【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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特別アフター:ボウリングの王子様ー4

 ボーリング場が、戦火に巻き込まれたかのように、破壊されていた。

 それでも戦いは終わることなく、死闘は続いていた。

 そして今、か弱き少女の目の前には、鬼が現れた。

 

「さあ、上げて来いやー!」

 

 鬼十次郎。

 鬼神のごとき圧倒的な威圧感と破壊力で、高校テニス界のトップの領域に踏み込んだ男。

 その風格は魔法に生きる者たちにも、僅かな汗をかかせた。

 

「鬼のオーラが見える……先ほどの阿修羅の小僧といい、こいつもまた、傑物だな」

「はい。あれほどのオーラを出せる人は、そう居ないと思います。さすがは、高校日本代表ですね」

「エヴァンジェリン……ネギくん……テニスって、なんなんだろうね……」

 

 もう、何がどうなってるのかまるで分からないフェイトは、表情こそクールではあるが、ガックリと項垂れた。

 そんなフェイトの肩に、長谷川千雨が手を置いた。

 

「……よかったぜ。まともな反応する奴が居て……」

「長谷川千雨?」

「私も数ヶ月前はそうだったからな」

 

 立海との練習試合では、正に自分も今のフェイトと同じように、ツッコミを入れるばかりだった。

 あの時の自分とダブって、千雨は同情と共感をフェイトに抱いていたのだった。

 

「ひ、ひいい! なな、なんや、この人ぉ! お、おおお、鬼やァ! ここ、恐い、こ、殺される!? 魔法世界の完全なる世界の人たちより、ある意味恐い!」

 

 一方、鬼の圧倒的な威圧感を前に半泣きになって震える、和泉亜子。

 その姿に、クラスメートたちも同情せざるを得なかった。

 

「やっば、亜子の奴、完全に飲まれてるじゃん!」

「亜子も魔法世界で色々な困難を乗り越えたのに……」

 

 今年の夏休みに人生を変えるほどの大きな世界と戦争に巻き込まれた、和泉亜子。

 しかし、まさか現実世界のボーリング場で、たかが三つしか違わない男に恐怖を抱くとは思っていなかった。

 

「大丈夫だよ、和泉さん」

「ッ!!?? 不二くん!?」

「ボーリングは相手との戦いじゃない。ボーリングは自分との戦いだよ。相手は関係ないさ」

「う、うう、せ、せやけど、う、ウチ、牛にはなりたないですし……不二くんは、そういうの無効化できるかもしれませんけど……」

 

 そんな和泉の肩に優しく手を置き微笑みを見せる、不二周助。

 

「大丈夫だから。ね?」

「はうっ!?」

 

 何の根拠もない「大丈夫」という言葉。

 しかし、一切の淀みもなく、爽やかに微笑まれると、急に亜子から恐怖がなくなっていた。

 それどころか、自分のこれまでの人生でもトップクラスに入る美形に目の前で微笑まれると、また別の胸の高鳴りがおこった。

 

(はわあ、不二くん……ネギくんの大人バージョンのナギさんみたいに、優しくて、王子様みたいで……それでいて、その瞳はとても強い……ほんま、かっこええ……二人三脚やったときから思ってたけど、やっぱりウチ、くんに……)

 

 ポーッとした顔で呆ける亜子の姿に、早乙女ハルナの触覚がピコンと反応。

 

「おんや~~~? ほうほう、……ラブ臭が」

「「「「いや、もうこんなの見てるだけでモロバレじゃん」」」」」

 

 ハルナだけでなく、クラス全員が目を細めながらツッコミを入れた。

 

「しかし、ボーリングは不二にとって不利だな。カウンターパンチャーの不二にとって、相手の力を利用しないボーリングは不利なはず。さらに、風を使っての技も、室内では使えない」

 

 しかし、そんな少女の微笑ましい様子に水を差すように、大石が冷静に状況を分析していた。

 ボーリングは自分の力でボールを投げてピンを倒す競技。故に、カウンターを得意とする不二にとっては、あまり得意な分野ではないだろうと、大石は予想した。

 

「君は僕が守るよ」

 

 だがしかし、カウンターが使えなくても、この男は、天才・不二であることには変わりない。

 

「鳳凰返し!」

 

