【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
『シンガー孤児院で火事 職員、児童ら13名焼死』
昨夜午後6時頃ロンドン市フィンチリー地区シンガー孤児院にて火災が発生しました。職員ら含め少なくとも13名が死亡。火元は不明で放火の可能性もあり捜査が急がれる。焼死者の身元の確認は取れていない。(デイリーニュース1991.5/19)
以降続報なし。
『警察、またも不祥事!捜査資料消える』
フィンチリー地区の警察はまたも失態を犯した。先週8/15に職員が資料室に行くと1991年に起きた事件のファイルが全て消えていたという。フィンチリー地区ではそれ以前に役所において1980年の出生届のデータが消えており、同一犯の可能性を睨んで捜査を開始すると会見があった。一市民として個人情報を軽視する警察には疑問を抱かざるを得ない。(アイズオンロンドン1996.8/24)
…………
サキには無駄な時間は意識を飛ばしてすっ飛ばせるという特殊な能力が備わっている。
「要するに居眠りじゃないか?」
サキは新しい闇の魔術に対する防衛術の先生の話を聞いてるうちに眠りに落ちた。ドラコが演説が終わってから激しく肩を揺すってようやく起きた。
「いーや。これはタイムリープだね、主観的な」
「何言ってるんだか…タイムリープってなんだよ」
「ううーん…SFなんて知らないよね?魔法だとなんていうのかな」
「えすえふ?」
監督生のドラコは新入生を引き連れて地下牢へ降りていく。サキはちゃっかりパンジーを差し置いて隣を歩いていた。
サキはあの新しい、ずんぐりむっくりしたピンクの魔女にどうも見覚えがあった。しかしどこであったのかさっぱり思い出せなかった。
魔法省から出向してきた人らしいことはなんとかわかったが、途中から話を聞いてなかったのでもう推測は立てられなかった。どちらにせよ授業が始まればどんな先生かはわかる。
何故かハグリッドはいないし、帽子は警告なんて発するし、早くも新学期は不穏な空気に包まれている。
例のあの人の復活が関係してるんだろう。
サキは他人事のように思って久しぶりの寮のベッドに潜った。
スピナーズ・エンドのベッドより柔らかかった。
ハリーのイライラはホグワーツに来て再燃したらしい。理由はすぐわかった。
スリザリン生だけでなく学校のありとあらゆる人がハリーを見て忍び笑いをしたり噂したりしているのだった。日刊予言者新聞による印象操作の結果が如実に出ている。
授業初日でいきなりアンブリッジにキレて罰則を食らったと聞いたときは驚きを通り越して呆れた。
「ハーマイオニーあたりにさんざん言われてるだろうし私からは何も言わないけど、ハリー。冷静にね」
ドラコたちの嘲笑をたくさん浴びたハリーが爆発寸前なのを見てサキは囁いた。
「あとで言っとくから」
「ああ、どうも。どうせ効果はないだろうけどね」
「まあそうかも」
ドラコは監督生になってからますます調子に乗っていてまるで王子様だった。おそらく例のあの人復活も少なからず影響してるんだろう。なんせルシウスは死喰い人の中でもかなり地位が高いようだし。
サキとしては複雑な思いだった。
ヴォルデモートが父親かもしれないと告白してから、ドラコはちょっとサキに対して恭しいというか丁寧というか…とにかく変なのだ。
サキはそれがたまらなく嫌だった。
その点ハリーが以前と特に変わらない態度なのはありがたかった。
「私はちゃんと信じてる…っていうか知ってるから。ピリピリしないでよ」
「……ごめん」
ハリーはため息をついた。
サキも同じように憂鬱だ。
「君やロンたち以外にも信じてくれるって人がいたから…もうひねくれるのは、やめるよ」
「そうそう。信じる者は救われるよ」
それでもやっぱり浮かない顔なハリーは、これからアンブリッジの罰則を受けに行く。グリフィンドールのキーパーの選抜だというのに罰則を食らったせいでチームからさんざん顰蹙をかったらしい。
「ほいじゃ私は選抜見てくるかな。暇だし」
「僕の分まで楽しんでよ」
「早速ひねくれるなって!」
サキは気合を注入するようにハリーの背中をバンっと叩いて立ち上がった。中庭にいる人たちも大広間に行ったりグラウンドに行ったりと各々散り始めていた。
