こちらパガン島鎮守府、本日は晴天なり   作:荒城乃月

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 そして時間は過ぎ、夕刻。ヒュウガ、妖精も食堂に集まり、8人+いっぱいで夕食を取る事になった。

 

「今日はヒュウガさんも一緒ですね」

「私たち霧にとって、食事は道楽以上の価値が無いから、今は食べないけどね」

 

 苦笑してパタパタと手を振るヒュウガと、残念そうな白雪。自由時間の間に仲良くなったようだ。

 

「いいのか? 食事は心に潤いをもたらす行為だってのは人も霧も艦娘も変わらないんじゃないのか?」

「いいのいいの。今はたまに気分転換で缶詰の一缶食べるくらいで構わないわ」

 

 彼女に負担かけてばっかりだなぁ……と気分が沈む。

 何も返せるものが無いってのはなあ。憂鬱だ。

 

「そこまで深く考えなくてもいいのよ? 新しい経験に満ちている現状は、間違いなく私を強くするわ」

 

 ……ああ。そういう考え方もあるのか。

 

「えーっと……。どういう事です?」

「私たち霧は経験により学習し、判断力を大幅に向上させて行くわ。同型艦でも、何もせず浮いていた艦と、それと同じ時間を人に混じって経験を積んできた艦だと、格段に戦闘能力は変わるの。その観点で見ると、今の私って物凄い色々な経験を積んでいるように見えないかしら?」

 

 本当に何でもないような日常的な事でも、それが新しい出来事なら何らかのフィードバックを得るのが霧の恐ろしいところだ。一ヶ月違うだけで戦闘の応用力……特に窮地に至った時の粘り強さが段違いだというのは作中で示されていた。

 

「それで、あなたたちは自由時間に何をしていたのかしら?」

「ん? アタシたちか?」

 

 ご飯を食べていた箸を止めて答える摩耶。

 

「大した事はしてないぜ? この辺りを散歩してただけだしな」

「あ、でも新しい発見はあったで」

 

 黒潮の言う新しい発見とは一体?

 

「あの北に見える池やけど、真水やのうて汽水やったで」

 

 割と致命的だった。

 農業用水に転用できるかと思っていたんだが……。そうか、底から塩泉が沸いてるのか……。

 

「牛とかおったけど、窪地に溜まった雨水とか飲んどるみたいやったな」

「後~、潰れたまま固まったみたいな~、変な石が一杯あった所があったけど~、あれは何かしら~?」

 

 火山島だよな、ここ。潰れて固まったとなると……。

 

「火山餅ってヤツか? 英語だとスパッターだったと思う。吹き上げられた粘性の高い溶岩が、地面にベチャッと落ちてから固まったらそうなったはず」

 

 いわゆる火山弾の一つだ。そりゃあ爆裂火口だもんな、ここ。後から火口くらい出来る事もあるよな。

 

「意外と~、畑のできる所が少ないのかも~、ね~?」

 

 溶岩が地表を覆っているなら、すぐに植物は生えない。地衣類が溶岩を覆い、その上に草が生え、草が枯れて腐葉土が積もり、それが何百年も続いてやっと木の育つ地表ができるのだから。

 とは言え、そんな時間はかけれないので……。

 

「いざとなれば重機のパワーで何とかするつもりだ」

 

 そこまで広い畑を必要としている訳ではないので、最悪の場合は、だが。

 ……しかし水か。畑の水やり、どうする。農作物は大量に水を消費する。畑で水を使いすぎて俺たちが使う水が無いとか笑えないぞ。塩水を真水にするには莫大なエネルギーと……って。あれ。

 

「なあ、ヒュウガ。タナトニウム炉の冷却ってどうなってるんだ?」

 

 エネルギーを作る以上、熱が出る。それをどう処理しているのかと尋ねれば、

 

「ヒートポンプを使って地下水に熱を移しているわ」

 

 という回答が戻ってきた。捨てるほどの熱エネルギーktkr!

