【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
「ドラコークリスマス暇?」
「暇なわけ無いだろう」
サキの仲直り計画はたった二言目でたち消えた。ジニーとハーマイオニーが綿密に組み上げたデート計画はクリスマスに一緒に過ごすことが前提だった。
どうしたものかと頭を抱えてるサキにザビニがスラグホーンのパーティーの誘いを引っ掛けてやってきた。
「君、晩餐にも全然出てないだろ?いい加減出ないと見限られるぜ」
「あー、そうだね…ドラコにも振られちゃったし出ようかな」
「振られた?ついに?」
「違う!誘いを断られただけ」
「なーんだつまらないの」
ザビニを筆頭にスリザリン生の殆どが二人の大喧嘩以降のグダグダした関係を面白がっている。傍から見れば面白いらしいがサキとしては笑えない。
「私らの繊細でふかーい関係は君にはわからないよ」
「男女の関係なんて深いぶん薄くてあっさり切れちゃうもんだぜ」
「プレーボーイは言うことが違いますな」
「まあね。それで、もしスラグホーンのパーティーに行くなら一緒に行かないか?」
「はー?きみと?」
「別におかしかないだろ。同じ寮で仲良くやってきたじゃないか」
「仲良くした記憶ってのが少ないんだけど」
「悲しいこと言うねえ。3年生の頃からずっとアプローチしてるっていうのに」
「え?そうなの?」
「マジ?わあ、こりゃドラコもキレてしょうがないな」
ザビニは両手を上げて降参のポーズをとった。サキは耳にタコができるほどそのセリフを聞いて、半ばうんざりしながら応対した。
「ちえ。なんだよみんなして…愛してるとか好きだとか、一挙手一投足つぶさに伝えてるの?」
「あたりまえだろ。言葉にしなきゃ伝わらない」
「その割にはみんな言葉にしたがらないじゃないか」
「言葉にした瞬間壊れる関係があるからさ」
「私とザビニは言葉にしたってずっと友達だよ」
「キツイね。じゃあドラコとはどうなんだよ。このまま喧嘩しっぱなしで卒業まで過ごす気?」
「そんなわけなかろうて。でもきっかけが全然掴めないんだよ」
「きっかけねえ」
ザビニは端正な顔を歪ませて、悪巧みをする時の顔をする。(ウィーズリー商品の闇市場を仕切ってたときよくしてた顔だ。ちなみに今は、サキを仲介して試作品のモニターのマネジメントをしている)
「じゃあ尚更君は僕とデートすべきさ。そしたらドラコもしびれを切らして君に何かをいうよ」
「騙されないぞ…そんなの余計怒らせて終わりじゃん!」
サキがクリスマスパーティーに行くか行かないか悩んでるとき、同じくスラグクラブのメンバーのハーマイオニーもハリーも相手に悩んでいたらしい。ロンは頑なに出席を拒みラベンダーとべったり。ハーマイオニーは報復に別の人を誘った。
「誰?」
「コーマック。コーマック・マクラーゲン」
ハーマイオニーは悪い顔をしていた。
「ハリーにさそわれた?」
「ううん。ザビニには誘われたけど」
「ああ。やっとモテ期が来たのね」
「ハーマイオニーこそ」
ハーマイオニーがコーマックに好かれているとジニーから聞いてはいたが、まさかそいつをパーティーに誘うとは思わなかった。ハーマイオニーはサキと違って鈍くないから駆け引きの一環なんだろうけど、ロンが好きなのに他の男を誘うというのはあまりに高度な気がした。
「私はなー、ドラコ以外とは踊れないな」
「そういうのを本人に言うのよ」
ごもっともだ。
…
さて閑話休題。暇な時間すべてをマクリールの手記に注ぎ込んた結果をサキはスネイプに見せた。マクリールの魔法について一番知ってるはずだから…と助言を期待してのことだったが、残念ながらスネイプも初めて知ることが多いようだった。
「彼女は記憶で見た通り、散文で会話してるような人だった」
「ああ。なんか聞いた感じあんまりお話は得意じゃなさそうですよね…」
手記は大まかに
①過去数千年に渡る記憶の、時系列の定まらないメモ書き
②記憶のうち歴史的出来事についての仔細な記録
③事物に関する研究
の3つのジャンルにわけられる。食人族紀行シリーズなんかは後年付け足された余白のメモ書きのせいで①と③の入り交じるものになっているが大体は別々にまとめられている。
リヴェンが書いたものはほとんどが①②への付け足しばかりだ。その中で唯一彼女直筆のものが③の事物に関する研究だった。とりわけ脳に関して彼女は関心を寄せていたらしい。
「海馬を巡る脳の領域の問題、ウェンディゴ憑きの伝承の傍証、クールー病患者の脳解剖記録、癲狂院におけるロボトミー手術の実態…等々。もう私やになっちゃいますよ」