ハリーとサキを見て何か囁く人もいたがハリーはもうあまり気にならなかった。サキも同じらしい。二年生のときは二人でさんざん秘密の部屋について噂されていたっけ。
昨年度の騒ぎでサキがクラウチJrに監禁されていた事は隠されてるとはいえ、二人セットでいるとなんとなく不審に見えるらしい。
「じゃあまた明日ね」
サキはそう言って競技場の方へ消えていった。
アンブリッジの授業は大半の生徒がこき下ろすような内容だった。座って教科書を読むだけの授業ほどきついものはないだろう。しかも内職すらままならない。
「ミス・シンガー」
甘ったるい声で名前を呼ばれて目を開けた。
居眠りがバレたらしい。目の前にアンブリッジが立っていた。唇こそ笑みの形を作ってるが、目は全く笑っていない。
「…なんでしょう」
「13ページは読み終わった?」
「バッチリです」
「それじゃあ筆者は闇の魔術に対してどのような姿勢で臨むのが正しいと考えているかしら」
「……わかりません」
サキは幸い起きてるふりが上手いので大丈夫だろうと思ったが、何故かアンブリッジはやたらサキを当てる。何か気に入らないことをしたんだろうか?全く覚えがないのに目の敵にされてる気がする。
「居眠りはよくありませんね。次からは減点ですよ」
アンブリッジはフンと鼻を鳴らした。サキはそれでも起きて授業を受けられる自信がなかった。
教科書を読むだけなんて…。まるまる一冊一時間で読み終わることができるくらい薄いのに一体何を考えてるんだか。
ドラコでさえ談話室では文句を言っていた。
「あれが魔法省から来たやつじゃなかったら即父上に抗議してたね」
「どこから来ても糞は糞さ。なんで呪文を使わないんだろう?」
「さあね」
「これだから役人は嫌いだよ」
サキは吐き捨てるように言った。
ドラコは良くする訳知り顔をして言った。
「でもじきにあいつが権力を持つさ。…明日の朝刊が楽しみだよ」
「若者なのに反骨精神がないね、ドラコは」
「なんだ?僕が監督生なのが不満か?」
「別に。ちょっと寂しいだけ」
「め、珍しいな。そんなこと言うなんて」
「私も監督生用のお風呂に入りたかった…」
「………」
ドラコは何故かおこって男子寮へ行ってしまった。
「なんだよ、思春期か?」
「今のは君が悪いだろ…」
横で見ていたノットがボソリとつぶやいた。
翌朝の日刊予言者新聞にはでかでかとアンブリッジの写真が入っていた。ザビニの読んてた新聞を覗き込んてざっと見てみたが見慣れない単語が飛び交っている。
「高等…尋問官?尋問するの?」
「あ?ああ…教師陣を査察するらしいよ」
ザビニは馬鹿馬鹿しいと言いたげに笑った。
「マクゴナガルの尋問、ちょっと見てみたいよな」
「確かに」
ハーマイオニーはさぞかし憤慨してるだろうなと思いながらサキは林檎を丸齧った。
やはり自分には直接関係ないだろうと思っていた。しかしアンブリッジの査察による締付けは思わぬ事態を招くことになる。
フレッドとジョージのずる休みスナックボックスは順調に完成に近づきつつあった。鼻血ヌルヌルヌガーの止血剤に適した材料がやっと見つかったのだ。
「ほんと、血液を密輸する羽目になるかと思った」
「糞爆弾かと思って開けて、血がたっぷり入ってたらフィルチもおったまげるだろうね」
「全くだ」
双子とは人気のない場所…例えばフクロウ小屋やハグリッドの小屋へ向かう畦道から少し外れた倒木とかで会っていた。二人はハーマイオニーやドラコといった監督生のチクリを警戒している。
それ故に催眠豆の苗床に使ってる北塔の裏のちょっとした林の、狐なんかが獲物の死骸をため置く場所は三人にとってちょうどいい場所だった。
なんせ辛気臭くて湿っぽくて、それでいて校舎のすぐ裏なので生徒の心をくすぐるようなスリルもないため誰も近づきやしない。
2年生のときにあげた苗がグリフィンドール寮の男子ベッドで大繁殖をおこしベッドルームが一時期ジャングルになっていたと聞いたときは耳を疑った。本来そんなに育つ植物ではないはずだ。
繁茂する催眠豆がパーシーにバレないうちに双子はサキに泣きついた。
