【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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10.Comfortably Numb

妻亡き後、屋敷の中は死体みたいに冷たくて、固くて、凍ってる。バーティの感情もまた同様に凍りついていればまだ楽だったのに、生き延びてしまった息子の顔を目にすると否が応でも揺さぶられる。

禁じられた呪文を息子にかける度、後悔や憎しみや、同時に一緒に過ごしてきた時間の温もりや愛情がからからに干からびたバーティの心からじわりと滲み出て、それが体の奥底に澱のように沈殿している。

あの日、法廷で息子を裁いた日から、バーティは泥の中でひたすら足掻いてるような気持ちで生きてきた。

純血としての誇りを持つよう精一杯手塩にかけて育ててきたのに。

その結果が遺体のない空っぽの妻の墓と狂人となり死にかけた息子なのか?

 

私は一体何に尽くしてきたんだろう。

 

暗黒の時代を切り裂いて生き抜いて、ただ公に尽くし邁進してきたのに閑職に追いやられ、今ではご機嫌取り呼ばわりだ。

かつて悪事を働いていた元死喰い人が仲間を売ったその口で自分より上等なワインを飲み、座り心地のいい椅子にかけている。

私は暗い部屋の中、屋敷しもべのすすり泣きを聴きながら服従の呪文を唱え、とろんとした息子の顔を眺めている。

 

あんまりだ。

こんなの、あんまりじゃないか。

私が死ねばこの血統も絶えるだろう。

何もかもおしまいだ。

絶望。後悔。憐憫。愛情。

今まで法廷で麻痺していた感覚が一気に襲い掛かって、影のようについて回る。

 

一体私はどこで間違ったのだろう。

向けられた杖先をじっと見ていると、そういう気持ちが麻痺していく。心地よく麻痺して、そして…気づけばまたどっぷりと絶望の沼にいる。

いや、はじめからずっとそこにいたんだ。

堂々巡りの悲しみの輪の中でただ悔いている。

なぜ

どうして

あの時どうすればよかった?

 

「…あ、ぁああ…」

 

もはや今は口から出るのは泣き声未満の未分化の言葉だけ。

自身の犯した罪を悔いた。

それと同時に罰が怖かった。罪悪感と恐れがぐちゃぐちゃになって自分が内側から潰れてくように感じる。

 

懺悔しよう。

そして今度こそ法の下息子と自身を裁いてもらおう。

もう私にできるのはそれだけだ。

早く、まだ自分がどこにいるのかわかるうちに屋敷から逃げなければ。

見張りはザルだ。

まだボケてると思われてる今がチャンスだ。

服を着て、帽子を被って、そして…そして?

「ダンブルドア」

そう、彼のもとへ…

 

 

 

 

 

 

 

サキはひたすら羽根を見つめている。

口も開かず、目の前の羽根を浮かせようとしていた。ムーディの特別授業は血を採るだけから無言呪文の訓練に変わった。

本来ならば6年生にやるような内容だがムーディはそんなのお構いなし。羽根を浮かせるまでは次に進まない。

そういうわけで無言呪文の訓練が始まって3回目の今までずっとサキは黙って羽根を見てる。

「はあ…」

なんだか馬鹿らしくなってちらとムーディの方を見た。ムーディは羊皮紙とにらめっこしてる。しかし魔法の目はギョロギョロ動き回っていて、サキとがっちり目があった。

なんだか催促させられてるような気がして急いで目を逸らした。

また意識を羽根に集中させたとき、突然ムーディが立ち上がった。

「シンガー、ここで待っとれ」

「あ…はあ」

もう随分暗いんだから解散でもいいんじゃないか?と意見しようとしたがもうムーディ先生は義足をコツコツ鳴らして部屋から出ていってしまった。

急用らしい。サキに目もくれずドアも閉めずに行ってしまった。

集中力も完全に切れてしまったのでおっきく伸びをして椅子にかけて羽根で遊んだ。

イースター休暇も学校に残るし、しばらくずっと無言呪文の訓練だろう。つまらないな。

ちょうど今第三の課題が発表されてるので、何かハリーから要請があれば色々やることもできるのだが、一体どんな課題になるのだろう。

今年一年はなんやかんやで平和だった。勿論ハリーは大変だったろうけど、サキ個人としてはただただ楽しかった。だからこそ第三の課題が心配だ。友達に何かあったら楽しい一年も大ナシだ。

