【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
今日はスリザリンとグリフィンドールがクィディッチで雌雄を決する日で、ハリーの記念すべきデビュー戦でもあった。
スリザリン生だがハリーを応援したいサキは洗濯室から拝借したグリフィンドールのネクタイを締めてこっそりグリフィンドールの観客席に紛れ込んでいた。
「あっ!サキこっちよ!」
最前列の一番いい席を取ったハーマイオニーとロン、そしてハグリッドがピョンピョン跳ねて手招きする。
目立っちゃうと一瞬心配になったが周りの熱狂を見るに飛び跳ねたり叫んだりは大して目立つ行動ではないらしい。
ただ木で組み上がった観客席という環境的に、ハグリッドはおとなしくして欲しかった。
「いやーごめんごめん。ドラコまくのに手間取っちゃった」
「もう始まっちゃうよ!」
席に座ると審判のフーチ先生が競技場の歓声を浴びながら登場した。
続いて両選手が入場し歓声はより大きく響く。
「ハリーよ!いたわ!」
「ハリー!頑張れよぉ!」
ハグリッドがドラみたいなひときわ響く大声でハリーに声援を投げた。
ハーマイオニーが指差す先にはガタイのいい上級生に囲まれたハリーがいた。小さくて痩せてるハリーはまるで何かの間違いでそこにいるようだったが、きちんとユニフォームを着て箒を掴んでる。
マクゴナガル先生からもらったとか言う…ニンバス?とかいう箒だ。
笛が鳴り、赤茶のボールが高く投げられた。
選手たちが猛禽類のように箒で空を飛び乱れてボールを追いかける。その合間を縫うように鉛色のボールがありえない軌道を描いて飛んでいく。
「うわー!すごい!」
全然ルールがわからないサキはその光景が迫力に満ちてることだけしかわからなかったが、夢中で見ているロンとハーマイオニーを見るにテクニックと妨害とファウルに富んだ試合らしい。
今までクィディッチにも箒にもつゆほど興味を持たなかったがここにきて認識が変わりそうだった。サッカーやラグビーよりよっぽどエキサイティングだ。
「あの鈍色のボールは人に当ててもいいんだね?」
「あれはブラッジャーっていうの。ビーターっていう人たち、グリフィンドールならフレッドとジョージよ。彼らが棍棒で殴って選手を守るの」
「なんと野蛮な…」
「何言ってんのさ!高度な役回りなんだぞ!」
「じゃあハリーは?ずっとみんなを眺めてるだけみたいだけど…」
「ハリーはシーカーだから、たった一つのボールを取ればいいの。スニッチっていう金色の羽の生えたボールで、取れば150点。とった時点で試合が終わるわ」
「超重要じゃん!」
「そうだよ!サキ、ルールも知らないで来たのかい?ダメだよそんなんじゃ、楽しめない…ああくそっ!」
ロンはスリザリンの選手がブラッジャーをハリーに狙いをつけて叩いたのを見て怒声を上げる。
しかしハリーは華麗にそれを避ける。
その直後からハリーの様子がおかしくなった。箒が上下左右に揺れて、まるで暴れ馬のようにハリーを振り落とそうとしている。
「お?なんか変だ」
「ほんとだ。箒が言うこと聞いてない!」
「まさか、こりゃ誰かが呪いをかけとる!」
ハグリッドは頭を抱えて怒りの声を上げた。
「呪い?誰がそんな…」
「スネイプよ!ほら、ハリーを凝視してる!」
「まさか。先生がそんなことするわけない」
「箒に呪いをかけるのはすっごく難しいの。そういう呪いをかけるときは絶対に視線を外さないわ」
「どうすればいいんだ?!」
「私、行ってくる」
ロンの声にハーマイオニーがそそくさと立ち上がる。
「私もいく」
サキもそれに続き、観客席を降りて薄布で覆われた通路を駆け足で進む。
「どうするの?」
「何とかして気をそらさせるわ。呪文を唱えるのをやめれば…いいえ、多分視線さえ外れちゃえばいいから」
「なるほど。でも本当にスネイプ先生かな…」
「スネイプはハリーを恨んでるのよ!しかもあの犬が守ってるものを狙ってるかもしれない」
「え?な、なんで?」
「足に噛み傷があったでしょう?ハロウィンの日、トロールの騒ぎに紛れてあの廊下に行ったんだわ」
「違うよ…あれは…」
サキは弁解しようとしたが職員用の観客席 の真下についてしまい、2人は口を閉じた。上の方から聞こえる怒声や悲鳴からするにハリーはまだ暴れる箒と格闘してるらしい。
