こちらパガン島鎮守府、本日は晴天なり   作:荒城乃月

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 色々見て回ったところ、結局艦娘の部屋は階段に近い12人用の部屋に決定し、俺とヒュウガはその近くの4人用の部屋を一部屋ずつ使うことになった。

 

 なったのだが……

 

「なんや、結局指令はん一人部屋なんやね」

「お前が俺を一人部屋にさせたくない理由が分からないよ……」

「ウチが暇な時は、指令はんの部屋に入り浸ってええかしら?」

「入室の可否を示すプレートを扉に掛けるようにするか……?

 ……いやいや。そもそも俺は司令官なんだし、俺が常駐するのは私室じゃなくて提督室になるt」

「では、私たちは提督室に入り浸ることになるのか」

「…………」

「入り浸るという発想から距離を取れ若葉ァ! そして無言で袖を引いてもダメなものはダメだからな白雪!?」

 

 駆逐艦三人に付き纏われてツッコみに疲れて来た俺がいる。

 そんな俺の後ろではヒュウガたち4人がこそこそと俺に聞こえないように話していた。

 

(なあ、山雲はあれに混ざらなくてもいいのか?)

(山雲は~、朝雲姉ぇ一筋だから~、ね~?)

(阿武隈は混ざらなくてもいいのかしら?)

(うえっ、あたし!?)

(それはアタシも気になってた。なんかソワソワしてるよな?)

(べっ、別にそんなこと無いんですけどぉ!)

(そういうことに~、しておいてあげましょうかしら~)

(うぅぅ、一水戦旗艦なのにぃ……。駆逐艦に弄られるぅ……)

 

 何を言ってるのか聞き取れないが阿武隈が何かいじられてるっぽいな……。

 

「その子は気弱みたいだし、可愛がるなら控え目にしてやってくれよ」

「ふえっ!?」

 

 阿武隈が『なんでバレたの!?』みたいな顔をしたが、何でバレないと思ったのか。

 

「と言うかな。お前たちみたいな可愛い子が懐いてくれるのは嬉しいんだけどな? 元は軍艦なんだろうけど今は女の子なんだから、もうちょっと男に警戒心を持って距離を取るとかしてくれると提督嬉しいな?」

 

「大丈夫だ。提督は男であると同時に提督なのだから。大丈夫だ!」

 

 …………。

 

「摩耶、パス」

「アタシに振るのかよ!?」

 

 むしろ摩耶くらいしか振れるのが居ないんだが。

 

「若葉の姉妹艦の初春か初霜でもないと、どうしてそんな結論になったのか思考を辿れないと思うぜ……」

「解決策は無いのか。おじさん、駆逐艦の無邪気な逆セクハラで真っ白になりそうだよ」

「いや、あんた21だろ……。おじさんって自称するにはまだ早いから……」

「20過ぎたら男はおじさん」

「ダメだこの男アタシの手におえねぇ……」

 

 失礼な。

 グダグダ言い合いながら移動する先は転送装置。地下1Fと2Fは見て回って部屋も決め、次は地下3Fだと移動している最中だ。

 現状の俺たちにとって、転送装置は生命線。これがもし使えないなら、普通に出撃する必要が出てくる。そうなると敵制海権のど真ん中に位置するこの島に基地があると、遠くないうちに敵にバレてしまうことになるだろう。

 故に転送装置の状態や使い方はしっかり確認しておかなければ、枕を高くして眠れないわけだ。

 

 建造部屋とは別の部屋の無駄にデカい観音開きの扉を開けて装置のある部屋に入る。無茶苦茶広い。装置自体も高さ、横幅共に二階建てバスの倍くらいあるが、室内空間そのものもクソ広い。

 

「それじゃ、試し運転してみましょうか」

 

 手をわきわきしながら、ヒュウガがコンソールに近づく。おーおー、メカフェチの本懐かー、などと思いつつ見ていたが、彼女が触れる直前に機械に灯が入って頭上に!?の写植が浮かぶ。

 人感システム? とか思ったら、立ち上がったコンソールの画面のバックにヒュウガの紋章(イデア・クレスト)が浮かんでいて思わず変な笑いが出た。

 

「旗艦装備に似てるとは思っていたけど、霧由来のシステムか?」

「……私をヒュウガと認識した上でシステムを走らせてるわね。メインの計算はこの機械が、状況に応じた細かい補正は私にさせるって設計か」

「つまりメンタルモデルがいないと事故るってことか」

「しかも大戦艦級の演算能力を要求しているわ」

「妖精。これお前らで使える?」

『無理なのです……』『我々はエンジニアであって、オペレーターではないのだ』『……と言うか、どうやって使うのこれ』

 

