こちらパガン島鎮守府、本日は晴天なり   作:荒城乃月

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 ご飯と味噌汁とサンマの缶詰という食事の後、妖精が伸びているとヒュウガから聞いた工作室へ移動。同行するのは若葉と阿武隈で、ヒュウガは諸々ある作業のため私室に戻った。白雪はそれに興味があるのかヒュウガについて行き、摩耶と山雲と黒潮は外に散歩に出て行った。

 山雲が妙にルンルンしながら散歩に行ったんだが、俺は畑を作る土地の下調べついでに散歩に出たと睨んでいる。畑を作る予定だと言った時、山雲の後ろに満開の花畑が広がるのを俺は幻視した事からの推測だ。

 

「それで提督、妖精に何の用事なんだ?」

 

 俺の後ろをコガモみたいに引っ付いて歩く若葉。若葉の後ろには阿武隈が引っ付いて歩いており、彼女たちの艦艇時代からの付き合いの長さ、絆の深さが感じられた。

 

「作って欲しいものがあるって話したろ? あれの発注」

「それって……」

「トラクター」

「やっぱり」

 

 何だその呆れた声は。

 

「私たち艦娘……と言うか戦前の人間にとって、トラクターで畑を耕すという意識は無いんだ」

「そうなのか?」

 

 それじゃ北海道の地平線の向こうまで広がるクッソ広い農地とか、どうやって耕していたというのか。

 

「北海道には加藤製作所のトラクターがありました!」

「逆に言うと、北海道のような広い農地くらいしかトラクターを使っていなかったんだ」

 

 そんな体たらくで機械化を怠ったから東北の発展が遅れたんだ。

 

「とりあえずは手押しの耕運機でいい。鋤と鍬のみで開墾は流石にやりたくない」

 

 何度も言うようだが保存食を持たせるため……今後の展開次第ではそうも言ってられなくなるが……の畑であって、作物を商業ベースに乗せるための畑じゃない。よって大規模にやるつもりは無いが、だからと言ってこれから増える可能性の高い艦娘の消費する食料を考えると、ある程度の規模は必要だと思っている。それを全部人力というのは、農業が主になって提督業や艦娘業が従になりかねない。

 

 ここはパガン島鎮守府であって、鉄腕DASH鎮守府じゃないんだ!

 

 という訳で到着した工作室。旋盤やボール盤、ベルトサンダーや各種工具がずらりと並んでおり、町の鉄工所を思わせる様相だった。

 そして床に倒れ伏す妖精妖精妖精。奥さん、事件です。

 

 一見して毒ガスでも撒かれたのか、それとも火山ガスに巻かれたのか、と言った様子だが、実際は集団知恵熱というあたりがギャグ以外の何者でもない。

 

「ほら、いい加減起きろ。いつまで寝てんだ!」

 

 手ごろな位置に落ちていたスパナで鉄板を殴れば、バァーン! といい音がする。音に反応したのか、妖精たちはのっそり、といった動きで起き上がった。

 

「死者の目覚め……」

 

 思わずといった様子で若葉が呟き、阿武隈がブフッと噴出す。

 フラフラしている妖精たちはバックヤードに移動しだした。何をしているのかとついて行って部屋を覗いてみたら、列を作ってタライに汲んだ水で頭を冷やしていた。比喩じゃなくてマジで発熱してたのかよ、安物のCPUクーラーつけたパソコンかお前ら。

 

『いきかえるー』『煮えるかと思った』『ヒュウガさん、マジパネェっス』『なのです』

 

 冷やして調子が戻ってきたのか、昨日以来のカン高くテンションの高い声が響き始める。

 

『で、どうしたんだい提督ー』『何か我々に御用? 御用?』『なんでもつくるよー! ヒュウガさんの注文以外!』

 

 ヒュウガの注文は作らないのか。初日からそんなで大丈夫なのか。

 

「道具と重機の製作依頼なんだが、大丈夫か?」

『重機?』『物次第!』『霧の重機とか無理だから!』『やめてください しんでしまいます』

 

 どんだけ妖精にトラウマ与えたんだヒュウガ。

 