 

「その熱を使って海水を真水にできるよな?」

 

 海水淡水化装置が可能という事である。

 

「そりゃあ可能だけど……ああ、畑用?」

「いずれ必要になると思うから、暇を見て設計だけでもしといてくれないか?」

「分かったわ。単純な構造で手間もかからないし簡単なものよ」

 

 パイプとか単純な部品は妖精に丸投げするしね、とヒュウガが笑えば、机の上で缶詰を突いていた妖精たちは一斉にガッツポーズを取った。

 ……ああ、霧の技術じゃないならバッチ来いって事か。

 続いて阿武隈がハイ! と手を上げる。

 

「あたしたちは妖精さんにトラクターと農具の発注して、その後は西の山に登って来ました!」

「いい風だったぞ」

 

 今度は妖精たちが、阿武隈の声に反応して陽気に踊りだす。なんでだ。

 

「この火口内にいる分には見つからないらしいから見張り台は必要無いかも知れないが、眺めがいいと気分もいいから展望台があるといいかも知れない」

「木のベンチとテーブルがあると嬉しいよね」

 

 ……ふむ。

 

「妖精。チェーンソーとノコギリとノミとヤスリの追加発注ヨロ」

『承知なのです』

 

 杉みたいに割裂性のいい木材は無いだろうし、木材加工するならこれがいるだろう。

 

「また工具発注してる……」

「二日目にして、既に本業が疎かになってねえか?」

 

 うるさいよ。特に若葉、「また髪の話してる……」みたいなトーンで言うの止めろ。

 

「最後は私ですね。と言っても、ヒュウガさんの作業を見学させて貰っていただけですけど」

「大したものじゃないわよ? 妖精に渡すヘッジホッグの図面を書いて、後はナノマテリアル採取装置を作っていたわ」

「……ナノマテリアルって採取できたのか?」

「海水の中にごくごく微量に混じっているわ。昨日の夜のうちに海岸で採取したサンプルで確認済みよ」

 

 マジか。海水に混じってんのか。初耳だぞ。資料集か何かに記述があったのを読み飛ばしてたか?

 

「霧の間では常識ね。と言っても採取量そのものは非常に少ないから、無駄な消耗はできないわ」

 

 それでもナノマテリアルの補充の目処が立ったのは喜ばしい。戦闘に使う道具を作る機械……に必要な部品を作るマザーマシンをナノマテリアルで作れると効率が段違いなのだ。

 

 ボルトやスプリングやベアリングといった定番の部品なら普通に製造機械を作ればいいのだが、ワンオフものやあまり使わないものを作る製造機械を作るのは非常に効率が悪い。このケースで言うワンオフもの等は、旋盤等で加工して作る部品という意味ではない。加工そのものに超特殊な工具を要求してくるものだ。

 

 ナノマテリアルはデザインの通りに簡単に加工できるうえに、必要無くなれば分解してナノマテリアルに戻して別の用途に使用できる、というリサイクルが尋常でなく容易な素材だ。なので、一度使えばもう二度と使わないかも知れない、という特殊工具を作るのにうってつけなのである。

 また粘土細工のように修復も容易なため、再加工や破損時の修理が非常に困難なパーツを作るのにも向いている。万能金属という名前に偽りなど無い。

 

 

 

 食事兼ミーティングになったが、軽口も飛び交う和気藹々とした雰囲気だ。昨日より打ち解けてきた感じか。特に艦娘からヒュウガに対しての、多少固い雰囲気が消えている。

 自由時間の間、白雪が一緒にいた……というのが何かいいように作用したんだろうか。まあ、仲良くなれそうなのはいい事だ。

 

 皆が会話しているのをそれとなく観察しているが、ヒュウガと特に相性が良さそうなのは白雪と摩耶の二人。白雪は今日の自由時間にヒュウガに付いて行った事からも分かるとおり、ヒュウガの作業内容に興味があるらしい。邪魔にならないように後ろで様子を見て、一息入れようかというタイミングで質問して来るから相手をしやすい、とは彼女の弁である。

 対する摩耶はこの面子の中でも精神年齢が高いので、何か通じるものがあるんだろう。駆逐たち(+阿武隈)が騒ぎ出すとヒュウガと一緒に一歩引いた位置に下がって見守っている。保護者か。

 総じれば、今のところ人間関係は良好。このまま末永く仲良くしたいところだ。

 

 艦娘たちが妖精も巻き込んで騒いでいるのを眺めていると、ドサッ、と背中へ誰かが覆い被さった。って酒クサっ!?

