【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様) 作:アニッキーブラッザー
第15話『狂気の試合と謎の侵入者たち』
切原は分かっていなかった。
いかに、残虐なプレーで、相手を痛めつけ、再起不能寸前にまで追いつめた経験があろうとも、所詮はスポーツ。
神経をすり減らす程の戦いは経験しても、命をすり減らす戦いを経験しているわけではない。
「真剣テニスだ〜? 笑わせるね〜、あんたみたいなチンチクリンが本当のテニスできるってのか?」
「んふふ〜、遊びじゃすみませんえ〜。命・・・賭けられますかえ?」
「へっ、な〜に言ってやがる。上等!」
だから、月詠が発する「命」という言葉は、ただの比喩的な表現だと思っていた。
「ほな、やりましょか〜? 真剣勝負」
「ああ。どっちが雑魚か思い知らせてやるよ。言っとくけど、女だからって容赦しねえぞ?」
「んふふふふ〜」
「おい、さっさとテニスコートに行くぜ。そこがテメェの墓場だ」
「おや、これは異なことを言いますな〜。いつでもどこでもどんなときでも・・・・・・それが真剣テニスですえ」
「あっ?」
「命を賭ける二人がそこに居れば、その場所がコートになることは常識ですえ?」
自分の血の感触を確かめ、月詠は再び笑った。
「ほな、それでも体裁を整えたいというのなら、ウチがコートを用意しましょ。ほれ!」
「ッ、て、テメェ! 何しやがる!」
月詠はラケットを振り抜く。その風圧がかまいたちのように風の刃を生み出す。
発生した刃は食堂の床を直線上に切り裂く。
邪魔なテーブルや椅子や食器などは除かれ、そこには簡易的ではあるがテニスコートのラインが引かれた。
「お次は・・・」
ラインを作った月詠みは次に、椅子を二つセンターラインの左右の端に置く。
そして、何かを念じると端と端の椅子の背もたれ同士が、稲妻の走った見えない壁を作り、繋いだ。
その壁の高さは、丁度ネットと同じ高さだ。
「準備完了。お相手致しますえ。あっ、ネットには触らんほうがええですよ〜。結界と同じ強度なんで、下手に触ると怪我しますえ〜」
呆れてものも言えない。あっという間に食堂の中にテニスコートを作ってしまった。
「こ、この女・・・・・マジかよ・・・・・・」
そして、どこからツッコミを入れていいのか分からず、真田たちに分かったことといえば月詠がこれまで出会ったこともない種の化物のような存在であるということだ。
「なんという女だ。果たして奴は何者か? あの剣・・・いや、ラケット捌き。そして、常識で図れぬ力」
「あれは、あの世界の中でも指折りの実力者でしょうね〜、魔法世界の紛争地帯でもあれほど洗練された使い手はいませんでしたよ」
「・・・ナメた真似しやがって」
「ちょっと、切原くん、あんたマジでそいつとテニスする気なの!? 悪いこと言わないからやめなって! そいつは、想像以上ずっとヤバい奴なのよ!」
「切原くん、やめなさい、アスナさんの言うとおりですわ!」
「赤也くん」
「確かに・・・あのくせっ毛の子・・・ほっておけば死ぬかもね」
切原とて分かっている。目の前の存在がどれほどヤバのか。
しかし、一歩も引かないと決めた以上は、ラケットを手放して勝負を放棄するわけにはいかない。
「逃げるだと? ふざけんじゃねえ、俺の野望を果たすまで、こんなところで逃げるわけにも死ぬわけにもいくかよ! やってやらァ!」
「ふふ、よう吠えますな〜。ほな、それならサーブ権はあげますえ。お手なみ拝見といきますえ」
審判など居ないセルフジャッジの室内テニス。
切原のサーブから始まった。
「いくぜ、オルア!」
「ほな、いきますえ!」
切原のサーブに月詠は難なく反応。
二本のラケットを自在に使い、切原を翻弄しようとする。
いや、仕留めようとする。
「神鳴流・斬岩交差ショット」
二刀流テニス。両腕を胸の前で交差させて、一閃。
あまりの速度で、どちらのラケットで打ったのか分からなかった。
だが、
「ちっ、確かに速ェスイングだ。だがな、こちとら目にも見えねえ真田副部長のショットを毎日見てんだよ!」
いきなり顔面目がけて飛んできたボールを、キャリオカステップで体をズラして返球。
「真剣つっても、この程度かよ! うら!」
切原の反応速度が格段に上がっていた。
「まだいきますえ〜、神鳴流〜にとーれんげきーざんてつしょっと〜」
「ツおら!」
超攻撃テニスをする二人。もはや、ポイントを奪うことなど微塵も考えていない。
ただ、相手を潰す。それだけを目的とした勝負と化していた。
(集中しろ・・・集中・・・ぜってー、隙をつくらねえ。そして、潰す!)
