【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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06.転げ落ちるハロウィン

結局あの三頭犬と扉について、誰も明確な答えを思いつかなかった。またあそこに行くほど命知らずな人はいなく、サキは仕方なく毎日出される課題をこなす日々を送っていた。

 

談話室にいると気が散るのでいつも図書館にこもっていた。図書館には大抵ハーマイオニーがいるので、たまに二人で三頭犬の守る扉についての意見を交わしたり、授業のわからないところを教えあったりした。

ハーマイオニーは恐ろしいほど本を読むのが早く、さらにどんなに分厚い本でも内容を覚えているので、読んでて面白い本を教えてくれた。

毎晩ハーマイオニーの勧めてくれた魔法史概説の本を借りて読みながら眠った。歴史の本というのは人間界、魔法界問わず睡眠効果を持つらしい。

活字の渦を最後に視界が真っ暗になって、次に目を開けたら朝だった。

この本を読んだ夜は大抵寝起きがすっきりしているので重宝している。

そうこうしているうちに秋の気候はすっかり何処かへ行って、ハロウィンが近づいてきた。

ハグリッドは人より巨大なかぼちゃをくり抜いてジャックオランタンを作り、ダンブルドアはここ三日続けてパンプキンプリンを美味しそうに食べていた。コウモリがどこからか湧いたように増えて大広間の天井にくっついている。

これにはサキもウキウキせざるを得ない。それまでなりを潜めていた夜間外出の虫が騒ぎ始めた。

ハロウィンを明日に控えた30日の夕方。サキは日が沈み始めてオレンジ色に染まる泉を眺めながら暴れ柳のそばの坂を下った。

暴れ柳の下に広がる森に小さな池がある。そこの麓に生えているキノコを採集しようとしていた。

ハロウィンのいたずら用に笑いが止まらなくなる魔法薬でも作ろうと思い、まずはスネイプを訪ねた。しかしトリックオアトリートを言い終わる前に減点されそうになり、材料をせがむとチョコレートひとかけらを手渡され追い返された。

スプラウト先生の温室は何故か異常にガードが固く、しょうがなく自分で採集することにしたのだ。

暗い森のジメジメした池のほとりにしか生えないキノコなんて、他に必要になる場面がいつ来るんだろう。

ほとんど崖みたいな坂をなんとか下り切って池を目指す。

早くしないと日が沈みきってしまう。

木々の隙間で何かが動くのを感じた。とっさに杖を上げ足を止める。

心臓が早く脈打った。

すぐに反対側から葉っぱを蹴散らす音がしてそちらを振り向く。

何もいない。

日はどんどん沈んでいき、木々の隙間に満ちる霧のような闇が急速に濃度を増していく。

ダメだ。切り上げよう…。

蜘蛛が背筋からぞくぞくと登ってくるみたいに嫌な感じだ。もっと早いうちに来ればよかった。

踵を返し坂を登る。しかし下ってきた時のようにはいかず、ローブの端を踏んづけたりしてうまく登れない。

このまま帰れなかったらどうしよう?

森の夜は学校の夜とわけが違う。

一度禁じられた森のすぐそばで野宿と洒落込もうとしたが、その時は得体の知れない視線を感じ結局校内に撤退した。魔法のお城のすぐそばにある森だ。わけのわからん生き物たちが沢山いるんだろう。

「アクシオ…!アクシオ!」

サキは飛び跳ねながら直ぐそこの岩の上に伸びてる蔦に杖を振るう。

何度呪文を唱えても蔦はこっちへ来ない。長さが限界なのか、自分の呪文が失敗してるのか。

「クッソ…」

日はすっかり沈み、空は暗い紫色から黒へ変わってきている。

サキはそこを無理やり登るのは諦め、ちょっと下ってまた上を目指した。

考えなしにショートカットするんじゃなかった。

気を抜いて脆そうな地層へ足をかけたとき、階段を踏み外した時のような浮遊感があった。

まずいと思った時にはもう遅く、サキは斜面を転がり落ちた。

 

