【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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10.ふくろう試験

ついにふくろう試験が始まった。ぶっ通しで行われる一連の試験は生徒たちの精神状態を大いに不安定にし、勤勉なもとDAのメンバー、アーニーはサキにあうたびに勉強時間を尋ねた。

「君は本当に一日二時間しかしてないのか?嘘をついちゃだめだよ。そんなの嘘に決まってる!僕は八時間だ。昨日は調子が良くて九時間やれたんだけど…本当は君もそれくらいやってるんだろう?」

「いや、ほんとにそんくらいだよ…」

「なんで嘘つくんだ?」

これに似た症状はハーマイオニーも度々出ていて、まるでサキが勉強しないとハーマイオニーの成績が下がると思ってるかのような状態だった。

スリザリンのノットやザビニも一日中机にかじりついてるし、パンジーは不安で泣き出した。

ドラコはみんなのいる場所では余裕そうにしているが、一番必死で机にかじりついてるのは彼だった。

定期テストのときもそうだったがこの学年にはハーマイオニーがいるのでトップになるには普通にやってちゃだめなのだ。

ドラコはいつだって父親の期待に応えなきゃいけないから大変だ。

サキは相変わらずドラコと仲直りができていない。

一人残って暖炉の前で教科書の年号をつぶやくドラコをチラと横目で見てからサキは頭を振って女子寮へもどった。

 

 

ふくろう試験ははじめに変身術や魔法薬学といった基礎的科目から始まり、選択科目へうつっていく。つまり本気で頑張らなきゃいけないのは試験前半だった。

スタートダッシュが肝心だ。そして取捨選択。

サキは直前の休みの殆どを基礎科目に充てて選択科目は捨てにかかった。

結果それが幸いし、実技テストはほとんど全て満点と胸をはるくらいに自信があった。(ペーパーテストについては何も言えない)

 

そしていよいよみんな試験まみれの日常に慣れてきた頃、サキは捨て教科と決めていた天文学の回答欄を何とかして埋めようとしていた。

試験は夜だったのでしっかり寝だめはしてきた…がどうしても土星の衛星の名前が思い出せない。

空を眺めるのは好きだけど…と望遠鏡のピントを合わせながら考える。

名前なんてぜんぜん、なんだっていいなあ。

めちゃくちゃな惑星名ももうネタ切れになったとき、窓際の生徒から小さく驚きの声が上がってるのに気づく。

サキと同じくまともに星の名前を覚えてない不真面目な生徒たちは試験よりそっちに気を取られた。

 

「皆さん、気持ちを集中して。あとたったの20分ですから…」

 

騒ぎはハグリッドの小屋の付近で起きているらしい。

窓の周りにいる生徒から悲鳴が上がった。外から赤い光が見えた。

「そんな!」

ハーマイオニーが試験中にもかかわらず悲鳴を上げた。

「見て!」

サキも暗闇に目を凝らした。ハグリッドの小屋の前には5人もの魔法使いが輪になってハグリッドを包囲していた。

また赤い光だ、今度は怒鳴り声まで聞こえてくる。

「やめなさい!なんということを!」

それはたしかにマクゴナガルの声だった。しかしすぐにまた赤い光が瞬き、絹を切り裂くような悲鳴があがって人影が倒れた。

「卑怯者!不意打ちだ!」

生徒たちを注意してまわってたはずの試験監督まで悲鳴を上げた。マクゴナガルがやられたらしい。

「ハグリッド!」

みんながその騒ぎの行く末を見守った。ハグリッドは失神呪文を受けながらも魔法使いたちをなぎ倒し、禁じられた森へ辛くも逃れた。

静まり返った夜の校庭をみんながぼんやり見下ろしていると、試験監督は気まずそうに

「ええと…あと五分です…」

と告げた。

 

「サキ…」

試験後、ハーマイオニーが青い顔をしてサキのローブの裾を掴んだ。

「マクゴナガルは死んだりしないよ。たとえ殺してもね」

ハーマイオニーにはサキの冗談はあんまり笑えないらしかった。ロンだけが「たしかになー」と同意してくれたが、ハリーすらも心配げに火の消えたハグリッドの小屋のあたりを見つめていた。

 

最後の試験は魔法史で、サキははなからまじめに受ける気はなかった。しかし後半に捨て科目がどっさりあったので、最後くらい自習をしてやるかと教科書に一通り目を通しておいた。

 

「いやー、終わりだねえ」

気楽そうなサキと対象的に、ダフネは憂鬱そうだった。

「まだあと一科目あるでしょう?ねえ、貴方なんでいっつもふざけてるの?」

「と、とんでもないよ」

ダフネは数少ない魔法史ファンだ。どうしてもサボりたい授業があるとのことだったのでずる休みスナックボックスと引き換えにノートを貸してもらったという深い仲だ。

その仲も今日で終わりだからとフレンドリーに接したが、ナーバスになってる彼女には逆効果だったらしい。

 

結論から言うと、回答欄を埋め次第サキは寝た。

気づけば試験は終わり、ハリーがいなかった。

 

