【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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05.夜と決闘と犬

夜は、すっかり寒くなった。そろそろ常にローブを着ていないと凍えてしまう。

そんな秋の夜。

消灯時間ギリギリにサキは駆け足で階段を降りていた。

天文台に登り、星を眺めていたら登ってきたはずの階段がいつの間にか消えてしまい、なんとか下り階段を見つけた頃にはもう時間がなかった。

今日こそはちゃんと寮に帰るつもりだったのに。

手すりを滑って行こうかと思ったがこの動く階段ではあまりにもリスキーだ。

しかし急がなければフィルチに出くわすかもしれない。

また階段がない!ローブの裾を翻して廊下を曲がった。

暗い廊下を走ってるうちに方向感覚が失われていく気がして、サキはいったん呼吸を落ち着けるために深く息を吸った。

よくよく周りを見ると、どうやらここは闇の魔術に対する防衛術の教室のそばらしい。壁に見覚えがある。

ということは来た方を戻らないとダメだ。

あんまりにも暗いので杖を取り出し呪文を唱える。

「ルーモス」

ぽう、と杖の先に優しい光が灯る。

本当は暗い中明かりをつけるとフィルチに見つかる確率が高まるから使いたくなかったが、今日はなぜか暗闇が不気味に思えたから仕方がない。

ねっとりとした重たい闇。

やな感じだ。でも、どうして?

急に怖気立ってきて歩調が早まった。思わず唾を飲み込むと、耳の奥の方がごとりと鳴った。

自分の血流以外に、どこからかボソボソと囁くような声が聞こえた。目を閉じ、精神を聴覚へ集中させた。

 

「…イヤでございます。………すなんて、そんな……しい!」

 

泣きじゃくりながら縋る声だ。この声は聞き覚えがある。吃りのクィレル先生だ。

あの人が精神不安定に陥るのはなんら不思議ではないが、なんで泣いてるんだろう。

クィレル先生は誰かに何かを言われてより大きな声で(それでも耳をすまさないと聞こえないくらいだが)しゃくりあげてた。

その誰かの声はいくら耳をそばだてても聞こえない。

クィレル先生が何を話しているのか気になり、声のする方へ一歩一歩近づく。

やはり闇の魔術に対する防衛術の教室の方からだ。教員の部屋と教室って隣接してるんだろうか?

 

みし、と廊下が軋んだとき、背後に気配を感じた。

「なにをー」

「ぅひっ!」

突然、声がした。

肩がびくんとはね、殆ど反射的に杖をそっちへふった。声の主はその手をがっしり掴み、サキを睨めつけた。

黒い服を着てるから全く判別付かなかったが、よくよく目を凝らすとその声の主がスネイプだったことに気づく。

「せ、せんせぇ…!」

サキの泣きそうな声にスネイプは眉をひそめ、唇に指をあてがう。静かに、と言いたげに視線をやると掴んだ手をそのまま引っ張りぐんぐんと中央階段の方まで引っ張っていった。

「こんな時間に、あそこで何をしていた?」

「それは先生もでしょ…。ちなみに私は迷子です」

「…君が寮に馴染めてないのは知ってる。だが、夜の学校をうろつくのは感心しない」

「そりゃ褒められたもんじゃないですけど…バレなければいいじゃないですか」

「そういう問題ではないのだ!…サキ、闇は常に危険だ。学校とて例外ではない」

「学校なのにですか」

「そうだ」

サキは先ほど聞いたクィレル先生の泣き声について話すか話すまいか迷った。暗い階段を下り、寮のそばに近づくにつれその迷いは薄れていった。クィレル先生の事よりも帰って同級生と顔をあわせる憂鬱が勝ってきたからだ。

