【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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06.君は蛇の夢をみる

サキとハリーはDA後いつも二人で次取り上げる呪文について話し合っていた。

部屋の中は全員帰ると熱気がなくなって寒い。もう冬なんだと空気が知らせてくる。

 

いつもは楽しくさっきまでの練習はどうだったか話したり次は何をすべきかを提案しあっていたが、今日は二人共どんよりした顔で黙り込んでいた。

 

原因は先日行われたスリザリン対グリフィンドールの試合だった。

そこでハリーはマルフォイと大喧嘩してクィディッチを禁止されてしまったのだ。

 

「…そうかあ」

 

マルフォイはロンたちの親とハリーの親まで侮辱したらしい。人づてにそれを聞いたサキは悲しそうな顔をして必要の部屋に引きこもった。

しかし引きこもりを3時間で終わらせて寮に帰ったあたり3年生のときよりも成長が見られる。

ハリーはあれ以降没収されたファイアボルトがずっと頭の隅に浮かんでいてずっと憂鬱だった。

ハグリッドが戻ってきたり、クリスマスが近かったりしても心からワクワクするのはDAの時くらいだ。

「……盾の呪文はちょっと早いかも。武装解除を完璧にしてからの方がいいと思う」

サキがボソリとつぶやいた。

 

「ムーディ…じゃないか。クラウチJrも一個が完璧にできるまでずっとやらせてたし…」

「そうだね。汎用性もあるし」

「死喰い人から教わった魔法で死喰い人と戦うの笑えない?」

「あんまり笑えない」

「あははは!」

サキは笑えるらしい。

冗談のキレが悪いのも調子が悪い証拠だ。

「ま、飽きないように面白い呪いでも考えとこうか」

「そうだね。…あのさ」

「ん?」

「マルフォイと仲直りできた?」

「え…いやあ…」

サキは視線を彷徨わせた。まだ仲直りしてないのは見え見えだった。

「私、喧嘩っ早いのに仲直り苦手みたい」

「仲裁はうまいのにね」

「ハリーは去年ロンと喧嘩してたでしょ?あれ以来また喧嘩したりした?」

「いや。全然。…というか僕とロンと、君とマルフォイは違うだろ?」

「どういうこと?」

「つまり、えっと…友達以上じゃないか?」

「あ、なるほどね」

相変わらずサキに恋人とか恋愛とかいう概念がないらしい。ハリーはマルフォイが怒るのも無理ないなと思った。

「なんにせよ私が仲直りが下手なのには変わりないさ」

「ずっと気になってたんだけど…君はちゃんとマルフォイのこと好きなの?」

前にもこんな会話した気がするなと思いながらハリーはやっと聞きたかったことが聞けた。

「そりゃ…最近のドラコはちょっとやりすぎだと思うけど…」

「恋愛的な意味でだよ?」

「な、なんでそんなに聞くの」

「マルフォイがちょっと可哀想に思えてきてさ」

「うーん…」

サキは今まで見た中で一番渋い顔をした。

「ドラコと一緒にいて楽しいし大事だって思うよ。それは恋愛感情じゃないの?」

「それも大事だけどさ。もっとこう、キスしたいとかないの?」

「ド、ドラコと?!ややや、やだよ!そんなの!恥ずかしいじゃん!」

サキは大袈裟にハリーから距離を取った。顔が真っ赤になっている上にスカートがまくれてスパッツが見えている。明らかに動揺していた。

「き、キスとかそういうのはませてるよ!そういうのは結婚してからだよ!」

「サキ…君、恋愛観が幼児レベルなんだね…」

「悲しそうな顔しないでよ!え?もしかしてみんなばんばんキスとかチューとかしてるの?」

「ジニーなんてもう彼氏がいるよ」

「嘘でしょ?!」

どうやらサキは知らなかったらしい。ショックを受けて床に座り込んでため息をついた。

「孤児院育ちなせいかなあ…夫婦とか恋人同士って全然見たことないからわからないんだ。テレビも音は流れてたけど全然見たことないし」

ハリーはなんとなくマルフォイとサキが二人でホグズミードを歩いてる姿を思い出した。転びそうなサキの腕を掴んでるマルフォイとサキの暖かそうな空間を見て胃の奥がずーんと落ち込んだのまで思い出してハリーは少し凹んだ。

