【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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特別アフター:ボウリングの王子様ー1

 12月に入り、徐々にクリスマスシーズン間近で街中がイルミネーションの飾りで賑わい始めた。

 そんな中、授業中の3-Aの教室では今日一日最後の五限授業でネギが英語を教えているのだが、一人だけ顔を赤らめながらソワソワして授業の終わりの瞬間を待っている生徒が居た。

 しかも、その表情はどこかデレデレ二へ~としていて、しまりがない。だが、その事情を知っているクラスメートたちからは、「イラッ」とした雰囲気が流れた。

 そして……

 

「あっ、チャイムですね。はい、では今日の授業はこれま――――」

 

 チャイムが鳴り、ネギが教科書を閉じた瞬間、その落ち着きのなかった生徒の神楽坂アスナはいきなり携帯電話を取り出してどこかに電話を始める。

 そして、数回のコールの後に出たであろう人物に、恋する乙女の顔で話しかけた。

 

 

「やっほー、ゲンイチロー。今、電話大丈夫? うん、そろそろ合宿終わったのかな~、って思って電話しちゃった♪」

 

「「「「「(けっ、彼氏に電話かよ。このリア充!)」」」」」

 

「で、合宿どうだったの? うん……うん、うんッ! うそっ! キャー、凄いッ! ゲンイチロー、代表に選ばれたんだ!」

 

「「「「「(しかも、彼氏、サラッと日本代表になってるし!)」」」」」

 

「えへへへ、すごいな~、ゲンイチロー。もう、私まですごい嬉しい。会えない間は寂しかったけど、今は凄く嬉しい! えへ、な~んてね!」

 

「「「「「(何が『えへへ』だゴラア! しかも、普段は決して使わない猫撫で声で喋りやがって、この猫かぶりアマッ!)」」」」」

 

 

 なんやかんやで、真田弦一郎と神楽坂アスナのカップル成立はあっという間に3-Aに広まった。

 

「ねえ、ネギくん」

「どうしたの、フェイト?」

「その、お姫様に彼氏が出来たのは知ってたけど……デレデレし過ぎじゃないかな?」

「ま、まあ、い、いいんじゃないかな? 真田さんは男気ある人だし、アスナさんも幸せそうだし」

「そうなのかい? まあ、いずれはその彼氏にも魔法世界で重要な役職についてもらう分、変な人でないのならそれでいいけど」

 

 副担任のフェイト以外は皆が真田のことを知っている。

 元々この二人なら時間の問題だろうと思っていたのでそこまで誰も驚いたわけではなかったが、最初は当然祝福した。

 しかし、最近はこの初彼氏ゲットによって有頂天になって、人目も憚らずにデレデレしまくるアスナに、今では彼氏の居ないほかのクラスメートたちからはイラっとされていた。

 しかし、そんな中でも別の反応を見せる生徒も居た。

 

「神楽坂さん」

「あっ、千鶴さん。うん、分かってる。でさ~、ゲンイチロー。他に中学生で誰が選ばれたの? うん。うん。あっ、切原くんも選ばれたんだ! だってさ、千鶴さん」

「まあ! すごいです。流石は私の赤也くん。それなら、今度お祝いをしないとダメですね!」

 

 ポンと手を叩いて聖母の微笑みを見せる千鶴。

 この数ヶ月間、テニス関係者たちと色々とあった一部の生徒たちは、同じようにリア充雰囲気を出していた。

 そして、アスナはそのまま他のメンバーについても聞き、選ばれた男と親しくなった者たちにウインクしていく。

 

「切原くんに……えっ、ブン太くんも? だってさ、良かったね?」

「おー、ブン太、すごーい! お祝いだ! ケーキ食わせろー!」

「おねーちゃん、私たちがお祝いしてあげないとだよー」

「ほー、ブン太やるアル」

「うむうむ、見事でござる」

 

 丸井ブン太と親しくなった、鳴滝姉妹。試合をした、クーフェ、長瀬楓。

 