スネイプはまるで迷う気配もなく地下にある寮の入り口までたどり着いた。

帰るつもりではいたが、こうやって連れてこられると帰りたくなくなるな。と身勝手なことを思いながら、チラッとスネイプの方を見る。

スネイプはいつも通りの不機嫌そうな顔だ。

「サキ…。我輩は君の後見人でしかない。しかし、君が危険に足を突っ込むのを見てられるほど無関心ではない。」

「別に薄情だなんて思ってませんよ…確かに深夜徘徊は私が悪いですね。ごめんなさい」

遠回しに心配されてるんだろうか。ちょっと申し訳なく感じて謝った。

壁の中にある石を触ると、寮への入り口が開いた。

「これからはちゃんと自分のベッドで寝たまえ。次からは減点する」

「そんなあ。寮監なんだし大目にみてくださいよ」

「ダメだ。…おやすみ」

「はあ…おやすみなさい」

寮の中へ入ったのを見届けられた。石の扉が完全に閉まるまでスネイプの視線を感じた。しかしそれは不思議と不快なものではなかった。

渋々談話室を横切り、女子寮へ入った。

珍しいものを見たと言いたげな同級生たちの視線を無視し、久々に自分のベッドに腰掛けた。

なんやかんやここが一番寝心地がいい。(勿論単なる寝具としての出来の話だが)釘も刺されてしまったことだししばらくは夜うろつくのを避けないといけない。

ベッドの上で寝巻きに着替えていると、パンジーが何か話したそうにこっちに近づいてきていた。

「なに?」

「あの、サキ…。私、あなたに謝りたくて。あなたのことよく知らないのに変なことを言ったわ」

「ああ…いいよ別に」

「ドラコから聞いたの。お母様がすごい魔女だったそうじゃない。私誤解してたわ…ごめんなさい」

やたらドラコという名前を強調しているのは引っかかったがしおらしく謝ってる相手を無下にはできない。

そもそも寮に帰らないのはパンジー個人にムカついたのではなくではなくこの寮の気質が気に入らなかっただけだ。

本当ならば謝ってもらおうが開き直られようがどうだっていい。が…

「いいよ。許す許す」

そんなこと言ってもこの子には通じないだろう。と結論付けて軽くあしらった。

パンジーはホッとした顔でおやすみなさいと言って自分のベッドに戻っていった。

ドラコがわざわざパンジーに言ってくれたようだし思いの外スリザリンは仲間に対しては優しいのかもしれない。

良く言えば仲間思い。

悪く言えば排他的。

ため息を飲み込んでベッドに潜った。

明日はグリフィンドールと一緒に飛行訓練だ。サキはゆっくり瞼を閉じた。

 

 