 それは、相手のトップスピンボールを逆回転で打ち返すことによって、全く弾まぬボールを打つ、不二の必殺ショット。

 

「バカな、相手の力もなく、鳳凰返しだと!?」

「いや、不二は無回転のボールにもラケットの面を広く使うことで燕返しを打ったことがある。それの応用で、自ら手首の力を使ってボールを回転させることによって……」

 

 さすがは天才不二と誰もが息を呑んだ。相手の力を使わなくても必殺が放てるという技術。

 しかし、ふと皆が思った。

 

((((すごい勢いでボールが転がって……でも、ボーリングは転がす競技だから、あんま関係ないんじゃ……))))

 

 一瞬スゴイと思ったものの、結局普通のボーリングではないかと誰もが思った。

 しかし、その疑問は次の瞬間に消し飛んだ。

 

「見て! 不二くんの鳳凰返しで、ボールが勢いよく回転して、れ、レーンのど真ん中に、痕が!」

 

 そう、不二の放った一投は、ピンへ真っ直ぐ進むだけでなく、通過するレーンに摩擦熱で線を作っていた。

 確かにこれだけでは何の意味もないかもしれない。

 しかし、不二の投げた一投がストライクになった瞬間、不二は微笑んで亜子に告げる。

 

「さあ、和泉さん。君は、あの線上にボールを投げてくれればいいよ。そうすれば、真ん中に行く」

「ッ!!??」

 

 それは、自らがストライクを取るためでなく、パートナーのためにと作った道であった。

 

「そうか、不二の奴、それであんな投げ方を!」

「カウンター主体の不二が、あれほど攻撃的なボーリングをするなんて……」

 

 あの線上にボールを投げればストライクに近い本数を倒せて、ガターの心配もない。

 その微笑みと心遣いに、亜子はもはや陥落したのだった。

 

「ほう……べらぼーにおもしれーじゃねえか……不二周助……守りのプレーヤーだったお前が、随分とアグレッシブじゃねえか」

 

 不二の行いに小さな笑みを浮かべる鬼。

 優しいだけではなく、確かな強さと決意を秘めた不二の姿に、鬼も武者震いしたようだ。

 しかし、鬼は告げる。

 

「いい面構えだ。だが……あまり生き急ぐな!」

「ッ!?」

 

 ボーリングは、本来、数歩助走をつけてからボールを転がす競技である。

 しかし、鬼十次郎はまったく助走をせずに、その場で片足ジャンプし、ボールを自分の脇から前へ押し出すようにして投げる。

 

「出たー、鬼先輩の必殺技、ブラックストライク!」

「ボールの勢いが半端じゃねえ!」

「流石は鬼の兄ちゃんや!」

 

 転がすはずのボーリングのボールが、まるで波動砲のように放たれて、ピンどころか奥の壁をも打ち抜いていく。

 徳川、デューク、そして鬼と、ただピンを倒すだけではなく、相手にも精神的な揺さぶりをかけるかのような破壊力であった。

 

「ッ……」

「す、すごっ!?」

 

 この衝撃には、流石の不二も冷や汗をかき、亜子は惚けた表情から再び恐怖を蘇らせてしまった。

 

「おい、不二周助。覚えておけ。この世には……守るだけでは勝てない戦いが存在する」

「……先輩……」

「それを胸に秘めて世界と戦うんだな」

 

 守るだけでは勝てない。それは、不二にとっては、正に的を射た言葉であった。

 今までのように守る自分の戦い。

 しかし、今までと同じでは勝てない相手が存在する。

 

「……はい……」

 

 このとき、不二の脳裏に思い描いたのは一人の男。

 青学の部長としてこれまで自分たちを率い、そして今、その全てから解放されて自分の夢を追い求めて旅立った男。

 あの男と戦うためには、今までと同じ自分ではダメだ。

 鬼はそのことを改めて不二に思い知らせたのだった。

 

「ううう、ウチ、ウチら、まま、まだ、負けてへんよ、ふ、不二くん!」

「ッ……和泉……さん?」

 

 その時、鬼に洗礼を受けた不二を、今度は亜子が奮い立たせるように叫んだ。

 

「う、ウチだって、守られるだけやないもん! ふ、不二くんがウチのために残してくれたあの線を使って……ストライク取って見せる!」

 

 恐怖で怯えていたはずの亜子が、恐怖を抱きながらも勇ましく叫んだ。

 

(せや、このままじゃアカン。魔法世界でネギくんたちに守られてばかりで……これまでも不二くんに助けてもらって……ウチだって……ウチだって! 鬼さんなんか、怖くない!)

