【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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第24話『覚悟の時』

 どんな球も回転を与えることで意図的に相手のボールをアウトにしてしまう、手塚ファントム。

 どんな生物にも存在する、視覚ではカバーしきれぬ相手の死角を見抜いて的確に突く、氷の世界。

 共に全国に名を轟かせた、手塚と跡部の奥義が炸裂し、コートサイドが大いに沸き立つ。。

 

「そんな、信じられない! 超さんの『時』に干渉する力を、魔法も使えない一般人が正面から攻略するなんて!」

「ボールの回転を自在に操るプレーヤーに、相手の思考の死角を狙い打つプレーヤー……どちらも一般人でありながら、常人の極みに達しています」

「……ふむ、ジャッカルくんたちといい、最近のテニス選手は侮れないでござるな。ん? 千雨殿、頭を抱えてどうしたでござる?」

「……いや……ワリ、あいつらって、アレで一般人扱いなんだ……なあ、もう一般人とそうでない奴の境界線って何なんだ?」

 

 超たちの卑怯技にめげず、各々の力でポイントを取る。

 この事実に、魔法世界での旅を経たネギや生徒たちは驚きを隠せない。

 

「すげえ! さすがは、手塚部長に跡部さんだぜ! たとえ時間や空間を操ったところで、あの二人がただでやられるわけがねえ!」

「全く、彼女たちも恐るべき相手だが、手塚や跡部もまた規格外だな」

「だが、まだ油断はできないがな。なんせ、時や重力を操作するプレーヤー等、前代未聞。僅かな油断で一気にゲームは傾く」

「だいじょーぶだって、乾! あの手塚が油断なんてするわけないじゃん! 完璧パーペキパーフェクトだよん! な、大石?」

「いや、英二。乾の言うとおり、油断は出来ない。あの麻帆良の選手二人も、まだ実力の底を見せていないだろうからな」

 

 敵の常識を超えた力は確かに脅威。

 しかし、手塚と跡部の力も通用していることが分かった。

 ならば、本当の勝負はこれからだ。

 テニス部員たちも麻帆良の生徒たちもその空気を察して、勝負の行方を固唾を呑んで見守った。

 

「さあ、俺様たちのショータイムの始まりだぜ! いくぜ!」

 

 跡部のサーブ。同時にサービスダッシュでネットにつめる。

 サーブ&ボレーでの両前衛に出た。

 

「ふふ、こちらが時を飛ばす前の速攻戦術のつもりカ? 上等ヨ!」

 

 超は前へ出る跡部に対して、早い打点でリターンをする。

 

「ライジングショット! 普通に、うめーな、あの中華娘!」

「前へ出る跡部の足元に的確に打っている」

 

 来たばかりの立海も唸る超鈴音のライジングショット。

 それだけで、超鈴音のテニス自体のレベルを理解した。

 

「ふん、いい度胸だ、小娘ェ!」

 

 だが、跡部は揺るがない。ネットへ出る相手の足元に早く鋭い打球のリターンというテニスの常識。

 しかし、ただのテニスのショットであれば、跡部には脅威ではない。

 

「そらっ!」

「おっ……ウマイネ! フロントフットホップで軽々返されたカ……」

 

 左足を前に踏み込んで、その足でジャンプしてライジングぎみのトップスピンショットで、跡部も華麗に対応。

 

「フロントフットホップか……やるではないか、あの偉そうな小僧」

「おおおお! なんか、普通にテニスっぽいショットだーっ!」

 

 今度は先ほどまでの超常現象ショットとは打って変わっての、高等技術の応酬が続く。

 ライジングショットをライジングでカウンターリターンされたボールは超の体の正面に。

 しかしそこから超は状態を捻らせ、右足だけでジャンプし、左足を上げながら強烈な両手打ちバックハンドで返す。

 

「しかし、私も負けないヨ!」

「ほうっ! やるじゃねえか! 褒めてやるぜ」

 

 跡部のフロントフットホップに対し、超鈴音の放った技。それは……

 

「うおおお、あいつ、俺の得意技のジャックナイフを使いやがった!」

「すごいね、彼女」

 

 そう、バックハンドの高等技術の一つ。ジャックナイフだ。

 時飛ばしだけではない。超鈴音のテニススキルもまた、一流の域に達している。

 そして、そこに時を飛ばす力を加えれば……

 