目をさますと、なんと三時半だった。

「なんとまあ」

久々のベッドで爆睡したらしい。楽しみにしていた飛行訓練に出損ねた。

それにしても誰も起こしてくれなかったのか。起こしてくれるような友達がいるのかと言えばそりゃ居ないのだが。

だらだらと着替えて談話室に行くと、黒い湖の分厚い水草ごしに日の光がさしてるのがわかる。

こんなにいい天気なのに寝過ごしたならいっそずっとベッドにいてもいいんじゃないか…?と頭に怠け者の悪魔の囁きが聞こえたが頬をピシャリと叩いてそれを打ち消した。

手ぶらで朝食(というか夕食)を取りに向かった。

するとあさっての方向からハリーがやってきた。

「あれ?サキじゃないか。風邪は大丈夫?」

「ハリーこそ…校庭はあっちだよ。訓練は?」

「ちょっと色々あったんだ」

「えー、聞かせてよ!ちなみに私は風邪じゃなくて寝坊しただけだよ」

「寝坊?!…なーんだ心配したよ。マルフォイがサキは風邪ですとか言うからさ」

「そーなの?気を使ってくれたのかな。」

「さあね。とにかく飛行訓練は大変だったよ…」

ハリーは大広間に行きながら飛行訓練中にあったことを話した。

ネビルが飛行訓練でしくじって骨を折ったこと。ネビルの落っことした思い出し玉をマルフォイが奪い、ハリーがそれを取り返した結果クィディッチの選手に選ばれたこと。

「一年生はなれないって聞いたよ。特例?」

「そうみたい」

「へぇー!すごい。才能あるんだねぇ。寝坊しなけりゃよかったなあ」

「ありがとう。そういう訳で今さっきまでマクゴナガルの部屋に居たんだ」

「次の試合はグリフィンドールを応援するよ。頑張ってね」

大広間について、サキとハリーはハイタッチしてから各々のテーブルへ向かった。

マルフォイがむくれた顔でハリーを睨んでるのがわかったが、ハリーは知らんぷりをした。

サキはマルフォイの正面に座る。

「おはよ。私風邪ひいてたの?」

「パンジーがサキは起きたくないらしいって言ってたからそういう事にしたんだ。…昨日は珍しく帰ってきたんだって?」

「うん。さすがに寝袋で連泊は堪えるからね」

サキはさっさとフルーツを口に運ぶ。寝起きで水分が足りない。

「ちゃんと寮で寝起きしろよ」

「わかってるよ、ドラコ」

せっかく君がパンジーに言ってくれたわけだしね。と心の中で付け加えた。

「そうだ。君のお父さんに手紙送っていい?」

「え?ああ。構わないけど」

「住所教えてくれる?」

「住所なんていらないよ。フクロウにマルフォイ邸へって伝えればいいのさ」

「フクロウは住所なしで届くの?」

「さすがにただの家には届けてくれないさ。でも学校のフクロウだったら有名どころは大体わかる。僕の家は旧家だからね。…なんなら僕のフクロウを使うか?」

「じゃあ借りていいかな。手紙書き終わったら渡すよ」

「わかった」

フクロウっていうのはサキが思ってるよりずっと賢いらしい。サキは一度もフクロウを使ったことがなかった。なんせ手紙をよこしてくれる親戚なんていなかったし、新聞も読んでないし、通信販売がこの世界にあるかも知らなかった。

フォークでスクランブルエッグを突っつきながらサキは手紙用の便箋をどう調達しようか考えを巡らせていた。

人に手紙を送るなんて今まで滅多になかったものだから、便箋をわざわざ寮生活に持っていくなんて思いつきもしなかった。

こういうときはしょうがないので後見人であるスネイプに頼るほかない。(まさかドラコに便箋を貰うことはできないし)

ドラコはご飯を食べ終わったハリーを見るや否や、スープの残りで口の中のものを一気に飲み込んだ。

「ゆっくり食べなされ」

嗜めるようなサキの言葉に返事をすることなく、ドラコはクラッブ、ゴイルを引き連れて行ってしまった。

喧嘩でも売りに行くんだろうな、と思いつつもサキに止める気は無かった。

目の前に出されたものをあらかた胃に詰め込んだと確認すると同時に席を立つ。

広間を出て視線を上げるとやっぱりドラコがハリーに喧嘩を売ってた。

「こらこらなにやってるんだい」

「サキ!ちょうどよかった。このバカをどっかにやってくれよ!」

あんまり気張らず声をかけたが、どうやらあっちはそれどころじゃなかったらしい。想像よりヒートアップしてるロンが怒り心頭でドラコを指差す。

そんなロンを鼻で笑うようにドラコは吐き捨てる。

「決闘なら今夜と言わず今やってもいいんだぞ?」

「決闘?」

「ああ!真夜中、トロフィールームで決闘だ。白黒つけようってね」

売り言葉に買い言葉という具合に、ドラコが興奮気味に言う。しかし決闘とは穏やかじゃない。

「じゃあ私審判してあげる。真夜中ね?」

「え?」

止めるでもなく宥めるわけでもない意外な提案に今まで怒りを抑えて黙っていたハリーが思わず疑問符を投げた。

「決闘って審判がいるでしょ?私なら中立だよ。どっちも友達だし」

「いやいや…サキ、それは…」

ドラコも思わず怒気を引っ込めノリノリのサキを止めにかかる。

遠巻きに見てたハーマイオニーがここぞとばかりに止めに来た。

「そもそも夜中抜け出そうなんて校則違反を嬉々としてする方に問題があるわ!」

「大丈夫。意外とばれないよ」

「そういう問題じゃないわ!」

「いいよ、サキが審判でも全力でやるからな!ね、ハリー」

「ハーマイオニーの心配も尤もだね。中断の場合の勝敗ってどうするんだろう?」

「そういう話じゃないわ!」

「一発でけりをつければいいのさ!」

ずれてく論点と勝手に盛り上がるギャラリーで、本来の当事者であるドラコとハリーは思わず顔を見合わせた。

しかしお互いひくにひけなかった。

「望むところだマルフォイ。今夜、トロフィールームで」

「吠え面かかせてやるよ、ポッター!」

ロンとサキがセコンドばりに張り切る反面、ハリーとドラコは安請け合いしたことを後悔し始めていた。

 