 

 その瞳は、勇気が籠っていた。

 

「和泉さん……うん……そうだね……」

 

 不二はそんな亜子の姿を見て、大切なことを気付かされた。

 

(そう……僕も忘れていたな……挑戦する心……立ち向かうということを……)

 

 プルプルと震えながらも、懸命にボールを投じる亜子。その懸命な姿に、不二は思わず笑みを浮かべていた。

 

「だ~~~、倒れてぇ~~……っ……八本……」

 

 無論、どれほど勇気を振り絞って挑戦したところで、結果が必ずしも伴うとは限らない。

 

「あっ、惜しいぃ! もうちょっとだったのにィ!」

「ボールの勢いが足りないか~、八本……次にあの鬼の人が十本倒したら……」

「いやあああ、不二くんが牛になるのなんて見たくないよー!」

 

 亜子は不二の残した線を利用して真っすぐボールを投じたものの、惜しくも二本のピンを残して、ストライクとはいかなかった。

 

「うう、そんな……ごめん……不二くん……ウチ、あんなエラそうに……なのに……」

 

 この結果に、亜子は悔しそうに涙を浮かべる。

 だが、不二は結果については気にしなかった。

 

「そんなことないよ、和泉さん」

 

 もっと、大事なものを鬼と、そして亜子に教えて貰ったからだ。

 

「二人三脚……ボーリングと続いて……次はいつになるか分からない……でも……今度こそ……一緒に戦って、一緒に勝とう。和泉さん」

「不二くん……」

「僕も、もっと君と一緒に戦えるぐらい強くなるよ」

 

 守るだけではない。一緒に戦い、そして勝とう。

 

「うん、ウチも……もっと強くなる……今度こそ、不二くんを牛にせんように……」

 

 自分も変わろうと、不二は自分自身に誓い、亜子と約束し、亜子も涙ながらに頷いたのだった。

 

「ん?」

 

 しかし、その時、亜子はあることに気付いた。

 

(あれ? これで、鬼さんが十本倒してウチら負けるやろ? 牛になるやろ? でも、その前に…………アアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?? あのラブラブストローで不二くんとジュース飲まなアカンッ!!)

 

 そう、亜子自身、自分が牛になることも、不二を牛にしてしまうことも嫌だった。

 だが、牛になることと引き換えに、既に世では絶滅したと思われるラブラブストローを気になっているイケメン男子と飲むということに、動揺してしまった。

 

(せせせ、せや、あ、アレを、不二くんと飲むんや……顔近づけて……見つめ合って……そんなん、ええんか!? っていうか、不二くんはきっと女性ファンも多いやろうし、ウチ、明日になって殺されるとかないんか!? だって、不二くん、噂ではバレンタインチョコを8000個も貰うような人やし! でで、も……不二くんと……えへへへ……)

 

 急に亜子が顔を真っ赤にして、テンパったり、ニヤけたり、しかし顔を青ざめさせたりと百面相を見せる。

 

「「「「「亜子……分かりやすすぎ……」」」」」

 

 その様子をクラスメートたちは甘酸っぱいものを見るような目で苦笑していた。

 だが、しかし!

 

「やれやれ……怯えた嬢ちゃんの涙は、思わず手元が狂っちまうぜ」

「……えっ?」

 

 この時、亜子の様子を「罰ゲームが嫌で動揺している」と解釈し、「鬼の優しさ」、「鬼の情け」を見せる男が居た。

 

「ブラックガター!」

 

 黒い大砲が一直線に進む。

 

「……へっ?」

 

 だが、そのボールはレーン場を進むも、ピンが立つピンデッキの真上の屋根となっている壁に陥没。

 

「ちい、乙女のハートがこの俺の手元を狂わせた……命拾いしたな……不二周助……嬢ちゃん……今日は俺の負けだぜ」

「……鬼先輩……」

「男が泣いていいのは悲願が成就した時だけ……だが、女は別だ……」

 