解放感に胸踊らせる生徒たちの波に揉まれながらサキはハリーの姿を人混みから探すが見当たらない。生徒たちは次々に寮ヘ帰っていく。きっと宴会したりスポーツしたりするんだろう。

サキはドラコと仲直りするならきっと今が一番いいんだろうと考えながらもやっぱり踏ん切りがつかなかった。

「そういうわけでもうバッチリ終わりました」

スネイプは突然やってきたサキにはもう慣れたもので、特に驚いたりもせずつまらなそうに授業で提出されたと思しきアンモニア臭を放つ薬品を評価していた。

「終わったからと言って勉学を怠らないように」

「先生も月並みなこと言いますね」

なにはともあれすべてが終わってスッキリした。

あとはダンブルドアさえ戻ってくれば今まで通りの日常と言えるのに、ダンブルドアの行方は未だ掴めてないらしい。スネイプは騎士団の人間だからひょっとしたら知ってるのかもしれないけど、サキに教えてくれるわけもなかった。

「…あのさぁ、先生。母は歴史が好きだったんですか?」

「…何?」

「だから魔法史ですよ、魔法史。母の資料にやたら歴史の記述が多いんです」

「学校に持ってきていたのか?それで、あの字を読み解いたと」

「まあ暇だったので」

スネイプは暇なわけ無いだろうと言いたげだった。

「なんでそんな驚くんです?何かまずいことでも書かれてるんですか?」

「いや、そういうわけではないが…」

「…先生、前から気になってたんですけど私に何か隠してませんか?」

いつも淀みなく受け答えするスネイプ先生が一呼吸乱れた。

「否定はしない」

「なんでですか?」

「君の母親に関することは、君が成人してから言うべきだと思っている」

「なんですか、うちの母はR指定なんですか?」

最近はサキのしょうもない冗談につっこんでくれることが少ない。悲しいが飽きられてしまったのかもしれない。

ドラコと仲が悪くなってDAが潰れてから暇な時間はだいたいスネイプのところで時間を潰していたわけだし、もともとおしゃべりでないこの人といると必然的にサキばかり話すことになるので冗談のレパートリーがもう限界だ。

 

「それでさ、先生。今年の夏休みは…」

 

サキが夏休みの予定を話し始めた時、突然乱暴に扉がノックされた。

「先生、スネイプ先生。急用が」

ドラコの声だった。

スネイプがドアを開けると尋問官親衛隊バッジをつけたドラコが頬を紅潮させて立っていた。

「アンブリッジ校長がおよびです」

「…わかった。サキ、寮へ帰れ」

ドラコはスネイプ越しにサキをみた。サキは軽く会釈してから荷物をまとめて部屋から出ていった。スネイプとドラコはそそくさとアンブリッジの研究室に向かっていった。

 

さてどうしたものか。

こんな半端な時間に散歩というのも気が引けるし、かと言って寮に戻る気にもなれない。

だとしたら行くべき場所は一つ。

確実に何か騒ぎが起きてるらしいアンブリッジの研究室付近だ。

尾行するまでもない。なるべく人気の少ない廊下を選んで忍び寄る。

と、ここでアンブリッジのヒステリックな叫び声が聞こえてきたので足を止めた。

誰が何をやらかしたのやら?相当ヒートアップしているらしい。伸び耳を持ってなかったことを悔やんだ。

廊下の隅で聞き耳を立てていると、何人か部屋から出てったのがわかった。そして向こう側が静かになる。出ていったのはどうやらアンブリッジのようだった。

サキはこれ幸いと抜き足差し足でドアに忍び寄りそっと耳を当てた。

誰かが怒ってる声は聞こえるけれども内容はわからない。スネイプもいなさそうだ。

「……」

サキは意を決してノブをひねって細い隙間をつくった。細く指す光に目を凝らすと、例のピンクの部屋の中で尋問官親衛隊とロンたちがごたごたと揉めていた。

ロンとネビルはクラッブ、ゴイルにガッチリ捕まえられていて、ジニーとルーナはミリセントとパンジーに腕を掴まれている。

ドラコはアンブリッジのふかふかした椅子に深く腰掛けている。

一体どういう状況かわからないけど、ネビルは鼻血を流してるしロンは焦った様子だ。ハリーとハーマイオニーがいないのも気になる。

 

どうしたものか。

サキとて同じ寮の生徒に突然呪文をかけるのは躊躇われるのだが…

 

ジニーがドアの方を見た。ガッチリ視線が絡まって、ジニーの目がまんまるに見開く。

そして口パクでサキに向かって何かを伝えようとしている。

 

ーた、す、け、て!ー

 

直接言われちゃ助けない訳にはいかない。サキは杖をそっと抜いて、けたたましい音を立てながらドアを思いっきり開いた。

クラッブ、ゴイルは鈍いのでまずミリセントとパンジーを失神させた。

自由になったジニーが即座にドラコを失神させ、クラッブとゴイルの顔面を殴った。

 

「特殊部隊みたいだったね、ジニー」

 

サキは密かにドラコに呪文をかけなくてよかったと安心した。(結局後々恨まれそうだけど)