「開墾用に鍬と鋤とトラクターが欲しいんだが。トラクターが厳しいなら手押しの耕運機でもいいぞ」

『お任せお任せ』『鍬と鋤は鋼材を加工すればあっという間さ』『トラクター? 余裕だね!』『トラクターはどんなのがいいのです?』

「屋根がついてる小型のがいいな。木の根っこを引っこ抜く可能性も高いから、丈夫な電動ウインチも欲しい」

『開墾でもされるおつもりか』

「左様でござる」

『ならば、まずは木を切りませい』

「合点承知之介」

『木を切り、野火を放ち、それから根を抜くのが作法にござる』

「助言、忝く存ずる」

 

 妖精の一人と掛け合いしてると、若葉と阿武隈がジトっとした目で見てきた。こっち見んな。

 

『……艦娘は艤装を装備すれば海上と同じパワーを維持しつつ陸上を歩けるので、根っ子を抜くくらいは楽勝だと思うのです』

「最初に言え」

 

 今のやり取りが丸々無駄になったじゃないか。

 

「……あれ? 野火を放つのか? 敵に気付かれるんじゃないのか?」

 

 我に返った若葉が疑問を口にする。俺も一瞬同じ事を思ったが、たぶん大丈夫だろう。

 

「気球にレーダーつけて上げて周囲警戒すれば大丈夫だろ」

 

 もしくは水上機にレーダー積むか。認識結界の範囲内に湖も含まれているので、水上機運用が可能な摩耶か阿武隈ならこっちも使える。

 面倒くさいが仕方ない。アナグマのように身の安全に気をつけるしか無いのだ。

 

『とりあえず、鍬と鋤を作るのです』『何本欲しい?』『すぐ作れるから問題無し』

「それじゃ5つほど用意して貰おうか」

 

 ワーイ、と妖精たちは工作室の奥の資材置き場に走って行って、鉄板と木材を持って来た。

 後は文字通りあっと言う間。ガスバーナーで形を切り抜いた後は叩いて曲げて、真っ赤なうちに水に突っ込み焼入れをして、再度暖めて放置して焼き戻し。焼き戻ししている間に木材を加工して柄を作り、柄ができれば焼き戻しが終わった鉄をサンダーで削って形を出す。

 道具と比較すると明らかに小さい妖精がテキパキと加工して行くのは、アリが働く姿を連想された。どういう力しているんだあいつら。

 

『トラクターを作るのは流石にちょっと時間がかかるのです』

「ああ、急ぎじゃないから気にしないでくれ。今週中にでも作ってくれればいい」

『手押し耕運機なら、一日あれば一つ作れる』『たぶん。きっと』

 

 一日で設計開始してから完成品まで出来るのか。妖精とは一体……。

 

『我々の力を甘く見ないでもらおうか!』『技術の粋を見るのだー』『でも霧は勘弁な!』

 

 ホンット、ヒュウガがどれだけトラウマになってんだよ!

 

 

 

 

 

 トラクターの製造を妖精に任せると、とたんにやる事が無くなった。部屋でゴロゴロするのも時間が勿体無いので、俺たちも散歩でもしようか、という事で外に出る。

 地下にいたからか、太陽が眩しい。そして暑い。何をしていなくても、じっとりと汗をかく蒸し暑さだ。施設内は空調を効かしてあるから、余計に暑く感じる。

 目を細めて辺りを見渡せば、遠く火口北の池の岸に摩耶たち三人の姿が見えた。

 

「魚でもいるかと探しているんだろうか?」

 

 若葉が呟く。

 

「いや、虫とか両生類くらいしかいないだろう」

 

 ゲンゴロウとかトンボのヤゴあたりはいそうな気はする。

 

 ちなみに魚はいないと思われる。ここが爆裂火口ということは、あの池は湧き水だか雨水だかが溜まった溜り池に過ぎないからだ。加えてここは盆地なので、高潮等で海から魚が流入したとは考え辛かった。

 

 背の高い草の生えていない、歩きやすい草原を進む。羊や牛がのんびりと草を食んでる姿が散見された。草の背が低いのは、彼らが食べているからだろう。

 池の傍には行かず、火口の西側の山に登る。50メートルちょっとの小山だが、斜面が割と急なので登るのに少し苦労する。

 外の見張りに行く事を考えると、階段を作ったほうがいいかも知れない。もしくは露天風呂で構想した施設屋上から山の上まで続く橋だけ先に作るか。

 

