【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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06.BRAIN DEAD

ドラコはキャビネットの扉を閉めてほんの少し待った。ごとりと外で何かが動く音がしたあと恐る恐るまた扉を開けた。

「ここは…」

広大な物置が広がっていた。高い天井までぎっちりとガラクタが積み上がっている。ピクシーたちの羽ばたきがどこかから聞こえてきた。

「……必要の部屋、か?」

キャビネットから出てあたりを見回した。去年校長室の侵入のために使えるものがないかと入って以来だ。このキャビネットも、そういえば見たことがある。姿をくらますキャビネット棚がいつからサキの部屋にあったのかわからないが、最近ホグワーツに行く頻度が上がっていた理由がようやくわかった。どうやらサキのものぐさが意外な形で巧をなしたらしい。

 

突然バシッという音がした。

ハッとして音の方を見ると、しもべ妖精が立っていた。

「お前…ドビーか?」

「ド、ド、ドラコぼっちゃま?!」

ドビーはドラコを見て目をまんまるにして物陰に隠れた。元しもべの好だが、ドラコはこのしもべ妖精に関心を示したことはほとんど無かったしまともに扱ったことはない。

「なぜここに」

「ど、ドビーめはシンガー様に頼まれていたのです。ここに誰かがきたら直ちに向かうようにと…」

「サキが?…そうか。じゃあ伝言だ。ポッターが今うちにいる」

「は、ハリー・ポッターがでございますか?!」

「そうだ。お前に言って何とかなるとは思わないが…サキは何を考えてるんだ」

「ああ、ぼっちゃまありがとうございます。ドビーめは今すぐ、ハリー・ポッターを助けに参ります!」

ドビーは言うやいなや指を鳴らして現れたときと同じようにバシッと消えてしまった。唖然としてドビーの消えたあとを眺め、キャビネットに戻った。

しかし開け閉めしても必要の部屋から出られなかった。

「しまった。二、三時間は使えないんだった…」

ドラコはまんまとサキに嵌められた。

 

その嵌めたサキはというと剣を見て逆上したベラトリックスとハーマイオニーの間に立ちはだかっていた。

 

「なんの、つもりだい?」

 

ベラトリックスは殺意を抑えながら一語一語をゆっくり発音した。

サキはがたがた震えつつもはっきりと返す。

「彼女は私の友達です」

「だからなんだ?こいつは、剣を持ってるんだぞ。セブルスが私の金庫に送った大切な剣だ!盗人を尋問して何が悪い」

「あなたのは拷問でしょう」

サキは上げた両手をおろし、慎重にベラトリックスに歩み寄る。ハーマイオニーがぜえぜえと荒い吐息を繰り返し首を擦った。

「グリフィンドールの剣は…ゴブリン製です。ちょうど地下にゴブリンがいますし、まず真贋を確かめましょう」

 

サキは極めて理性的に、余裕があるように見せながら提案した。ナルシッサもルシウスも口を挟まない。挟めなかった。

ベラトリックスは感情的な人間であったが、立場の上下には敏感だった。今ここでハーマイオニーに手を出せばまるで自分が追い詰められているようじゃないか。

ベラトリックスは唇を舐めた。

万が一グリフィンドールの剣が本物だとしたらベラトリックスはヴォルデモートの託した大切な任務をしくじったということになる。

あの方の信頼を失くせばどのような扱いが待っているか、ルシウスが証明している。

 