「何であんなこと言ったんだよ…」

ハリーたちから離れてすぐ、ドラコは呆れ気味にサキに尋ねた。

「面白そうじゃん、決闘」

「審判するなんて…。いいか、今夜トロフィールームには行くなよ?」

「え?なんで?」

「あいつらを嵌めるためだよ!」

は?という顔をしたサキだが、すぐに言いたいことはわかったらしい。つまり決闘だと言ってハリーとロンをトロフィールームに呼び出し、そこにフィルチを呼び出してとっ捕まえさせようという罠だ。

「君も悪いやつだね」

「君がでてきて台無しだけどな!」

「だって知らなかったし。でもどうする?ああなったら行くしかないよ」

「うー…」

サキとハーマイオニーのせいで周りからも随分注目されていたし、どうせドラコがいかないと言い張ってもサキは行く。ここで行かなければ決闘から逃げたと思われる。

「わかった…わかったよ!くそッ!こうなったらやってやるさ」

「その意気だよ。ドラコ」

クラッブとゴイルは肩を竦ませた。自分たちができることは何もなかった。

そして真夜中起きてる自信もなかった。

 

 

真夜中のトロフィールームで、サキとドラコはマフラーに顔を埋めてハリーたちの到着を待った。

サキは実に心得たものでそこらで拾った懐中時計(時間は完璧に狂ってる)の秒針を見ながらフィルチが通り過ぎる時間を正確に言い当て、掃除用具入れに隠れた。

ミセス・ノリスの巡回ルートや視界も把握しているらしく、全く聞こえない猫の足音を感知し唇に指を当てた。

「一回ここは通ったから一時間は安心のはずだよ。北塔だったらもっと余裕があるんだけどね」

どうやら寮出もそれなりに役に立つらしい。

「あ、ハリー!」

トロフィールームに続く廊下から人影が見えた。ハリーとロンとハーマイオニーの3人だった。

「ハーマイオニー?大丈夫こんな時間に」

「大丈夫じゃないわ!サキったら信じられない…これならまだマルフォイの罠だった方がマシだったわ」

「なんだとグレンジャー」

「お生憎様。本当はあなたはこないつもりだったんでしょう?わかってるわよ。…でもこれで校則を破ってる人が四人に増えちゃったわ!」

おかんむりのハーマイオニーにロンとハリーは肩をすくめた。

「自分も校則破ってるって忘れちゃってるよ…」

「今すぐ、戻りなさい。あなたたち」

「まあまあ…ハーマイオニー落ち着いて」

サキが紳士的にハーマイオニーの肩をそっと抱いた。ハーマイオニーは思わず怒りそうになるがサキが唇に手を当てるのを見てハッと口を閉じた。

「ここで帰っても東塔から帰ってくるフィルチに鉢合わせると思うな。あともう一回あいつをやり過ごしたほうがいい。次は西塔に行くはずだから」

「そうなの?」

確信ありげなサキの顔を見て気持ちが揺らいだらしい。ハーマイオニーは不安げにトロフィールームの外と腕を組んだり肩を鳴らしてる男の子三人を見比べて、ちょっと考えた。

「わかったわ…。でもフィルチが通り過ぎたらすぐに帰ってもらうから」

「よし。そうと決まれば決闘だね」

「よしきた。そっちの介添人はサキ?」

サキの言葉に血気盛んにロンが尋ねる。ドラコも心なしかのってきたようで、偉そうに腰に手を当てて答える。

「そうだよ。ちょうどグレンジャーがいる。万が一僕が負けるってことはないが、もしサキが戦うことになったらグレンジャーが審判だ」

「私、そんなばかなことに付き合わないわ!」

「サキと戦うなんて楽しみだな」

「ドラコ、仇は打つから」

ハリーとサキは準備体操をしながらドラコに言った。

「倒される前提かよ!ポッター、お前こそウィーズリーを殺されたくなかったらしっかり闘え」

ドラコも腕をまくり、杖を取り出した。ロンはふうっと息を吐いて興奮を抑えてるようだった。

「ほんと…男の子って……」

ハーマイオニーが呆れ切ってため息をつく。

サキは揚々と床に線を引き、決闘の舞台を整えた。

薄く埃をかぶったトロフィー棚が月の光を反射して鈍い銀色に光っていた。

ハリーとドラコが開始線についた。