ぐるぐる回る暗い森の景色を捉えた次の瞬間、腕のひきつるような痛みでハッと我に帰った。

薄暗くてもうもうと香が焚かれた部屋の中にいた。

「いっ…!」

起き上がると、無造作にかけられたシーツが弾みで床に落ちた。傷んだ右腕を見ると、包帯が巻かれていた。

この部屋の形と骨格標本と何を煮込んでるかわからない鍋…闇の魔術に対する防衛術の教室だった。

「き、気がついたかね。し、し、シンガー」

「く、クィレル先生」

どもりがうつっちゃった。

クィレル先生は包帯の山とガーゼを持っていた。山ほど包帯を使うほどの怪我とは思えなかったが手当て中だったらしい。

「よ、夜の森に出かけるのは、かっ感心しませんよ…本当ならま、マダム・ポンフリーに診てもらった方がいいんですが。じっ、時間が…」

「あー、一応出かけた時は夕方だったんです。」

どうやら落っこちた後に気を失ってたらしい。夜になってからクィレル先生に発見されて助けられたのか。情けない。

地味にクィレル先生は命の恩人なわけだ。

「助けていただいて本当に感謝してます。私、ハロウィン用にきのこを取りに行ったんです。そしたら森で妙な気配がして、それに気を取られてたら足を滑らせちゃって」

ちょっぴり嘘だがしおらしく言ったおかげか、クィレル先生はいたわしげな表情になり、大鍋から一杯カップに何かを注いでサキの正面に置いた。

「ハーブティーです。お、落ち着きますよ」

大鍋でお茶を淹れるなよ…と思いながらも好意を無下にはできないし喉も渇いていたのでカップを手に取った。

「いただきます」

口に運ぶとツンとした匂いが鼻を刺した。ハーブが強すぎてお茶にしては随分刺激的な香りになっている。ちょっと口をつけて飲むふりをした。

「や、夜間外出した生徒は本当ならばっ、罰則なのですが。シンガー、あな、貴方の場合事故ですから…」

「ああ、よかった。」

本当は夜間外出してるのは今日だけじゃないのだがここは大げさにありがたがった。

「し、シンガー。あ、あっ貴方の放浪癖は全体にちゅっ注意がかかるほどでしたが、何か寮で…やなことでも?」

「あ…いや…初めの頃はあんまりみんなと仲良くなれなかったんですけど、最近は…」

全体に注意がいってるって…とショックを受けてしどろもどろになってしまう。クィレル先生はそれを何か言いにくい悩みでもあると解釈したのか、優しそうな眼差しで見つめてくる。

どうやら悩み相談室を開くつもりらしい。クィレル先生はサキの真正面に腰を下ろし、真っ直ぐ目を見てきた。

「あ、貴方は孤児院育ちだとき、ききました。その時もい、家出を?」

「え?ええ。まあしょっちゅう。職員さんは良い人なんですがルームメイトに恵まれなくて」

「そ、そうでしたか。…その孤児院は…」

「失くしました。火事で」

クィレル先生はそれを聞いてなんとも言えない顔をしてサキのカップを見た。

「さ、砂糖とミルクもありますから。」

クィレル先生はサキにまだお茶が足りないと思ったらしい。砂糖の入ったツボとミルクピッチャーを魔法で机の上に出し、カタカタと震える手でティースプーンを受け皿に置いた。