「いいだろう…」

ベラトリックスはひと呼吸ついていった。

「ゴブリンを連れてこい」

サキは地下へ続く階段をおりた。獣の匂いと生暖かい湿った空気が沈殿している。

足音に気づいてルーナが声をかけた。

「サキ?」

「グリップフックさん、ちょっといいですか」

ルーナは懐中電灯をつけた。

ハリーはハチさしの呪いが溶け掛かって中途半端に顔が膨れていた。もういても立ってもいられなさそうなロンに睨まれてサキはちょっと竦んだ。

「サキ、ハーマイオニーは…」

「ごめん、ちょっと怪我した。にしても君たちなんでここに来ちゃったの?」

サキはグリップフックを助け起こしながらきく。

「事故なんだ。…ここから出れない?」

「大丈夫、じきに…」

そこでとてつもなく大きなマッチをする音がしてちょっと煙が立った。

音のした方を見ると、ドビーが立っていた。

「シンガー様、ハリー・ポッター!ドビーは助けに参りました」

「ドビー!サキが呼んだの?」

「ドビーめはドラコぼっちゃまから連絡を受けてまいりました。ドビーの独断で助けに参りましたのです」

ハリーはドラコの名前が出てきてドキッとしたが、とにかく救いの手には違いなかった。ベラトリックスが早くしろ!と上から怒鳴りつけてきてサキは肩をすくめた。

「とりあえず…こうなったらルーナたちも逃げちゃいな。あてはある?」

「貝殻の家に行って。ビルとフラーがいるはずだ」

ロンの言葉にドビーはうなずき、ルーナとオリバンダーの手を握って、来たときと同じばしっという音を出して消えた。

「お願いです、グリップフックさん。あの剣を贋作だと言って」

サキは自分の杖をハリーに渡して頷いた。

グリップフックはイエスともノーとも言わずにサキとともに上へ行ってしまう。

 

「答えろゴブリン。これはグリフィンドールの剣だな…?」

「……いいえ」

グリップフックは剣を持ち上げながら、じっと目を凝らしていった。サキは心の中でホッと一息つく。

 

「それではあの方をお呼びしよう」

 

が、一息ついてる場合じゃなかった。サキは反射的に腰に指したナイフを抜き、ベラトリックスのこめかみに向けた。 ナルシッサが息を呑む音が聞こえた。

 

「なんのつもりだ?」

 

ベラトリックスの問いに答えられない。

ただ少なくともハーマイオニーの両腕が自由にならない限り、ヴォルデモートを呼ばせてはいけない。

 

「…杖を下ろしてください」

「は…決まりだな。やはりお前はそういうやつだよ。ポッターたちに味方するつもりか、今になって」

「私ははじめからあなた達の味方になったつもりはありませんが。幸い今は人質もいないので短気になれるんです」

「…ドラコをどこへやった?」

「遠くに」

サキとベラトリックスの間に広がる緊張感を叩き壊すように武装解除呪文がベラトリックスの手に命中した。

闇の印にあてがわれそうだった杖が吹き飛び、ベラトリックスの意識が呪文を飛ばした人物へ向けられる。サキはすぐにナイフをハーマイオニーに向けて縄を切った。

 

起き上がれないハーマイオニーの背中を蹴っ飛ばし、ハリーたちの側へ転がし、ついでナイフをベラトリックスの方へ向ける。

しかし、そのナイフを突き刺すべき胴体はそこになかった。

ベラトリックスもサキと同様にナイフを構え、サキのすぐ目の先に刃先を据える。

ナルシッサの杖がハリーたちに向いているのがわかった。

 

「動くな!シシー、ルシウスの印を使え!」

「やめろ!」

ハリーたちの静止に耳を貸さず、ルシウスは左腕の印を差し出した。

ハーマイオニーが立ち上がろうとするとベラトリックスがサキの顔面を蹴り上げた。ナイフが落ちる音がして、ついで石と骨がぶつかるやな音がした。

「動くんじゃない!動いたらシンガーを殺す」

サキは鼻血まみれで髪を掴まれ、喉元にナイフを突き立てられていた。

「ああクソ…歯が抜けた!」

「黙れ!」

サキが抜けた歯を血の混じった唾液と一緒に吐き出した。それと同時にハリーの頭に割れんばかりの痛みが走る。

あいつの考えが脳に流れ込んで、ハリーはパニックを起こしかける。

しかしサキの血の色を見て、なんとか踏みとどまった。すぐ逃げなければ、やつが来る。

 

「チェックメイトだなポッター」

 

ベラトリックスが勝ち誇ったように言った。

 

「…まだ終わりじゃない」

「この屋敷からは出れないぞ。お前はここでー」

 