「うわお、仁王くんも! 立海スゴッ!」

「ははははは、さすがですね、仁王さん」

「……あんな人を日本代表にして大丈夫ですか?」

 

 仁王と試合した、刹那に、ナンパされた夕映。

 

「木手くんも? ってか、亜久津くんまで!? 安全性という意味では大丈夫なの?」

「ほう、永四郎もかい。これはお祝いぐらいしてやらないとね」

「ちょ、あの亜久津くんが世界デビューなんて危なすぎますわ! 日本の品位が疑われますわ!」

 

 龍宮と雪広あやか。

 

「ふ~ん、それと、あの石田銀くんと、あの小太郎くんの友達の金太郎くんね……うわお、大石くんも!?」

「あら? へ~、大石君……すごいですね」

 

 大石にナンパされた葉加瀬。

 そして……

 

 

「いや、うん。その三人は選ばれるのはもう分かってたっていうか……ねえ、千雨ちゃん? 跡部くん、幸村くん、白石くんもだって」

 

「ケッ」

 

「えっ!? 手塚君は居ないの? えっ、合宿途中からドイツに? 千雨ちゃん、知ってた!? 手塚くん、プロになるためにドイツ行っちゃったんだって」

 

「ん、ああ、まあ(……本人から直メールで既に教えてもらってたの黙っておくか……つか、あの人、ドイツ代表に選ばれたんだけど、これも騒ぎになりそうだから、黙っておくか……)」

 

 

 モテ期の千雨。

 そう、アスナの電話によって、それぞれの親しい男たちの近況を知った。

 その他にも、

 

「う~ん、ジャッカルくんダメだったか~。しゃ~ない、慰めメールでも送ってやりますか」

「朝倉~、そういうのやるからジャッカル君も期待しちゃうんだよ?」

「桃ちゃん残念だったね」

「ユーナ、桃城君と仲いいね」

「宍戸君……」

「おいこら、円。あんた何チャッカリ、宍戸君と未だに繋がってんの?」

 

 とまあ、他にも親しくなった連中も居るわけで……そんなわけで、今のこのクラスはリア充組とイライラ組で分かれているのであった。

 

「でさ、ゲンイチロー、合宿終わっても海外でしょ? その間にどこかで会える? えっ、今日、麻帆良のボウリング? うん……うん! 行く! 絶対行くし連れてくから! うん、OK!」

 

 すると、その時、電話をしているアスナから何やら気になる単語が飛び出した。

 機嫌良さそうに鼻歌交じりで電話を切るアスナは、同時にクラスメートたちに聞く。

 

 

「ねえ、みんな! ゲンイチローたち、日本代表に選ばれた中学生メンバーで決起集会を兼ねてボウリングするんだって! 跡部君の提案で麻帆良近くのボウリング場でやるみたいなんだけど、皆、行かない?」

 

「「「「「行くにきまってんでしょーっ!」」」」」

 

 

 アスナのリア充ぶりにはムカつくも、そういうお誘いならば話は別。

 日本代表に選ばれるイケメンテニスプレーヤーたちと改めてお近づきにと、クラスメートたちは一斉に手を上げる。

 

「あと、千雨ちゃんは強制参加ね。逃げても無理やり連れてくから」

「ぶぼっ! は、はあ? 何でだよ! 何で私が!」

「んも~、跡部君と幸村くんと白石君が居るんだから分かるでしょ~? モテモテ~、このこの~♪ 羨ましいね~。あっ、でも私ゲンイチロー居るから別にいいけどさ♪」

「て、テメエ! ちょ、今のお前は超絶ウザくなってるぞ! これほどまでに爆発しろと思ったことは未だかつてねえぞ!」

「いーじゃん。いこーよ。それに、今日はただの『ボウリング』なんだから、『テニス』と違ってそこまで恐ろしいことはないって」

 

 そう言って、千雨を捕獲して、クラス全員とネギを含め、真田たちの居るボウリング会場へ向かう。

 