3年生のときからほんのりと感じてた失恋の気持ち。今それが中途半端に首をもたげている。

「んー、僕もそんなにカップルを見た事はないけど、恋愛ってどういうものかなんとなくわかるけどな」

「ハリー、恋でもしてるの?」

ハリーはしまったと思ってサキから目をそらしてしまった。それが余計サキの好奇心を煽ったらしい。サキはしつこく聞いてくる。

「まさかジニー?それともチョウ?彼女、かわいいもんね。…大穴でルーナとか?」

「違う、違うよ!今は君の話をしてるんだろ?」

「なんだよ、自分の話はしたくないわけ?」

「そういうもんだろう?」

「んー、そうかな。ダフネとかパンジーは自分の話だけしたいみたいだけど」

ハリーはやっぱり女の子と分かり合える気がしなかった。

「あーあ。どれもこれもヴォルデモートが復活したせいだよ。くたばりぞこないめ」

あんまりな言い様にハリーは苦笑いしか返せなかった。ヴォルデモートは今確実に仲間を増やしている。先日旅から帰ってきたハグリッドの話を教えるべきか迷った。

ヴォルデモートはすでに巨人を味方につけている。

あいつは水面下で動き、企て、機会を窺っている。

サキはそれについてあまり危機感を持ってないらしい。仕方がないと思いつつ、ハリーはちょっと複雑な気持ちだった。

血の繋がったサキより仇の自分のほうがよっぽどあいつとの絆が深いように見える。

かと言ってサキに年がら年中しくしくしていてほしいわけじゃない。ただ、自分の焦りや不安をもう少し誰かと分かち合えたらと思った。

 

「それじゃあ…おやすみ」

「おやすみ」

 

必要の部屋を出ると外はもう真っ暗で窓枠には真っ白な雪が降り積もっていた。

クリスマス休暇が目前に迫っているその夜に、ハリーは夢を見た。

 

蛇の、夢を。

 

 

 

 

 

「ついに…危惧していた事態が起きたということじゃな」

ダンブルドアは校長室で深いため息をついた。

「やはり、ですか」

部屋は薄暗い。窓枠に白い雪がたっぷり降り積もり日光を遮っていた。スネイプは日の当たらない部屋の隅に立っていた。

「あの人がポッターと自分の繋がりに気付いたのならば…早々に対策しなければなりません」

「その通りじゃセブルス」

ダンブルドアは珍しく苛立っていた。投げつけるような物言いだったが、スネイプは特に何も言わなかった。それよりもハリーが蛇の目でウィーズリーを襲った光景を見たという事実が深刻だ。