ここでどうなるのかベラトリックスが言い終わる前に、頭上のシャンデリアがやな音を立てた。

そしてその音に気づいた瞬間、シャンデリアが音を立てて落下してきた。ベラトリックスはサキからほとんど引き剥がされるように転がった。

 

「わお、お怪我はございませんか?」

 

シャンデリアを落とした人物を見てベラトリックスたちは仰天した。

「ドビー!貴様、主人を殺す気か?!」

「ドビーは何にも仕えておりません。それに、人も殺しません!大きく傷つけようとしただけでございます」

ドビーは小さな体で堂々と立っていた。まるでサキを庇うように。

 

「はやく…行って」

サキはそばに寄り添うハーマイオニーとロンに耳打ちした。

「あいつが来るー」

 

サキは口いっぱいに溜まった血をハワイの火吹きみたいに霧状に吹き出した。

その血はそのままオレンジ色に発火して目くらましになる。子供だましのドッキリだが、一瞬の隙を作るには十分だった。ドビーはくるりと身を翻し、ハリーたちのもとへ飛び込んでくる。

 

ハリーはサキに手を伸ばした。一緒に連れて行かないと、と精一杯。

しかしサキはちらとそれを横目で見てから立ち上がり、火の向こうでナイフを振りかぶったベラトリックスに対峙した。

 

ベラトリックスがドビーめがけてナイフを投げる。

その軌道をサキの左手が遮った。

 

そして視界は暗転し、背中に衝撃が走り、続いて湿った砂が肌にべシャリと付着した。

姿あらわしに成功したらしい。魔法使いのそれとは具合が異なるようで、例えるならば組んでる右手と左手の上下を入れ替えたような変な感覚に包まれる。

ハリーは周囲を確認した。

ロンもハーマイオニーも近場に転がっている。

そこより少し離れた場所でドビーも立っていて、ハリーを見て飛びついてきた。

 

「ああ!ハリー・ポッター…無事でなによりです」

「ドビー、ありがとう…ほんとうに。サキは…」

「シンガー様はあちらにお残りになりました」

ドビーは申し訳なさそうな顔をした。

「シンガー様は自分を助けるために勝手なことをするなとお申し付けになりました。ですのでドビーは助けに行けません」

「君とサキはいったいどこで…」

「ハリー!」

話を続けようとしたが、ロンとハーマイオニーが遠くに立ってる家を指差して叫んだ。

「とにかく貝殻の家へはいろうぜ!オリバンダーたちもきっといる」

「わかった」

ハリーは全身砂まみれなのを払って、海岸線上に見える小さな家を目指して歩いた。

 

貝殻の家の周りは何もなく、真っ白い海岸線がどこまでもどこまでも続いていた。砂浜と、ちょっとの植物。こんな素敵な場所ならいくらでもいられるのに。寒い森の中なんかじゃなく…。

「ハーマイオニー、血が」

ロンがハーマイオニーの頬を拭った。

「私の血じゃない」

ハーマイオニーは涙ぐんでいた。

「サキ、無事かしら」

「大丈夫だよ。サキのことだ、口先八丁でのりきるさ」

ロンは励ましながらも陰った表情でハーマイオニーの肩を支えた。

 

サキは、ハリーたちの味方をした。

 

貝殻の家から駆け出して迎えに来てくれたルーナはキョロキョロと周りを見た。いつもの夢見心地を捨て去って、必死の形相でハリーに縋り付いた。

「なんでサキがいないの?」

「サキは残った」

「嘘。だってあたしが逃げたりしたらサキが拷問されるって言ってたんだよ。ねえ!なんでサキを連れてこなかったの?」

ハリーは黙った。何も言葉を発せなかった。

 

ここ一年サキのことを敵かもしれないと思って行動していた。現に魔法省内で幅を利かせ様々な騎士団の検挙や地下組織の摘発に関わっていた。

ダンブルドアの殺害にも直接関係している。

けれどもこう身を呈してかばわれて真意を感じ取れないほどハリーは鈍くなかった。

「…サキはサキで、上手くやる。僕らは僕らでやらなきゃいけない」

ハリーは誰に向けてでもなく、自分に向けて言い聞かせた。

 