「でも、なんで超さんは、全部に時飛ばしショットを使わないん? 卑怯やけど、全部あれで勝てるやん」

 

 木乃香がその時、素朴な疑問を口にした。

 確かに言われてみれば、ラリーなど続けなくても、時飛ばしを全部打てば勝てるはずと。

 しかし、その疑問にはエヴァが冷静に解説した。

 

「魔力が無限でないように、時を飛ばすには相応のエネルギーが必要なのだろう。もしくは、条件等な。いずれにせよ、気軽に全部アレを使えるほど、甘い代物ではないのだろう」

 

 なるほどと、ネギたちは納得した。

 そもそも、魔法という常識を超えた世界ですらも、時を止めるというのはありえぬ能力なのである。

 仮にもしその力があったとしても、時を止めるほどの力ならば、相応の条件や魔力の消費などがあるのも当然とも言えた。

 しかし……

 

「だが、超鈴音が要所要所であの技を使うことで、あの小僧たちは、『いつ時が飛ばされるか』というのが分からないため、常に緊張感を持ち、そして試合展開を早くしようと焦るだろう。そうなれば、全てが思うつぼ……」

 

 そう、エヴァの言うとおり、超鈴音は毎回時飛ばしを打つのは流石に出来ない。

 そして、手塚と跡部もまた、いつトンデモショットが繰り出されるかが分からない以上、顔には出さないものの早くポイントを取ろうと、攻めのプレースタイルになっていた。

 そして……

 

「見えたッ! ほうら、凍れッ!」

 

 激しい攻防の中で、跡部が死角を見つけた。

 その瞬間、イメージの世界でコートに次々と氷柱が刺さっていく。

 

「貴様らの死角、丸見えだぜっ!」

 

 跡部の必勝パターン。相手の死角に打ち込むことで、相手は反応できずに凍りついたかのようになり、ポイントを奪う。

 だが……

 

「ふっ、時を止めてもいいが……ザジさん!」

「分かりました」

 

 その時、跡部の氷の世界が発動される瞬間、超鈴音とザジが笑った。

 何か嫌な予感がした跡部だが、既にショットを止めることはできない。

 跡部のインサイトから導き出された超鈴音の死角にショットを打ち抜いた。

 すると、その時だった!

 

悪夢(ナイトメア)ゾーン」

「なにいっ!」 

 

 超鈴音の死角のポイントに、黒い小さな渦が発生。

 その渦が跡部のボールを吸い込み、気づけばボールはザジの目の前に発生した渦から飛び出してきた。

 

「跡部! ロブだッ!」

 

 決まったはずのボールが、空間転移によりザジの目の前に現れた。

 

 

「相手の死角を的確に見抜いて打ち抜くショット。確かに見事です。ですが逆を言えば、そこまで的確ならば……私たちがカバーできない死角に網を張っていれば、ボールは勝手にそこに来るということです」

 

「なっ……ん、だと?」

 

 

 そのボールをザジはチャンスボールとして叩き込むのではなく、サーブ&ボレーに出ていた跡部を嘲笑うかのように中ロブを上げて後ろを取ろうとする。

 

「ちょ、そ、それは、いくらなんでも、ザジさん!」

「卑怯すぎだーッ!」

「アカン、跡部! ロブや!」

「跡部さん!」

 

 卑怯すぎるザジの魔法。しかし、そんなことを言っている場合ではない。

 

「バカなこの俺様の美技が、ただの超常現象ごときに劣るものか!」

「焦るな、跡部!」

「黙ってろ、手塚ァ! この女共は俺様が叩き潰す!」

 

 ザジのロブが跡部の後ろを取ろうとする。しかし……

 

「いや、大丈夫だ! 跡部にはアレがある!」

「出るぞ、跡部の必殺技が!」

「跡部のジャンプ力であれば届く確率、100%」

「いっけー、あっとべーっ!」

 

 そう、跡部にロブを上げるということの意味を、テニス部員たちは理解している。

 高くふんわりと上げられたザジのロブに対して、跡部は空高く飛んだ。

 

「うわ、凄いジャンプ力!」

「届くよ、あのお兄ちゃん!」

 

 ザジのロブに対して、跡部は見事な跳躍を見せる。

 そして、ラケットを振りかぶり、スマッシュの体勢。

 それは、跡部の必殺ショット。

 

