上がっていた。

「楽しいティータイムだったね。次は宴会で会おう」

二人が教室から出る頃にはもうホグズミードに行ってた生徒たちも帰ってくる時間だった。

 

「サキは…どうするの?」

ハリーは恐る恐る聞いた。サキは神妙な顔をして

「家出」

とだけ言った。

「その…今朝のアレだけど」

「ああ…」

うんざりだと言いたげにサキは顔を両手で覆った。

「せっかく正直に話したのに、仲直りする機会を失っちゃったよ。どうしよう…」

「え?むしろ仲直りのチャンスじゃないか?」

「なんで?だってドラコすごい怒ってたよ」

「だって…君に告白したんだろ?マルフォイは」

「え?」

「えっ?」

サキは指の隙間からハリーを見た。

「告白?懺悔ってこと?」

「いや、愛の」

「嘘でしょ?」

どうやらハリー以上に色恋に関して疎い人間がいたらしい。ハリーもあれが告白だとわからなかったしもしかしたら告白なんかじゃなかった可能性すら出てきた。

二人は一緒にぎゅっと目を瞑って考え悩んだ。

「こういうときは…あれだね」

「ああ」

二人は声を揃えていった。

「ハーマイオニーに聞こう」

 

グリフィンドール塔に向かうさなか、二人は一体恋とはなにかについて哲学的論議を交わした。結論が出ないまま塔の入り口まで行くと人だかりができていた。

「ネビル!一体何の騒ぎ?」

 

「ハリー!大変なんだ。ブラックだよ。シリウス・ブラックが太った婦人を切りつけたんだ!」

 

 

 

 

 


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