「どれ、貸して見せろ」
スネイプに癲狂院のレポートを渡してやった。(それが一番強烈だった。)スネイプは目を細めてぐちゃぐちゃの文字を数行拾い読みした。
「いつの間にこんなところに行ったのだろう」
「さあ。でも癲狂院なんて呼び方は大昔のことですし、祖先の誰かの記憶をもとに書いたのかもしれません」
「…脳、か。代々脳を食ってきたにしては関心を持つのが遅い気もしなくはない」
「あー、どうやら食人習慣はかなり前からあったようですが、脳だけ食べることにしたのは最近みたいです。食人族紀行シリーズでノア・マクリールが書いてました」
「ノア…Nということは百五十年ほど前の人物か?」
「ちょうどそんくらいですねー。でもノアさんも、宣教師がバンバン海を渡る時代の記憶を参照して書いていますし、原体験は恐らく18世紀とかのものかと。ヨハンナと書かれているので、結構前の人ですね」
「何百年も前の人物の記憶を書いているのか」
「元来このマクリールの魔法の目的は歴史と記憶のアーカイブ化と、繰り返す歴史にみられるパターン分析から魔法の源を探すもの、だったようです。母の研究以外はすべてそこに着地していきましたから」
スネイプは食人族紀行シリーズや攻城戦での魔法使いの役割や、過去現れた闇の魔法使いの精神分析の論文を見た。確かに多くの論文は「辿り着くにはまだ足りない」と締め括られていた。
「つまり、過去の改竄や予知…という呼び方が適切かはさておき、それはイレギュラーな使い方なのだな?」
「そうです。そもそも歴史の改ざんなんてあっちゃいけないんですよ。この魔法は起きたことすべてのアーカイブと分析のためにのみ、今日まで紡がれてきたわけですからね」
「なぜリヴェンはその魔法を交渉のカードにしていたんだ?そもそも闇の帝王に協力せざるをえなかったのなら、その事実を改変することも可能だったはずだが」
「そうなんですよね。私達が思ってるより万能な魔法ではないようです」
二人してうーんと考え込んだ。考え込んだところで答えは出ないのでサキはため息をついて立ち上がり、お湯を沸かし始めた。
「…ドラコは」
「思い詰めてます」
「そうか」
「デートも断られました」
「なにをしようとしてるかもわからないのか」
「わからないです。避けられてて悲しいです」
「君なら頑ななドラコも言うことを聞くと思っていたのだが」
「そうはいかないようですね」
サキは蒸気を目頭に当てようと手で仰いだ。しかし何故か目がツンとして涙が止まらなくなってしまった。
「とにかく今はクリスマスパーティーに出席しない言い訳を探さないといけないんですよね」
「罰則でも受ければいい」
「あ!そういえば今年はまだ誰の罰も受けてない!褒めますか?」
「それが普通だ」
……
誰かにとっての普通が誰かにとっての特別なようにサキにとってドラコは特別だ。パーティーに誘う最後のチャンス、前日の放課後に人目を避けるように談話室から出ていくドラコのあとを追いかけた。
「ねえ」
サキが声をかけるとドラコは飛び上がった。
「どこ行くの?」
「…別に」
「ドラコ、あのね…明日のパーティーなんだけど」
「言ったろ、暇じゃないんだ」
「うー、パーティーは口実。君に伝えたいことがあって」
「なんだ?」
ドラコは余裕がなさそうだった。いつもはきれいに整ってる前髪が一筋乱れて額にかかっている。
「あのね、OKだよ」
「は?」
「だからOK。君、3年生のとき箒から落ちて医務室に運ばれたの、覚えてる?」
「え?ああ。覚えてるけど」
「あの時ちゃんと返事してなかったから」
「……は?え?待ってくれよ」
ドラコは必死に時計の針を戻している。しばらく頭をかしげてからようやく合点がいったらしい。
「そうだよ!君、ちゃんと返事してないじゃないか」
「うん。最近言葉にして伝えろって言われ続けてたから言った」
「言われなきゃ返事しないままでいるつもりだったのか…?」
「そういうわけじゃない!伝わってたじゃん。伝わってると思ってたんだよ」
「…まあ僕も気づいてなかったから何も言えないけどさ…それにしても」
「そうだよね。いや、てっきり私の愛はまるまる伝わってるもんだと…」
ドラコは拍子抜けしそうだった。今までの緊迫した関係がまるで他愛のない痴話喧嘩みたいなものに見えてくる。愛なんて口にするサキに本当ならばキスの一つでもすべきなのかもしれない。しかし、ドラコを取り巻く環境はそれを許さないのだ。
「僕も君がずっと好きだ。あまり伝わってない気がするけど」