「ねえ、フェイトも行こうよ。アスナさんの彼氏に会えるよ?」

「まあ、そうだね。確かに興味あるから見に行こうかな」

「マスターも行きますよね? 放課後のクラス親睦会のボウリングも学校行事の一環ってことで封印を誤魔化せるでしょうし」

「ふん、まあ行ってやるか。幸村たちに祝いの言葉ぐらいくれてやるか。まあ、あいつらなら日本代表入りもおかしくはないだろうがな」

 

 しかし、一同は分かっていなかった。

 ボウリングというのは、彼女たちが想像していたよりも遥かに過酷で激しいスポーツだということを。

 

 

 

 

 

 

 そこは、かなり独特な雰囲気が既に発生していた。

 

「ピンよ、倒れんかーッ!」

「触覚と視覚が奪われた状態で倒せるかな?」

「ぷりっ」

「ストライク。どう? 天才的?」

「真っ白いピンを真っ赤に染めてやらァ!」

「ボウリングの球でドタマをカチ割るぞコラァ!」

「そのピン、消えるよ」

「ピンを倒せなければゴーヤ食わせるよ~!」

「大車輪山嵐ィ!」

「八式波動球ッ!」

「みんなやるね、こりゃ大変」

「ストライク。んん、エクスタシー。せやけど、大石君にはたまげたわ。パーフェクトやないかい」

「俺様のスローイングに酔いな」

 

 ボウリング場に足を踏み入れた瞬間に聞こえてきた声。

 顔を見ずとも声を聞くだけで、もはや3-Aの生徒たちは『誰が』『何を』言ってるのかがすぐに分かった。

 

「「「「「あそこだ……」」」」」

 

 そこには、「JAPAN」と書かれたジャージを羽織った男たちが居た。

 

「おお、ねーちゃんたちやないかー! こっちやこっちー! 誕生日会以来やないかー! 今日は小太郎おらんのかー!」

「あ、やあやあ、皆きてくれたんだね」

 

 既に何度かのイベントやらを通して親しくなった間柄。

 金太郎や大石たちがこっちに気付いて手を振ってる。

 少女たちやネギも手を振って答え、そして「日本代表入りおめでとう」という言葉がでかかった瞬間、

 

「ゲ・ン・イ・チ・ローッ!」

「ぬぐっ!」

 

 愛しの恋人にようやく会えたという喜びを全身から醸し出し、両手を広げて真田の腕の中へと飛び込もうと――――

 

「疾きこと―――――」

「ッ、あ、あれ?」

 

 しかし、それを真田は目にも止まらぬ速度で回避して、アスナは空振りした。

 せっかく会えたというのにハグを避けた真田に、アスナは頬を膨らませる。

 

「ちょっと、ゲンイチロー! 彼女とせっかく会えたのに避けるんじゃないわよ!」

「った、たわけええ! 公衆の面前の真昼間に婦女子がなんと破廉恥なことを! 不純な行為は控えんかあ!」

「なによ~、私たち、不純じゃないじゃん! もう、色々誓い合ったし、この契約を忘れたとは言わせないんだからね~?」

「ぬっ! なんだ、そのカードは! 俺が写っているではないか!」

「パクティーオカードよ。ゲンイチローと私がずっと一緒って証明書みたいなもんよ!」

 

 会って早々の喧嘩を始める。

 しかし、クラスメートたちにはこの喧嘩はイライラが募るだけだった。

 

「「「「「(けっ……爆発しやがれ)」」」」」

 

 だって、どう見てもラブラブカップルの痴話喧嘩にしか見えなかったからだ。

 

「なんや、アスナちゃん。手塚君たちの誕生会で会った時よりも、ごっつラブなオーラが出とるわ」

「ほう、何だかんだと時間がかかったが、あの野郎もようやく決めたか。アーン?」

「ふふふ、でも真田、彼女が出来た割にはまだまだ動きが悪すぎるよ」

 

 真田とアスナが「まあ、そうなんだろうな」ぐらいには認識していたものの、正式に交際していることまではテニス界も知らなかったようで、二人のこのやり取りには祝福の笑みを浮かべていた。

