あれからさらに4日が経った。
その間にニュージーランドから多少離れた所で初実戦だーとばかりに目をつけていた軽巡x2 駆逐x4の深海棲艦艦隊と一戦交えたりもしたが、電子戦に特化したヒュウガ特性のEWAC水上機(俺命名:ドラグナー3)で敵の無線を潰した上で夜間にレーダー+暗視装置で強襲をかけたため、特に描写する所が無いレベルで鎧袖一触に終わった。
射程の長い摩耶と阿武隈が横から砲撃して敵艦隊の足を止め、その間に足の速い駆逐隊が敵正面に移動。敵が初撃の混乱から立ち直り摩耶たちに砲撃を開始しようとしたタイミングで駆逐も砲撃を開始、十字砲火によるキルゾーンを構築すれば、後は魚雷を使うまでも無く完全粉砕だった。
翌日は昼間に重巡 軽巡x2 駆逐x3の艦隊と交戦したが、レーダーを頼りに水平線の向こうにバンバン撃つレーダー射撃によって昨晩と同じ結果になった。水平線の向こうから飛んでくる砲弾によって速攻で駆逐が全滅し、大した抵抗もできず軽巡が沈み、あっという間に一隻になって泡を食って逃げようとしたところで集中砲火を受けた重巡が沈み、無傷……と言うか敵艦隊を視界に収める事すら無く完全勝利する有様だった。
やはり不意をうってブン殴り、相手が動かなくなるまで殴り続ける戦術は有効だ。少なくとも同数の水雷戦隊が相手の遠距離戦だと、今の摩耶たちの敵ではない事が証明された訳だ。加えて訓練して来た事が実戦で非常に有用だと示され艦娘たちが自信をつけたのは大きな収穫と言っていいだろう。
最初からこれが出来ると分かっていたなら、駆逐の割合減らして重巡軽巡増やしていたかも知れない。
一方、ニュージーランドの大体の情報も出揃って来たようだ。
再び全員でミーティング。色々なデータを纏めた表をプロジェクターに表示しながらヒュウガが司会進行を務めている。
「まず結論から言うけど、オーストラリアと違ってニュージーランドは人種差別的政策を取っていないわ。日本人に対しても味方だということが証明されたなら、おそらく融和的に対応するんじゃないかしら」
朗報である。人種差別政策を取っていたら、次はタイかマダガスカルあたりの情報収集をする破目になっていた。
なお、前にヒュウガに言った候補国のうち、フィリピンとインドネシア、それと南アフリカは除外している。前者はオーストラリアから集めた情報では既に陥落しており、後者はアパルトヘイトで悪名高いのを思い出したからだ。
「産業は農業主体で、オーストラリアに野菜を出荷して、オーストラリアからは石油や資源や工業製品を買っている感じね」
「という事は、俺たちがニュージーランドと組めば、間接的に石油を入手できる訳だな」
これも朗報だ。戦力の提供とバーターで資源が手に入るのは最低条件だからだ。
「艦娘に対する扱いもオーストラリアと変わらないわ。兵器じゃなくて女性兵として扱ってるわね。ただし今は人手不足らしくて長時間勤務や休日出勤が多いみたいよ」
人手不足か……。200人ちょっとしかいないんだっけか?
