【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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07.絆

クリスマス休暇の談話室は殊更寒い。

人がいないだけで3度くらい室温が下がったんじゃないだろうか?

特にスリザリンは窓の外に冷たい湖が広がってるので窓からの冷え込みは尋常じゃない。暖炉の前にいてもだんだん末端から凍ってくように冷えていってしまう。

サキは一人ぼっちの談話室に毛布を持ち込んで暖炉の前でぼんやりと誰かがおいていった朝刊を眺めていた。ホグワーツに入ってからこんなに退屈なクリスマスは初めてかもしれない。

ハリーたちは何故か朝食の席で見かけないまま休暇にでかけてしまったようだし、ハグリッドは帰ってきたらしいのにいつも小屋にいない。

サキは追い出されるかもしれないけどスネイプに会いに行こうと腰を上げた。このまま休暇を談話室でゴロゴロして過ごすなんてあんまりだ。

「せんせーメリークリスマスー」

ごんごんと扉をノックしてしばらく待つとスネイプが外套を羽織って出てきた。

「お出かけですか」

「急用だ」

「じゃあなんかおみやげ買ってきてください」

「何馬鹿なことを…」

ふう、とスネイプは大きなため息をついた。

「無駄話をしている暇はないのだ。おとなしくしていろ」

「ちぇ」

スネイプは本当に急用だったらしく、ろくに会話もしないで出かけてしまった。

そういうわけで本当に暇だった。

フレッド、ジョージに頼まれたものや課題を片付けるだけで埋められる気がしなかった。

談話室にいても気が滅入るので、必要の部屋に来た。

ここはいつだって暖かいし必要なものはすべて出てくるので本当に便利だ。野宿するくらいならこの部屋を使う。

 

今年はまだ家出(寮出)はしてないし禁じられた森へも数回しか足を運んでいないし、アンブリッジを怒らせた以外に罰則も受けていない。一時期に比べて随分お利口になったものだと我ながら思う。

サキ自身は変わったとは思ってないがハリーやロンからは大人しくなってくれてよかったとか言われるし、ハーマイオニーからもこの調子でね。なんて言われたりする。(そう言われると一発ぶちかましたくなるのだが)

 

サキは夕食に向かった。

スリザリン以外の寮の下級生が数名ずつしかいないクリスマスのディナーはそれはそれは豪華だった。

テーブルが一緒ということもあってサキは双子がじきに発売するであろうズル休みスナックボックスを売り込んでおいた。

 

翌朝、相変わらずダンブルドアはいなかったがスネイプは戻っていた。職員テーブルで美味しいご飯を美味しくなさそうに食べているのを見つけたのですぐ研究室へ行った。

「メリークリスマス」

「プレゼントはもう枕元に届けさせたはずだが」

「二重請求」

「…」

不機嫌そうな顔をしても部屋に入れてくれる先生は本当のところ不器用なだけで優しい人だと思うのだがハリーたちは日頃の恨みもあってか同意してくれない。

サキがホグズミードで買ったクッキーを開ければ何年放置してたか定かではない贈答用のチョコレートを開けてくれるくらいには優しいのに。

 

休暇中は午後にスネイプと二人でお茶をする以外にすることが無かった。

空いている時間ではドラコの事を考えた。クリスマスプレゼントは送られてきたが、手紙なんかはまだ来ない。

やはりまだ怒っているんだろうか?

 

ドラコ。

スリザリンで唯一と言っていい友達。

ずっと自分がピンチの時に心配してくれて駆けつけてくれた。(まあ実際サキのいるところまでこれたのはハリーだけだ。)

けどドラコはいつだって自分を心配してくれる情の熱いやつだ。

ドラコだってハリーたちのことが本気でにくいわけじゃないと思う。ただ、彼の父親は死喰い人で、ハリーたちの敵だ。ドラコはお父さんを尊敬しているしいつだって期待に添えるように努力していた。

そんなドラコに自分の父親について話したのは軽率だったかもしれない。

サキは自分の身勝手さを恥じた。

けれどもどう謝ればいいんだろう?