その気遣いにちょっと会釈して見せ、ミルクをちょっぴり入れて勇気を出して一口だけお茶を口に含んだ。

口の中が苦味で満たされる前に急いで飲み込む。

「け、けれどもスリザリンに入れたということは、ご両親が魔法使いだったのでしょうね?」

「ああ…母親がそうみたいですよ。死んでるのでよくわからないですけど」

「は、母親のことで何か覚えていることは?」

「何も…顔も知りません」

「父親は?」

「いません。死んでるのかも」

あのお茶の苦さで味覚がやられて、頭がぼうっとして考えがまとまらない。クィレル先生の質問を聞いてはいるが理解できない。理解できないのに口が勝手にしゃべる。

「父親について何も知らない?」

「はい。」

「今はどこに身を置いてる?」

「母の家です。スネイプ先生が後見人です」

「母親の家で何か見つけたか?」

「鏡と真っ白な部屋と本の山」

「それに惹かれた?」

「いいえ。鏡は、嫌い…」

「特別な力を持ってる、と思ったことは?」

「魔法を使える」

「それ以外に」

「……ありません」

「…よろしい」

そういえばクィレル先生、どもりは治ったのかな。

ぽん、と肩を叩かれハッと現実に戻ってきたような感覚がした。

今さっき話してたことが頭から一気に消え去ったようだ。妙にすっきりしている。

カップは冷えている。それなりに長く話したはずだが時間が経った気がしなかった。

違和感が頭の隅にやどるが、すぐにクィレル先生の次の言葉に上書きされた。

「ど、どうやら疲れてしまったようですね。シンガー、もうりょ、寮に帰っては?」

「え?あ…ありゃ。もうずいぶん遅いですね…ごめんなさい、長居をして」

「いえ。せ、生徒の悩みを聞くのは教師のぎ、義務ですから。すっきりしたでしょう?」

「はい。おかげさまで。」

「そ、そ、それは、よかった。そうだ…よ、よかったらこれを」

クィレル先生は四角い箱をマントの中から取り出した。ヒエログリフの書かれたケミカルな色合いの箱だ。

「ええっと…これは?」

「えっエジプトで売っている、スカラベチョコレートです。は、ハロウィンですから」

スカラベとは即ちエジプトでいうフンコロガシのことで、そのフンコロガシを茶色いチョコレートにする神経はサキの理解の範疇を超えていた。

そもそも虫型の食べ物(しかも動く)を作る神経が理解できない。

それを生徒に手渡す教師の気持ちも全く分からなかった。

「ありがとうございます。…それじゃあクィレル先生。おやすみなさい」

しかし受け取りを拒否することもできない。

サキは促されるままに教室を出て、クィレルの手渡した燭台を片手に寮へ続く階段を下りた。なぜクィレルが森で自分を見つけたのか、なぜ母親について尋ねたのか、そんな疑問を全て置き去りにして。

 

 

