こちらパガン島鎮守府、本日は晴天なり   作:荒城乃月

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ローマ!(挨拶)



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 なんだか恒例な気がする提督の個別コミュニケーションだよ! 今日のゲストはローマだ! まさかローマが来るとは思わなかったよ! 心の底からビックリだ!

「何なのかしら、そのテンション……」

 

 はあ、とため息をつきずれたメガネを掛け直すローマ。

 

「甘えん坊の駆逐艦と戯れるのが最近恒例だったからなあ。ローマが来るのは本気で予想できなかったんだよ。また若葉あたりが突撃して来るかと思ってべっ甲飴作って待ってたのに」

「あなた暇なのかしら?」

 

 言われるほど暇じゃないが、こういう細かい気配りが信頼を築き上げると信じて日々を過ごしている。

 ちなみに昨日は黒潮が来たんだが、お手製の飴をあげると「田舎のお婆ちゃんか!」とツッコみを入れていた。その後はにっこにこしながら食べていたから、効果はあったと信じている。

 

 イタリア艦娘ということで、今回出す飲み物は麦茶ではなく水出しのコーヒー。ソファーに座り上品にコーヒーカップを傾けるローマは日本人には無い風格があった。

 

「で、何でまたローマが?」

「来ちゃいけないかしら?」

 

 そういう訳では無いが。何か相談したいことが? という俺の問いに対して、彼女は小さく頷いた。

 

「大した事では無いんだけど、食事の事が気になっているのよ」

「イタリアと言うとピッツァとかパスタとか?」

「そう。貴方たち日本人にとって、コメやラーメンが手に入らないようなものね」

 

 深刻さは伝わった。海外に出張や旅行に出て米や味噌が食えず辛い思いをする日本人は多いと聞くが、どこの国の人も同じような事はあるだろう。

 

「幸いニュージーランドは酪農が盛んで乳製品も多い。チーズは問題無く入手できるだろ。パスタやピッツァの生地は打てるのか?」

「打つ? 日本人は変わった表現をするのね。大丈夫よ。イタリアは各家庭ごとに手作りしているわ」

 

 何事も無いかのように言うローマだが、それって日本に置き換えるとどの家庭もうどんやそばを手作りしてるって事だよね? 流石に誇張じゃないかな……。前に輸入食品の店に行ったときはすげぇ種類のパスタが陳列してたし、たまに手作りする時以外は買ってると思うんだが。

 いずれにせよニュージーランドとの取引で何とかなる案件なのはよかった。食べ慣れた物が手に入らないというのは非常にストレスが溜まるものだから。

 

「それ以外に、何か相談とかあったりするか?」

 

 彼女は少し考えて、

 

「あまり贅沢を言うつもりは無いけど、イタリア艦が私一人というのは少し寂しいわね」

 

 と言った。そこは俺も気にしてはいたんだ。日本人の中に一人だけイタリア人というのは気後れ、気疲れする事もあるんじゃないか、と。

 

「深刻に考えなくてもいいわよ。この鎮守府の状態は知ってるし、無理を言うつもりは無いわ」

「そう言ってくれると助かる。姉妹艦がいない、とかで不安を感じてる子は結構いるんだ」

「私も姉さんがいないのが少し不満ね」

 

 意外! ローマってお姉ちゃんっ子だったのか。

 

「……その目は何かしら?」

「意外だなぁ、と。重巡よりデカい戦艦だし、精神的にも摩耶や足柄より自立しているとばかり」

「自立していても姉は恋しいものよ」

 

 兄弟がいない俺にはよく分からん感覚だが、そういうものなんだろう。摩耶も足柄も素振りは見せないが、姉妹艦の事を気にしているのかもなあ。

 

「話は遡ってピッツァだが、石窯ってあったほうがいいか?」

「……あなた暇なのかしら?」

 

 俺の質問の意図に気付いた彼女は、ちょっと引きながら先ほどと同じ質問をして来た。

 

「いや、石窯で焼いてないナポリピッツァは偽者だって行き付けのレストランの店長が言っていたから……」

「それは間違いないわ」

 

 間違いないのかよ。

 

