【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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08.密告

ケンタウルスの知性は人のそれを凌駕する。

知能が違いすぎると会話は成立しないというが、ケンタウルスと生徒たちの会話はまさにそれだった。

アンブリッジによりクビにされたトレローニーの後任は1年生の時に禁じられた森でハリーとサキを背に乗せて助けてくれたケンタウルス、フィレンツェだった。

彼の授業は香の立ち込める教室ではなく野原を模した広い教室で行われた。トレローニーの授業とは一変してえらく開放的で、なおかつより要領を得ない授業だった。

フィレンツェは生徒に何かを教えようとかやらせようという気は全くないので生徒たちは燃える火を必死に見つめて目をしぱしぱさせて終わった。

サキが挨拶をするとどうやら覚えてくれていたらしく挨拶し返してくれた。(彼らは余計なお世辞も世間話もしないのでそれ以上会話は続かなかったが)

 

サキはドラコとの仲直りをいつまでも後回しにしてしまっていた。自分の中で迷いがあるせいでなかなか踏ん切りがつかない。

それがよりDAに情熱を注ぐ結果になった。

ハリーもすべての鬱憤をDAで晴らしているらしい。

いよいよ守護霊を作り出す段階になり、みんなより一生懸命DAに打ち込んだ。

 

「幸せなことを思い浮かべるんだ」

 

ハリーは何度もそういってる。しかし、サキはなぜか一向に守護霊を作り出せなかった。

みんなが動物や毛むくじゃらのなにかを作り出す中、サキとネビルだけがもやもやした霧しか出せずにいた。

 

「僕はともかく、君ができないなんて」

ネビルはしょんぼりしながら言った。

「一応幸せなつもりなのにな…おかしいな…」

「僕も頑張ってるんだけど…」

二人してせめてなにかの形を作ろうと踏ん張ってると、なにやら扉付近で騒ぎが起きていた。

 

ハリーが真っ青な顔をして

「みんな、早く外に出ろ!帰るんだ!」

と怒鳴った。その瞬間、扉がドンドンと叩かれる音が聞こえた。

 

「アンブリッジだ!!」

 

メンバーの中に緊張が走った。みんなが慌てて裏口に走り込む。サキは扉に杖を構えてたがハリーが無理やり扉に押し込んだ。

「逃げろ!」

各々バラバラの方向に逃げて行ったが、ハリーは脚を掬われて転んでしまう。

「捕まえた!」

地面に思いっきり体を打ち付けると、今度は背中に強い衝撃がはしり、聞き覚えのある声がした。

「捕まえました、ポッターです!」

「よくやったわミスター・マルフォイ!あちらのミス・パンジーを手伝って差し上げて!」

 

 

かくして、サキにとってもハリーにとっても唯一の救いだったDAは一斉検挙された。

 

 

 

「サキ…」

サキはパンジーを呪いでやっつけたと思いきやゴイルにあっさりと捕まった。

そんなサキを見てドラコは呆れ気味に腰に手を当て、息を吐いた。

「懲りたかい」

「……黙秘する」

密告によるとサキは首謀者の一員だ。クラッブ、ゴイル二人がかりで校長室に連行されるはずだが、ドラコはすぐには運ぼうとしなかった。

「サキ、これでわかったろ?もうポッターたちとつるむのはよせよ」

「……」

「今なら僕がアンブリッジに見逃してもらえるように口添えできる。だから…」

「そんな事できないよ」

「なんでわからないんだよ、サキ。僕は君を守りたくて言ってるんだぞ?馬鹿なインタビューを受けたポッターたちと一緒に捕まれば君のスリザリンでの立場はいよいよ悪くなる。今まで通りみんなから無視されるくらいじゃ済まない」

「もとより覚悟の上だよ」

ドラコの耳が赤く染まった。サキの胸がずきりと痛む。

「ごめん……」

ようやく搾り出した謝罪に返事はなかった。

 