(ほ〜、瞳が真っ赤になるほどの集中力・・・・・・しかし・・・)
互いに相手の体を目がけて打っているために、走る必要などまるでなかった。
しかし、だからこそ裏をかかれると、反応が鈍る。
「ほい」
「げっ!?」
意表をついたドロップショット。切原も慌ててステップを切り、ボールに追いつく。
だが、何とかラケットに当たって、返球しただけ。ボールはフラフラと浮き上がり・・・
「しまっ・・・」
「あらあら、もう終わりですかい〜、ほな・・・・・命もらいましょか?」
「ッ!?」
「神鳴流庭球術・秘技!」
居合抜きのような構えから一閃。
それは、切原目掛けて打たれたショットだ。
「いかん、赤也!」
「切原くん、避けて!」
切原の態勢は崩れている。
顔面めがけて飛んでくるボールに反応したところで、体が思うように動かない。
「こ、の」
だが、切原は硬直した体を無理やり動かす。
生死のギリギリの狭間の集中力が反応速度を上げた。
「切原赤也を・・・・・・な、めんじゃねえ! うらあ!」
切原は反射的にボールを打ち返した。
その執念のプレーに、思わずギャラリーから声が上がる。
しかし・・・・
「甘いですえ」
月詠は邪悪な笑みを浮かべていた。
そして、次の瞬間、鈍い音が響き、切原が仰向けに倒れていた。
「ぐああああああああああああああっ!?」
ただ倒れただけではない、切原の額が割れて大量の血が飛び散っていた。
切原はあまりの激痛に頭部を抑えて床をのたうちまわった。
「きゃああああああああああ! ち、血が!」
「だ、誰か! 誰か先生を呼んで来い! それに、きゅ、救急車だ!」
「赤也!」
「切原さんが!」
「ちっ、あの女!」
「な、なんで! 切原くんは打ち返したはずでしょ!」
荒れ果てた食堂の床に飛び散る切原の血。
その惨状に、最初はノリではやし立てていた生徒たちも顔面を蒼白させて、悲鳴を上げる。
「な、何でだよ・・・俺は打ち返したはず・・・ッ、これは!?」
ボールを打ち返したはずが頭部に痛みが走った。
何が当たった? 床には、真っ二つに切断されたボールが転がっていた。
「秘技・首切りショット」
絡繰りは簡単だ。
超高速でボールを二つに切断する形で片方を飛ばし、僅かな時間差でもう半分をもう一本のラケットで打つ。
「は〜、こないな児戯に引っかかるようでは、ウチとテニスは難しいですわ〜」
誰も気づかなかった。
真田たちですら、月詠がボールを二つに切断してそれぞれを時間差で打ったなど分からなかった。
それほどまでに月詠の動きは桁外れだった。
「あの女、何ともたまらんショットを!」
「ちょっと! こんなの、こんなのテニスじゃないわよ! 今すぐ中止よ! 月詠、私があんたの相手よ!」
「千鶴さん、切原くんを保健室に連れて行きますわ! いえ、このかさんを連れてくる方が・・・・・」
もはやテニスどころではない。
アスナたちが割って入り、すぐにこの試合を止めようとした。
だが、その時だった。
「まあ、命は助けてあげますえ。赤い雑魚ワカメはん」
取るに足らない相手として、命までは奪わないと告げる月詠。
しかし、その侮辱が、ワカメならぬ、悪魔の逆鱗に触れた。
「あ・・・・・・いま、なんつった? あんた」
苦悶の声を上げていた切原が静まり、ゆらゆらと立ち上がりながら言った。
怪我はいいのか? 動かないで大人しくしていろ。アスナたちはそう言おうとした。
だが、どこか様子の変わった切原に声をかけることを躊躇ってしまった。
「赤也・・・・・・・」
真田だけは今の赤也に何が起こっているのかを察した。
「お耳が悪いんですかえ? 前戯にもならんかったんやから、はよう消えてくれたら嬉しいんやけど」
そして、切原の様子などお構いなしに月詠がそう言った瞬間、赤目の悪魔が覚醒した。
ボールを握ったまま、静かにサービスラインまで下がり、サーブの構え。
「ん? あらら、続行するんですかえ?」
試合を続ける構えを見せる切原に、少し驚いたように月詠もラケットを構えた。
だが、本来はカウントをコールするはずのサーバーの切原は、カウントの代わりに一言呟いた。