 ショボーンとする妖精。まあ、そうなるか。

 

「ふぅん……。へーえ……」

 

 額のイデア・クレストを煌々と輝かせ、複数のヘックスで構成されたリングを体の周囲に展開し、転送装置を解析しているらしいヒュウガ。その佇まいはまさに霧の大戦艦に相応しい風格であり、霧について大雑把に説明されていただけの艦娘がヒュウガへの認識を改めるには十分なものだった。

 

「ヒュウガさん……?」

「何かしら?」

 

 おそるおそる声を掛けた白雪を振り返りもせず返事するヒュウガ。コンソール以外にも彼女の周囲には空間投影ディスプレイが複数浮かび、中のグラフは刻々と変化して同じ数値を刻んでいない。

 

「その……色々と光ったり何か浮かんだりしているんですけど、それは……」

「私たち霧が演算能力をフルに使うと出るものだから気にしないで頂戴」

「おっどろいたな……。人間じゃないとは聞いていたけど、それを見て初めて実感したぜ」

「でも~、何だかカッコいいわ~」

「妖精さん、ああいうのは艦娘にも実装できないのか? できない? そうか……」

 

 摩耶と山雲は動じていない。若葉は論外。阿武隈はソッコーで俺の後ろに隠れて影から様子を伺っている。ダメだこの軽巡、はやく何とかしないと……。

 

「指令はんは普通の人間よね?」

「ごくごく普通の人間だから安心しろ」

「あら、私じゃ安心できないのかしら?」

「初見でアレはビビるだろ……」

 

 なあ? と肩越しに阿武隈を見ると、彼女は顔を赤くして萎んでしまった。

 

「で、どうなんだ?」

 

 こっちに声を掛けてきたって事は、動かす算段がついたってことだろう。

 

「よく出来たシステムね。最初に空間にピンホールを開けて目標付近を観測して、それから通行用の門を開くようになっているわ。しかも出撃のシークエンスはほとんど全自動。私がするのは門を開くときの計算補助のみね。そこが一番デリケートだから、当然と言えば当然だけど」

「全自動と言うと?」

「実際に動かしてみるのが一番ね。摩耶、ちょっとそこの板の上に乗りなさい」

「板……って言うと、あの六枚ある六角形のヤツか?」

 

 手近な板の上に摩耶が乗るのを確認して、ヒュウガがイデア・クレストを光らせる。同時に板も発光し、『出撃』という文字が板に直接表示された。周囲の床がパーツに分割され沈んで行き、摩耶は何も無い空間に持ち上げられる。

 

「ちょっ、おわっ!?」

「はーいはい、トラクタービームで吊り下げてるだけよ。慌てない慌てなーい」

 

 いや、普通は慌てるよ……と見学者全員が思う。

 

 床下や天井からメカニカルアームが伸びて来て、摩耶の艤装が次々に装着される。ブーツ、高角砲、主砲、マストに空中線。空中に吊り下げるのは作業効率のためか。スカートが短くて下着が見えそうで俺としては心臓に悪いのだが。

 

 装着が完了したらしく、アームが全て収納される。トラクタービームが解除され摩耶は落下する……と思いきや、そのまま空中に留まっていた。足元にはヘックスの集合体が皿のように広がって、摩耶を支えているようだ。

 

「クラインフィールドか?」

「そういうことね。この後、正面に門を開いて目標海域に出撃……という事になるわ」

「帰還の場合は?」

「通常時はさっきの逆ね。トラクタービームで吊り下げて艤装を回収。非常時は艤装を外部からの信号で強制パージして艦娘はストレッチャーで入渠設備に運送」

 

 非常時か……。そんな事が無ければいいんだけど、願望に過ぎないだろうな……。

 

「おーい、もういいか? いい加減下ろして欲しいんだけど?」

「ちょーっと待っててねー」

 

 摩耶が再び吊り下げられて艤装が先ほどの逆回しで回収されていく。作業が完了すると沈んでいた床がせり上がり、中央の板に表示されていた『出撃』が消灯。その上に摩耶が下りてきて、一連のシークエンスが完了した。

 

「ちなみに艤装って建造された時は着けて無かったよな? あれはいつのまに作ったんだ?」

「なんかね。艦娘が建造されると同時に、転送装置に付属している艤装保管倉庫に出現するみたいよ」

 

 何それ怖い。

 

「ここにいると霧の常識が色々と壊れて行くわ……」

「俺は絶賛、人としての常識が壊れて行ってる最中だ」

 

 オカルトとSFのダブルパンチだ。どっちか片方だけでもお腹一杯だっての。

 

『気を落とすなよ』『いいことあるって』『がんばれ♪ がんばれ♪』

「お前らが一番不思議生物なんだろうがァ!」

 

 俺を馬鹿にしているのか!