 一方で……

 

「アレが、アスナ姫の恋人かい? ネギくん」

「うん、そうだよ、フェイト。アレが、真田弦一郎さん。魔法使いじゃないけど、テニスがすごく強いんだよ?」

「いや、なんか、フツーに彼、かなりの速度でアスナ姫のハグを回避したけど……本当に普通の人間かい?」

「えっ? テニス選手って、みんなああいう感じじゃないの?」

「……ネギくん? なに? 君の中でのテニスってどうなってるの?」

 

 真田たちでテニスに対する免疫がついてきたネギは、特段今の真田の動きを驚くことはしない。むしろ、「流石は真田さん」と思うぐらいだ。

 ネギだけではなく、その他のクラスメートたちの反応もそう。

 フェイトはただ一人、「おかしいと思っているのは自分だけか?」という感じで首を傾げた。

 

「おっ、千雨ちゃん、来てくれたんか~」

「よう、来なければこの俺様が自家用機で迎えに行ってたところだぜ」

「やあ、こんにちは、長谷川さん。また会ったね」

「あのさ、白石君、跡部君、幸村君、日本代表おめでと。んで、私はもう言うこと言ったから、もう帰るな」

「待ってや千雨ちゃん、それはつれないな~」

「ふん、俺様から逃げられると思っているのか?」

「おやおや帰るのかい? でもすでに、視覚がないのに大丈夫かい?」

「うわああああ、何をやっても帰れないイメージがァ! 視界がああァ! やめろォ、幸村君!」

 

 白石、幸村、跡部に囲まれている千雨。

 

「ネギくん、アレは?」

「ああああああ、千雨さん! ちょ、待っててフェイト、僕行ってくる! あのおお、白石さん、跡部さん、幸村さん! 千雨さんが困ってるのでやめてあげてください! あと、幸村さんは五感を奪わないでください!」

「いや、ネギ君………ご、五感を奪わないでって……?」

 

 魔法も使えない一般人のテニス選手たち? なんだか妙な違和感を覚えるフェイトの回りで、女生徒たちとテニス勢との交流が始まっていた。

 

「亜久津くん。い、一応、代表入りおめでとうございますとは言わないわけにはいきませんわね。ですが、日本の代表となるからには、恥ずかしい態度や乱暴な発言などは控えるべきですわ! 太一君に悪影響が及ばぬように!」

「また、テメエかブルジョワ女ァ。俺に指図すんじゃねえ。ドタマ潰すぞ!」

 

 あやかと亜久津。

 

「今度一杯おごるよ、永四朗。世界でも負けるんじゃないよ?」

「おやおや、真名さんに応援していただけたら、百人力ですよ~」

 

 龍宮と木手。

 

「赤也くん。うれしいわ。本当にすごい。さすが、私の赤也くんね」

「へへ、千鶴さん、見ていてくださいよー! テニスという素晴らしいスポーツを世界の人たちにもっと分かってもらえるよう、俺、がんばるっす!」

 

 千鶴と切原。

 

「金太郎、海外は初めてアルか?」

「せや。う~、ごっつ楽しみや~! どんなおもろいやつがおるんやろな~!」

「仁王さん。あなた、海外で指名手配になるようなことはしないようにするです」

「証拠を残すようなヘマはせんぜよ、ユエ吉」

「まっ、楽しんでくるだろい」

「ブン太、頑張れー! 応援してるぞー!」

「やあ、和泉さん……だったかな? 手塚と跡部の誕生会で、くじ引きでペアになって一緒に二人三脚してくれた時は、ありがとう」

「ふァ!? ふっ、ふ、不二さん! あ、あの、お、おめ、代表入りおめでとうございます」

 

 その他にも三十名の女たちが十三人の男を取り囲んで、キャッキャと会話を盛り上げて親睦を深めていく。

 今こうしているとただの中学生。

 しかし、誰もがテニスコートに立てば鬼人のごとき力を見せる。

 そんな彼らの輪を見て、エヴァンジェリンはフェイトの隣でほくそ笑んでいた。

 