「その包帯どうしたの?」

「ん?ああ、昨日転んだ」

「大丈夫?荷物持ちましょうか?」

「たいしたことないよ。ありがと」

ハロウィンと言っても渡すお菓子がないサキはトリックオアトリートを言われないように気を使っていた。

普段は一言も話そうとしないくせに朝一番で話しかけてきたゴイルには昨日クィレル先生から貰ったスカラベチョコレートをくれてやった。

そしてようやく山ほどお菓子と食べ物が出てくる夕食になって、パンジーが珍しく話しかけてきた。

話が途切れた後も何故かいつもの取り巻きの元へ戻ろうとせずサキの隣に居座っていた。

別に邪魔だとは言わないが謎だ。

「サキ。なんで今日は逃げ回ってるんだ?」

そこへカップケーキを抱えたクラッブ、ゴイルと口の端に食べカスをくっつけたドラコがやってきた。

「君の取り巻きにお菓子を強奪されないようにだよ」

両手がふさがっていてもお菓子を求めてきそうな二人を呆れながら見てドラコに答えた。

ドラコは否定するわけでもなく、肩をすくめてそのまま座った。

「あ…ドラコ、口に食べ物がついてるわ」

パンジーがサキ越しにドラコの口の端を指差した。

「おっと…」

ドラコは自分で口の周りを拭う。パンジーは乙女のように笑い、ドラコを見つめてる。

サキは若干のけぞりながらだんだん大きくなるざわめきをぼんやり聞いていた。

ダンブルドアが広間にやってきた。

「それではみな、ハロウィンパーティじゃ。存分に飲んで、食べて、騒げ!」

挨拶を皮切りにテーブルには溢れるほどの料理が出現し、人々の歓声やざわめきが爆発した。

舌鼓を打つ暇もなく、サキは夢中で料理を皿に盛り付けて片っ端から食べた。

「去年までは家でパーティをしていたの。お母様のパンプキンパイが美味しくて、今年たべれないのが残念だったけどここのもおいしいわね」

「孤児院、パーティ、ない」

そう話しかけられても食べるのの邪魔でしかなく、片言で返すほかなかった。

「パーティがなかったの?それはさみしいわね」

「ハロウィンはまあなかったね。クリスマスはあったけど…」

口に詰まったものをキャロットジュースで流し込んだ。見境なく食べてしまい、デザート分の余裕があるかないかくらいだった。

一息ついて宴会状態の周りを見回す。職員テーブルでは一人だけ葬式みたいな雰囲気のスネイプが、いつもの夕食と同じように黙々と食事をしていた。あのマクゴナガル先生ですらハグリッドと談笑してるのに。

ベリーをふんだんにあしらったヨーグルトを装った時、大きな音を立てて扉が開いた。

大広間から顔を真っ青にしたクィレル先生が息も絶え絶えに走ってきて絶叫した。

「トロールが!地下室に…!」

ダンブルドアは取り乱したクィレルの様子を見て神妙な表情になる。喧騒は一気に消え去り誰もがフォークや食べかけの料理を持ったまま固まった。

「お知らせ…しなくては…と……」

クィレルは絞り出すようにそういうと、そのまま通路の間にばったり倒れた。

一拍おいて、生徒が悲鳴をあげた。何人かが慌てて椅子と机の間から出ようとするあまりすっ転び、コップが倒れる。

サキはトロールの強さを知らないため騒ぎに加われずキョトンとしていた。他のテーブルでも何人かそういう生徒がいた。

「静まれ!!」

広間が大パニックに陥る寸前、ダンブルドアが割れるような大声で生徒の動きを止めた。

「各寮の監督生は下級生を連れて寮に帰るように。先生方はトロールを」

ダンブルドアの声のおかげでほとんどの生徒が冷静さを取り戻し、わらわらと監督生の後ろに続いた。

「トロールだって?学校の安全管理はどうなってるんだ…こんなこと父上の時代には…」

ドラコはブツブツ独り言を言って静かに取り乱していた。

「トロールってそんなに強いの?」

「あたりまえだろ!大人の魔法使いだって殺される事があるんだぞ」

「へー」

「マグル育ちはこれだから…!」

サキの危機感のなさにドラコは呆れた声を出す。列の一番後ろで周りを見回しながら寮へ行こうとすると、監督生の目を盗んでこっそり抜け出すハリーとロンを見つけた。

何やってんだあの二人は…とサキも階段の曲がり道の死角になる場所で列から外れた。

急いで二人を追いかけようとするがすっかり居なくなってしまい、どこに行ったか見当がつかない。

トロールをやっつけに行ったのか?だとしたら地下だろうか。

どうしたものかとちょっと頬に手を当てて考えてると、ぶっ倒れたクィレルがこそこそと大広間から出て行くのを目撃した。

急いで石像の陰に隠れる。クィレルは階段を滑るように登っていく。

トロールは下にいるはずなのに。

サキはこっそり後をつけた。クィレルは迷うことなく4階へ行き、例の立ち入り禁止の廊下へ向かった。

あのケルベロスがいた場所だ。

クィレル先生がなぜあの犬のところへ?

クィレルが扉を開けようとすると、扉がものすごい勢いで開かれ、髪を振り乱したスネイプが出てきた。

なんでスネイプ先生が?

サキは声が出ないように口を手で押さえながら階段の柱の陰から二人を凝視した。

「クィレル…てっきり気絶したと思っていたが、こんなところに何の用だ」

「そ、そ、そんな。た、ただ私は……こ、ここで万が一何かあったら困る、と」

「この中にあるものをあなたが守る必要はありませんな」

やっぱりここには何か守る価値のあるものがあるのだ…。

サキは唾を飲み込む。スネイプはよく見ると脚を負傷していた。あの犬に噛まれたんだろう。

「そ、そ、そうかなセブルス…そうかもしれない。な、な、なんにせよ無事で、よ、よかったです!ええ!」

クィレルが取り繕うように笑うと、スネイプは忌々しそうに顔を歪めた。脚の傷はずいぶん痛そうだ。

「ならば、トロールのところに行くのが先決では?」

スネイプはクィレルから視線を外し、こちらへ向かってきた。クィレルは青ざめた顔で後に続く。

二人ともこっちへ来る!