だって自分はヴォルデモートに組みするつもりなんて更々ないし母親のことだって知ったこっちゃない!

自分の歩く道なんて自分で決める。

そう決心したのだから。

でもそれはドラコと敵対するという意味にもなる。

 

「…あー」

 

悩むのに疲れたとき、DAの今後の課題について考えられるのが救いだった。

 

そうやって悶々としながら過ごすうちに休暇は終わり、授業と課題だらけの日々が戻ってくる。

 

「ねえ、あのさ…」

 

DAの後、誰もいなくなった必要の部屋でハリーがやけに深刻な顔をして話しかけてきた。

「サキは最近、何か変な夢見ない?」

「夢…?寝てるときに見るやつ?」

「そう、それ」

「んー、起きたらもう覚えてないなあ」

「そっか」

ハリーはまだ何か言いたそうだった。休暇前と様子が違う。

「なにかあった?」

サキはハリーの頬に手を当ててしっかり目を見つめた。ハリーがこんなに不安そうなのはドラゴンと戦う前日以来だった。

「クリスマスに何があったか知ってる?」

「ううん。…ああ、でもスネイプ先生が急ぎで出かけてたけど…」

ハリーは罰則を告げられたときと同じ顔をした。

 

「実は……」

 

ハリーは滔々とクリスマスに何があったかを話した。

蛇の目で見た、アーサーの苦しそうな顔。冷たい大理石の床に広がる血溜まり。チクチクと痛む額の傷。

サキは思わずその稲妻型の傷を凝視した。

「君は、どこか傷んだりなにか感じたりしない?」

「ごめん…なにも」

どうやら誰も知らないうちにヴォルデモートの影が忍び寄っていたらしい。

もしハリーがヴォルデモートによってその光景を見せられてたとしたら?ハリーの見たものもあの人に伝わってるとしたら?

サキよりハリーのほうがよっぽど危険に晒されている。

「その、傷」

サキはそっとハリーの額の傷に手を伸ばした。

「今も痛い?」

指で触れると瘡蓋のように皮膚がささくれ、ほんの少し隆起している。

「今はあんまり。でも痛む頻度が上がってる」

「そう…そうか」

サキは傷を触りながら考えた。

「ヴォルデモートは何が狙いなの?」

「わからない。でも…」

ハリーはぼんやりと蛇の夢の中で見た光景を思い出した。

「もう少しでわかりそうなんだ」

「気をつけてね。深淵をのぞくとき深淵もまた汝を…って言うでしょ」

「ハーマイオニーにもいわれた、罠かもしれないって」

「やっぱね」

サキはフンと鼻で笑った。

 

「娘を迎えに来る前にハリーと会いたがるなんて薄情だよね?」

「サキ、全然笑えないよ…」

「あはは、ごめんって」

「君…ヴォルデモートがもし目の前に現れたらどうするの?」

「パパーって駆け寄って、抱きしめて、ちゅーするよ」

「そりゃ…感動的だね」

「泣けるでしょ?」

 

サキ自身、実際にそうならなければわからないだろう。とは言え感動の再会にはなりそうにもない。

血が繋がってることを否定してくれるって言うなら喜んでキスするけれども。

「ねえ、ハリー。私ってほんとに娘かな」

「そんなの関係ないって自分で言ってたよ?」

 

「そうだけどさ。ハリーは私をどう思ってるの?あの人が復活した今となって意見は変わった?」

 

サキとハリーの視線が絡まった。

緑色の目の中に赤い目をしたサキがうつってた。

ハリー。

背が伸びて、髪の毛はよりクシャクシャになって、首も太くなったハリー。

目だけはずっと変わらない。

 

「……ううん。変わらない。君は僕の大切な友達だよ」

「私も君が大切さ」

 

ハリーもサキもほほえみあった。

「私にできることがあったら言ってね」

「そうだな…じゃあ、スネイプをもっとマシにできない?」

「残念だけど人間にはできることとできない事がある」

 