「エヴァンジェリン、あなたも彼らのことを知っているんだったね?」

「まあな。そもそも、あそこで長谷川千雨を囲んでいる男たちの一人、幸村はマギアエレベアを使った私にも勝ったほどだ」

「……テニスで……マギアエレベア?」

「しかし、流石は立海だな。全員とはいかないまでも、十三名の内、五人も見事代表入りするとはな。奴らのテニスを見て、世界も驚くだろうな」

「いや、ちょっと待ってくれ。今、……僕がすごい驚いているんだけど……確認するけど、テニス……だよね?」

「ああ、そうだが?」

 

 フェイトの疑問は、フェイトしか疑問に思っていないような空間になっていた。

 おかしいのは自分なのか? そう思ったフェイトだが、流石に見過ごせない事態が目の前で起ころうとしていた。

 

「おい、チビ助。俺様達、大人の男と女の会話に入るんじゃねえよ、アーン?」

「ぼ、僕は十歳ですけど……でも、ね、年齢は関係ないと思います!」

「そうかな? 年齢を無視するには、まだまだ動きが悪すぎるよ?」

「そ、そんなことないです! そりゃー、体育祭では五感を奪われましたけど……」

「ネギくん、堪忍な。そういうんかっこええけど、でも、まだまだ動きに無駄が多いで」

 

 何やら、不穏な空気漂う跡部、幸村、白石、ネギの四人組。千雨は「逃げてェ~」と呟いている。

 すると、一般人とは次元の違う世界最強の領域に居るネギがムッとした顔で全身から魔力を解放している。

 

「確かに僕は子供かもしれませんが、だからって困っている生徒を……困っている女性は放っておけません!」

「アーン? 困ってる女だとか、生徒とか、そういう言い訳くさいこと言ってる時点でテメエはガキなんだよ」

「ち、違います!」

「なら、得意な中国拳法パンチでも打ってみな。体育祭の時みたいに見切ってやるぜ」

「ッ~、そ、それなら、望むところです!」

 

 跡部が挑発してネギが腰を下ろして拳を握る。

 

「ちょ、まさか、ネギくん!」

「心配するなフェイト。ボーヤとて全力では打たんし、奴らをナメすぎだ」

「いやいやそうは言っても!」

 

 ネギの力を誰よりも理解しているフェイトだからこそ、魔法も気も使えない一般人に対してその力を振るうことがどれほどのことかを理解している。

 だが、エヴァも回りも特にそれを止めようとはしない。それは、一種の信頼のような雰囲気だ。

 そして……

 

「いきます! 僕の崩拳!」

「はん、動きがスケスケじゃねえの!」

 

 ネギの拳。当たれば大人も軽く壁まで吹き飛ばされるほどの威力。

 それを跡部が笑って避けようとする。

 だが、その時だった。

 

 

「ちゃい」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

 その時、誰もが予想もしない人物が、二人の間に入った。

 現れたのは、色黒の長身の男。

 

「ッ!?」

「あんた……」

「ネギくんの拳を!」

「誰だ、あの男は!」

「誰アル!」

「何者?」

 

 その男は、突如二人の間に入り、テニスラケットのガットで、ネギの強力な拳を軽々と受け止めて、その威力を、いなして無にした。

 

 

「ボウリング場でケンカはアカンで~」

 

 

 苦も無くネギの拳をテニスラケットで受け止めた男は笑ってネギの頭をポンポン撫でる。

 その男は、真田たちと同じ「JAPAN」という文字が入ったジャージを着ていた。

 

「赤也くん、お知り合い?」

「ッ、あの人は!」

 

 誰だ? 誰もがそう思ったとき、テニス勢が目を見開いて驚いた表情を浮かべる。

 

「あの人は、本来は一軍なのに飛行機が嫌いで海外遠征に行かなかった種子島修二!!」

「長い長い……」

 

 そう、その男は……

 

「ゲンイチロー……」

「うむ、あれは、種子島先輩。我らU-17日本代表の高校生チームの男だ!」

「こ、高校生チーム!?」

 