 

 

 

 

 

 出撃待ちの艦娘が詰める詰め所や銭湯モドキの入渠施設、装備などを改造する改修工廠などを妖精の説明を聞きつつ見て回り終えれば、既に時刻は夕食時になっていた。

 保存食の缶詰を湯煎した夕食を8人+無数の妖精たちと食堂で食べつつ艦娘に食事のことを聞くと、普通に食べるという回答が。基本的な身体機能は人間とほぼ一緒で、艤装が絡むとトンデモになるとか。

 

「つまり丘にいる時のウチらはか弱い女の子やけん、絹を扱うように大切にしろっちゅうことやな」

 

 ドヤ顔でフォークを振る黒潮。

 

「行儀が悪いので止めるように」

「あっ、ハイ」

 

 即座に若葉に注意された。お前が注意するのかよ。

 

 出した缶詰は炊き込みご飯や牛缶、おでんといったスーパーでカゴに放り込まれていそうなラインナップ。しかしメニューを見て艦娘たちは一様に驚いた顔をしていた。え? こんなにメニューあるの? 缶切り使わなくてもフタが開くの? みたいな反応だ。

 ちなみに俺は自衛隊の缶詰を食べたことがあるが、あれは缶切りが必要な構造だった。何でもプルタブ引っ張って開ける缶は強度が低く、衝撃でフタが開いてしまうことがあるらしい。しかし艦娘たちの反応はプルタブで開く缶自体を知らない人のそれだ。

 

「……なあ、テレビって知ってるか?」

「知ってます。高柳健次郎さんが研究していたテレビジョン……無線遠視法ですね」

 

 白雪が即答する。

 

「なあ、カラーテレビって知ってるか?」

「カラーテレビ……ですか? テレビが色付きになるのです?」

 

 食い入るように聞いてくる。

 

「ヒュウガ」

「はいはーい……って、私を便利に使ってない?」

「悪いとは思っているが……言って聞かせずとも再現できる人材がいる以上は頼りたくならないか?」

「やれやれ、しょうがないわね」

 

 ヒュウガの傍に空間投影ディスプレイが現れる。表示されているのはニュース番組。もちろんカラーの。キャスターがSSTOが云々って言っている。

 

「えっ、何これ!? 色がついてる!?」

 

 予想通りの反応ありがとう。そういや聞くの忘れてたけど、今西暦何年だよ。

 

『西暦ですか』『1960年なのです』『提督さんはいつから来たのー?』

「俺は2015年。ヒュウガは?」

「2059年ね」

 

 ヒュウガからすれば、実に100年の開きがある。70年もあればライト兄弟レベルの技術がフォン・ブラウンレベルの技術になるというのにだ。

 

「……なあ、ヒュウガ」

「……おそらく私も同じことを考えたわ」

 

「「知識と技術を切り売りするだけでシンパを簡単に増やせる」」

 

 発見が難しいが、普及すると一気に広まる技術というものは大量にある。それを世界に先んじて特許を取るだけで、物凄いマージンが入って来る。

 

高張力鋼(ハイテン)の比率やLED、推進スクリューの形状やステルス機の形状のデータは持ってるか?」

「まあ、霧一の技術者を自称していたし? 当然よね」

 

 それ以外にも金になる技術はゴロゴロしている。この時代ならトランジスタや高性能ディーゼルエンジン、ガスタービンエンジンなどだ。

 

「何か悪い顔してるけど大丈夫なのかお前ら」

 

 思わず、といった様子で摩耶が声をかけてくる。

 

「ああ、ああ。大丈夫……大丈夫だよ」

「本当に大丈夫なら大丈夫そうな喋り方しろよ!?」

「大丈夫だ!」

「無駄に首突っ込んできて話をややこしくするな若葉!」

「若葉ちゃん~、大丈夫って言うの、持ちネタなのね~」

 