 

「提督ぅ。あたしたちを遠巻きに見てないで、会話に混ざって下さいよぉ」

 

 いつのまにか阿武隈が出来上がっていた。

 

「勝手に酒を開けたのは誰だ!?」

 

 若葉と黒潮が目を逸らした。お前らかよ。

 空いてた酒はビンを見る限り焼酎のようだ。

 

「……私はビールのほうがよかったんだけどな」

 

 そうじゃない。若葉、今言うべき言葉はそれじゃない。

 

「で、黒潮。何か言う事はあるか?」

 

 俺に促された黒潮は少し考え込み、

 

「うーん……あの、ここな……正直者めが!」

「お前酒飲んだオチに禁酒番屋使うのは反則だろ!?」

 

 俺が何かするまでもなく、マッハで摩耶に頭を叩かれた。

 

「~~~~~~っ」

 

 割と本気で叩かれたらしく、呻いてダウンする黒潮。そしてツボに入ったのか、妖精が何人かと山雲が飲んでいたものを噴き出していた。

 俺も何か口に含んでいたらヤバかった。シモネタ芸人かお前。

 後、阿武隈が離れない。ガッチリ俺の首をロックして密着してくる。

 もげろ系シチュだと思うだろ? 俺、酒の臭いだけで気分が悪くなる下戸だから、そろそろ離してくれるとありがたいんだが?

 

「阿武隈……阿武隈! こらアブゥ、いい加減提督を離せ! 顔色が悪くなって来てる!」

 

 慌てた摩耶と若葉が阿武隈を引っぺがす。うっぷ。

 自分の頬を触ると、明確に熱を持っているのが分る。ちなみに俺はアセドアルデヒドの分解が苦手なタイプの下戸だ。故に、一度酔うと半日近くダメになる。

 

「ヒュウガ、摩耶。俺、部屋に帰っていいか?」

「言い出さなけりゃアタシが連れて行ったところだ。顔真っ赤だぞ、大丈夫なのか」

「辛いなら部屋まで支えて行こうかしら?」

 

 阿武隈にチキンウイングフェイスロックをかける摩耶のみならず、ヒュウガまで椅子から腰を浮かして言う。

 

「いや、昏倒するほどじゃないから大丈夫。ただし今日はもう使い物にならないから、明日の予定は二人で決めてくれ……」

「分ったわ。ゆっくり寝なさい」

「おう、任せな!」

 

 二人の返事を聞きながら食堂を出た。うーむ、早く横になりたい……。

 

 

 

 

 

 明かりを消して真っ暗な部屋でぐったりと寝ていると、ドアの開く音と人の気配に目が覚めた。

 鍵は掛けてないので誰でも入れるのだが、酔っ払った人間の部屋にわざわざ好き好んで入って来る変わり者は誰だ?

 

「あら~、起こしちゃったかしら~」

 

 この声、なにより特徴的なこの喋り方。まさかの山雲だった。予想外すぎる。

 どうしたのかと身を起こそうとするが、小さな手にやんわりと押しとどめられた。

 

「司令さんは~、寝ていていいわよ~。お水を持ってきたけど、いるかしら~?」

 

 丁度喉が乾いていたのでありがたい。

 渡された冷たいグラスを一気に呷る。火照った体がスーッと冷めるような気さえした。

 

「ヒュウガさんがね~、酔って寝た人間は吐瀉物で窒息するかも知れないから~、誰か様子を見ておきなさいって言ってね~」

「それで呑んでなかった山雲が選ばれたと……」

 

 ちと過保護じゃないかい? 心配されて嬉しくもあるが。

 

「だから今日は~、山雲と一緒に寝ましょう~?」

 

 言いつつ暗視装置を起動させた彼女はソファーをベッドの横に移動させ、背もたれと腕置きを倒してベッドにする。ゴソゴソと布の音がしているのは、部屋からタオルケットと枕を持って来たからだろう。

 やがて落ち着く姿勢になったのか暗視装置を解除するコードが聞こえた後は、物音もしなくなった。真っ暗な部屋の中、時計と二人の息の音だけが静かに響いている。

 お互いが何か話すでも無く、無言のまま時が過ぎていく。

 

 不意に。

 

「山雲はね~……」

 

 彼女の小さな声が聞こえた。

 言うべきが言わざるべきか、迷っているようだ。

 

「俺に言いにくい事か?」

「司令さんにしか言えない事なんだけどね~」

 

 声は何でもないかのように苦笑しているが、何でか俺は山雲が泣きそうな顔をしていると思った。

 

「駆逐艦山雲が最後に所属していた艦隊~、司令さんは知っているかしら~?」

「西村艦隊か……」

 

 戦艦扶桑と山城、重巡最上、駆逐艦山雲、朝雲、満潮、時雨だったか。待ち伏せを受けて時雨以外が沈んだらしいな。

 山雲は魚雷直撃で撃沈だったか? 奇襲を受けたとは言え、撃沈というのはかなり運が悪い。

 