 高校生の日本代表。それは、真田や自分たちより上の世代のテニス選手ということだ。

 その言葉にネギの生徒たちもザワつく。

 同時に、真田たちも疑問を浮かべる。

 

「種子島先輩、どうしてこちらに?」

「ん? 面白そうなこと起こりそうやから、来てみただけや。みーんなでな」

「……み、みんな?」

 

 面白そうだから来てみた。ユルイ笑みを浮かべてそういう種子島に真田たちに動揺が走る。

 そして、その時だった。

 

「っ!?」

「……エヴァンジェリン? ……ッ!」

「な、なんでござる?」

「なんだ? 尋常では何かが……」

「近づいてくる」

「ッ!?」

 

 何かが近づいてくる。言いようのないプレッシャー。

 それに気づいたのは、エヴァンジェリン、フェイト、長瀬楓、龍宮真名、桜咲刹那、ザジ・レイニーデイ、クーフェ、ネギなどだ。

 そして……

 

 

「ふん、男は女が居ることで、殻を破るか堕落するかに分かれる。だが、まるで幼稚園児たちのお遊戯を見せられている気分だぜ」

 

 

 貫禄と覇気を纏った声が聞こえてきた。

 全員がその声に反応して一斉に振り向くと、そこには十人以上の男たちが立っていた。

 誰もが、真田たちと同じ「JAPAN」の文字が刻まれたジャージを纏っている。

 

 

「青二才共ォ! 少しは男として一皮むけたんだろうなァ!!」 

 

 

 そして先頭の、髭面の金髪の男が声を荒げた瞬間、ネギの生徒たちは一斉に声を上げた。

 

 

「「「「「なんかすごいのがきたあああああああああああああああああ!?」」」」」

 

 

 現れたのは14名の男たち。

 そう、彼女たちの前に、U-17日本代表の高校生チームが現れたのであった。

 

「な、なんだ? あの男……いや、あの先頭のヒゲ男もそうだが……あの後ろに居る鬼のような男も……阿修羅のような男も……こいつら!」

「エヴァンジェリン……この殺意……彼ら……テニス選手だよね?」

「知らん。この私も奴らは初めて見るのでな。ふ……なかなか面白そうなのが出てきたではないか!」

 

 エヴァンジェリンやフェイトすら頬に汗かくほどの威圧感漂う男たち。

 もはや、インパクトが強すぎて、女生徒たちもどう反応していいか分からなかった。

 

「ね、ねえ、ゲンイチロー……」

「あの方は、我らU-17日本代表の総大将でもある、お頭。高校生日本最強の男、平等院鳳凰」

「に、にほん、さいきょ! お、おかしら? ほ、ほうお……こ……高校生いいいいいいいいいいい!? アレで!? 高畑先生よりも年上に見えそうなのに! ゲンイチローも老けてるとはいえ……そ、それ以上!」

 

 もはや何から驚けばいいのか分からないこの状況下、現れた平等院鳳凰が、真田や跡部を見る。

 

 

「青二才共。貴様らが女どもと遊ぶと聞いて、様子を見に来たが、なんだこのザマは!」

 

「「ッ!?」」

 

「未だ恋愛ごっこの領域すら抜け出せぬ男たちに世界は獲れんのだ!」

 

 

 突如現れ、そして威圧感の嵐を吹き荒らしながらよく分からんことを言う男。

 しかし、この威圧感を前にして、ツッコミ役の千雨すら不用意にツッコめずにいた。冗談ではなく、ツッコんだら殺されると思ってしまうほどの圧。

 もちろん、高校生組にはイケメン男子も当然混ざっているのだが、誰もキャーキャー言える雰囲気ではなかった。

 だが、その時、タマゴ頭の男が前へ出た。

 

 

「お頭、お言葉ですが俺たちは一部を除いて恋愛関係になっているわけではありません。しかし、彼女たちとはこれまでいくつもの企画やイベントなどを超えて、多くのことを知り合った気を許せ、そして信頼できる友だと思っています!」