サキはなんの気なしに立ち上がり、ムーディが熱心に見ていた羊皮紙を見てみた。

「地図…?」

忍びの地図だ。確かフレッド、ジョージがハリーにあげたんじゃなかったか。なぜムーディが持ってるんだろう?

サキも一度かりたのだがこの地図、畳むのが大変なのですぐ使わなくなった。自分の勘で覚えたほうが早い。

「…ん?」

広げられた地図に名前がいくつかダブってるところがあった。

目がおかしくなったのか?ぐりぐりと擦ってからまた見ると、名前は一つしかなかった。

『バーティ・クラウチ』

「…具合良くなったのかな」

最近よく新聞でかきたてられてるようなので、野次馬半分でちょっとだけ心配していた。第三の課題発表の日にクラウチ氏がいるのは何らおかしいことでもない。

サキはこの時さして気にせず地図から興味を失いまた羽根を浮かせることに意識を向けた。

しばらくしてムーディが戻ってくる。

「シンガー、今日はもう帰れ」

「あ…はい。何かあったんですか?」

「クラムが何者かに襲われた」

「えっ、大事件じゃないですか」

「そうだ。だから早く帰れ」

何だか追い出したがってるようにも見えたので、余計な口を利かずに出てくことにした。気がたってる相手はだいたい触れたらキレるのでこうするのが1番だ。

地下牢に戻るとのほほんとした空気でクラッブ、ゴイルがケーキの食べ比べをしていた。そのケーキのうち一つはサキが作った鼻血がとまらなくなるヌガーが入っている。

サキはニコニコしながら二人の様子を観察した。

 

 

 

 

「クラウチが消えた?」

ハーマイオニーは屋敷しもべの資料を作りながら悩ましげにため息をついた。

「忽然とね。かなり錯乱していたらしいわ…」

「事件の匂いがするね」

「でしょう?でも公になってないしあまりにも情報が少なくて何もわからないわ」

「ふうん…」

サキは無言呪文についての本をパラパラめくって、ろくに目を通さず閉じた。忍びの地図のことはすっかり忘れていた。

「ねえ、第三の課題はなんだって?」

「迷路、らしいわ」

「燃えるね」

「だからハリーに呪文集を借りに行きなさいって何度も言ってるんだけどクラウチの事で頭がいっぱいみたい」

「そんなにクラウチはおかしかったの?」

「うーん。木をパーシーだと思って話してたらしいわ」

「ワオ、重症だね…」

辛い思いをしてきてついに壊れてしまったんだろうか?あれだけしっかりしていた人がそんなふうになっちゃショックも大きいだろう。なんだか物悲しい話だ。

「気になることを言ってたみたい」

ハーマイオニーが言うか言わないか悩むときの顔をしていた。こっちを見ないで中空を睨んで眉をハの字にしてる。

「例のあの人が…強力になったって」

「え…」

急に背筋が寒くなった。なぜクラウチ氏が突然そんなことを言い出したんだ?