「伝わってるよ」
「いや、多分3分の1も伝わってないよ」
「む、奇妙な既視感が」
サキは何故かこめかみをおさえた。
「私は本当にドラコに悪いことをしたと思ってる。アンブリッジへの反抗心と私情を混ぜて、君に酷いことをした。本当にごめん」
「ああ。いいよ、そのことはもう…」
ハリー・ポッターをめぐる対立はもう何度もしてきたし、最終的にサキはドラコの肩を持つ。その最終的に、という所にドラコがうまく折り合いをつけられなかった。わかっている。わかっていた。
「それ以外もずっと、君の好意に甘えてわがまま放題だったでしょ。君を好きって言ったのに、無責任だった」
「責任、か」
「あ、それ以外にも何か怒ってるんだったら言って。反省するし、ちゃんと謝るから」
ドラコは1年生のころハリー・ポッターに敵愾心を燃やしていた。たまたま生き残った。それだけで注目の的のポッターは期待はずれの痩せっぽっち。偉大な魔法使いになろうという意思もない、ただの子どもだった。
「僕は…」
ポッターは、与えられたものを最大限に使って上へ行くという、ドラコが毎日言われてきた骨に沁みた教えに背いて、それでもドラコよりも有名で持ち上げられていた。
努力に見合うものが与えられないドラコと、努力せずにそれを持ってるポッター。
そしてあの人の娘という絶対的な生まれの優位を持つサキ。
それでいてそれにあぐらをかくでも無く、鼻にかけるでもなく、我を通す勇気がある。
竹を割ったようにさっぱりしたスリザリンらしくない生粋のスリザリン生。
親に与えられた責任もないのに自分自身で道を見つけてあるいてく姿を見ると、自分が首輪付きの犬になった気がしていた。
「僕は、君になりたかったんだと思う」
ドラコは今の一言で全てが伝わるとは思ってない。
けれども唐突なその言葉を聞いて、サキは微笑んだ。
「ドラコは十分頑張ってるよ。私は背伸びし続ける君が好き。上品で厭味ったらしい君と軽口を叩く時間を尊いと思うし、闘争心にもえてる君をからかうのは何よりの快感だし、努力を見せない君を尊敬しているよ。だから私は君に死んでほしくなんかない」
ドラコの返事がないのでサキはちょっと悩んで冗談っぽく付け足した。
「まあ、私にはならない方がいいよ。もれなく火事で家族が死んじゃうから」
「……ああ、火事は嫌だな」
ドラコは返事を絞り出した。
サキは本当に昔から変わらない。はじめは、本当に単純に屈託のないその笑顔が好きだった。
「いままでごめんね」
「気付くのが遅すぎるんだよ」
「返す言葉もない」
…
黒い宝石。落ちない垢で鈍い色が染み付いたリングの彫り留め部分は今までその指輪を手にした何人もの主が嵌った石を撫ぜていたのがわかるほどに黒黒と艶めいている。
ダンブルドアの萎びた指に嵌った指輪はまるでその右手から生気を吸い取ったかのようだった。
その妖しく美しい輝きが誘うようにハリーの目に入った。
「先生はースネイプ先生を信じていらっしゃるんですね?」
「そうとも。ハリー」
「僕、聞いてしまったんです。スネイプが…」
「スネイプ先生、じゃよ」
「あ、スネイプ先生がー」
ハリーは内心いやいや言い直す。
「クリスマスパーティーの時にサキと話していたんです。校長室への侵入りかたについて」
「ほう。さすが冒険家を志すだけあるようじゃな。良きかな良きかな」
「全然良くありません!サキはマルフォイと何かを企んでいます」
「ハリー、証拠もないのに疑うのはよろしくない。サキは君の友達じゃろう」
「サキは大切な友達です。でも付き合いが長いぶんわかりやすいんです。彼女は脅されて、あいつのために動いている」
「確かにサキはヴォルデモート卿の接触を受けている。しかし彼女は自分の身の振り方を心得ているはずじゃ。さらに言えばスネイプ先生がしっかり守って下さっている」
ハリーはそのスネイプが信用できないのに…その感覚はどうもダンブルドア(とハーマイオニー)には通じないらしい。クリスマス休暇中にリーマスに話しても、スネイプが見ているなら干渉しないという判断を下していた。
理由はダンブルドアが信じているから。
ハリーを長年苛むジレンマはダンブルドアとサキの信用でもまだ解消されていなかった。
「それに、サキに校長室への侵入の手立てが思いつくとは到底思えんのう。わしでさえ未だ、合言葉を忘れてしまったら最後。入ることができんのじゃから」
ダンブルドアはいたずらっぽく微笑むと杖をちょいっと振って憂いの篩を呼び出した。
「さて、今宵も記憶の旅へ出かけようか。今日はホグワーツでのリドルの記憶じゃ」