「なあ、オーストラリアの時も疑問だったんだが、何でそんな少ない人数しか艦娘がいないんだ?」
前から不思議に思っている事を尋ねてみれば、さあ? という表情を浮かべるヒュウガだが、一方で艦娘と妖精は揃って意外そうな顔をした。
「……なんだその顔」
「いや、提督は知ってるものとばかり思ってました」
「誰も司令官に説明しとらへんのん?」
『そういえば言わなかった気が……』『説明してもしなくても、最初は一緒だったのです』『説明忘れてた!』
何だそれ。何か知っとかないとマズい事があるのか。説明しなくても知ってて当然風なのは、この世界では常識的な事なのか。
しばらく目線でやりあっていた彼女たちだが、やがて妖精の一人がおずおず、と進み出てきた。
『えー……。こちらでは常識なのですが、提督一人につき管理できる艦娘の数が決まっているのです』
「「最初に言え(言いなさい)」」
色々計算がブッ壊れるだろうが。
龍の眼光で妖精たちを睨めつけていると、こういう時割と空気を読まない若葉が進み出て来た。
「補足説明だが管理数は先天的な提督の資質で決定されていて、多くて30人、少なくて6人だ」
「……両国の艦娘の数が少ないのは、それが原因か。提督になれる人間もかなり少ないって事だな?」
「ああ、ニュージーランドの艦娘を指揮している提督が22人しかいなかったのは、そういう事情なのね」
艦娘が210人で提督が22人って事は、指揮人数の平均は9.5人って事か。
「となると、俺が下手に艦娘増やすとヤバいんじゃないか?」
平均が9.5人……9人とすると、既に6人呼び出してる俺は後3人しか呼び出せないぞ。
しかし艦娘と妖精は微妙な顔をした。まだ何かあんのか。
「気付いてないのか……そうか……」
「比較対象が無い、っちゅうのが気付かない原因なんかなあ?」
「そもそも気付けるのか?」
『たぶん気付くのは人間には無理』『無理だろうねー』『寺生まれならワンチャン』
いいから早く言え。
『我々妖精や艦娘は、感覚とかで提督が何人艦娘を管理できるか分かるのだ』『その感覚が囁いている。コイツはヤバい』『って言うか、提督さん本当に人間なのですか?』
「なのです妖精にdisられた。しにたい」
「うるさいわよ」
ヒュウガにまでdisられた。なんでだ。
「と言うか、人間か疑われるってどうなってんだ俺」
『たぶん提督さん、管理できる艦娘の数は600を超えるのです……』
そん
なに
「ああ、それは人間か疑われるわね……。指摘されて、何か自覚するものとかはあるのかしら?」
ふむ? 強いて言うなら……
「ガイアが俺にもっと輝けと囁いている」
「うるさいわよ」
また一言で斬って捨てられた。
しかし冷静になって考えると、俺一人でオーストラリアとニュージーランドを合わせた合計くらいの艦娘を管理できると。
「……そういや聞き忘れてたけど、管理って具体的にどういうことだ?」
『建造した艦娘を自分の旗下に登録することです』『提督は碇、艦娘は船』『提督がいないと、建造した艦娘はすぐ霧散するのだ』
霧散ってお前……。深海棲艦に奇襲食らって提督が殺されたら、一発で指揮下の艦娘が消失するのかよ……。しかし、これでやっと得心が行った。
「何でペーペーの大学生の俺が選ばれたのか疑問だったけど、これがあったからなのか……」
兵站さえ整えば個人で国家規模の軍事力を用意できるとか、我が事ながらドン引きである。施設がクッソでかいのも、管理数限界まで呼び出した事を見越しての事か。確かにあの広さなら補給考えなけりゃ600人くらい生活できるわ。
「なら、艦娘を新しく呼び出す事については兵站系以外の問題は無いんだな?」
ないです、と艦娘と妖精が首を縦に振った。
「で、結局ニュージーランドはどうするのかしら?」
話がわき道に逸れたけど、今はその話をしているんだったな……。
「条件に附合しているし、用心棒の押し売りと行こうか。後は売り込みをかけるタイミングだな」
大した手土産も無くノコノコと売り込みをかけたところで、安く買い叩かれるのがオチだ。オーストラリアと共同歩調を取ることで、という前提ではあるが、向こうは制海権を奪われずにいるため強気でいられる。目に見える危機に対して俺たちが特効薬になる、と証明されなければ、高値で買い取っては貰えないだろう。
そういう意味では制海権を奪われているオーストラリアがいいのだが、本当に邪魔だな白豪政策。まあ、何で俺たちがオーストラリアでは無くニュージーランドを選んだのか、とあちらさんを納得させる理由付けになりはするのだが。
「んー……。そうだな。オーストラリアとの交易船、及びニュージーランド北部及び東部に航路を取る船を常時監視できるか?」
「オーストラリアにやっている監視のリソースを割り振れば可能よ。ただ、そうすると鮮度の高いオーストラリアの情報は入手できなくなるわ」
「構わない。政府の動きが把握できるなら、後は全部ニュージーランドに割り振ってくれ」
ヒュウガがちょっと驚いた顔をした。
「随分と思い切ったわね」
「あっちは政略が把握できれば十分だ。そんなものより、こっちのほうが遥かに大事だな」
安く買って高く売るのは商売の基本にして極意である。
「そういう訳でニュージーランドと組むつもりだが、何か意見のある者はいるか? 反対意見でも気になったことでもいい。気楽に言ってくれ」
全員がお互いに顔を見合わせ、しばらく小声で相談する。俺はそれを黙って見つめた。
賛成だろうが反対だろうが、意見を出すのが肝心だ。別段問題のある政略を取ったつもりも無いし、大丈夫だと思うが……どうかね?