「最近外を散歩していて、よくよく考えると溶岩石を使い放題だって気付いてな。ステーキ用の溶岩プレートは切り出したんだが、石窯も作ってみたらどうかなーと考えていて、丁度いい機会だと思って話を切り出してみた訳だ」

「あなた何のために提督やってるのかしら?」

 

 迫真の真顔で言われても困る。

 

「でも溶岩プレートで焼いたニュージーランドの上質な肉のステーキ、食べてみたくない?」

「興味が無いとは言わないわ」

 

 素直で大変結構。……んん? 食物の話で思い出したが……。

 

「イタリア料理と言えばフランス料理の源流だよな? フランスってマナーに五月蝿いよな? 日本人の食事作法って、付き合うローマ的にはかなりキツくないか?」

 

 麺やスープを啜るとかアジア圏以外では一発アウトである。後は果物の皮や種を口から出したり、パン等に齧り付くのもマナーが悪いとされている。

 

「正直気になっているわ。日本の艦隊だから口には出さないようにしているけど……」

 

 今のうちに気付けてよかったな、これ。ニュージーランドと組むことになったとして、外交官担当の足柄以外もあちらさんと会食する機会は出てくるだろう。その時にウチの艦娘たちがテーブルマナーとかガン無視して食べてたら、相当格下に見られる可能性があった。文化的でない、と言うのは交渉ごとにおいてかなりアドバンテージを失う。日本の食事作法が悪いと言うつもりは無いが、向こうで食事をする以上は向こうのマナーに合わせないと失礼に値する。

 

「有り合わせの食材でコース料理風味を作って、足柄とローマを教師にしてテーブルマナー講座をするか?」

「やっておいたほうがいいでしょうね。少なくとも無意識に啜るクセだけは矯正すべきよ」

 

 そこまで言うのか。相当気になってたんだな。今まで気付けなくて正直すまなかった。

 

「仕方ない話でしょうし、責める気は無いわ。この艦隊の事は気に入っているし」

「その心は?」

「本当に日本語って変な言い回しをするのね……。大した事じゃないわ。戦艦ローマは就役してから実戦を一度も経験せずに沈んだのよ」

 

 ドイツの新型誘導爆弾フリッツXの直撃で沈んだという話は聞いているが、実戦経験が無かったのか。

 

「だから戦艦としての役割を全う出来ている現状に不満は無いわ。後は故郷の料理があれば完璧ね」

 

 冒頭の話に戻ると。

 

「ワインも欲しいけど、食料庫には無かったのよね」

「今のところは日本酒あたりで妥協してもらえないか?」

 

 海外ではライスワインと呼ばれて人気だと聞いている。

 

「提督はお酒がダメな人だったかしら? ニホンシューは美味しいけど、ワインも恋しくなるのよ」

 

 何気にローマも酒豪なのか。そういえば欧米人は遺伝的な仕様で下戸がいないって聞いたことがあるな。イギリスでは大学にパブがあるとか、イタリアやドイツは16から合法的に飲めるとか。

 

「確かニュージーランドでもワインは作っていたはずだから、安心してくれていい……舌に合うかどうかは流石に保障できないが。普通に考えれば酸いも甘いも色々作ってるだろう。いいワインを譲って貰うように交渉もしよう。その代わり……」

「その代わり……?」

 

 俺の気迫にちょっと怯むローマ。

 

「本場のイタリア料理を全員に振舞ってくれ」

「そんな事でいいのかしら?」

 

 拍子抜け、といった顔をするが、結構大切な事である。

 戦前戦中の艦艇となれば、足柄以外はヨーロッパの食事なんかと縁は薄い筈だ。そこに来てイタリア料理が振舞われたとならば、間違いなく興味を引く。しかも料理を作ったのがローマであるならば、好奇心旺盛な艦娘たちは彼女の所へ話に行くだろう。

 

 俺は他の艦娘たちとローマの間に微妙な壁があるのに気付いている。枢軸国同士とは言え人種から違うのだし、どう話せば、何を話せばいいのか分からないというのはあるだろう。とは言え日本の艦娘たちはローマと仲良くなりたいと思っているだろうし、ローマも皆と仲良くなろうと思っている。彼女お手製の料理は、間違いなく架け橋となる筈だ。

 