 鬼十次郎。二投目ゼロ本。それを、何故かサムズアップしてキランと瞳を光らせて、鬼は告げた。

 

「ちっ……だから、貴様は甘いというのに。義では世界は獲れんぞ……鬼」

 

 平等院が舌打ちしながら呟いた。

 そう、誰の目にも明らか。今の鬼の一投はどう見てもワザと。

 牛になりたくないと泣いている亜子のためにという、鬼の優しさであり……

 

「……う、ううう……ふ、不二くんとの……ストロー……」

 

 余計なお世話であり、なんとも残念な結果になってしまったことに、亜子は蹲り、そして……

 

 

「「「「この、おっさん空気よめええええええええええええええ!」」」」

 

「上げてこうもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 鬼十次郎。女子中学生たちから大ブーイングをくらって、牛になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方、鬼が牛になっていた頃。

 

 

 そんな光景が繰り広げられている裏で、新たなる戦いの下準備が始まっていた。

 

 

 

 

 

「まったく、何故、私があんな詐欺師とペアを組まないといけないですか……」

 

 戦いの最中、自分の出番までの少しの間、トレイに立った綾瀬夕映。

 

「大体、あんな詐欺師を日本代表にするなんて、テニス界は何を考えているですか」

 

 夕映は、自分がこの後にボーリングで戦うことと、そのパートナーが自分の天敵とも言うべき、仁王であることに不快感を示していた。

 すると、そんな夕映に一人の男が声をかけた。

 

「あなたの言う通りです。彼のような人に、日本代表は相応しいと思いません」

「ッ!!??」

 

 トイレを終えて皆の所へ帰ろうと思った夕映の前に一人の男が現れた。

 

「あなたは……」

 

 爽やかな容貌で、メガネをかけ、そして落ち着いた雰囲気を纏った男。

 テレビなどで夕映もその人物を知っている。

 

「はい、高校生代表……君島育斗です」

「は、はあ……」

 

 そして、その男こそ、自分と仁王のボーリングの対戦相手でもある。

 そんな人物が戦いの前に自分に何の用かと夕映が不思議に思っていると、君島育斗は予想外の言葉を口にした。

 

 

「綾瀬夕映さん。あなたと交渉に来ました。私の目的、それは……仁王雅治を日本代表から追放することです」

 

 

 いくら仁王嫌いの夕映とはいえ、その言葉には流石に驚きを隠せなかった。

 

「ど、どういうことですか?」

「彼のような詐欺師と同じ日の丸を背負うことを、私は前からよく思っていませんでした。このボーリング対決を期に、彼を日本代表から追放したい。そこで、あなたにも協力を御願いしたいのです」

「そ、そんな……だ、だからって……」

 

 まさか、いきなりそのような交渉を持ち出されるとは思わず、戸惑いを見せる夕映。

 そんな夕映に対し、君島は……

 

「協力していただければ、あなたの恋愛を成功させましょう」

「え、れれれ、恋愛? ど、どういうことですか!?」

「あらゆる交渉ごとを進めるための情報は既に私の頭の中に。あなたとネギ・スプリングフィールドくんの恋愛です」

「ッ!!?? ななな、なにを言ってるですか! そ、そもそもそんなことが、かか、可能……」

 

 まさかの交換条件に、夕映は顔を真っ赤にして目を回してしまう。

 ネギと自分の恋愛を成功させる? そんなことが可能なのかと、思わず身を乗り出してしまった。

 

 

「まず、あなたが今、彼に告白しても、好きな人が居るという理由でフラれるでしょう。ですので、まずは彼にさっさと失恋させることです。彼の想い人は告白されてもそれを受け入れないでしょうから」

 

「そそそ、そうなんですか?! いえ、というより、ネギ先生の好きな人とは!?」

 

「その情報は、契約成立後の先渡し報酬とさせてください。そして契約履行後の成功報酬には、彼が失恋するための手順、そしてあなたを私のコネクションを使ってメイクアップし、素晴らしい女性にしましょう」

 

「はうっ!?」

 

「そして、さらに今なら特別サービス。……まだ日本の認可は下りていませんが、海外で新開発された、尿漏れを治す薬もつけましょう」

 

「ッッッッ!!!???」

 