 多少の苦労で山頂に登れば、北から西を回って南まで一気に視界が開けた。

 青く輝く一面の水平線と、その向こうに立ち上る巨大な入道雲。身を焼く日差しに潮の匂いの混じった風。穏やかな風に吹かれた椰子が揺れ、鳥たちは木々の間で囀り歌う。

 こんな状況でなければ、南国リゾートを満喫できたんだがな……。

 

「いい眺めですねぇ」

 

 風で乱れそうな前髪を押さえつつ、阿武隈が目を細める。

 対して若葉は適当な岩に腰掛け、空を仰いだ。

 

「私たちは北の曇って荒れた海ばかり見て来たから、こういう海は新鮮だ……」

「やっぱりリゾート地みたいなところで遊んでみたいとかあるのか?」

 

 俺の質問を聞いて、二人は苦笑した。

 

「そりゃそうですよ。あたしたちだって女の子ですから!」

「うむ」

「かわいい水着を着て、色とりどりの熱帯魚が一杯の海で泳いだりとかしたいです!」

「うむ……?」

 

 若葉が首をひねった。意見が割れたぞオイ。

 

「オシャレとかもしてみたいし、甘いものも色々食べてみたいです!」

「……??」

「銀ブラしてオシャレな喫茶店に入って、コーヒー飲みながら友達とおしゃべりとかもしてみたいなー」

「……銀ブラ?」

 

 なんで若葉が銀ブラって言葉知らないんだ。大正時代からあったろうが、その言い回し。

 しかしこうやって話してると、阿武隈が中学3年生くらいにしか見えなくなるな。セーラームーンみたいな髪型してるくせに。

 ……って、ヤバい。

 

「今、非常に大変な事に気付いた」

「どうしました?」

 

 今度は阿武隈が首をひねる。

 

「皆に出す給料と報酬のこと、何も考えてなかった」

 

 二人がなーんだ、と脱力するが、俺的には非常に大事な事なんだが。

 

「給料すら貰わず殺し合いに行かされるとか、奴隷兵そのものじゃねーか……」

「あのー。提督、そのまで深刻に考えなくても……」

「いや、深刻で根深い問題なんだよこれって」

 

 つまり、各員の働きを評価するシステムそのものが全く無いって事なんだから。

 

「口頭で褒めた程度で、命を賭ける働きの対価になる訳が無い。国家なら給料と手厚い保障を出せるんだが、ここだとなあ……」

 

 うーん、うーんと考えるが、現状で取りうる手段が保存食の缶詰を好きなの1個余分に取れる権くらいしか思い付かない。

 

「あたし的には、そういうのでいいと思うんですけど」

「と言ってもなあ……。若葉は何かアイディアあるか?」

 

 話を振られた若葉はうーん、と考えると、

 

「提督と一緒にお風呂に入れる権利」

 

 はい却下ァ!!

 阿武隈がボン! と顔を赤くして、俺は心労でサーッと顔を青くした。

 

「だ、だ、ダメよそんなの! 若葉ちゃん何言ってるの!?」

「ダメなのか……。そうか……」

「何でそんな残念そうなの!?」

 

 昨日の俺と若葉の会話の焼き直しかよ。まだ諦めてなかったのか若葉。自分は女の子だって自覚しただろ。自覚したのに俺と一緒に風呂入りたいのかよ。俺は青い顔してブルブル震えるぞ。

 とすると……。

 

「軍票出すのが一番かな……」

 

 軍票とは軍が発行する商品券で、基地内の購買所でお金の換わりに使えるものだ。現状だと使い道が無いが、いずれどこかの国と交渉が成立したなら貯金として価値が出て来るだろう。

 

「夢が無いですねえ」

 

 まだちょっと顔の赤い阿武隈に言われる。

 

「夢は無くとも命は買える」

「より夢が無くなってるんだが……」

 

 若葉にまで呆れられた。そんなにダメかね?

 

 

 




>俺は青い顔してブルブル震えるぞ。
??「おれは怪音波を出す防犯探照灯に生まれ変わるのだ」


11/18よりイベント開始
燃料30万 弾薬29万 鉄24万 ボーキ14万 不在艦:武蔵&香取
おそらく甲勲章は取れるけど、さて、新艦を全て掘れるかどうか……。

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