 

「ほう」

 

「我々を一目見ただけでその絆を軽んじるのは、お頭と言えども許せません!」

 

 

 その時、表情をキリッとさせ、手にはマイグローブを付けたタマゴ頭の男が、平等院鳳凰に意見した。

 

「ちょ、大石君!」

「な、こ、殺されんじゃないのか?」

「なんや、大石君、ボウリング場に来てから、テニスの時よりメッチャオーラあるわ」

「大石にしては言うじゃねーの。アーン?」

 

 いつもは冷静沈着で大人しい母親のような大石が、この瞬間だけ男になった。その意外な姿に誰もが目を疑った。

 

「のぼせ上がるな、小童どもが。だが、なかなかいい目をするな、ハゲ坊主。しかし、その言葉と瞳が偽りならば、世界で死ぬぞ?」

 

 その時、平等院鳳凰が笑い、一同を見渡してある提案をする。

 

 

「ならば、試してやる。そして、お前たちが殻を破れるかどうかを見定めてやる! これより、第一回中学生男女と高校生のボウリング戦争を行うッ!」

 

「「「「「ぼ、ボウリング戦争ッ!!??」」」」」

 

 

 突如、平等院鳳凰によって提案されるボウリング対決。っていうか、なんで戦争? 誰もが疑問だらけで言葉を発せない中、一人の爽やかな高校生が前へ出た。

 

「では、交渉は私から」

「あっ!? あの人、見たことある! CMとかに出てくる……確か、君島育斗だ! キミ様じゃん!」

 

 現れたのは、テレビCMなどにも出るスター選手。コート上の交渉人の異名を持つ、高校生の君島。

 

 

「中学生代表は、後ろに居るお嬢さんたちから一名を選んでペアを組みなさい。そのペアと私たち高校生一人一人とゲームをします。ゲームは2フレーム。高校生組は2フレームをひとりで投げます。対して中学生組みは1フレームずつペアの女の子と投げなさい。倒したピンの合計が多い方が勝ち。共に同点なら引き分けとします」

 

 

 淡々と即興のルール説明を行う君島。それに付け加えるように平等院鳳凰が口を開く。

 

 

「青二才共、これは俺たちが特別に与える世界戦前の試練だ。女の存在を堕落ではなく力に変えてみろッ!」

 

 

 平等院鳳凰が猛る。その瞬間、有無を言わさず、ボウリング戦争の幕開けとなる。

 

「面白そうじゃねーの、アーン?」

 

 売られた勝負。

 男たちの目は、ヤル気に満ちている。

 そして男たちは動く。

 

「おい、白石、テメエは前に二人三脚したし、幸村、テメエは体育祭の後夜祭で踊っただろ? 次は俺様だ。なあ? 長谷川千雨」

「いや、いやいやいやいや、私やらねーから! いや、テニスよりはボウリングの方が安全だろうけど、なんか嫌だ!」

「しゃーないのう。せやけど……勝てそうな女の子選ばんとな~……せやけど、女の子に話かけるんは……テレテレモジモジ」

「面白そうです。手を貸しましょう、白石さん」

「くっ、彼が誰と組んでもその人を傷つけることになりますわ……なら、クラスの仲間を守るためにも……行きますわよ、亜久津くん!」

「はあ? おいこら、何を勝手に!」

「桜咲はボウリング苦手と言ってた……じゃけん……あの、夕映さん、僕とペアを組んでもらえませんか?」

「え、ねね、ネギ先生!? わ、私で良ければ……」

「永四朗。私が組んでやるよ。特別に、仕事料は取らないでやるよ」

「おやおや、それは頼もしいですね~」

「今日は超鈴音さんはいないか……なら、和泉さん、二人三脚で負けたリベンジのためにも、組んでくれるかな?」

「はううううっ!? ふ、ふ、不二さん! せ、せやけど!?」

「当然、私だからね、ゲンイチロー!」

「仕方あるまい」

「くっ、ハカセさんがいつの間にか居ない……なら、ここは……茶々丸さん」

「ふむ、大石さんと私がボウリングで組めば……勝率100%……分かりました、組みましょう」

「君は体育祭で、俺が視覚や触覚を奪っても、頑張っていい動きをしていたよね? 今日は俺と一緒に戦ってくれないかな?」

「えっ、わ、私ですか? ……でも、クラスの誰かが出なければならないなら……わ、分かりました、一緒に戦います」

 