「まあ、あなたにはそのためにワザと負けていただいて、牛になってもらう必要がありますが、しかしその分の報酬は弾むつもりです」

 

 

 交渉を成功させるため、相手に対してメリットを提示する君島。

 その悪魔のような報酬に夕映はどんどん吸い寄せられてしまう。

 

「は、はうわ、ね、ネギ先生との恋愛成功……尿漏れ対策……し、しかし、そ、そんなこと、で、う、裏取引など……」

「裏取引? これは、最悪な詐欺師を日本代表から追放するという正しき行為ですよ? 何を後ろめたいと思うのです? テニス界のため。いえ、日本のために、是非とも協力していただきたい」

「そそお、その通りかもです……たた、確かに、あんな詐欺師……あんな詐欺師……に、ニホンノタメニ……デス……」

 

 そして、夕映自身も、仁王はそもそも悪い詐欺師なので、逆に追放することこそが日本のためであって、協力することに何の問題もない。むしろ、協力すべきであると思うようになった。

 そう、決して自分は報酬につられたからではなく、日本とテニス界のためにと……

 

「あれ~? 夕映さん、こんなところで何をやってるんですか?」

「ッ!!??」

 

 と、そんなコート外での交渉が行われているところで、ネギが現れて、夕映は驚いて飛び跳ねてしまった。

 

「おやおや……」

「えっと、高校生の……君島さんでしたよね? 夕映さんと仁王さんの対戦相手の……その、何のお話を?」

「ふふふ、それは、ひ・み・つ、ということで」

「む~、何か怪しいですね~」

 

 二人で何の会話をしていたのだと、怪しむネギ。

 夕映も急に現れたネギを意識してしまい、顔をまともに見れなかった。

 すると……

 

「まあ、いいです。とりあえず、夕映さん、出番です。頑張ってください、僕、応援しますから!」

「ッ、ね、ネギ先生……」

「夕映さんは仁王さんが苦手みたいですけど、でも、夕映さんならきっと大丈夫です。普段はどういう間柄でも、一度仲間になれば、全力で協力し合って戦う。それが、夕映さんですからね。そんな夕映さんだからこそ、僕は尊敬しているし、信頼もしています」

「なななっ!? ね、ネギ先生!?」

 

 思わぬネギの発言に、夕映は胸がズキンと痛んだ。

 なぜなら、自分は、君島に八百長を求められ、パートナーを裏切って、八百長を受けようとしていたからだ。

 

(わ、私は、な、何を考えていたですか。仲間を裏切って……ッ、そんな人が、ネギ先生の隣に立つ資格なんてそもそもないのです!)

 

 仲間を裏切るような醜い女。それは、ネギの信頼をも裏切るということだ。

 そんな女がどう頑張ったところで、ネギの隣に立てるわけがない。

 それを理解し、夕映は決意を秘める。

 

「君島さん。私は、正々堂々と戦うです」

 

 あと一歩のところで、思わぬ邪魔が入った。

 少し残念に思いながら、君島もため息を吐いた。

 

 

「なら、交渉は決裂ということですね」

 

 

 そんなやりとりが起こっていたのを、生徒たちはようやく気付いた。

 

「ねえねえ、あそこにさ~、夕映とキミ様が居るじゃん」

「ほんとだ。次の対決の前に、何の話をしてるんだろ?」

 

 これから対戦するはずの二人が何の話を? そう疑問に思うと、皆があることに気付いた。

 

「あれ? 何で、ネギ君があそこにいるの!?」

 

 そう、それは、ネギが二人の傍にいること。

 しかし、それはおかしかった。

 

「えっ、僕? 僕はここに居ますよ?」

 

 そう、ネギはずっと生徒たちと一緒にベンチで応援をしていたのだ。

 

「じゃ、アレはなに? ネギ君の分身!?」

「いや、こっちのネギくんが偽物!?」

「ちょ、僕は本物ですよー!」

 

 そして、こっちのネギが本物なのだとしたら、君島と夕映と一緒に居るネギは何者だ?

 そう思った時、何か、夕映が決意を秘めた表情で、君島に宣戦布告のようなことをしており、その傍らにいる「ネギ?」は、誰にも聞こえない小さな声で……

 

「ぷりっ♪」

 

 と、呟いたのだった。

 


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