腹の底で煮立っているヘドロよりドス黒くて溶岩のように熱い呪詛が神に届いたのか、ちゃんとした空母が一発で建造できた。
「雲龍型航空母艦、雲龍、推参しました」
そう言ってお辞儀する雲龍は……雲龍は……なんて表現すればいいんだ、この格好。髪は雪のように真っ白で、足首あたりまであるそれを三つ編みにしているんだが、格好が……。
雲のような模様のある、デカい胸の谷間を強調しているトップスと、スカート(笑)としか表現できない左右が空いてるクソ短いスカート……と言うか、これパレオ付きのボトムス? 後は膝まである長靴下という格好なのだが……それって水着? それともレースクイーン? 街中で見かけたら通報待った無しである。たとえ本人が気にしないと言っても周りは気にしまくって収拾が付かなくなる事間違い無しのすンごい格好だ。全体としてみると肌色面積は致命的では無いのだが、胸の谷間とか左右の腰とか隠してない部分が致命傷に近くてドン引きする。
「おぉう……」
黒潮が呻いた。艦娘でも引くのか。すげーぞ雲龍。ちなみに阿武隈は顔を赤くしており、摩耶は平然としていた。割と風紀に煩そうな摩耶が平然としているのは将来的に何かありそうな予感がするんだが、……まあいいか。
「……ちなみにあの格好、ヒュウガ的と霧的にはどうなんだ?」
「私としては派手ねー、という程度。霧としては、別にどうとも」
別にどうともって、特筆するほどの格好では無いって事か? 確かにタカオを筆頭にメンタルモデルたちはスカートが超ミニだったりホットパンツだったり、ハルナなんかはコートの下は下着姿だったりもするけど、コンゴウやヤマトやレパルスみたいにロングスカートだったり、ビスマルクみたいにホットパンツでも下にタイツ履いていたり、全体として見れば極端な格好のはほとんどいなかったと思うんだが……。
「ああ、別にどうでもって言うのは、相手のインターフェイスがどんなものだろうと、取る行動は変わらないって事よ」
そういう事か。それでもキリシマがキリクマになった時はツッコミ入れてるのが何人がいたような気もするが。
「ちょっと提督、私を無視して話し込むのは止めてくれないかしら」
雲龍にせっつかれた。
「ああ、すまない。君の格好がショッキング過ぎて取り乱していた」
「……そんなに刺激的かしら?」
自分の体を見下ろしながら、ぽやっ、と言う雲龍。それが刺激的で無いなら、刺激的な格好なんて絶滅危惧種になりそうだが。
「戦闘時はともかく、平時は上にも下にも何か着て欲しいと思うくらいには刺激的だ」
駆逐艦の子たちの教育に、確実に悪影響が……白雪と若葉と山雲は自分の胸をぺたぺたと触ってため息をつき、黒潮は自分の胸をむにむにと触って無理かー、という表情で額を押さえた。割と大丈夫かも知れない。でも俺によくないので、やっぱり何か着といてもらおう。
それと今ので分かった。黒潮は実はデカいようだ。
「何かしら~。今、黒潮だけ司令さんに贔屓されたような気がするわ~」
「黒潮が私たちを裏切ったような気がする」
「…………」
二人はともかく、じっ、と無言で黒潮を見つめる白雪が少し怖い。なんで只ならぬ雰囲気出してるんだ。
「……ニュージーランドとの初交渉時に、この格好のまま雲龍連れて行ったらどうなるかしら?」
「絶対に止めろよ!? フリじゃないからな!?」
俺も先方のリアクションに興味が無いとは言わんが、大事な交渉にトンデモなビックリを仕込むとか冗談にならねーよ。人権をこじらせてる欧米は、その手の冗談には五月蝿いんだ。俺が強制していないにしても、面倒を増やす要素を追加するつもりは無い。
普段着については備品の中にジャージとかシャツとか普段着もあるから、それを来てもらえばいいだろう。交渉の時には……艤装の形次第だけど、可能なら女性用スーツでも着てもらおう。足柄はスーツっぽい服だからOK、それ以外の子たちは制服みたいだから申し分無しだ。
「あの……」
「ああ、度々ごめん。俺がここの提督をやる事になった久野瀬涼太だ。こっちは技術官兼相談役のヒュウガ。色々と厄介な事になっているんで、心して現状を聞いて欲しい」
駆逐たちとついでに阿武隈がにゃんにゃんと揉めているのを尻目に、現状を簡潔に雲龍に説明する。ついでにヒュウガについては気になったら自分で聞けと言っておく。
自分を建造したのが鎮守府ではなく愚連隊みたいな組織だと聞いて目を丸くしたが、詳しい状況を聞くと何度も頷いていた。
「どうした? 何か気になる事が?」
「いえ、少し嬉しいの」
嬉しい? 俺たちの現状で嬉しがられるような要素なんて、そんなにあったか?