 騒ぐ艦娘はほっといて。素材学は基本にして奥義なので、これは物凄い武器になる。例えばジェットエンジンにも使われるガスタービンエンジンはエンジンそのものが極めて高温になるので、耐熱性・耐久性の高い素材が要求される。そしてこのような意図に使われる金属は0.0001%単位で混ぜる金属の配合を調整する必要があるのだが、これの正解を最初から知っているというのは、いわゆるチートに値する。車のシャーシに使われているハイテンの配合比率なんかも同様だ。こっちも車の強度を維持しつつどれだけ軽量化できるのかというので重要だが、配合比率は社外秘指定されている。

 では、これをどう使うのか? というと、新日鐵に売ればイッパツである。または政府と直接取引するという手もある。焦る必要は無い。世界ではまだ誰も知らない技術だし、それこそ新日鐵の関係者が『主』とやらに飛ばされて来ない限りは他所から漏れる事も無い。

 

「本当にヒュウガ様々だな」

「もっと私を崇めてもいいのよ?」

 

 へへー、と時代劇で平民がお代官様にするようにお辞儀する。それを生暖かい目で見てる艦娘たち。お前らもヒュウガを敬うんだよ!

 

「冗談はおいといて。備品倉庫に色々なパーツがあったけど、あれは使っていいものかしら?」

 

 テーブルの上でサイズの比率的に大鍋みたいになった缶詰を複数人で突いている妖精にヒュウガが尋ねる。

 

『大体が設備や艤装の修理交換パーツなので、使うのはちょっと……』『何に使うのー?』

「作業機械を作らないと、私何も出来ないじゃない」

『だったら、アレを使ってもらえばいいのです』『あー、アレか』『そうだねー』

「アレ? 何かいいものがあるのかしら?」

『転送設備の整備用のナノマテリアル』

 

「そ ん な の が あ る な ら 先 に 言 い な さ い」

 

 手近な妖精の頭を鷲掴みにして吊り上げるヒュウガ。コワイ!

 そうか……。霧由来の技術だもんな……。タナトニウムとか使ってるもんな……。ナノマテリアルもあるよな……。

 

「こうしちゃいられないわ。妖精! あなたナノマテリアル置いてある所まで案内しなさい」

『えー。ご飯食べてるのに』

「い い か ら 案 内 な さ い」

『ちえー』

 

 鷲掴みされた妖精とヒュウガが食堂から出て行き、俺以外の残った面子は何事かと顔を見合わせている。

 

「一応説明しておくぞー。何にでも使える万能金属ナノマテリアルの在庫があったのが判明して、ヒュウガがそれを使うためにすっ飛んでいった。何を作るのか分からないけど無駄なものは作らないとは思うから、そっとしておこうと思う」

「本当にいいんだな? そんなのでいいんだな? 提督の許可無しに作らせていいんだな?」

 

 摩耶が念を押してくる。

 

「言いたいことは分かるが、俺とヒュウガじゃ技術レベルが物凄く違う。何が欲しいのか、何ができるのか、そこら辺を完全に把握するのは無理だ。フリーハンドを与えて好きにやって貰うのが、一番効率がいいんだよ」

 

 お前たちだって作戦行動中に俺がいちいち口出ししてきたら嫌だろう? と聞けば、全員が苦笑した。どこぞの原発事故みたいに、知ったかぶった奴が現場に強権行使しつつ口を出すと大失敗するんだ。俺は働き者の無能になるつもりは無い。

 

「ヒュウガのことは気にせず飯を続けてくれ」

「ああ。そうさせてもらうが……」

「どうしたの若葉ちゃん? 何か心配事?」

 

 若葉は皆の前に並んでいる缶詰を指差した。

 

「生鮮野菜が無い」

「……壊血病は野菜ジュースで防げるが」

「それは健全とは言えない。缶詰も確かに美味いけど、味は均一でいずれ飽きが来る。食料の調達も考えないとダメだと思う」

「はい! 指令はん! ウチ、たこ焼きが欲しい!」

「山雲は~、家庭菜園で野菜を育てたいわ~」

「卵! あたしは卵を希望します!」

 

 一気に騒がしくなる。欲望がダダ漏れだぞお前ら。それでいいのか艦娘。本当にいいんだな帝国海軍。

 

「妖精。外に畑を作っても大丈夫なのか?」

『この火口の中なら大丈夫なのです』『動物の檻や宿舎もいけるよ』『野生化した家畜のおかげで土はそこそこ肥沃なのです』

 

 火山灰土だと思ってたけど、土は意外と作物に向いているようだ。とは言え水は火山性ガスが溶け込んで酸性に傾いてるであろう池の水しか無いし、ここは年中クソ暑い南の島。作るものは選ばなければダメだろう。芋、小麦、モロコシ、トマト……後は何だ。レタスはいけたはず……オクラ、トウガラシとピーマン、カボチャ、豆は何かあった気がする。後はパイナップル……このあたりか。米は水が厳し過ぎる。長江流域原産だから気候の問題はクリアするにしても、地形的な問題で水田を維持するには水が足りない。