「愚民共、その目に刻み付けろ! これが俺様の、破滅への輪舞曲(ロンド)!」

 

 破滅への輪舞曲(ロンド)。それは、一打目のスマッシュを相手の手首に当ててラケットを弾き、帰ってきた打球を二打目のスマッシュで確実に決める。

 だが……

 

「ムダネ!」

「……ッ!?」

 

 その時、跡部は確かに見た。

 自分が叩きつけるように打ったスマッシュを、超鈴音はスマッシュに向かって飛び、自らもスマッシュでカウンターを放った。

 ボールの摩擦でコートに焦げ後が残るほどの一撃。

 呆然とする跡部やギャラリーを前に、超鈴音はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「スマッシュをスマッシュでカウンターする。ジャンプしてスマッシュする相手の足元にスマッシュを叩き込むことで、絶対返球不能なスマッシュカウンター。その名も……タイムマジックスマッシュ」

 

 その瞬間、言葉を失ったギャラリーから一斉に驚愕の声が上がった。

 

「跡部の破滅への輪舞曲(ロンド)が破られた! いや、つうか……」

「スマッシュを、スマッシュでカウンターしやがった!」

「バカな! そんなことできるはずが……なんという動体視力!」

「いや、あの娘は、時を操れる。ならば、跡部のスマッシュが放たれた直後に時を止め、それを難なくカウンターしたんだ」

「だ、だがよ! た、たったワンプレーの中で、跡部の奥義、『氷の世界』と必殺、『破滅への輪舞曲(ロンド)』を同時に破りやがったぞ」

「わざとだ……跡部の必殺を見抜いていた上で、あえてロブを上げたんだ。跡部にスマッシュを打たせるために!」

 

 跡部の必殺技をまとめて破る。自分の技に絶対的な自信を持っていた跡部にとって、これ以上の衝撃と屈辱は存在しない。

 

「ば、ばかな……俺様の技が……」

 

 自分の積み上げてきたもの全てが崩れる。正に国家崩壊のごとき衝撃に、跡部は動揺を隠せないでいた。

 

「なんだかもう、見ていて可哀想です」

「「「「「うん。二人とも卑怯すぎ」」」」」

 

 そんな跡部の姿に、もはや同情するしかないネギたち。超たちの力を知っているからこそ、それを容赦なく使用する超たちには、もう呆れしかなかった。

 

「ふふ、成功ネ」

「ええ。しかし、素晴らしいカウンタースマッシュでした、超さん」

「ふっふっふ。と言ってもこのカウンターショットのヒントは、現代テニスからネ」

 

 自分たちの狙いが全てうまくいったことを称え合う超とザジ。

 そんな中、超鈴音はチラリと青学サイドを見た。

 

(とある世界大会で、天才・不二周助が披露した葵吹雪……スマッシュに対するスマッシュカウンター……時を操れる私以上にこれほど相応しい技はないネ。まあ、『今』この場に居る彼は、まだこのカウンターを知らないだろうガ……)

 

 自分の技の元ネタの実物にほくそ笑む超鈴音。

 ただ、どちらにせよ、今の跡部にはこれ以上ない精神的なダメージを与えたことには変わりないのである。

 

「跡部……」

「うるせえ、手塚! 俺に今、話しかけんな」

 

 そのショックは、ペアの手塚に八つ当たりするまでである。

 ライバルとして凌ぎを削ってきた跡部のこんな姿を、手塚は今まで見たことがなかった。

 それほどまでに跡部の心は崩れていた。

 そして手塚もまた、その気持ちが良く分かった。

 

「超鈴音……ザジ・レイニーデイか……」

 

 唐突に自分たちの目の前に現れた二人の少女。そして、いきなり自分たちに戦いを挑んできた。

 油断などしたつもりはなかった。しかし、負けるとは微塵も思っていなかった。

 だが、実際に手合わせした彼女たちは、自分たちの想像をはるかに超えるテニスを披露し、こうして今、自分たちを圧倒している。

 それは、お前たち等所詮は井の中の蛙だと言われているかのようであった。

 

「お、おい……お前ら! あれもお前らのクラスメートって言ったな! 本当かよ、どうなってんだ! どんな手品使ってんだよ! つーか、何で俺たちとの試合には出てこなかった」