「私は空母として、戦力として望まれて建造されたのでしょう? それが嬉しくて……」
「ああ、大戦末期組か……」
連合国に順調に制海権を奪われていった日本は資材を失い、戦闘機どころか船を動かす油さえ欠乏する有様だった。
信じれるか? 大戦末期の日本の電気配線のコード、皮膜用のゴムが無いから紙巻だったんだぜ? たぶんタイヤも相当苦労していたと思われる。ゴムは戦略物質なんだよ!
他に金属も不足しており、寺の鐘まで供出した話は有名だ。ちなみに当時の皇室の宮中晩餐会で引き出物として参加者に贈られた
呉に停泊していた多数の艦艇も燃料不足で動けず、空襲の餌食になったんだっけか。伊勢日向に榛名、青葉に北上に葛城……後は覚えてない。
で、載せる艦載機もまともに無い状態の雲龍は、そんな状況の日本を後にして出航し、潜水艦の餌食になったという。
「だから、空母として活躍できると分かって、昂ぶっているの」
「戦闘艦としての矜持ね」
分かるわ……。と頷くヒュウガ。技術者肌でも霧の大戦艦。戦うことについては艦娘と同等か、それ以上にストイックな部分があるんだろう。
「それで、艦載機は何があるのかしら?」
…………ん?
ヒュウガと顔を見合わせる。
「持参してないのかしら? あの子たちは、皆基本となる装備は最初から持っていたけれど」
何故かスクラムを組んでうーにゅー言ってる艦娘たちを指差して言うヒュウガに対して、雲龍は悲しそうに頭を振る。
「……私は出撃した時に艦載機を積まず、そのまま沈んだから……」
その状態で建造されたと。
これはマズい……訳でもないのか?
「妖精。艦載機の建造ってどうやるんだ?」
『それは開発ですね!』『開発だー、開発だー』『何が出来るのかはお楽しみ!』
またランダム要素かよ! 直近の数回引きがいいから、反動で延々外しそうなんだが?
「どんなものが開発できるのかしら?」
『紫電改二、烈風、天山に流星、彗星あたりが大金星』『ゼロ戦、九十九艦爆、九十七艦攻が基本なのです』『偵察機もあるよ!』
「それと気になっているんだが、艦載機は一機一機作ってそれぞれにパイロットを設定して、配備も全部指示する必要があるとかするのか?」
噂に聞くクソゲーオブザイヤー受賞作品、ゲー霧こと太平洋の嵐を思い出す。もしそうなら、空母が増えると俺が過労死する。
『流石にそれは無いので安心して欲しいのです』『とりあえず開発してみるのだ』『ボーキ多目でね!』
ふむ? よく分からないけど、とりあえずボーキを100、他を50で建造と同じノリで開発してみる。
ごごごごご、と変な音と共に建造マシーンが振動し、ペッ、と取り出し口から何かが排出された。
これはゼロ戦の……ゼロ戦の……何だ?