五分ほど話して意見が纏まったらしい。代表して摩耶が声を上げた。
「そんなに都合よく行くのかってのはあるけど、提督の方針に賛成だ。できるだけアタシたちの安全を高めるため、アタシたちを捨て駒にされないようにするために考えてくれてんだろ? なら、アタシたちも提督の期待に応えなくっちゃな」
「身の丈を越えるような無茶な期待はしてないから、無理せず適度に働いてくれればいいぞ。期待に応えます! って倒れるまで働かれると、こっちの精神衛生上よくない」
冗談じみた声色で言えば、あちこちで小さな笑いが起こった。内容は冗談で無く心からの頼みなんだがな。
「よし。それじゃこれから戦艦狙いで建造だ。妖精たちは各自作業に戻ってくれ」
『アラホラサッサー』『お仕事だぜー』『建造施設でお待ちしているのです』
バラバラと妖精たちが走って行く。それを見送って、俺たちも建造施設へ移動をはじめた。
「ところで指令はん。うち、ちょっと気になるんやけど。戦艦呼び出すて、誰狙いなん?」
道中、黒潮がそんなことを聞いてきた。
「その心は?」
「指令はんが、どんな用途の戦艦を欲しいと思うとるんかなーと」
用途か。見せ札の戦艦ってだけで、特にどうこう考えてなかったな。そもそも戦艦ってどういうものがあるんだ?
「大和型みたいな低速、打撃力に優れた低速戦艦。低速戦艦と比べて打撃力も装甲も劣る代わりに大幅に足の速い高速戦艦。低速戦艦の後部砲塔を撤去して飛行甲板を用意し水上爆撃機の運用を可能にした航空戦艦。以上三種類やな」
「それぞれ長所があるな。……見せ札で考えるとスペック重視の低速戦艦がいいのか」
艦砲外交なんて言葉もあるくらいだし。
「となると扶桑型か長門型やとアタリやな」
「大和型は?」
あー、とか、うー、とか言う声が各艦娘から漏れる。
「……大和型は、その、やな。燃費がごっつ悪いねん」
「聞いた俺が悪かった」
大和を下げるつもりは無いが、現状の俺たちで燃費の悪い艦娘は少しキツい。
「大和型の燃費の悪さは少しどころじゃないですよ」
黙って話を聞いていた阿武隈が声を上げる。
「具体的には?」
「摩耶さんの五倍以上食べます」
五倍ってお前……。
思わず、じっ、と摩耶を見る。
「なんだ提督その目は」
あれの五倍……。
「オイお前なんでアタシの目じゃなく胸を見てんだ。何か失礼な事考えてるだろ」
「あれの五倍……」
「わざわざ口に出すな! どうせそんな事だろうと思ってたよ!!」
むきーっと怒る摩耶。一方で駆逐たちは
「戦艦ですし胸も大きいんでしょうね……」
「大きいんじゃないかしら~」
「大きいほうがいいのか。そうか……」
そんな事を言いながら自分の胸をぺたぺた触っていた。ついでに人知れず阿武隈もペタペタ触っていた。阿武隈ェ……。
「これがいわゆる乙女心ってヤツなのかしら」
「ヒュウガが仕入れた経験には、そういうのは無かったのか?」
イ401のメンタルモデルであるイオナにゾッコンだったろお前。
「相手を好きになる事と、相手から好きになって欲しいと思うことは別物なのよ」
「また深いこと言うな……」
……ん? でもそれだと……。
「タカオのアップロードした経験に、そういうのが含まれてるんじゃないのか?」
「あんな青春炸裂で甘酸っぱそうなの、ビール片手にソファーで横になって見るのはともかく、わざわざ体感しようとは思わないわ」
完全に見世物扱いじゃねーか。それでいいのか霧の艦隊。
「ちなみにタカオ、ズイカク、イ402の三人が人間の街で滞在しているデータって、駆逐艦や軽巡たちの間では密かに人気があるわ」
本当にそれでいいのか霧の艦隊。意外と娯楽に飢えてんのか?