禁じられた森に埋めるのは気が進まなかった。なんせ催眠豆はいたずら用菓子のエッセンスにかなり適している。(双子が催眠豆で作った幻覚キャンディーはそのあまりのヤバさでお蔵入りになった)惚れ薬もどきだって簡単に作れるし手の届く場所に置きたかった。
そこでサキは今まで自分がこっそり食べるように育てていたハーブの畑を譲ったのだった。
思春期男子たちの熱気が苗に悪影響でも与えたんだろうか?催眠豆は今やもう手に負えないくらいに育ちまくって自身の棲息圏を畑の外まで広げつつある。
その育ちっぷりたるやサキが生態系に悪影響を与えやしないか心配になるほどだ。
「それで…次のホグズミードなんだけど」
「ああ。忘れてた。なんか頼む?」
フレッドが雑草を引っこ抜きながら言った。
サキはホグズミード村に私書箱を一つ持っている。こっちのほうがホグワーツに郵送するよりフィルチの目を掻い潜りやすいからだ。
「いや、それよりその日俺達と来いよ」
「いいけどなんで?」
「秘密の話さ」
「ワクワクするね。そういうの好きだよ」
ドラコと約束してたわけではないが一応断っておかなきゃならない。
サキはちょっと憂鬱になりながら寮へ帰った。ドラコはロンをからかったり高等尋問官になったアンブリッジに媚を売ったり、ここの所やたら『やなやつ』なのだ。サキがいくら諌めても聞かない。
「ドラコ」
「どうしたんだ?」
「次のホグズミード、フレッド達と行くね」
「なんでウィーズリーと?」
ドラコは案の定イラッとした顔をした。
「クライアントだからね」
「あの双子の馬鹿な悪巧みに君が参加するのは反対だね」
「対価は貰ってるから私は別にいいんだけどさ」
「僕が良くない。…サキ、父上も仰ってた。君のお母さんは身内も同然なんだから何か困ったことがあれば頼ってくれていいんだって」
「そうはいかないよ。他人だもん」
「他人なんかじゃないだろ」
ドラコはムッとして言い返した。誤解のある言い方だったので慌てて言い直す。
「そりゃドラコんちとは深く付き合わせてもらってるよ。でも母親は顔すら知らないもん」
母親を他人と言い切ったサキにドラコはびっくりしていた。
「どう転んでも母親は死んでるし、私は孤児だよ」
「でも……」
ドラコは何かを言い澱んだ。サキはなんとなく続きが聞きたくなくて、ワハハと陽気に笑いながらドラコの肩を叩いて言った。
「やだな。寂しくなっちゃう?ドラコはお子様だなぁ」
「バカ、違う!」
「埋め合わせはするから。ね?」
「…はあ、わかったよ。じゃあ君、くれぐれも馬鹿なことはするなよ」
「任せて」
ドラコは全然信用してなさそうな顔をしてから課題に戻った。
そしてフレッドジョージに連れて行かれたのはホグズミード村のハズレにある薄汚いバー、ホッグズ・ヘッドだった。
サキが来たことにロンがちょっと驚いていた。まあ当然だろう。いまホッグズ・ヘッドにいるのはグリフィンドール生が殆ど。他の寮の生徒もハリーに味方している人たちばかりで当然スリザリンは一人もいなかった。
ハーマイオニーがすかさずフォローする。
「私が呼ぶように頼んだの」
「あー…都合が悪いなら帰るけど」
「いや、いや。マルフォイがついて来てないなら大歓迎さ」
みんながオンボロのテーブルについてバタービールが運ばれてきてから、ハーマイオニーは口を開いた。
「ええと…こんにちは」
ハーマイオニーは緊張しているようでしどろもどろだった。
「みなさんなぜここに集まったか、わかっているでしょう。えー、ハリーの考えでは…そう、闇の魔術に対する防衛術の先生はあまりにも酷いわ。それで、私達自主的にやってはどうかと思いました」
ジョージがいよっと合いの手を入れた。
「どうも。…つまりね、理論だけじゃなくて本物の呪文をつかうという…」
「君はふくろう試験をパスしたいんだろ?」
ふいにマイケル・コナーが口を挟んだ。
「だったら理論だけだって大丈夫じゃないか」
「もちろんよ。でも、私たちはちゃんと呪文を使って身を守る訓練が必要だわ。……なぜなら」
ハーマイオニーは一息ついて決心したように言葉をいう。
「ヴォルデモート卿が復活したから」
生徒たちからは悲鳴が上がった。サキの眉間もほんのちょっと狭まる。しかし恐れとともにみんなの期待がぐんぐん高まってるのを肌で感じられる。