『52型なのです』『素人には型番なんて分からないよねー』『小当たり』
それじゃ、後3回か。同じ数字で……
『流星なのです』『彗星十二型甲だ』『Bf109』
おいちょっと待て最後のは何だ。
「ドイツの戦闘機ね。通称はメッサーシュミット」
そりゃイタリア艦のローマが建造できたからドイツの何らかも作れるとは思っていたけど、戦闘機は予想外だったぞ。
俺の驚きを気にもせず、雲龍は嬉々として開発されたばかりの艦載機を装備する。机の上に並んだ4機に手をかざすと機体はお札になり、彼女が手に持つ守札に納まった。
「………………」
「………………」
ヒュウガと二人して沈黙する。今まで会ったのを見る限りでは一応メカ娘をやってた艦娘に対するイメージが大幅に変わった。やっぱりこの子たち、メカの皮を被ったオカルトだわ。何だよお札って。どことなくチャイニーズな雰囲気の雲龍がそれをやると、陰陽道や神道ではなく道教に見える。キョンシー呼びますか? ……って、ああ。道教って事は修験道なのか。修験道系空母娘。すげぇ字面だ。この子は未来に生きているな……。
「……理解し難いわ……」
こめかみを抑えて呟くヒュウガ。魔法に片足突っ込む科学レベルの霧は、こういうオカルトと相性悪いだろうなあ。
「ちなみにそれ、発艦の時はどうするんだ?」
「飛行甲板の巻物を広げて札を展開、甲板の上の鳥居を潜らせて機体を実体化させつつ発艦するわ」
やべぇ、どんな原理か全く分かんねぇ。分かんねぇけど運用に問題が無いならそれでいい、気にしない事にしとこう……。
「ところで提督? あの子たちは何をしているのかしら?」
雲龍の指差した先には、摩耶、足柄、ローマ、黒潮を威嚇する阿武隈たちの姿が! 摩耶たち三人は完全にとばっちりである。後、駆逐に混じってる第一水雷戦隊旗艦阿武隈はいい加減自重したほうがいいと思う。何でまだ茶番が続いてるんだよ。お前止める方だろ。
俺の視線に気づいた阿武隈と駆逐たちが、俺の胸に飛び込んでくる。「提督ぅ~!」じゃねぇよ。皆困ってるだろ。俺も困ってるんだよ。俺は小学校の先生じゃ無いんだよ。
「提督じゃなくて先生って呼んでもらったらどうかしら?」
ヒュウガうるさい。雲龍が困ってるだろ。
「私はどうしたらいいのかしら?」
「そうだな……。摩耶、施設の案内を頼めるか?」
「アタシか? まあ、構わないけどよ」
「ウチの艦娘のリーダーはお前だしな。後輩の面倒、しっかり見てやってくれ」
姉御気質な摩耶だ。こう言われれば、否は無い。「おう、任せな!」と雲龍を連れて、意気揚々と建造室から出て行った。
彼女たちを見送ってから、ヒュウガが真顔に戻って聞いてくる。
「ニュージーランドと交渉するのは、雲龍がここに慣れてから?」
「ああ。こっちも彼女がどうやって艦載機を運用するのかとか、色々知っとかなきゃいけない事もできたしな」
何度も言うようだが、味方を知らずして戦うもクソも無い。俺の返答がお気に召したらしいヒュウガは満足げに頷いた後、
「で、その子たちどうするのかしら?」
未だに俺の胸元でダンゴになってる4人を指差した。
どうするのと言われても困るんだが。どうして欲しいんだよお前ら。
「もっと~、私たちにかまって欲しいわ~」
子供か。見た目通りではあるんだが。
「具体的には?」
「偶には外で一緒に遊びましょう~」
ふむ? 最近はヒュウガと相談したり仕入れた情報を見たりDIYしたり艦娘たちとコミュニケーションを取ったりで、体を動かして無いな。
「確かボールならあったし、ドッジボールでもやるか?」
俺の提案に、一同はわーっと歓声を上げた。
その時の俺は、艦娘のことを甘く見ていた。
30分後、俺は顔面でボールをキャッチしつつ、彼女たちは艤装を外しても運動神経抜群だと思い知ることになるのだった。
>俺は顔面でボールをキャッチしつつ
みょうこうくん
ふっとばされた!