「潰れろ!」
ポイントもクソもない。
ただ、潰す。
「き、切原くん・・・・ちょ、な、なによ、この感じは! 寒気が! ゲンイチロー、切原くん、どうしちゃったのよ」
「・・・・・永四郎・・・あの子、どうしたんだい? この・・・異様なプレッシャーは」
「ふふ、僕も初めて見ましたよ、真名さん。あれが噂の・・・・・」
「ほ〜、あの野郎・・・いい面構えしてるじゃねえか。大した殺気だぜ」
「あ、亜久津先輩! な、なに、感心してるですか! こ、こわ、こわいです! 切原さん、どうしたんですか!」
「見てはダメです、太一くん! 私が守りますわ!」
肌が赤黒く染まり、髪が白髪化。
惨劇の空間が、更なる惨劇を生み出す悪魔を召喚した。
その抑えられんばかりの妖気は、学園に居た勘の良いものたちにまで察知できるほどのものであった。
「ふふ、魔族でも亜人でもない・・・・・・悪魔・・・・ふふ、それもイイネ」
広大な学園都市全土を見渡せる展望台。
そこにはテニスウェアを着た一人の少女が、食堂の方角を見下ろしながら機嫌良さそうに笑っていた。
「ふふふふ、久々の再会。クラスのイベントに再会しようとしたが、なかなか面白いことになりそうネ」
黒髪お団子ヘアーの少女。
彼女はまるでこれからこの場所で起こることを予知しているかのようだった。
「皆さんにお会いにならないのですか? 超鈴音」
少女の背後にいつの間にかもう一人少女が立っていた。
褐色肌で目の下にピエロのような模様の入った少女。
道化師のような格好ではあるが、その背中にはラケットバッグを持っていた。
「フフフ、あなたは参加しなかたカ? ザジさん」
「世界樹から妙な力の波動を感じたものですから」
「ん? 何だか表情も柔らかく、よく喋るネ。私が居た頃のあなたはまだ無口だたが」
「今後はこんな感じで居ようかと」
「ソーカソーカ、楽しそうで何よりネ」
少女たちの名は超鈴音とザジ・レイニーデイ。
何気ない会話をする二人ではあるが、その笑顔はどこか底知れず、決してお互いに隙を見せることはなかった。
「今、みんなはテニスの真っ最中だそうだガ、あなたは出ないカ?」
「たまには私も皆さんに協力しようかとも思いましたが、特に必要も無いでしょう。久々に皆さんが重たい世界の流れを忘れて、のんびりと日常を過ごせるチャンスですから」
「ほ〜・・・それでは、高みの見物ということカ?」
「そうですね。相手は全国クラスとのことですが、所詮は人間界での話。皆さんのアビリティならテニス素人といえど問題なく、むしろいい気晴らしになるでしょう」
「ん? では、ザジさんはまだ試合を見てないカ?」
「はい、まだ。これから覗きに行こうかと」
「ん〜、それは勿体ないことしたネ」
急に、腕を組んで何かを考える超。
だが、少しして何か悪巧みでも思いついたのか、悪戯小僧のような笑みを浮かべた。
「それにしても、ザジさん。噂で聞いたガ、テニスと言えばあなたは・・・」
「何か?」
「魔界のジュニア大会四連続優勝の天才魔庭球少女、ザジ・レイニーデイ。またの名を『テニスのお姫様』と魔界で呼ばれているそうネ」
「・・・それが何か?」
「フフフ、私も・・・ある時は謎の中国人発明家! クラスの便利屋、恐怖のマッドサイエンティスト! またある時は学園No.1天才少女! そしてまたある時は人気屋台超包子オーナー」
「?」
「そしてまたまたある時は、テニスの太陽系オリンピック代表候補!!・・・だったりしたら・・・」
「ッ!?」
「・・・どうするね? そこらへんの中学生やクラスメートたちとテニスするより、私と試合した方が有意義ではないカ?」
挑発するかのような笑みを浮かべる超の言葉に、ザジの表情が変わった。
「なるほど・・・」
それに対してザジも、どこか好戦的な笑みを浮かべる。
彼女は思ったのだ。「挑発に乗るのも悪くない」と。
だが、その時だった。
「む・・・」
「?」
二人は急に空を見上げた。
そして、超は少し残念そうに舌打ちした。
「どうやら・・・我々が遊んでいる場合では無くなるかもしれないネ」
「アレは?」