「何も考えてないようで、実は色々と考えているのね」

 

 感心した様子で言うが、なんちゃって提督としてはそういう所に一番力を入れないとマズいと思っている。カリスマや手腕で強引に組織を纏め上げるとかいった豪腕は俺には無い以上、小さなケアをこつこつと積み上げて仲良く纏まった組織にするしか無いからだ。

 

「なので、言葉少なからずも困っている艦娘や妖精を見付けたら積極的に手伝っているローマの自主的な努力を俺は大きく評価している」

「……見てたの?」

「ツーンと澄ました顔で手伝って白雪にちょっと怖がられて、人目の無いところで落ち込んでいたことも知っている」

「何で知っているの!?」

「それは秘密です」

 

 見かけた妖精が俺にこっそりと教えてくれたからだが、妖精の名誉のために黙っておくとしよう。

 後、顔を赤くしたローマかわいい。にやっとスマイルを浮かべると、ローマはちょっと身を引いた。

 

「……な、何よその目は?」

「顔を赤くしたローマかわいい」

「うるさいわよ!?」

 

 摩耶と似たような反応する。この子も素直になれない系か。面倒見がいいのに、ちょっと勿体無い。

 

「ああもう、私は帰るわよ!」

 

 ソファーを蹴倒す勢いで立ち上がるローマに、俺は落ち着けー、落ち着けーと声をかける。

 

「摩耶も負担が軽くなったって言ってたし、感謝してるのは本当なんだぞ」

 

 いつの間にやら駆逐たちのお世話役になっていた摩耶は戦闘でもこの施設での生活でも結構忙しくしているが、足柄とローマが来てから随分と楽になったと言っていた。そして戦闘バカの気がある足柄は戦闘では駆逐をフォローし引っ張って行く力強さに溢れているが、生活面では女子力に欠けているようだった。

 

「今サラっと残酷なことを言ったわね?」

 

 料理もできるし華もあるのだが、素は奔放で駆逐たちの世話をするのに向いていないのだ。『相手に合わせる』では無く『相手が合わせる』じゃないと歯車が噛み合いにくい、そんなキャラクターをしているのがここの足柄である。

 そして今日新しく加入したニューフェイス、雲龍はおそらくお世話とか無理なタイプだ。しっかりした性格の駆逐が今後加入したとして、雲龍はその子をお世話するのではなく、その子にお世話されるのでは無いかと俺は見ている。

 

 対照的にローマは駆逐たちに合わせてあげる事ができるデキた女だ。と言うか自己主張はするが出しゃばらないタイプとでも言うか。そのため実生活では仲良くなるための最後の一手が不足しているようだが、これも時間の問題だと思われる。何か切欠があれば容易に打ち解けられるだろうし、その切欠として料理を振舞うのを依頼した訳だが、俺が切欠を用意しなくても何かあればすぐ皆と親密になれるだろう。

 

 つまり何が言いたいかと言うと、ローマは皆と打ち解けきれないという現状でも摩耶が楽になったと言うくらいには皆のフォローが出来ている、という事だ。

 

「故に、君の事は立派だと思ってるし、感謝もしている。俺だけじゃない。他の艦娘たちも同じだ」

「…………」

 

 照れたローマは無言のまま俯いてしまった。

 しばらくして、顔が赤いままのローマはグラスに残っていたコーヒーを一気に飲むと、

 

「……それじゃあ私は部屋に戻るわ」

 

 まだ動揺が治まってないのか少し震える声で言いつつソファーを立ち、扉に手をかけた。そのまま出て行くのかと思いきや少し考える素振りを見せ、ややあって

 

「……コーヒー、ご馳走様。いずれ本場のエスプレッソをご馳走してあげるわ。おやすみ」

 こちらを見もせずにそう言って、足早に部屋から出て行った。

 

 

 

 グラスの片づけをしながら思う。

 食べ物の話のフリをしつつ、本当に相談したかったのはこの話かね? と。

 照れてはいたけど反面凄く嬉しそうだったし、俺の予想は間違っていなかったと信じたかった。

 

 

 




>テーブルマナーとかガン無視
フィンガーボウルの水を飲むのは鉄板ネタ

連続投稿はここまで。皆様、よいお年を
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