サキは慌てて階段を下りようと立ち上がったが、ローブの先を踏んづけてしまった。かくんと膝が折れてサキはあっという間に階段から転げ落ちた。

頭がグワングワンと痛み、身体中に鈍痛が走る。

「サキ…なぜここにいる」

上からスネイプの静かに怒った声が聞こえた。

しかしサキは答えられない。頭を打ったらしい。その様子を見てスネイプは無言でサキを担ぎ上げる。

「クィレル、今すぐトロールの元へ行け…」

クィレルはその言葉を聞いて急いで階段を駆け下りていった。

スネイプは深いため息をつくと怪我した足を引きずりながら地下へ向かった。

「先生…もう大丈夫です…」

「いいから、黙って掴まってろ」

その声は静かな怒りで満ちてる気がして、サキはそれ以上口答え出来なくなった。

黙ってスネイプの背中に張り付いていると、頭がぼーっとしてきた。

地下へ着き、スネイプの研究室に着くとそこから雑に下された。硬いソファだった。

スネイプもそばの丸椅子に一旦座り、自分の傷の具合を見てる。

「君は動くな。頭を打ってる」

サキはガンガン鐘が鳴ってるような頭を押さえてスネイプの足の怪我をみた。ずいぶんひどい咬み傷だ。

「ハープを持ってないからですよ…」

サキのつぶやきに包帯とガーゼと薬を持ってきたスネイプがギョッとした顔でサキをみた。

「知っているのか?」

「あの中にいるの、ケルベロスですよね。ケルベロスってほら…神話でオルフェウスの竪琴に聞き惚れてたじゃないですか」

「神話、か。…いつあそこへ入った。他に誰が知ってる?」

スネイプは足に薬をつけたガーゼを当てて包帯で雑に巻くと、サキの前にしゃがみ、サキの瞳を覗き込んだ。

顔を掴み、天井の光に照らすように持ち上げて傾けた。

「…わたしだけです」

サキはちょっと嘘をついた。もしハリーやドラコもいたと言ったら密告したみたいになってしまう。

髪をかきあげスネイプがコブに触れた。

「いたっ!」

「どうやらコブだけですんだようだ」

スネイプは別の瓶に入った薬をガーゼに浸し、それをコブに染み込ませるように当てる。

「クィレルを追ってきたのか」

「はあ…たまたまハリーたち…あ!」

「ポッター?」

「そうなんです!ハリーとロンが列を抜け出してるのを見て…追いかけたんだけど見つからなくて、途中でクィレル先生を追っかけたんだ」

「ポッターにウィーズリーか。」

チッと舌打ちしてスネイプはガーゼを放り投げて立ち上がる。

「すぐ寮に戻れ、サキ。あと5点減点だ」

「ぐう…」

スネイプに追い立てられるように研究室を出された。スネイプは扉にしっかり鍵を閉めるとサキの方へ向き直り、両肩をぐっと強く掴んだ。

サキは驚いてスネイプを見つめる。

「いいかサキ。クィレルには近付くな。三頭犬の事もこれ以上探ってはならん」

「え…あの犬はともかく、クィレル先生ですか?」

「そうだ。約束してほしい」

スネイプは最初に会った時より真剣な眼差しでこちらを見つめていた。サキは困惑しながらも、おずおずと頷いた。

「わかりました…。」

「よし、それではすぐ寝るように」

その言葉を聞いてスネイプは肩から手を退け、マントを翻して寮とは反対の廊下へ向かった。

サキはぽつんと独り、暗くてジメジメした石壁の廊下に立ち尽くした。

スネイプの忠告の意味。ケルベロスの守るもの。クィレル先生の目的。考えることが頭の中でぐるぐるまわっていた。

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