「怖いか?ポッター」

「そっちこそ」

サキが神妙に2人の間に入る。

「位置について…」

2人は背を向け、お互い反対方向に数歩歩いて、振り向いた。

「1……2……」

サキが3と言い終わる前に、ドラコの杖が動くのを見た。ハリーはほとんど反射でさっき頭に叩き込んだ呪文を唱えた。

「リクタスセンプラ!」

ドラコは吹っ飛ばされて激しく棚にぶつかる。夜をぶち破るような騒音が響いた。

「はははっ!ポッターッ‼︎音を立てるなよ!はは、はははっ!ひーっ!」

くすぐりの呪文にかかったドラコは笑い転げている。

「言い終わる前にやっちゃダメだよ。無効試合だねー」

「でもマルフォイも杖が動いてたんだ」

サキはのんきにドラコの元に駆け寄りながら審判をし、ハリーは抗議した。ロンは思ったよりド派手に飛んだドラコを見て満足げだ。

そんな中ハーマイオニーだけが顔を真っ青にしていた。

「こんな大声出したらフィルチが来るわ!」

ハーマイオニーの言葉に今更のようにハッとする3人と笑いが止まらない1人。

「フィニート。やばい、確実に来てる」

サキが慌ててドラコに呪文をかけ、耳に手を当てて言う。

「どうしよう?!」

「ここから逃げよう、すぐ!」

サキが先導してトロフィールームから駆け出した。ハリーはまだ腹を抑えてるドラコを仕方なく助け起こして後に続いた。

「どうしよう!行き止まりだ」

廊下の先にロンが絶望的な声を出した。

「大丈夫、ドアだ。アロホモーラ」

サキは冷静にドアの鍵を開け、五人はそこに慌てて駆け込んだ。

「サキ、凄いのね…いつの間にそんな呪文を覚えたの?」

「夜学校を彷徨く時には必須だから…」

「シッ!フィルチが来た」

鍵穴から外を覗くハリーの言葉にみんなが息を飲んだ。

フィルチはここに鍵がかかってると思ってる。見向きもせず通り過ぎ、音のしたトロフィールームへ戻って行った。

ほっと一息つき、四人の方に振り返り微笑んだ。

が、そこで妙なものを見た。

暗闇で爛々と光る6つの金色の眼が、みんなのすぐ後ろにある。

ハリーの視線に誘われてハーマイオニーが振り向き、それにつられてロンとマルフォイ。そして最後にサキがそっちを向いた。

暗闇に目が慣れてその姿がだんだんわかってきた。黒々と光る毛並み。獣の匂い。ピンク色の舌からだらだらと流れるよだれを流す巨大な犬がいた。

頭は3つ。紛れも無い化け物だ。

ハリーはほとんど無意識でドアを開け、倒れるようにしてそこから飛び出た。残る四人もそこから雪崩のように飛び出し、一目散にトロフィールームの手前の階段に駆け出した。

「な…なにあれ!」

階段を飛ぶように下りたあと、ロンが錯乱気味に尋ねる。

「し、知るか…!」

ドラコが息も絶え絶えに応じる。

「とにかく…急いで寮に帰りましょう。フィルチが追ってくるかも」

「ああ…急ごう」

「待てよポッター。決着はどうする?」

「そんなこと言ってる場合かよ!」

「と、とにかく明日にしよう。ミセス・ノリスがどこにいるかわかんないし…」

「そうだね…とりあえず解散だ」

5人は二手に別れ、それぞれの寮へ帰った。ドラコとサキは駆け足で地下牢へ急いだ。

石壁を押して寮に入る時、ドラコが混乱気味に喚いた。

「あれはなんだったんだ?!」

「ケルベロスだと思う」

「ケルベロス?」

「冥界の番犬だよ。孤児院の本で読んだけど本当にいるんだね」

「番犬?あんなのがなんでここに…」

「番犬だしなんか守ってたんだよ。扉があったじゃん」

「扉?どこに?」

「あの子の足元にさ」

「よく見つけたな…」

真っ暗な談話室でドラコはむう、と考え込んだ。サキもちょっと思案するように首を傾げた。

あの犬が何を守っているか…。

この学校ならなんでもあり得る。考えても何もわからなかった。

「明日も早いし寝よっか…」

サキの提案にドラコは頷き、お互いおやすみを言ってベッドへ向かった。


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