みんなはハーマイオニーと、そしてハリーにますます注目した。
「とにかく、そういう計画です。賛同してくれるならばどうやるか決めなくてはいけなくて…」
「例のあの人が復活したっていう証拠は?」
ザカリアス・スミスが口を挟んだ。
「ダンブルドアがそう言ってるわ」
ハーマイオニーがむっとして言い返す。しかしザカリアスも負けてなかった。
「ダンブルドアがそいつを信じてるってだけだろ?僕たち、なんで例のあの人が戻ってきたって言えるのか知る権利があると思うけど」
ザカリアスはハリーをチラ、と見て言った。
ハーマイオニーが慌てて議論を修正しようとしたが、ハリーはまっすぐザカリアスをみて毅然とした態度で話し始めた。
「僕がなんであの人が戻ってきたっていうのかって?簡単だ。この目でやつを見た。ダンブルドアがそのことを話したはずだ。それが信じられないならもう君に話すことはない」
「ダンブルドアが話したのはセドリックが殺されたってことだけだ」
「セドリックのことは話したくない。そのことを聞きに来たなら出てってくれないか!」
ハリーは爆発寸前だった。しかし誰も出ていくことはなかった。
「ねえ、守護霊を作り出せるって本当?」
その空気を払拭するようにスーザン・ボーンズが発言した。
「え?ああ、うん…」
「すげえ」
リーは感心したように漏らした。
「私見たよ!トナカイ?鹿?みたいなのだしてた」
サキもすかさず話題に乗っかる。
「うん、牡鹿のね」
「有体の守護霊を創り出すのってすっごく難しいのよ…あなた本当に凄いわ」
スーザンの賞賛にフレッド、ジョージが乗っかってく。
「去年の課題だってそうさ」
「随分儲けさせてもらったな…」
みんなが興奮気味に話しだして、ハリーはちょっと落ちついたらしい。
「みんな、ええと…僕、そんなに凄くないよ。いろんな助けがあってやってこれたんだ」
「謙遜するなよ」
「いや、そうだ。ハーマイオニーやロンの助けがなきゃ僕、とっくに死んでる。それに去年はサキやネビルがいなきゃ課題をクリアできなかった」
突然名前が出たネビルは耳を真っ赤にしてた。
「ええと、つまり、僕が言いたいのは…」
ハリーは大きく息を吸った。
「ひとりひとりが強くなって、団結しなきゃいけないってことだ。うん」
「そのために自主的に訓練しようっていうこと。…ハリーに教えてもらってね」
ハーマイオニーが付け足した。みんなから拍手が起こった。
「ハーマイオニーは?教えないの?」
アーニーが尋ねた。確かにハーマイオニーは学年イチの秀才だし教える側に回ってもいいと思うのだが…。
「いいえ、私は知ってるだけだから…」
とハーマイオニーはちょっと悲しげに言った。
「実技だったら私より適任がいるの。ね?サキ」
サキは突然名前を呼ばれて噎せてしまう。ゴホゴホと咳をしてから顔を上げるとみんなの目がこっちを見ていた。
「サキは去年ムーディに訓練させられてたでしょう?」
「えっ。うん。まあ正確にはムーディに化けた死喰い人だったわけだけど…」
「適任じゃない」
ハーマイオニーはハリーと視線を交わしてにっこり笑った。どうやら元からこういうつもりだったらしい。
「みんながよければね」
「僕は反対だね」
ザカリアスはすかさず言った。
「忘れたのか?シンガーはマルフォイの彼女だ。アンブリッジにバレないとは限らない」
「サキは去年も一昨年も、なんなら一年生のときからずっと友達だ」
ロンがザカリアスの前に出てビシッといった。
「いや、ザカリアスの意見も最もだよ」
サキは立ち上がってロンの肩を叩いた。
「でも裏切るメリットって少ないよ。だってよく考えてみなよ。私、スリザリンにドラコ以外の友達がいないのに他寮の友達を失うハメになる。その上苦労して作ったずる休みスナックボックス販売網までおじゃんになっちゃう」
ザカリアスはまだ不審そうな顔をしている。サキは注目されてるのはわかっているのでゆっくり滔々と述べた。
「成績もどうでもいいし、親もいない私にアンブリッジに媚び売る理由はないんだよ。君と違ってね」
「僕だって裏切るつもりなんかない!」
「そうそう。私もそうだよ」
サキはザカリアスの肩をどっかり組んだ。
「だから仲良くしようぜ。帽子の言うようにさ」