DAのおかげでハリーはめきめき元気になっていた。アンブリッジが学校の締めつけを強化しようとへっちゃらだ。スネイプの閉心術の訓練がある日以外は。

しかも傷跡がひどく痛み、また蛇の夢のときと同じように自分のものでない狂乱がハリーの心を覆った次の日の朝から事態が変わった。

アズカバンで集団脱獄が起きたのだ。

 

さらに夢の頻度も上がっていた。見るのは決まって薄暗い、黒い大理石の廊下だった。

ハリーはそれが以前垣間見た神秘部の扉だと気づいてから、ずっとその扉のことを考えていた。

しかもその前からなんだかサキのことが気になって仕方ない。3つの悩み事とそれ以外の忙しさ(主に勉強)のせいで時間はあっという間に過ぎていった。

ヴァレンタインのホグズミード行きにチョウに誘われたが、ハリーは断った。

サキはまだドラコと仲直りできてないらしいし、彼女を誘って久々に四人で遊ぼうかと思っていたのだ。

しかしロンはクィディッチの特訓のため行けないし、ハーマイオニーは誘う余地がないほど忙しく帽子を編み、勉強し、手紙をだしていた。

「いやあ。あくせくしてるよねえみんな」

「サキは勉強しなくていいの?」

「宿題だけで十分だね。自習なんてしたらかえって馬鹿になっちゃうよ」

サキはネビルに呪文で転ばされてできた膝の青あざをさすった。

ネビルはアズカバンに収容されていた両親の敵であるベラトリックスが脱獄したニュースを聞いて以来物凄い速度で上達していた。

「それで、扉は神秘部にあるやつだったんだ?」

サキともよく夢の話をしていた。

「うん。その扉の先に何があると思う?」

「神秘部…神秘部だもんなあ。異世界への扉とかすべてを見通す鏡だとか、そういうものがあるんじゃない?」

「ヴォルデモートが欲しがるようなものがあるのかな?」

「私の母親は神秘部につとめてたらしいよ。…まあ何してたかはよくわからないんだけど」

ハリーは初耳だった。サキは母親の話をするときはいつもなんとなく気まずそうな顔をしているので、いつもそこから踏み込めない。

「ところで、今度のホグズミードはマルフォイと?」

「んーん…まだ仲直りできてないから…」

サキは今度はどんより沈んだ顔をした。ハリーは逆にちょっと胸が高鳴った。

「じゃあ僕と行かない?あ、ハーマイオニーも多分いるけど…」

「ほんと?うれしいよ!ロンは?」

「ロンは練習…ヤバいんだ」

「ヤバイのかー」

サキはどうでも良さそうだった。

 

そしてホグズミードには三人で行くことになった。

ハーマイオニーがハリーにあわせたい人がいるというのでサキも一緒についていった。

三本の箒へ行くとそこにはルーナと、しおしお頭のリータ・スキーターがいた。

「誰?」

サキはどうやら顔を知らなかったらしい。紹介すると「去年インチキ記事書いてたやつか!」と怒っていたがリータから遠いルーナの隣に座らせてなんとか激突は回避させた。

ハーマイオニーはなんとハリーの告白をリータに書かせ、クィブラーに掲載してもらおうとしていたらしい。

「あんな三流雑誌に?ノーギャラで?いやざんす!!」

リータはカンカンに怒っていたがハーマイオニーはリータが隠れ動物もどきだという弱点を知っている。全く譲らず、結局リータはハリーの告白を記事にせざるを得なかった。ルーナは相変わらず夢見心地だったが、父親の雑誌が賑わうならそれで良しというスタンスらしかった。

「サキ、これ飲む?」

「いらないの?じゃあ」

「クリープだよ」

「それは飲み物じゃねえ…」

なんてやり取りをしてる間にリータは自動速記羽根ペンでハリーのインタビューをとっていた。

 

「一部あげるよ。サキが前寄稿してた記事も載るだろうし」

「ほんと?嬉しいなあ」

「何を書いたの?」

「ホグワーツに生えてるグレーな薬草群の利用方法。ブラックからホワイトまで」

「ニッチな需要に応えてきてるね…」

 

 

 


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