そしてその直後に行方不明なんて、明らかに事件じゃないか!それでムーディも慌ててたんだろうか。

「ハリーが心配だ」

「私はあなたのことも心配よ」

ハーマイオニーが真っ直ぐサキの目を見ている。

「サキは…言わないけど、あの人のことをすごく怖がってる」

サキは思わず目を逸らしたくなるがぐっとこらえた。ハーマイオニーはサキの手をぎゅっと握った。他人の体温は温かい。

「あなたが言いたくないなら聞かないわ。でも、忘れないで欲しいの。…私達、サキの味方だからね」

「ありがとう…」

「ホグワーツにいればきっと大丈夫だわ」

ハーマイオニーはニコッと笑って手を離した。

サキはなんだか照れくさい気持ちを笑ってごまかした。

 

 

 

……

 

 

 

ハカマオニゲシの花が咲いていた。

鮮やかな朱色の花弁のなかにゾッとするほど黒い基部が見える。

「これには微量の麻薬が含まれてるの」

リヴェンはその花を眺め、手折った。珍しく外に出て庭を弄って疲れてしまったらしい。パラソルのあるベンチに座ってぼうっと手折った花を見ていた。

「母はそういうのを集めるのが趣味だった」

変な母親だったらしい。彼女の母親はとっくに亡くなっていて顔は見たことないが、きっと彼女そっくりなんだろう。なんだかそんな気がする。

「もう庭いじりは無理ね」

彼女の顔は白を通り越して青かった。椅子に座って日々を過ごす彼女にはちょっとした草むしりも堪えるらしい。冷や汗まで浮かべている。

「部屋に戻られますか」

「ええ」

支えるために取った手も冷たかった。このまま死んでしまうんじゃないかというくらいに弱々しくて影が薄い。

彼女の必要最低限の生活用品しか置かれていない。他の部屋がアンティークなどで飾られているのに対してこの部屋はあえてそれを排除したかのようにがらんどうだ。

 

「もう死ぬわ」

 

まるで寝るのと同じようにそんなことを言う。セブルスは突然で反応に困った。最近ますます彼女をわからなくなる。まるでバラバラにした物語の断片を読んでるみたいだった。

「そんな事おっしゃらないでください」

しかしセブルスも薄々彼女に死の影を感じていた。その影は拭いきれないほど濃くなってきている。

リヴェンは返事をしなかった。

「母と同じ。わかってた」

「ご病気ですか」

「いいえ」

禄に日の光も浴びず、自身を埋葬するようにこの隔離された屋敷で死ぬ。その侘しさが自分の母親と少しダブった。セブルスの母も、そうだった。

「セブルス。頼みがある。文字通り一生のお願い」

リヴェンは今まで見たことないくらい意思の宿った瞳でセブルスを見つめた。

 

「私が死んだら………」

 

 

 

………

 

 

 

 

 

「いいんですか?!」

「ああ」

サキは運営委員会の着ている黒いローブを着てくるりと一周回った。

無言呪文を成功させ、その他様々な呪いを覚えていき6月になった。

ムーディは第三の課題の迷路をプロデュースしており、その手伝いをサキに持ちかけた。手伝いと言っても選手の上げる緊急時の花火を観測して位置をメモするだけの役割だ。

しかし観客席と違って迷路の様子が見れる。双眼鏡があれば生け垣の中だってちらりと見れるし、迷路の設計図も手にはいる。ハリーに見せる事は流石にスポーツマンシップに反するのでしないが、自分だけはゴールを知ってるというのはなかなか愉快じゃないか。

「頑張ってきてよかったー」

「その代わり、正確に頼むぞ」

「はーい」

サキは嬉しくてまだローブを脱がなかった。ムーディはニヤリと笑ってまた例のジュースをぐいっとやった。

なんやかんや1年近く補習を受けてきてムーディともすっかり打ち解けた気分だ。闇祓いという仕事にも興味を惹かれたし自分の力がついた気がした。残念ながら来年は教師を辞するらしいが、生徒の大半はムーディにまだまだホグワーツで教えてほしいと思ってるだろう。

 

「補習、逃げ出さずにやってよかったですよ」

「逃げても捕まえるがな」

 

試験が終わる6月24日、いよいよ第三の課題が始まるのだった。

 

 

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