「落ち着いてって、ジャッカルくん。私たちだって驚いてるんだから! まさか、超りんとザジさんがあんなにテニススゴイだなんて……」

 

 魔法の事情を知らないクラスメートたちも、今、目の前で何が起こっているかは分からない。

 唯一分かっているとすれば、コートに立っている二人の男は決して弱くない。ただ、超鈴音とザジ・レイニーデイが強すぎるのだということだ。

 

「さあゲームカウント2-0で、次はザジさんのサーブネ」

「任せてください。ここでキープして、流れを完全に我々の手に」

 

 反撃開始かと思われたゲームも、結局は超鈴音とザジ・レイニーデイによって簡単に取られてしまった。

 このままでは、自分たちは一ゲームも取ることなく負けてしまうだろう。

 手塚はそう考えた。

 そしてだからこそ……

 

「全て決められ、返せず、そして返される……ならば……」

 

 その時、誰もが絶望する中で、手塚国光が顔を上げた。

 そのメガネの奥に光る瞳が、何かを決心していた。

 

「このゲームを取られたら、あの小僧たちはもう終わりだな。精神的にもな」

 

 ゲームカウントはまだ中盤だ。しかし、既にほぼ勝負は付いたとエヴァンジェリンは見ていた。

 

「でも、マスター。あの手塚さんって人は、真田さんみたいに倍返しする必殺技とか、回転を自在に操る技とかも……」

「確かにな。だが、時を操る超鈴音や、幾千にも及ぶ魔法を扱うザジ・レイニーデイには及ぶまい」

 

 常識的に考えて、勝てるわけがない。そんなことはもう誰の目にも明らかだった。

 そして、

 

「じゃあ、ザジさん、頼むヨ!」

「はい。では……今度は重力サーブでも、打ってみます!」

 

 トスを上げ、綺麗なフォームでスピードが乗ったサーブを打つザジ。

 相手のフォアサイドに角度をつけたサーブだ。

 しかし、当然それだけのはずがない。このボールにも何かしらの現象が隠されていると手塚は見抜いていた。

 だからこそ……

 

「全て決められ、返せず、そして返される……ならば……もう、返さず、決めなければいい!」

 

 手塚は覚悟した。その覚悟を見せる。

 

 

「この世に、百パーセント勝てる方法等存在しない。テニスにシナリオ等ないのだから」

「ッ!」

 

 サーブを待ち構える手塚の起こした行動。

 それは、まだボールが来ても居ないのに、いきなりスイング。

 空振りどころか、それではただの素振りだ。

 それに何の意味が……

 

「ッ!」

「…………フォルトだ」

 

 ザジのボールが手塚たちのコートから外れた位置へ誘導されたかのように曲がり、そして突き刺さった。

 そのボールには、まるで鉄球を思わせるほどの重量があるかのように、地面にめり込んだのだった。

 もし、触れていれば、その重さに耐え切れずにラケットを飛ばされていただろう。

 しかし、それはサービスラインの枠を超えた箇所。つまり、フォルトだ。

 

「な……に?」

「ッ、どういことネ! ザジさんがフォルト?」

 

 一体何が起こったのかがまるで分からない、超とザジ。

 この手塚が起こした現象を理解できたのは誰も居ない。

 傍目から見れば、ザジのミス。

 しかしその実は……

 

「一体何を……くっ、もう一度! 今度こそ……」

「無駄だ。ダブルフォルトだ」

「……ッ!」

 

 もう一度サーブを打つザジ。だが、今度も同じだった。

 ザジの打ったサーブはコートに突き刺さるも、サービスラインを超え、ダブルフォルトだ。

 すべては、ザジがボールを打った瞬間、手塚がボールがまだ来ていないのに、その場で素振りをしたことで、ボールがまるで意思を持っているかのように伸びて、結局、ダブルフォルトになってしまった。

 この事態に、超とザジも冷たい汗を頬に流した。

 

「なるほど……もう、ソレを使えるとは驚きネ。手塚さん」

「確かに。日本の中学生が、これほどの域に達しているとは」

 

 超とザジも、手塚が何をしたのかを理解したようだ。

 今、コートで何が起こっていたのかを。

 

「ば、バカな、あの小僧! 中学生の小僧が、ここまでのものを習得しているというのかッ!」

「流石だ、手塚。やはり君は、いつも驚かせてくれる」

 