「ふふ・・・『キング』と『至宝(カリスマ)』を筆頭とした男たちネ」
空には、麻帆良の軍事研、航空部等が誇る飛行船が何機も駆け巡り、一機のプライベートジェット機を取り囲んでいた。
それは、麻帆良の空で繰り広げられていた、ある男たちの登場だった。
「こちら軍事研『まほら☆おすぷれい』。許可のない飛行船の着陸は認めません。速やかに旋回して、この領空から立ち去りなさい」
「航空部部長・七夏・イアハートだ! 強行しようとしても無駄だ。既にあなたたちは完全に包囲されている」
ジェット機の周りを、オスプレイやコブラやステルスやセスナ機が取り囲む。
一生かかっても体験できぬ事態に、ジェット機に搭乗している男たちは大混乱の中に居た。
「うおおお、マジかよ!? ちょっ、跡部さん、ここって本当に日本っすか!? あいつら撃って来ないっすよね!?」
「う、うるせえぞ、テメェ、このくれえで、ビ、ビビってんじゃねえ」
「喧嘩している場合じゃないぞ、桃、海堂! エージも落ち着け!」
「だだだだ、だってー、大石〜、俺たち何だか戦争映画に出ているような状況だし」
「大丈夫だ。砲撃してくる可能性は限りなくゼロに近い」
「乾、それってなんのデータを元にしてだい? まあ、僕も撃たれはしないと思うけど」
「全員、騒ぐな。大人しくしていれば撃たれはしないだろう。みんな、油断せずに行こう」
それは青学も
「うっは〜、やっべー、超楽C〜! 見て見て、俺たち追われてんじゃん!」
「だー、目ェ覚めたと思ったら騒ぎやがって、ジローの奴! でも、本当に撃ってこねえだろうな!?」
「岳人も黙らんかい。流石にそれはないやろ、しかし、ウチの大将はどないする気や?」
「ったく、どいつもこいつも騒いでんじゃねえ! 激ダサだぜ! なあ、長太郎!」
「もちろんです! 俺は例えこれから先、何があろうと宍戸さんに付いていきます!」
「相手は空を飛ぶ飛行機。正に下克上! 上等だ!」
氷帝メンバーも流石に平常では居られなかった。
そして、誰もが一人の男を注目する。
この状況に一切動じず、ジュースの入ったワイングラスを片手に持ちながら、男は外を見る。
「ガタガタ騒ぐな、庶民共! この程度でビビってちゃ、まだまだ頂点は取れねえぞ。なあ、樺地?」
「うす」
「何より、この俺が犯しちゃいけねえ領空なんて存在しねえ。そうだろ、樺地」
「うす」
跡部景吾。
彼は、この状況に命の危機などまったく感じず、むしろ五月蝿いハエにまとわりつかれたぐらいにしか思っていなかった。
「にしてもだ、そういやこの学園は雪広家の息がかかってたんだな。どうりで、着陸の許可が降りねえわけだ。あ〜ん?」
「なんや、跡部。知り合いがおったんか?」
「まあな。昔から俺様の家と対立する、いけ好かねえ奴らだ。どのみち、許可をもらうのは時間がかかりそうだな」
せっかく麻帆良の上空まで来たのに、このままでは着陸が難しい。
ならば、引き返すのか?
いや、この男がそんな妥協をするはずがない。
「仕方ねえ。樺地、アレを全員に渡せ!」
「ウス」
跡部が樺地に何かを指示する。
すると樺地は全員にリュックのようなものを一人一人に渡して背負わせる。
そして、
「開けろ、樺地」
「うす!」
樺地が飛行中の飛行機の扉を手動で開放したのだった。
その瞬間、外から強い風が機内に吹き込んできた。
「着陸できねえなら、飛び降りるまでだ。テメェら、一回しか説明しねえ。パラシュートの開け方をよく聞いておけ!」
男たちは皆、何も考えることはできなかった。
「俺様のレクチャーに酔いな」
ライセンスもない素人が一人で飛ぶのか? そんな当たり前の疑問すら、関係ないとばかりに跡部は男たちを先導する。
そして、
「こちら軍事研。航空部、応答せよ! 奴ら、何かやろうとしている!」
「こちら航空部。確認した。奴ら、飛行機の扉を開けているぞ! 何をする気・・・まさか!?」
その瞬間、麻帆良自慢の航空部隊は見た。
テニスラケットを持った男たちが次々と飛行機から飛び降りていく光景を。
その瞬間、麻帆良学園都市各地に散らばる魔法先生・生徒たちの元に「謎の侵入者」の情報が駆け巡ったのだった。