サキは校長室の前に連れて行かれた。しかし中で騒ぎがあったらしく気絶したキングズリーをマクゴナガルが運びだしていた。アンブリッジまで目を白黒させて柱にもたれている。

「なにが…?」

マルフォイのつぶやきに後ろ手をかけられたハリーが反応した。

「ダンブルドアが…逃げた」

「はあ?!」

「そう、そのとおりです。…さあ、あなた達はベッドにお戻り」

マクゴナガルがハリーの言葉を有無を言わさぬ口調で継いだ。混乱したドラコはそれでも突っ立っていたが、

「早く!」

マクゴナガルの怒声に尻をひっぱたかれ、回れ右してきた廊下を戻った。サキもクラッブ、ゴイルに捕まえられたまま階段を降りて寮へ向かったが、その間四人の間は一言も喋らなかった。

 

アンブリッジの尋問はその日から立て続けに行われた。羊皮紙に書かれた名前の順番でやったのでハリーの次はサキだった。サキは後で知ったのだが密告者はレイブンクローのマリエッタで、羊皮紙にかけられた呪いにより顔にひどい出来物ができたらしい。

「…ようやくきちんとお話する機会ができましたね?サキ・シンガー」

校長室と間抜けな金文字がかかったドアをくぐるとむせ返るピンクの調度品が所狭しと並んだアンブリッジの部屋だ。前にも来たがその時より圧を感じる。

「さあ、おかけ。お茶を飲みなさい」

「…いただきます」

サキはどんな尋問にも屈しない覚悟できたが、ピンクまみれの部屋にいると自分が白いシャツについたシミのような気分になってそわそわしてきた。この少女趣味に溢れた空間…なんと居心地の悪い!

よく見ると猫の皿が増えてるしフリルも三重くらい増してる。

「スリザリンの生徒がこのような活動に参加していたのは大変嘆かわしいことです」

「私、前から浮いてましたから」

「スネイプ先生はあなたに甘すぎましたね。けれども私が校長になったからにはそうはいきませんよ」

「罰則ですか?あの卑怯なペンは何故か私には効かないようですけど」

サキはハリーの手の甲に刻まれた“僕は嘘をついてはいけない”を思い出した。サキも同じペンで“私は二度と居眠りをしません”と書いたが効かなかった。

「ならば別の罰を用意するまでです。さて、それで…ダンブルドアはどこに行ったのかしら?」

「さあ」

「貴方はあの集会で生徒たちに魔法を教えていた立場でしょう?当然ダンブルドアと接触があったはずよ」

「ないですよ。私はただ教えてただけです。クラウチJrっていう死喰い人仕込みの呪文をね」

アンブリッジの小さなブルーの瞳がサキを射殺さんとばかりに見開かれた。

「ところで集団脱獄した人たちは見つかったんですかね?おたくの吸魂鬼たちは…」

「今はダンブルドア軍団の話をしているのです、シンガー!」

アンブリッジがピシャリと言った。カップがビリビリ震えるくらい強い口調だった。

「まったく、マルフォイ坊っちゃんの恋人だというから外面だけでもいいのかと思えばこんなに下品な子だとは…思いもしませんでしたわ。半巨人は庇う、ポッターとつるむ…スリザリンの面汚し…」

アンブリッジは呪詛の様にぶつぶつとサキへの恨み言を呟いていた。半巨人という物言いにサキはようやくアンブリッジに感じていた既視感の正体に気づいた。

「あ、お前一昨年のクリスマスでハグリッドをクビにしようとしてたババアだな?!」

「校長になんて口を!」

アンブリッジがやたらサキに突っかかってくる理由がようやくわかった。ついでにハグリッドに対して並々ならぬ憎悪をたぎらせてるのも納得した。

「……」

サキはカンカンの相手に油を注がないように黙った。アンブリッジは大きなため息をついてサキに罰則として一週間のドラゴンの堆肥の片付けを言い渡した。

 