「人間の街で起こったことを話題にしてあの三人がパーソナリティーするラジオ番組って、量子通信で放送したら人気が出そうね……」
何それ超聞きてぇ。
「ってか、それって蒼き艦隊主催でやってもいい気がする」
「何で私たちが主催しないといけないのよ」
「プロパガンダ。これで人間に興味持って蒼き艦隊側にいく霧もいるんじゃないか?」
「腹黒いし、ミもフタも無いわね……」
有効だと思うんだがなあ。
「世話話でポロッとプロパガンダなんて言葉が出る大学生ってどうなのよ?」
「照れるぜ」
あちこちから突き刺さる「褒めてねーよ」という視線が心地良い。
「ほら、馬鹿なこと言ってないで建造するわよ」
『お待ちしていたのです』『レシピはどうするー?』『はやくはやく』
馬鹿話をしつつ辿りついた建造施設、コンソールの上でピョンピョン飛び跳ねる妖精に道中考えていた数字を入力させる。
燃料600弾薬400鋼材700ボーキ100。重巡を狙った建造より全体的に増やしてみた。
妖精が機械を操作する。ガッチョン、と恒例の音がして、タイマーに時間が表示された。01:20:00……って摩耶より短いな。
『これは妙高型なのです』『重巡だねー』『も一回、する? する?』
レシピが重いからあまりやりたくは無いが、戦艦は必要だしな……。経費ということで再度の建造を指示。ガッチョン、07:15:00。
「……お、時間が長いな。戦艦か?」
戦艦かなー、戦艦かなー、という期待で胸を膨らます俺を尻目に、妖精が大混乱に陥った。
『7時間とか聞いたこと無いのです!?』『通常建造だと6時間の翔鶴型が最長のはず……』『大型艦建造でもこんな時間は出ないよ』
なんかマズいのか。火のついたネズミ花火みたいにウロウロしだす妖精に問いかける。
『マズいかどうかと聞かれると微妙だけど……』『私たち妖精の知らない艦が出てくる可能性があるのです』『敵か味方かすら……』
「よし。先に重巡だけ高速建造しようか。後、艦娘は全員艤装装備して来てくれ」
「高速建造はともかく、全員艤装装備って何するつもり?」
バーナーの燃焼音をBGMに問いかけてくるヒュウガに、俺は笑って答えた。
「出待ち」
「普通に最低ね」
そこまで褒めんでも。
ちなみに出待ちとは、ゲームで未登場の敵の出現位置が判明している時に、罠や溜め攻撃など最大火力を敵の出現位置に重ねて置き、登場と共に退場させる方法である。
非常に効果的であり特に対人ゲームでは決まれば勝ち確というメリットがあるが、もれなくマンチキンという称号と共に蛇蝎の如く嫌われるようになるというデメリットもある。が、今回の場合はデメリットは無視していい。死人に口無しである。
「何か最低のこと考えてるでしょう」
安全第一なんだけどなあ。
「足柄よ。砲雷撃戦が得意なの。よろしくね! ……で、この物々しい空気は何なのかしら?」
そんなことを言っている間に重巡こと足柄が出てきた。茶色のロングヘアーで紫の制服。スク水風セーラー服の摩耶と比べると服のデザインは落ち着いた感じ。ただし本人は初対面の段階ですら、勝気で江戸っ子的な気風のよさが感じられた。
「ちょっと変なのが出来たかも知れないから、念のために……」
「念のためにで室内なのにフル艤装なの!?」
早速ビビってる。そんなんじゃこの先やっていけないぜい?
「頭がおかしいのはこの男のデフォルトだから気にしないで」
ヒュウガが足柄に言い、足柄がドン引きした目でこっちを見る。ドン引きするの早えーよ。
建造中の正体不明艦が艦娘だった場合は説明が二度手間になるので、足柄はとりあえず下がらせる。ついでに出てくるのが艦娘だった場合は第一印象が最悪になるので砲を突きつけるのは止めて、艦娘たちを俺の左右に休めの姿勢で配置した。これで正装で新しい艦を迎える、という強弁が通る。
『バカなのか慎重なのか分からない』『体面は大事なのですが……』
妖精たちが何か言ってるがアーアーキコエナーイ。高速建造の指示を出す。
『いいんだな? 本当にいいんだな?』『躊躇いは捨てた!』『どうなっても知らないのです!』
妖精たちが口々に叫び、終末を告げるラッパのように高らかに燃焼音が響き渡る。
そしてその場にいる全員が静かに見守る中、出てきたのは――――
>出待ち
YOU DIED...