こちらパガン島鎮守府、本日は晴天なり   作:荒城乃月

2 / 21
02

 その後、俺たちは現状の把握も含めて部屋から出て、ここが何処なのか、何の施設なのか調べる事にした。

 簡単に自己紹介しながら施設を歩いて回ったところ、ここは鉄筋コンクリ造りで地上2階、地下3階の箱状の構造をした何らかの施設だと言うことが判明。

 かなり広い。しかも地上施設より地下施設のほうが充実しているという異常っぷり。軍事施設か、ここ?

 

 地下3階には発電所とよく分からない巨大な機械群、地下2階には住居スペースと思わしき大小様々な部屋群と倉庫らしき広いスペース、地下1階にはキッチンと食堂に会議室などに使えそうな大部屋群。

 地下3階だけは特に天井が高く、実際のところ深さだけなら地下5階分くらいはある。地下施設全体の床面積も広く、イメージとしては郊外型ショッピングモールが地下に埋まったようなものだった。

 比べて地上施設は常識的なサイズで、地方の役所のような小ぢんまりとした鉄筋コンクリ造りの簡素な建物だ。給湯室や事務室、応接間らしきスペースなどマジで役所みたいな構造である。

 

 そして肝心のここは、南海の火山島であった。

 ヒュウガが緯度と経度を太陽と月から大雑把に計算した上で島の地形を記憶していたデータベースと照らし合わせたところ、北マリアナ諸島のパガン島というらしい。

 どこだよ、そこは!? と思ったが、俺の顔色から察したらしいヒュウガが大体グアムと硫黄島の中間点だと説明してくれた。

 

 ちなみにこの島、火山島なので起伏に富んでいる。そして島北西部には盆地(と言うか風化しかけたカルデラ……と思ったがMaarとヒュウガが見せてくれた資料にあった。爆裂火口の名残らしい)があり、建物は盆地の隅に建っていた。海からは建物が見えないが、建物の屋上からは海が見えるという巧妙な建て方をしているあたり、軍事施設として作ったんだろうな、というのが俺とヒュウガの一致した意見である。

 

 地形をもうちょっと詳しく言うと、大きな島と小さな島が繋がった瓢箪みたいな形をしており、施設があるのは北側にある大きい島の方。北も南も火山が島の中心部にあり、北の火山は標高570メートルと結構高い。面積は48平方キロメートルと三宅島より少し小さいサイズのようだ。

 火山は今も活発に活動しており、地上施設の窓から眺めれば蒸気を上げている姿がよく見えた。火山の南北は流れた溶岩で焼き払われており、荒涼とした溶岩原が広がっている。

 が、それ以外の部分はヤシ科を中心とした低木と下草がよく生えており、牛や豚や山羊といった野生化した家畜がのんびりと草を食んでいた。

 おそらく飼っていた住民が島を放棄した際に置いて行かれたものだと思う。

 

 海岸線は火山島にありがちな切り立った崖だけでなく海岸もあり、平地も湖もある。水は飲めないけど。海岸があるということは揚陸がしやすいということで、原始的な生活を過ごす分にはいい島なんだろう。火山島だけど。

 

 

 施設と地形の把握が大まかに終わった俺とヒュウガは、施設入り口から出てすぐの所にある手ごろな岩に腰掛けて、話をしていた。

 

「変だな」

「変ね」

 

 二人して同じ意見が口をつく。

 

「施設そのものは新品みたいに新しく、保存食はたんまりある。が、備品は備え付け以外は何も無い」

「おかしいわよね。完成間近に放棄したにしても、緊急に放棄するなら持ち込んだ備品以外の何かくらい残るでしょうに」

「本当に何も無いんだよな……。廃墟探索の経験上、食器みたいな日用品や筆記用具、雑誌くらいなら少しは残ってるはずなんだが……」

「逆に持ち込み品を全て回収する時間があったなら、むしろ先に地下の機械を回収するわよね」

 

 この施設、状況が中途半端すぎて何があったのか来歴が不明なのである。

 

「付近に新しい戦闘痕も無いし、何かしらねえ」

「貯水タンクも浄水が満タンに入ってたし、本当に何なんだろうなあ」

 

 まるで「ガワだけ用意したから、後は好きにいじって作ってね!」とでも言ってるかのようだ。

 そこで思い出したのは、あのよく分からない強大な何か。

 