「よおサキ」

堆肥の臭いをプンプンさせて温室から帰ってきたサキを双子が捕まえた。

「すっげー臭いだな」

「書き取りのほうがまだマシだったかもな」

「ホントだよ…体臭がドラゴンのうんこの匂いのままだったらどうしよう?」

「そうなりゃマルフォイと円満に別れられるぜ」

「そんなのやだよ!」

「泣かせるねぇ」

サキは双子のからかいに怒って逃げ出そうとしたが、がっちり両肩を捕まえられてかなわなかった。

「まあ落ち着けって。ちょっと手伝ってほしいことがあってさ」

「そうそう。大至急花火がいるんだ。できる限りたくさん」

「花火?ああ、まあちょうど硝石とかなら文字通り腐るほど手に入るわけだけど…」

「アンブリッジに感謝しないとな」

こうしてフレッド、ジョージの華麗なる退校計画は幕を開けた。

暴れバンバン花火の試作品を受け取ると、サキはそれを続々と増産し始めた。

 

「先生ーそのこよりとってください」

花火の増産は主として魔法薬学の教室で行われた。

「…」

スネイプはいかにも怪しげな花火の増産を黙認していた。

おそらくアンブリッジの授業参観でチクチクといやみったらしく質問攻めにされたのを根に持ってるのだろう。たまに火薬の配合に関してアドバイスをくれた。

今サキはスリザリン生から緩やかな迫害を受けているので、寮出されるよりはマシという判断なのかもしれない。(5年生は試験勉強に夢中なので物理的な被害が出てないのはありがたい)

「明日の放課後は先約があるから開けられんぞ」

「あー、あれですか。ハリーの」

「…ポッターに聞いたのか?」

「まあ」

「全く父親そっくりで口が軽い…」

「いや、知ってるのロンたちと私くらいですよ」

「ポッターはどこまで話した?」

「んーと…閉心術は全然できる気がしないって言ってましたよ」

「堪え性のないやつめ」

「先生の教え方が悪いんじゃないですか?」

サキは冗談っぽく言ったのだが、先生は本気でムカついてしまったらしい。眉間にぎゅっとシワを寄せていた。

「あいつは学ぶ気がないのだ。自分がどういう立場に置かれているのか、わかっていない」

「…やっぱり例のあの人が何かハリーにさせるために働きかけてるんですね?」

「……」

スネイプはしまったという顔を一瞬だけして、すぐ普段通りの不機嫌顔にもどった。

「扉の向こうには何があるんですか?」

「…君には、関係がない」

「ありますよ!お忘れかもしれませんが先生は私の身内で、ハリーは友達なんですよ?」

「それでもだ。サキ、君はまだ未成年で保護されてる立場なんだぞ」

「…ちぇ」

サキは舌打ちしてから花火の製作に戻った。あとやることは筒を紙で巻いたり導火線をつけるくらいだ。

スネイプの言うことは最もなので言い返すことはなかった。

「もし…ハリーが扉を開けちゃったらどうすれば?私にできることは?」

「…開けさせないようにしてくれ」

「わかりました」

 

完成した大量の花火と作り方のコツを書いた紙を渡すとフレッドとジョージは大喜びで、ズル休みスナックボックスの在庫すべてをリーとサキに預けた。

「でかい花火をブチかましたあとはこれで大いに儲けてくれよ」

「花火のお代はまた後ほど」

「楽しみで震えるよ」

リーはウキウキだった。当日、双子の箒が仕舞ってある扉の破壊はサキが請け負うことになった。特に錠前破りはサキの十八番なので(なんせ血をかけるだけでいい)快諾した。

「ふくろう試験はいいの?」

「今更詰め込んだところで無駄さ。そうでしょう?」

「それでこそ我が友さ。万が一就職し損ねても俺たちが最高の待遇で雇うよ」

それが一番楽しい将来かもしれない。

サキはズル休みスナックボックスをどう売りさばくかを考えながら過ごした。


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