「サキ…どうして?」

「事件の匂いがしたもんで」

「救世主だよ。さあ、急いでハーマイオニーたちを追いかけよう」

ロンがいそいそと部屋から出ていく。みんなもすぐそれを追いかけるのでサキもついていった。

「一体何があったの?」

「ハリーがまた夢を見たんだ」

「夢?例のやつ?」

「ああ。しかもただの夢じゃない。シリウスが捕まってて…安否を確かめるためにアンブリッジの暖炉からグリモールド・プレイスに行ったんだ」

「それで捕まったのね」

「そう。それでシリウスはやっぱりそこにいなくて…」

「じゃあシリウスは…」

「神秘部だ」

「ハリーは?もう行っちゃったの?」

「それが、アンブリッジと森に行っちゃって…武器があるとかハーマイオニーがデタラメを言い出して」

「なるほど。じゃあ急がないとね」

5人は篝火が灯り始めた廊下を抜けた。真っ赤な太陽が禁じられた森を燃やすように地平線に沈んでいく。

ハグリッドの小屋へ続く畦道を駆け下りていくと、森の辺からヘロヘロになったハリーとハーマイオニーが上がってくるのか見えた。

 

「ハリー!ハーマイオニー!アンブリッジは?」

「ケンタウルスに攫われたわ」

「たまげたなあ」

「はやく魔法省へ行こう」

ハリーはいてもたってもいられない様子だった。サキがいることすら突っ込んでこない。

 

「ハリー、ハリー。魔法省には行っちゃだめだよ」

「君までそんなこと言うのか?!シリウスが、今あいつに拷問を受けてるんだぞ」

 

ハリーは怒鳴った。サキは気圧されたが冷静に言い返す。

 

「なら確実に魔法省に罠がはられてる。死喰い人たっぷりだよ」

「だからなんだっていうんだ?助けに行かなきゃ…」

「スネイプ先生は?」

「一応伝えた。伝わってるかわからない。あいつはシリウスを憎んでる…」

「先生は大丈夫だよ。…とにかく、ハリーは絶対に神秘部に行っちゃいけない」

「じゃあ君は僕に黙ってシリウスが死ぬのを待ってろっていうのか?!」

「違うよ。魔法省には私が行く。君はもう一度グリモールド・プレイスに行って騎士団の増援を呼んでから来るんだ」

「君が…?」

「そう」

ハリーだけじゃなく、先程から仲裁に入るか入らないか悩んでいたハーマイオニーも驚いていた。

「私ならまあ、殺されはしないだろうし…」

ハリーだけがその言葉の意味を理解した。サキはヴォルデモートが肉親は殺さないだろうと踏んでいるのだ。ハリーからしてみればヴォルデモートに人らしい情があるとは思えない。

「あなた一人でなんて危険だわ」

ハーマイオニーはサキの横に立った。

「私も行く」

「じゃあ僕もだな」

ロンも続いた。ハリーはやっぱりまだ納得してなかった。

「ハリーを魔法省に誘き出すためにあの人はわざわざハリーにシリウスを見せたんだわ。だからこそ、ハリーはいっちゃだめ。騎士団の力が必要よ」

「でも!」

「ハリー、議論している暇はないよ。いい?騎士団さえいれば私達がたどり着くよりはやくシリウスのもとへつく。今大切なのは君が神秘部の扉を開けないこと」

 

サキは杖を抜き出し禁じられた森に向かって振った。

「DAでタイマンしたじゃない?私の実力信じてよ」

「ぼ、僕もシリウスを助けに行くよ!」

「私も行く」

ネビルとジニーもサキに続いた。

「危険すぎる!行くなら僕一人で…」

「だからそれこそヴォルデモートの思惑通りだってば!」

ハリーは黙った。

二人はじっとお互いを見つめ合った。意志の強い緑の瞳がサキの赤い瞳に暗く反射してる。

たしかにサキとハーマイオニーの言うとおりだ。ハリーが行くということは、ライオンの巣に獲物を放り込むのと同じだ。

ハリーはサキにすっ転ばされたときのことを思い出し、一度深呼吸をしてサキをまっすぐ見た。

「たしかに、時間がもうない」

そしてついに渋々了承した。

「じゃあ…どうやってロンドンに行く?」

「箒は…取りに行くのがめんどうだな」

「セストラルがいるよ。あの子達、とっても飛ぶのが得意だもン」

ルーナがハグリッドの小屋の方を指差した。

「僕らはあれが見えないんだよ!」

ロンが悲鳴に近い声を上げた。ハーマイオニーも不安そうだ。

「大丈夫、アシはあるよ」

そんな二人にサキは微笑みかけた。

森のなかから明るいヘッドライトの光が差し込んできた。2年生のときに暴れ柳に突っ込んだアーサーおじさんのフォード・アングリアだ。

 

「それじゃあ…神秘部でまた会おう」

 

ハリーはセストラルに跨り雲の向こうへ消えてった。

サキはシートベルトをしっかり締めてアクセルを踏んだ。

「…ロン、運転する?」

「僕はやめとく。トラウマなんだ」

 

 


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