 そして思わず身を乗り出して驚愕の表情を浮かべているエヴァンジェリンもまた、ようやく手塚のやったことを理解したようだ。

 それは、その隣に居た、幸村も同じであった。

 

 

「「「「「ねえ、エヴァちゃん、いつも通り御願い」」」」」

 

「……う、うむ。あ~、先ほど、あのメガネの小僧の打ったボールを超鈴音が打ち返したとき、ボールが引き寄せられるようにコートの外に出ただろう? あれは、あの小僧がボールの回転を操ってそうさせたのだ」

 

 

 そして、もはやおなじみとなった、エヴァの解説コーナー。

 もう誰もが言葉を失って、エヴァに耳を傾けていた。

 

 

「そして今、あの小僧はそれと同じ原理このことをした。それは、スイングにより空気を打つ。空気を打つことにより、コート上に流れる空気や風の流れを操作して、ザジ・レイニーデイのサーブを包み込み、本来サービスラインに落ちるはずのボールを、サービスラインの外まで出したのだ」

 

「「「「「……………空気を……打つ?」」」」」

 

「さらに、立海の真田という帽子小僧と同じ、百錬自得の極みのオーラを使っている。オーラを伸ばして空気の流れを強化して……相手のボールを操る。アレは、テニス界におけるプロのトーナメントピラミッド、フューチャーズ、チャレンジャー、ツアー、マスターズ、グランドスラムという段階において、マスターズ以上のステージに立つためには必需と言われる技術だが……それをアマチュアの中学生がもう習得しているとは、驚きだな……」

 

 

 傍目から見れば、ただのダブルフォルト。

 しかし、その中身は、とてつもない技術の詰まった一ポイントだった。

 

 

「いや、あのさ、エヴァンジェリンさん、い、いま、その、トッププロには必需的なこと言ってたけど、……ひ、必需なのか?」

 

「その通りだ、長谷川千雨。プロの世界では、いかに相手の必殺ショットを打ち消してカウンターを叩き込むかが勝敗の鍵。相手の必殺ショットを封じずして勝利は無い。あのメガネの小僧のように空気やボールの回転を操ってボールを誘導したり、中には空間を削り取ってボールの勢いを完全に殺すや、色々とあるが……」

 

「はっ? 空間? ギャグだろ、それ? なに? テニスのプロって空気操ったり、空間削ったり? いや、なんでそんなこと真顔で言ってんの?」

 

「あの手塚国光という小僧……中学生でありながら、既にプロを意識したプレーヤーだな」

 

 

 既にプロを意識した選手。エヴァのその見立ては決して間違ってない。

 手塚国光は既にプロの世界から注目されている選手なのである。

 たかが日本のアマチュア中学生。

 しかし、手塚国光はただのアマチュア中学生ではないのである。

 

「手塚ァ……貴様……」

 

 この事態に、跡部はただ呆然とするしかなかった。

 だが、手塚はいつも通りに済ました顔で……

 

「どうした、跡部。ゲームはまだ終わっていないぞ? さあ、油断せずに行こう」

 

 この状況下でも、例えどのような現実が立ちはだかろうとも、いつもと変わらぬ手塚国光であり続ける。

 

 

「出たーッ! 手塚部長がスカイダイビングで開発した、エア・手塚ゾーンだ! いや、エア・手塚ファントムだ!」

「あのスカイダイビングで、新たな扉を開いたか。手塚、君は本当にいつも僕の前を行く」

「手塚の奴、いつの間にあんな技を!」

「ほんまにかなわへんな~!」

 

 その瞬間、言葉を失っていたテニス部員たちから、再び声が上がった。

 

「驚きました。しかし……何度も通用しませんよ!」

「その通りネ!」

 

 ザジが再びサーブを放つ。

 リターンは跡部だが、ボールにさえ直接触れないのであればルール上問題ないということで、手塚は再びエア・手塚ファントムを――――

 

「ここネ! 時飛ばしッ!」

 

 そう、超鈴音にはこれがある。

 手塚の編み出したエア・手塚ファントムは、ボールが接近してから事前にラケットを振ることで気の流れを変える技。

 しかし、その『時』を飛ばしてしまえば……

 

「見切っている!」

「「なっ……」」

「フォルト」

「「ッ!?」」

 

 だが、それでもザジの打ったサーブはフォルトだった。

 