「正直なところ噴飯ものの仮説を思い付いたんだが、聞くか?」

「聞きましょう」

「俺が見たあの超越存在って、いわゆる神様的なモノじゃないかと思ってる」

「神様ねぇ。人間が辛い時に縋る都合のいい空想というデータは把握しているわ」

 

 冗談だと思われたらしい。ツッコミにミもフタも無い。

 

「そう言うのではなく、人類には知覚出来ない上位次元の存在な。そういうのが、この状況を仕込んだ、っていう話」

 

 思い切り「何言ってんのかしらこの人」って顔をされた。

 

「そういうデウス・エクス・マキナでも登場させないと、突然現れたらしき俺たちとか、意味不明な施設とか、説明がつかないんだよ……」

 

 つまり一つの神様転生の亜種である。

 

「ヒュウガがメンタルモデルのみでここに居たのも、俺が着の身着のままでここに飛ばされて来たのも、ガワだけの施設がここにあるのも、何らかの意思の元にあるんじゃないか、って考えだ」

「……随分と突拍子も無い事を考えるのね」

「突拍子ついでだが、何かがヒュウガを選んだのも偶然じゃないと思ってる。ヒュウガは霧随一のメカニックなんだしな。何かを造らせたいんじゃないか?」

 

 ボーリングでマグマを汲み上げ、マグマから金属などの資材を生成する猛者がヒュウガである。

 火山島であるこの島に飛ばされたのも、そこらが加味されたからじゃないか?

 

「正直なところ、突拍子が無かろうが構わないんだ。何かよく分からない現状がある以上はな。

 屁理屈だろうが何だろうが適当に理由をつけて過去を整頓すると、以降は吹っ切って動けるんだよ」

 

 中途半端に理屈屋な俺の人生訓だ。

 

「俺たちをここに飛ばして施設を用意した奴が、俺たちに何をさせたいのか。それを知ることが、状況を進める第一歩になると思う。

 その思惑に乗る、乗らないを考えるのは、それを知った後でも遅くないだろう」

 

 俺の話を聞き終えたヒュウガは、考え込んでいるようだった。

 『こんなもんだろ』と割り切った俺が頭おかしいだけで、普通は悩むし考えるよなぁ。

 しばらく一人にさせといたほうがいいのかなと思い、

 

「俺は見落としが無いかどうかもう一度施設の中を見てくるわ」

 

 一声かけて、再チェックのため施設の中に戻って行った。

 

 

 

 

 

「……で、地下3階の仮眠室の毛布の中にこれがいた、と」

「いたんだよなぁ……」

 

 一時間後。

 妙なナマモノを発見した俺は、げんなりしつつ捕獲したソレを地下施設の通路を歩いていたヒュウガの元に連行していた。

 

『なんやねん』

 

 二頭身の人型で人語を喋る謎の生物。

 南の島に生息している謎生物は鼻行類だけで十分だっつーに。

 毛布を使って茶巾包みにしたまま持って来たが、見た目がシュールすぎる。

 

「軽作業用に使う、ちびメンタルモデルじゃないよな、これ?」

「ナノマテリアルの反応も無いし、違うようね」

 

 ということは、やっぱり生き物かこれ。どんな進化を辿ればこんなDNAに行き着くんだ。

 

「しかもなぁ。なんか、喋ってる言葉が直接脳に響くような……」

『見せもんとちゃうで』

 

 うるさい。

 ヒュウガと共にジロジロ見ていると、ズボンの裾が引っ張られる。何事かと視線を下げると、いつのまにか足元に茶巾包みと同種と思われるデフォルメ生命が複数存在していた。

 

 複数いるのかよ。

 

 格好は様々で、服は妙に野暮ったい。作業服とか野戦服とか、あの類を着ている。しかも時代がかかったものを、だ。

 視線を下から横に戻すと、スカートの裾を抑えたヒュウガが後ずさりしていた。

 スカート短いから、見上げられると見えるんだな……。

 

「で、君たちは一体何なんだ」

 

 ヒュウガをスルーしつつ、声をかけてみれば

 

『妖精です』『妖精なのよー』『妖精さんやで』

 

 異口同音に妖精だ、と返って来た。

 

「……ヒュウガ。妖精って知ってるか?」

「え、妖精? 何それ知らない」

 

 下から見上げようと追ってくる少数のナマモノをローキックで牽制することに忙しいヒュウガからは、気のない返事が返って来た。

 呆れつつヒュウガの足元を指差し、足元の妖精に尋ねる。

 