「やはり、ポッターにはあの人の魂が…」

「そうなる」

ダンブルドアの中で疑惑は確信へ変わったらしい。こちらに背を向けたまま机の上をじっと見ていた。

「……セブルス。ハリーに閉心術を教えるのじゃ」

「私が、ですか?」

スネイプの眉がピクリと動いた。声も刺々しくなって明らかに不快感を示しているが、ダンブルドアはきっぱりと命令した。

「そうじゃ、君が適任じゃろう」

「…」

スネイプはイエスとは言わなかったが、ダンブルドアはそんな事は気にしなかった。どうせスネイプは断れないのだから。

「……今年、サキはホグワーツに?」

「はい。ですが…」

「セブルス、君の言いたいことはわかっておる…」

「いいえ、わかっておりません。校長…彼女に真実を伝えるのは成人してからと、私は常々…」

「しかし彼女の魔法が完成すれば分霊箱がいくつあり、どこにあるのかさえ知る事ができるはずじゃ」

ヴォルデモートの魂を割った分霊箱。現在確認できているのは【日記】と【蛇】。そしてハリー・ポッターのみだ。すべてを滅ぼさない限りヴォルデモート卿は死ぬことはない。

「私は、サキには普通に生きる権利があると思っております」

「………」

ダンブルドアは黙った。

ダンブルドアはいつもマクリールの件になると口を閉ざしてしまう。スネイプも無理もない、と頭ではわかっている。

「ヴォルデモートは、聖餐がどこにあるのかは知らんのだな?」

「はい。今回の件はあくまでも予言の奪取が目的のはずです」

「……そうか、それならば…まだ言わないでも良いのかもしれぬ」

ダンブルドアはスネイプに向き直った。

 

「じゃが彼女に真実を告げる時はそう遠くないじゃろう」

「…教えなくても、いいのでは?知らずにいることのほうが幸せではないでしょうか」

「しかしリヴェン・マクリールは聖餐を残した。彼女に選択させるために」

「ですが…」

 

「儂はリヴェンの遺志を尊重する。そうでなければ彼女を解体した意味がないじゃろう?」

 

スネイプは黙った。

リヴェン・マクリールの最後の取引。そして"一生のお願い"はダンブルドアの心に深い傷をつけていたらしい。だからダンブルドアは本当はリヴェンを恨んでいる。

普段は決して表に出すことはないが、マクリールの呪われた魔法を穢らわしいとさえ、思っている。

 

「セブルス、くれぐれもサキから目を離すでない。ひょっとしたら我々も知らぬヴォルデモートの絆があるやもしれん」

「…ない、と信じきれませんか?」

「それでもじゃよ。セブルス」

「わかりました」

 

ダンブルドアはまたため息をついた。

そして憂いの篩の前に立ち、たくさん並ぶガラス瓶のうち一つを手に取った。

「わしは何度も何度も自分に問い返しておる。これでよかったのかと。詮無きこととは言え人は過去に思いを馳せることをやめられぬ」

「…彼女も同じ気持ちだったでしょう」

スネイプは目を伏せた。

頭の隅では自分の嘘の言い訳を探していた。

 

 

 

セブルスがグリモールド・プレイスにつく頃にはロンドンでも雪がうっすら積もっていた。大通りは車や通行人が踏みしめるせいで泥沼のようになっていたがシリウスの家の前はあまり人通りがないので靴が汚れずに済んだ。

この扉を見るとずんと沈んだ気持ちになる。なんといってもあの憎きシリウス・ブラックの住処だ。ワクワクするわけがないのだが。

「まあ、セブルス。メリークリスマス」

モリーは相変わらず子どもたちを見るときと同じ語調で話してくる。年はたいして違わないのに…。

「ハリーたちは主人のお見舞いに行ったわ。ケーキはいかが?作りすぎたのよ」

「結構」

子どもたちがいなくなって静かになった広間には大人の魔法使いがすでに膝をくっつけあってひそひそと話し込んでいた。

「ああ、セブルス」

ルーピンがまるで昔からの友達みたいに話しかけてきた。今も昔もルーピンのそういうところが嫌いだ。自分は共犯者ではないとでも思ってるんだろうか?