 

「たこ焼きを作るにはキャベツが足りないか。……たぶんタコは近海にタコツボ沈めれば獲れる。菜園はむしろ推奨。食料自給率上げないとな。卵はニワトリの入手が厳し過ぎる。グアムに残っているといいが……」

 

 顎に手を当てて独り言ちると、何故か皆がドン引きした。

 

「……なんだ?」

「冗談にマジで返されると、ちょっち困るわぁ」

「と言うか、キャベツ意外はタコヤキ作るのに何とかなるのか? なんか提督はこの島で原材料育てるつもりっぽいけど」

「小麦、タコ、ショウガはイケる。ダシは魚を釣れば余裕。卵は鳥の巣を襲撃すれば何とかなる。最悪ヘビかカメでもいい」

「卵でもヘビやカメを食べるのは嫌なんですけど!?」

「特定外来種のカミツキガメとか、美味いらしいぞ。解体中に腸や胆嚢を傷つけると大惨事らしいが」

「そんな情報知りたくなかった……!」

 

 阿武隈の顔が劇画調になった。

 

「司令官、おそらくこの島にヘビはいないと思いますよ。南洋攻略作戦の時に、グアムやハワイにはヘビがいないと海兵さんが雑談をしていた記憶があります」

「ん……? ああ、そういえばそうか。グアムで外来種のヘビが固有の鳥を絶滅させまくったってニュースでやってたな」

 

 似たパターンだと外来種は鼠、猫、犬、トカゲあたりが鉄板である。魚だとブルーギル。皇居のお堀に勝手に放流されたと聞いて昭和天皇が激怒したと言われているアレだ。生涯三度しか心の底から怒らなかったと言われる昭和天皇激怒要因の一つなあたり、その害悪さはお察しである。

 

「まあヘビカメを食べるかどうかはさておき、まず優先するのは植物の苗の入手だな」

「家庭菜園は絶対にするつもりなんだな……」

「山雲としては~、提督が野菜に情熱を傾けてくれて~、嬉しいわ~」

 

 脱力した様子の摩耶と、背景に花が咲いている山雲。

 

「いや、お前ら軽く見てるっぽいけどな? ラバウルで何で司令官が率先して鋤を振るっていたのか知らない訳じゃないだろ?」

 

 食堂の雰囲気が一気に重くなった。日本帝国軍の兵站における鈍感さは病気レベルだと俺は思っている。信じられるか? 戦没者の六割が餓死・病死なんだぜ……? ソビエトとかもっと酷い所もあると言えばあるが、少なくとも俺は八十一号作戦やインパール作戦なんぞをやらかした軍上層部を信用して食料の自給を軽視しようとは思わない。

 先述の作戦を発案したのが問題ではない。発案して会議にかけるくらいは何の問題も無い。問題なのは到底実現不可能なそれが会議を通った事と、発案者が作戦をゴリ押しした結果失敗して軍が大損害を受けても、GOサインを出した奴らが発案者諸共一切降格しなかったことだ。自浄作用が働いていない。事実、八十一号作戦を発案した奴は後に天一号参戦を発案してやがる。

 

「だからこそ畑と言うか農園規模のものを作って、最低限の食事摂取基準は島産のもので維持できるようにしたいとは思っている。ヒュウガの作るロボットで」

「人頼み!?」

 

 アブゥうるさい。

 

「AIで自立判断可能な人型ロボットを暇つぶしで量産するんだよ、ヒュウガは。そういう前科がある」

「ええぇぇぇー……」

「人型ロボットと農業用ロボット、どっちのほうが作るの簡単だと思う?」

「そら、農業用の方やろうなぁ……」

「本当に俺としてもヒュウガ任せヒュウガ頼みばっかりで情け無いとは思うんだけどな? あいつ出来る事の幅が広過ぎてつい頼ってしまうんだよ。

 ……とは言え、種や苗を入手するには皆の力が必要だ。深海棲艦から制海権を取り戻し、世界に黄金の時代をもたらす為の第一歩。俺に力を貸してくれ」

 

 頭を下げた俺の隣に若葉がやって来る。

 

「大丈夫だ!」

「ほんとそればっかりだな、お前」

 

 自信満々に微笑む彼女の頭を、俺は笑って撫でた。

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