「お前らってゴブリンか何かか?」

『失礼な!』『誤解を招く狒々爺は消毒せねばならんな』『泣け! 喚け! 命乞いをしろ!』『な、なにをするきさまらー!』

 

 哀れエロ妖精は、追加で現れた妖精たちに簀巻きにされて運ばれて行った。

 まだ出て来んのかよ。どこに居たんだよ。一応この施設、隅から隅まで見たつもりだったんだが……。

 

「何かしら、これ……。目の前に居ても生体レーダーに反応が無いわ」

「マジでオカルトの世界の住民ってことか、この謎生物群こと妖精って」

 

 目の前にいるのに霧が反応を捉えられないとか、オカルトで無ければ何だっていうんだ。

 それより疑問なのは、何で俺たちの前に現れたのか。

 この施設に土着していたのか、それとも……?

 

『我々は艦娘を指揮する提督のいる所ならば、いかなる場所だろうとも出現自在ですよ』『呼ばれて飛び出てー』『深海棲艦は撃滅だー!』『呼ばれなくても飛び出れる!』

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねてアピールしつつ言ってる言葉だが、割と意味不明である。

 

「艦娘って何かしら? 霧のデータベースにも無いわね」

「深海棲艦ってのも聞いた事無いぞ? つか、提督って誰だ?」

 

 周りにいた妖精が、揃って俺を指差した。俺?

 何で俺が提督なんだ?

 

「ふーん……?」

 

 ヒュウガから流し目で見られた。知らんがな。

 

「……いや、マジで心当たり無いから腕を掴むのを止めて貰えませんかねぇ……」

 

 その目は『今まで私に話した事に嘘でもあったら、あなたの腕を熟したイチジクみたいに握り潰すわね?』と言ってる気がする。

 

 たすけてください しんでしまいます

 

『ところで提督、お隣はどういった存在です?』『人間に見えるけど、人間じゃないー』『早く人間になりたい? なりたい?』『なれるのー?』

「あら、私が人間じゃないってことまで分かるのね」

 

 興味深いわー、と手近な妖精を摘み上げ、研究者としての目で見るヒュウガ。解剖とかはやめてあげろよ?

 ふーん、へー、と何やら納得しつつ、妖精をぐるぐる回して観察している。光を反射して真っ白に光るモノクルが不穏だ。ホント解剖とかはやめてあげろよ!?

 

「生体反応も熱源反応も無いのに触ると暖かいのね。ソナーのエコーも無いし、光以外は素通しするのかしら? ……あら、ナイトビジョンや紫外線なら見えるのね。後は光学迷彩を実装すればどこへでも忍び込み放題ね」

「聞けば聞くほど妖精ってのが比喩じゃなく事実っぽく感じるんだが」

「事実なんでしょうね。少なくとも霧でも理解できない存在だわ」

 

 ため息をつき、摘んでいた妖精を地面に下ろす。彼(彼女?)は、わー、と仲間の下に走って行き、何故か胴上げされだした。なんでだよ。

 

「で、この人だが、ナノマテリアルで作られた擬体って説明で分かるか?」

『ナノマテリアル?』『外来語だ!』『擬態? ナナフシ?』『モドキだ、モドキ』

「一部正解。本体は野球ボールくらいの大きさのコアで、それが分子レベルで様々な働きを為す万能金属を使って人間を精神ごと模倣している……って説明で合ってるよな?」

 

 確認を取ると、彼女は一つ頷いた。

 

「私は蒼き艦隊所属、大戦艦ヒュウガよ」

『日向?』『日向ってあの?』『瑞雲! 瑞雲!』『師匠! 師匠!』『飛行甲板をブーメランにする?』『変形して空を飛ぶ?』

 

 口々に騒ぎ立てる妖精の言葉が色々おかしいんだが。

 なんだそりゃ、とヒュウガと顔を見合わせた。

 

「なあ……。大戦艦ヒュウガ本体の事は詳しく知らないんだが、飛行甲板の射出機構とか変形しての飛行機能とか、そういうの搭載していたのか?」

「いくら私が創意工夫に富んでいるからって、そんな前衛的な機能はつけないわよ」

 

 武装展開のための変形機構はあったけど、流石に飛行形態までは無かったらしい。排水量35260tを飛行させるのは流石に無駄すぎるとか。

 さもありなん。

 