そのうえ生徒に狼人間だとバラしたというのに恨みもせずこうやって話し掛けてくる。

「遠いところすまないね」

「任務だ」

とりあえず会話を続ける気がないことを明確にしておいた。黙って席に座ると上座に座っていたキングズリーが咳払いをした。

「さて、全員揃ったな?」

「ダンブルドアはどうした?」

マンダンガスがだみ声で尋ねた。

「欠席だ」

「ああ、そうかい。ンで…」

「まずは秋に渡されたシンガーに関する任務の報告をしてもらおうか?マンダンガス」

「物品の収集だっけか?ああ、ちゃーんとやったさ」

マンダンガスは得意げに居間の隅に積まれているガラクタを指差した。ブラック家のゴミだと思ってたがどうやら勝手にあいつが物置にしてたらしい。

「シンガーにみせてもらったサインも入ってるし…まあ多分あってんじゃねえか。あー…大半は壊れてるみたいだがな」

「これ以上ゴミを増やされるのは勘弁願いたいね」

シリウスが渋い顔していった。

「リストは?」

「あー、作り忘れた」

「あとで見ておかなければならないな。やれやれ」

「フレッドとジョージが目をつけたら困るわ」

モリーが深刻そうな顔をしてそのガラクタの山に二人の興味を引くものがないか見ていた。

「さて…アーサー襲撃事件についてだが、神秘部という場所から考えるにやはりあの人は予言を狙っていると見て間違えないだろう」

「ただ気になるのはー」

ムーディが低い声で唸った。

「スタージスは利用され、アーサーは襲われたという点だ。なぜ手口が違うのか」

「やはりハリー・ポッターでしょう」

ルーピンが口を開いた。

「ハリーに見せるなら、知り合いのほうが効果的だ」

「見せてどうするの?」

トンクスは能天気そうな口調だが、それでもいつもより深刻そうだった。

「予言は関係者の手でしか持ち出せないんだ。つまり…例のあの人はハリーに予言を持ち出させようとしてるんじゃないか?」

「それだけのためにハリーに干渉するだろうか?」

シリウスが不意に口を挟んだ。

「予言なんか聞くためだけにハリーを脅かすか?」

「あわよくばダンブルドアの動向をつかむつもりなのかもしれん。ダンブルドアもそれを承知で今はポッターと距離をおいている」

「神秘部、か」

マンダンガスが突然呟いた。

「マクリールの道具も、神秘部から流れてきたもんが多かったな」

「本当か?」

「ああ、まぁ…なかにはボージンの店のモンもあるから怪しいけど」

「神秘部に入る目的は一つではないのかもしれんな」

「ダンブルドアはなんて?」

キングズリーがセブルスに話を振ってきた。もとよりダンブルドアの言伝を預かった立場だったのでセブルスも応える。

「校長はポッターと闇の帝王の繋がりを危険視している。故に我輩に閉心術を教えよ、と命令された。マクリールの件に関しては本人が動いている」

「閉心術?貴様が、ハリーにだと?」

やはりシリウスが噛み付いてきた。

「我輩とて不本意だが、校長は面倒な仕事を押し付けられる立場なものでね」

「もし、ハリーに何かしたら…どうなるかわかっているな?」

シリウスは歯をむき出しにして唸った。

家から出れない哀れな元囚人の脅し文句は子犬の威嚇くらい恐ろしい。

「シリウス、落ち着いて。セブルスがそんなことするはず無いだろう?」

ルーピンは剣呑に言うが、シリウスはまだ殺気立っているままだった。

「ああ、セブルスは優秀な閉心術師だ」

キングズリーまでそういうのでシリウスはそれ以上何も言わなかった。

「そろそろハリーたちが帰ってくるな…」

「それでは我輩は失礼する」

「私達もお暇しようか」

「あら、せっかく来たのに…」

「仕事があるのさ、悪いねモリー」

セブルスと一緒にルーピンやムーディも席を立った。

 

グリモールド・プレイスを出るとムーディ以外はすぐに姿くらましして帰ってしまった。セブルスも早く帰りたかったがムーディの魔法の目がセブルスをしっかり見ているので留まった。

 

「神秘部にはマクリールのなにがある?」

「…マクリール家の研究資料があるかもしれん」

「どういったものだ?」

「彼女の家にないものすべてでしょう」

ムーディは全くやってられないという顔をして箒に跨がった。

「なるほどな、ほとんど全てがあるわけか…厄介事が続くな。くれぐれも目を離すなよ」

 

余計なお世話だ。

 


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