「ば、バカな……ッ、なぜ!」

「ばかな、私が時飛ばしを発動しようとしたその瞬間に、エア手塚ファントムを発動させたヨ! なぜネ! なぜ私が時飛ばしをこの瞬間使うと……ッ!」

 

 それは、初めて見せる、ザジ・レイニーデイと超鈴音が見せる動揺だった。

 ザジのサービスゲームで、超鈴音がまさかの時飛ばしによる援護をした。

 しかし、手塚はそれを見抜いていたかのように、超鈴音が時飛ばしを発動させようとしたコンマ数秒前の刹那のタイミングでラケットを振りぬいて、エア・手塚ファントムを発動させていた。

 無論、ボールとの距離がまだ離れていたために、一回目よりもスイングの威力を強くして、気流を強くすることで対応したが。

 しかし、問題なのは、手塚が超鈴音が時飛ばしを行うタイミングを見抜いていたこと。

 それはどういうわけなのかと二人が思ったとき、手塚の姿にコートサイドからも声が上がった。

 

「手塚! あ、アレは、無我の境地の奥にあるもう一つの扉!」

「百錬自得の極みに並ぶ究極奥義……才気煥発の極み!」

「そうか、あの力で、手塚は超鈴音という子がやろうとしていることを予知していたんだ!」

 

 そう、手塚は才気煥発の極みを発動させていた。

 才気煥発の極みとは、頭脳活性型の力。相手の戦術を把握・シミュレートし、最短で何球目にポイントが入るか予言してしまうもの。

 つまり、手塚は才気煥発の極みによる予知の力で、超鈴音が時飛ばしを行うタイミングすらも予知していたのだ。

 だが、そこで一つ疑問が生まれた。

 

「で、でもさ、大石。才気煥発の極みって、ダブルスでは使えないって言われてなかった?」

「ああ。何故なら、あれは脳を活性化させる一方で脳にかかる負担が大きいと聞いている……一対一のシングルスならばまだしも、ダブルスで使うと、味方や相手二人の動きすらも予知しないといけないから……その負担に脳が耐え切れずに廃人になってしまうかもしれないと、手塚が口にしていた」

 

 才気煥発の極みはシングスルのみで有効な力。ダブルスになると、その負荷に耐え切れずに脳がオーバーヒートしてしまい、廃人になる恐れもある。

 だからこそ、ダブルスでは使えないのである。

 しかし……

 

「でも、サーブとリターン。一~二球程度であれば……」

 

 そう、何十球も続くラリーにしなければ。

 本来起こるはずの未来予知を捻じ曲げて、相手のフォルトのみ、もしくは、打っても一~二球程度で終わらせれば、脳の負担は軽減される。

 

「つっ、今度こそ! 時飛ば――――」

「見抜いているッ!」

「ッ!」

「……フォルト……これでダブルフォルトだな」

 

 そして、それが実行されたことにより、ザジの連続ダブルフォルトになった。

 

「う、うそだろ……手塚の奴……」

「ば、ばけもんか?」

 

 もはや味方からも歓声すら上がらなくなっていた。

 傍目から見れば、ただのザジの連続ダブルフォルトだ。

 しかし、その奥底にあるとてつもない手塚の力に、青学も、氷帝も、そして立海すらも言葉を失っていた。

 それは、麻帆良学園生徒たちも。

 魔法の世界に生きるネギたちも。

 ことあるごとに解説をしていた、エヴァンジェリンも。

 神の子とまで言われた幸村すらも、今の手塚国光に戦慄していた。

 

 

「こ、これはもう……エア・手塚ファントムとか、才気煥発の極みとか、そういう次元じゃない」

 

 

 手塚を長年見続けてきた青学の乾も、もはやノートを地面に落としてしまい、震える唇で呟いた。

 

 

「本来起こるはずの未来を予知し、それを捻じ曲げて、未来を改変する……正にタイムパラドックス……これが進化した手塚の究極進化奥義! 名前を付けるとしたら―――――――」

 

 

 ついに動き出したテニス界の至宝の更なる進化した姿。

 その姿に畏敬の念を込めて付けられた、新たなる名。

 

 

 

 

 

 

「手塚パラドックス」

 

 

 

 

 

 

 

 未来や魔の深遠にすら臆することなく、手塚国光が全てを解放するときが来た。

 


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