『別人?』『別人だぁ!』『ヒュウガ違い』『艦娘じゃないのか!』

「その艦娘とか言うのにも日向ってのがいるのか」

『我々は艦と艦娘の日向しか知らないけどね!』『航空戦艦日向!』『瑞雲の師匠!』『完部隊! 完部隊!』

「何となく分かった。伊勢型航空戦艦二番艦の日向が擬人化したのがいるんだな? そういう擬人化した艦艇を艦娘と言うんだな?」

『その通り!』『船魂的サムシングなのです』『正解者には初期艦を進呈』『進呈進呈』『建造だあああああ!』『艦娘をこれくしょんしよう!』

「何なのよそれ……」

 

 ヒュウガが頭をかかえた。俺も頭をかかえた。

 

「提督ってのは艦隊総司令官のことだよな? 俺が提督らしいんだよな? その艦娘とやらを指揮することを期待されてんのか俺が!?」

 

 例えばあなたがいきなり高層ビルの建設現場に連れて来られて、「よし、君が今日からここの総監督・総責任者だ」と言われた場合、何を思うだろうか。

 何の知識も無いのに全工程の最終確認をして、最悪死亡事故も含む最終的な責任を取らないといけないってことになるのだ。

 正直勘弁してくれ、と思うのではなかろうか?

 

 ついでにここが俺の世界の過去でもヒュウガの世界の過去でも無い事が半ば確定した。何故なら艦娘という言葉も深海棲艦という言葉も、俺たち二人は聞いたことが無いからだ。

 

「俺は軍役経験なんて無い、ごく普通の大学生なんだが。その提督とやらをやらずに済む方法は無いのか? 取れない責任を背負わされても、周りを巻き込んで潰れるだけだぞ?」

 

 すると周囲の妖精が、いっせいにヒュウガを指差した。

 

「は、え? 私?」

 

 急展開に戸惑う彼女に向かって

 

『サポーターなのです』『補佐官』『彼女がいれば大丈夫』『いけるいけるー』

 

 

『『『『『『『『『『主はそう望まれています』』』』』』』』』』

 

 

 ……最後は異口同音に、そう告げた。

 ゾッとする。

 

「おいおい、ちょっと待て。つまり、そういうことか? 主とやらが艦娘を指揮する提督を必要としたから俺が召喚されて、俺の補佐としてヒュウガが召喚されたってことか?」

「何故私とコイツが選ばれたのかしら?」

『なんでだろう?』『誰か知ってる?』『知らないのです』『知らないよー』『たぶん都合がよかったからじゃね?』『適正だったからじゃないかなー』

「と言うか主って誰だよ、提督になって何をさせられるんだよ、俺たちは元の場所に戻れるのかよ! ああもう、聞くことが多すぎる!」

 

 思わず頭をぐしゃぐしゃとかき回す。

 

「とりあえず、落ち着ける場所に行きましょう。通路で長々と話すような事じゃないわ」

 

 ……そうだな。

 げんなりしつつ、俺は適当な妖精を摘み上げて歩いて行くヒュウガの後を追った。

 

 

 

 

 

 無言で歩きながら妖精の言った事を考え、今後のことを纏めるついでにいっぱいいっぱいだった思考も再起動させる。

 

 ヒュウガに情けないところを見せるのはナシだ。使えないと判断されたら、たぶん容赦無く切られる。現状だと情報が分からない+ナノマテリアルが無いから大人しくしているだけで、何か切欠があれば身一つで元の世界に戻る手段を探しに行きかねない。そのくらいメンタルモデルは強い。海溝を避ければ大陸間を海底を歩いて渡るくらいは普通にやれるスペックがある。マジヤバイ。

 そうなった時に、俺にはそれを止めることは出来ない。

 

 なら、俺がやるべきことは? 提督をやらざるを得ないってのは確定事項だ。たぶん妖精は俺を逃がさないだろうし、逃げた先がここよりマシという保証も無い。ここで提督をやりつつ何とかして人類と連絡を取り、合流する必要がある。少なくとも食料は有限だ。早いこと目処をつけないと飢えて死ぬ。

 

 となると、ヒュウガがまだここに残っているうちに出来るだけのことを覚え、最悪彼女が居なくなっても何とかなるようにするのが第一目標か。

 ひょっとするとヒュウガが出て行かずにここに残る可能性もあるが、楽観するとたぶん死ぬ。今まで生きていて死をこれほど身近に感じた事は無い……ッ!

 

 よし、調子戻って来た。余裕が無ければつまらんミスもする、か。……キッツいなぁ。

 とりあえず聞かなければいけない事は、『艦娘のこと』『この施設のこと』『敵のこと』『世界情勢』『どうすれば元の世界に戻れるのか』だな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。