「まだ艦娘になって二日だけどね~、この艦隊は凄く楽しいの~。司令さんも艦娘のことを考えてくれているし~、缶詰のご飯も美味しいしね~」

 

 しばらく言葉を切り、だから、と続ける。

 

「他の指令さんの所に呼び出された皆は、どうなのかしら~。そう考えると~、山雲、不安になっちゃって~」

 

 ああ、艦の時に不運に見舞われたからこそ、今が楽しいから不安を感じるのか。特に不幸仲間とも言える西村艦隊が艦時代と同じく不幸な目にあってないか心配だと。

 しかし、よその提督か……。

 

「日本は現在、制海権を取り戻しているようだし……。おそらく兵站の管理も含め、朴訥な指揮はしていないと思うが……」

「それでもね~、やっぱり不安になるの~」

 

 うーん。姉妹艦を持たない艦なんてほとんどいないし、戦友のいない艦はおそらく存在しない。全員、大なり小なり不安は感じているのかも知れないな。

 特に山雲は他の5人と強い繋がりを持たない。皆と仲良くやっているようだが、心のどこかで疎外感のようなものを感じているんだろう。

 

「……今のところ、無理して調べたり手を打ったりはできないな」

「山雲も、それは分ってるわ~。今無理したら~、司令さんが詰んでしまうものね~」

 

 調べることくらいはヒュウガに頼めばできるが、調べること以上は手を出せないのが本音だ。

 例えば下手に調べて艦娘が虐待されていたとして、俺たちに何ができる? 出撃装置を使って艦娘の保護か? 保護した艦娘が俺たちを裏切り元の提督の下に手土産つきで帰らないと誰が断言できる? ついでにそうやって保護するのは、命の取捨選択に等しい。こちらのリソースに限界がある以上、根本的な問題解決をしない限りいずれ破綻するのは目に見えている。

 つまり消極的介入では問題解決はできず、積極的介入するには力が足りない。

 

 いずれにせよ、偵察した結果が安心できるものになるのか、胸糞の悪いものになるのか、全く予想がつかない。そして胸糞展開になった場合、艦娘たちの士気を維持できるのか、と言われると難しいものがある。

 それに無秩序な建造も現状では不可能だ。姉妹艦に会いたいから、という要望に応えて無計画に食料にも資源にも限りがあるのに食い扶持を増やすのは、リスキーにも程がある。

 

「でも、ね~?」

「でも?」

「いずれ司令さんは、日本と関わるんでしょう~?」

 

 おそらく、それは避けられない。

 

「なら、その時は~。朝雲姉ぇや扶桑さんたちだけじゃなく~、困ってる艦娘の味方になってあげてね~」

 

 ハハハ、と思わず笑ってしまった。

 

「元からそのつもりだ。身を滅ぼさない程度には助るから、山雲も覚悟しておけよ」

 

 くす、と小さく笑う声がした。

 

「分ったわ~。その時は、こき使ってね~」

 

 肩の力の抜けた声だった。

 ――しばらく沈黙が続く。そのうち、静かな寝息が聞こえてきた。

 思い悩んでいた悩みが軽くなったかね? つくづく口先だけの自分が嫌になる。

 

 身を滅ぼさない程度には助ける? 逆に言うと、身を滅ぼす可能性があるなら見捨てるって事だ。

 どうやっても打算が働く俺は正義の味方を演じるには役者不足だ。例えば山雲を危険にさらしてまで朝雲を助けるか? という問題が用意された時、俺は自分が反射的にどう動くか熟知している。

 持てる手は全て使う。それでも山雲を失う可能性が高いなら、朝雲は見捨てる。それが出来なければ指揮官では無いと思うが、同時にそれが出来るのは人でなしだとも思う。

 つくづく損な立場についたもんだと思うが、やるっきゃないよなぁ。

 

 横から聞こえてくる可愛い寝息を聞きながら、俺はため息混じりにそう思った。




E4甲きっつぅい…
   ↓
E4甲爆破完了。雷巡に★MAXワイン砲はかなりイケる
E5甲の爆破と掘りもあるので、次話の投稿は遅れそうです
   ↓
E5甲爆破完了。陸攻は生けるミサイル、装甲破砕ギミックなんて無かった
……トリプルオーしか基地に襲撃して来ないのはどうしてだ


12/11 三章執筆中。四万文字書いても終わりが見え  な    い
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