ハーマイオニーがたくさんある足とローブの中からスネイプを見つけ出した。
そして小声で呪文を唱えると、小さな火がスネイプの長いローブの先についた。
「いくわよ!」
ハーマイオニーはそそくさと撤収する。サキはハラハラしながらめらめらと燃えていくローブの裾を見て身を翻した。
ちょっとの間をおいて小さな悲鳴が職員用観客席から上がった。大急ぎで通路を抜け、元の席に戻る。
「ハリーは?!」
「戻った!しかもスニッチをみつけたらしい!」
ハリーはツバメのように宙返りして何かを猛然と追い始めた。地面すれすれまで急降下し、スピードを緩めることなく飛びながら、ハリーは手を伸ばした。サキにもキラキラ光る小さなものが見えた。
「あっ!」
ハリーが箒の上に立ち、あともうほんの指先までスニッチに近づいたとき、ハリーがつんのめって箒から落下した。
観客から悲鳴が上がる中、ハリーはよろよろと立ち上がる。
ハーマイオニーは思わず両手を顔に当てながら、心配そうに身を乗り出した。
そして…ハリーはオエッとスニッチを口から吐き出した。
サキはその後グリフィンドールの談話室での祝勝会にしれっと参加した。
誰もサキを咎めなかったし、医務室から帰ってきたハリーは喜びのあまりサキにハグした。そしてハリーを胴上げして、お腹いっぱいになったあとサキは自分の寮へ帰った。
わくわくした気分のままお葬式モードのスリザリンに帰るのは気が引けた。しかしウロウロしていると先生に捕まってしまう。
廊下の冷たい空気を吸ってるうちに大切なことを思い出した。
ハリーの箒に魔法をかけたのは本当にスネイプ先生だろうか?
スネイプがハリーに対して並々ならぬ憎しみを抱いていることは疑いようがないが、かと言ってあんな露骨な嫌がらせを、しかも下手したら死んでしまうようなことをするとは思えなかった。
サキは地下牢へ急いだ。
仮にも後見人で、唯一の身内といってもいい人が疑われてるわけだ。
友達をいじめてるやなやつでもあるけれどそれにも理由があるんだろう。
サキはスネイプの事を何も知らないということに気づいた。
その疑問を抱いたまま、溜まってた課題や授業をこなすうちにいつの間にか木々が葉を落とし、雪が降り積もる季節になった。
サキはマフラーとコート以外に防寒具を持っておらず、教室から教室へ移動するときはいつも青い唇をしていた。
さらに氷のようにガチガチに固まった指先を魔法薬学の大鍋の蒸気で溶かそうとし、その蒸気が酸性であることにやけどをしてから気づいた。
「感覚がないからむしろ寒くない!」
とポジティブに素手で雪だるまを作り始めたサキに、見かねたドラコがクリスマスには手袋をプレゼントすると提案してきた。
そんなこんなで、もうクリスマス直前だった。
校内はだんだん飾り付けが増えてきて、ハグリッドの小屋に行けばいいモミの木を選定していた。
そして生徒たちはクリスマス休暇にどこへ行くかを楽しそうに話していた。
「サキ、よければ休暇の間僕の家に遊びに来ないか?」
クリスマス休暇に出された課題を休暇の前に終わらせようと談話室の隅で教科書をめくっていたサキにドラコが揚々と話しかけた。
「素敵な提案だけど、今年はいいよ。だってホグワーツのクリスマスってすごく楽しそうじゃない?」
「そうか?人も少なくて寂しいだろう。スリザリンなんて一人も残らないんじゃないか?」
「談話室を独り占めできるわけでしょ?素敵じゃん」
サキは教科書をテーブルに放り投げて伸びをした。
「どうだかね。人のいないホグワーツは不気味そうだ」
「ま、プレゼントは送るよ。私人に物を贈るのは初めて」
「初めてのプレゼント?」
「うん。楽しみにしといて」
サキの自信ありげな笑みにドラコの顔がほんの少し疑わしげにくもった。
だがサキは本当に変な物を贈るつもりはなかった。
その夜はドラコとチェスをして遊んだ。今大流行りのチェスだが、サキはこれまで遊んだことがなかったためついこの間ロンにボコボコに叩きのめされたのだった。
悔しさをバネに必死に打っているがドラコにも勝てず、その日は終わった。
飛び散った駒のかけらを拾いながらクリスマス中に壊れた駒を修理する方法を調べようと決めた。