「あいつはついに杖を見つけた。次の分霊箱を、壊さないと」

 

「場所は?わかるのか?」

「ああ。グリンゴッツ。あそこに違いないよ」

 

 

 

 

……

 

 

サキは左手に深々と刺さったナイフを見てから痛みを感じた。いくら表皮は麻痺してるとはいえ、このサイズの刃が肉を貫き反対側に切っ先を覗かせたらトロールだって痛みを感じる。

バシッと音がして、ベラトリックスが怒りの咆哮をあげた。

サキは悲鳴と笑い声の中間みたいな鳴き声を上げてナイフを引き抜く。そしてすぐ、その怒りを発散させるであろうベラトリックスをみた。

勿論彼女は怒り狂い、バロールのごとくサキを睨みつけ、そして飛びかかってきた。

 

「貴様、貴様が、貴様さえ!」

「やめて!ベラ!死んでしまうわ!」

 

聞くに耐えない怒号が拳とともにサキに降り注いだ。恨みの三段活用。人はこれだけ血が煮立っても、自分の拳まで剥けても殴ることを続けることができる。

嬌声に似た二人の女の叫び声は、客間の扉が閉まる音が響いてようやく止んだ。

 

「なんの騒ぎだ?」

 

ヴォルデモートが立っていた。

いつものようにゆったりとした黒衣をたなびかせ、転がり殴り合う二人を呆れた様子で見ていた。

もう一時間以上殴り合っていたと思ったが、せいぜい10秒ほどだったらしい。

サキは上にのしかかるベラトリックスに血まじりの唾を吐きつけた。

ベラトリックスはまたサキの顔を殴ろうとしたが、ヴォルデモートがいることを思い出して既のところで留まった。

 

「我が君…」

 

ルシウスが震え声で言った。

「たったぃ…今、ハリー・ポッターが、ここに…」

「なに?!」

「小娘が!この女がポッターの逃亡を手助けしたのです!しもべ妖精を差し向け、囚人もろとも逃したのです!」

ヴォルデモートは冷たい怒りに満ちた目でサキをみた。

「本当か?」

「そうですよ。ざまーみろバーカ」

サキはにやっと、腫れて見えなくなった目でヴォルデモートを見つめ返す。

ヴォルデモートは嘲笑うように口のはしを歪めてゆっくりサキに歩み寄り、力なく横たわる頭を足で踏みつけた。

「堪え性のない、クソガキが」

ヴォルデモートはナイフを魔法で拾い上げ、すぐさま左腕にもう一度突き刺す。肉を割いて進む刃の感触で全身が悍けだった。ヴォルデモートはさらに刃を傷口の中で回転させる。吐きそうなくらいにめちゃくちゃな痛みがはしる。

自分が上げてるのか、悲鳴なのか叫び声なのかよくわからなかった。けれども口の中が血の味でいっぱい。気道にまで流れ込んできて咳き込んで苦しくなる。血と一緒にゲロまで吐く。口の中はもうめちゃくちゃだ。

 

「母親が見たら泣くだろうな。サキ、お前ほど愚かな魔女は他にいないだろう。肉親だから殺さないとでも?そんなのは幻想だ」

 

「はじめからあんたに期待なんてしない。今日の私の頑張りは、ただ私の命とハリーたちの命が釣り合うと思ったからです」

 

「お前の天秤はどうやら狂ってるらしいな。まあいい、俺様が目的を果たしたあとにやらかした事に感謝するんだな。次歯向かったら…母親と同じようにバラバラに詰めてやる」

 

ベラトリックスが喜びの歓声を上げた。

 

「この汚いものをホグワーツへ送れ。厳重に閉じ込めろ。セブルスによく言っておけ」

 

ヴォルデモートは足裏にべっとりついたサキの血と吐瀉物を彼女のワンピースで拭った。

深緑のお気に入りのワンピースは血に濡れて真っ黒だ。

 

サキは起き上がる気力もなく失血により意識を失った。

 

 

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