 参加したくない。しかし誰かはやらねばならぬ。

 そんな思惑が働き、とりあえずペアが決まった。

 

「では、ペアが決まりましたら、対戦はくじ引きでランダムで決めます。それでよろしいですね?」

 

 そして、ランダムで選ばれた対戦カードも同時にだ。

 その結果……

 

 

 

真田弦一郎&神楽坂アスナVS種子島修二

 

 

丸井ブン太&鳴滝風香VS越知月光

 

 

白石蔵ノ介&ザジ・レイニーデイVS徳川カズヤ

 

 

亜久津仁&雪広あやかVS大曲竜次

 

 

遠山金太郎&長瀬楓VS伊達男児

 

 

幸村精市&大河内アキラVS入江奏多

 

 

不二周助&和泉亜子VS鬼十次郎

 

 

仁王雅治&綾瀬夕映VS君島育斗

 

 

石田銀&古菲VSデューク渡邊

 

 

大石秀一郎&絡繰茶々丸VS中河内外道

 

 

木手永四郎&龍宮真名VS袴田伊蔵

 

 

切原赤也&那波千鶴VS遠野篤京

 

 

跡部景吾&長谷川千雨VS平等院鳳凰

 

 

 

 

 という、オーダーが決まったのだった。

 しかし、こうしてすべてが決まったと思った瞬間、君島はとてつもないことを付け足す。

 

 

「ちなみに、負けた方は罰ジュースを飲みます」

 

 

 罰ジュース? その時、いつからそこに居たのか、乾、柳、そして麻帆良勢は初めて見るであろう、高校生の三津谷あくと。そして更にいつの間にか、ちゃっかりとハカセがそっちのグループに居た。

 

 

「罰ゲームはこの栄養満点なエナジードリンク……デッドブル……」

 

「「「「「でっ、でっど!?」」」」」

 

「さあ、毛利くん。御願いします」

 

 

 透明グラスに入れられた、色々と色がヤバく変質したドリンク。高校生組も若干引き気味。

 それを、人数の関係上対戦相手が居ない日本代表の一人の毛利という男が手を伸ばして指先で舐めた瞬間。

 

「ちょ、ちょっとだけや……ペロ……ッ!? ンモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

 牛になった……

 

 

「ふっ。とまあ、あんな感じになります」

 

「「「「「「なんかサラッと冷静に言われた!?」」」」」

 

 

 人一人が牛になったのに冷静過ぎる君島に、一同は戦慄した。

 

 

「で、中学生組にも飲んで頂きますが……これを使って飲んで戴きます」

 

「「「「「ッ、そ、それはッ!?」」」」」

 

「枝分かれしたハートストローです。これを使って飲んでいるシーンを、動画サイトの『テニチューブ』で全世界に流します」

 

「「「「「テ、テニチューブ!?」」」」」

 

 

 君島育斗はストローを取り出した。それは吸い口は一つなのに、飲み口は二つに枝分かれされている、カップル御用達のハート型ストローであった。

 

 

「半端な愛では世界は獲れんのだ。後世に残る羞恥を晒したくなくば、命懸けで越えてみせるがよい!」

 

 

 誰もが、あんなストローを使って飲むなどという恥ずかしいことはしたくない! 

 絶対に負けられないという想いと共に、ボウリング対決が幕を開けた。

 




ボウリング大会やら、高校生組みやらの要望がありましたので、まとめて書いてみました。
正直、高校生組みのテニスは書くのが無理と判断して、平和(?)なボーリング大会にしました。
これなら、ちゃっちゃと終わりますし、二~三話ぐらいでまとまるかなと思います。

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