こちらパガン島鎮守府、本日は晴天なり   作:荒城乃月

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 その後全員で出撃設備のある部屋に移動し、演習のブリーフィングをする事になった。

 

「今は8時で……時差があるから現地だと何時だ?」

「夜の8時ね」

 

 真っ暗じゃねーか!

 

「……それ大丈夫なのか?」

 

 暗中衝突とかシャレにならんぞ。

 

「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、あのインカムには暗視機能もつけておいたから」

 

 真田さんかお前は。どんだけ機能つけてんだよ、あのインカム。暗視機能付きか……。夜間戦闘が一方的になりそうだな。

 

「質問です、暗視機能とは……ひょっとして、文字通りのものだったりするのですか……?」

 

 白雪が戦慄しつつ尋ねる。

 

「文字通りよ。『暗視、スイッチオン』で起動して、『暗視、スイッチオフ』で停止するわ」

 

 一同が早速起動して、歓声をあげる。俺もヒュウガから貰ってたサンプル品を起動するが、視界の前にバイザーのような空間投影モニターが現れ、緑と黒で構成された風景を映し出した。一般的にノクトビジョンと呼ばれるアレだ。

 

 ちなみに暗視装置にはアクティブとパッシブがあり、アクティブが自分から赤外線を放射して反射を見るタイプ。早い話が赤外線版の探照灯だ。これの起源は意外に古く、二次大戦末期のドイツが戦車用として実用化していた。対してパッシブは月明かりや星明かりといったほんの僅かな光をキャッチして昼間のように見えるようになるというもので、現在の主流はこっちだ。当然インカムに搭載されているのはこっちで、室内の隅の薄暗い所までクッキリハッキリ鮮明に見えた。

 

「ついでだから、あなたたちの艤装のレーダーも改造しておいたわ。感度も感知距離も大幅に増しているわよ」

 

 夜間どころか濃霧も大丈夫そうだ。これは「ビーコンがいるかも知れない」からどんどん機能が追加されて、恐竜的進化を遂げたパターンだ。

 

「と言うかね。よくこんなレーダーで戦争できてたわね」

 

 いや……。それは……。つい、と阿武隈と若葉が目を逸らした。

 

「何、その反応。何かエピソードでもあるの?」

「その、キスカ島撤退作戦で……」

「私は衝突して不参加だったのだが……濃霧で何も見えず、うっすらと見えた影を敵艦だと思って魚雷を発射したら岩だったという事があって……」

 

 他にも北方海域は霧で視界が効かない日が多かったらしく、色々と逸話が残っている。それ故、キスカ島撤退作戦ではレーダー持ちの駆逐をかき集めたのだとか。

 

「それじゃ、艤装つけるわよ」

 

 ヒュウガの声と同時に六人が見えない力に吊り上げられ、艤装が装着される。

 摩耶のは昨日見たが、他の五人のは初めて見るな。

 

 基本的には背中に背負い物をして、手で武器を持つのか。と言うか、それくらいしか共通点が無いな。ブーツみたいな艤装を付けたり付けなかったり、武器も手持ちだったり手にマウントしてたり。魚雷発射管なんて手に持ってたり太ももに付けてたり背中の艤装にマシンアームで保持されてたり、共通して無い。

 そして二次大戦の装備群の中、異彩を放つレーダー。四角台形の箱がマストの天辺に鎮座する。イージス艦でよく見るぞ。フェイズドアレイレーダーかアレ。

 

「私たちの艤装に、何か変なのが!?」

 

 白雪が悲鳴っぽい声をあげる。それがレーダーなんだよ!

 

「……え? これがですか? そういえば、32号に似ているような……」

「ヒュウガ、32号てどんなの?」

 

 無言で投影ディスプレイが差し出される。見た目は……デカい箱の上に、3つロ形鋼管を並べた感じ? これのレーダーってどこ……え? 上の鋼管? 箱ごと回るのこれ? パラボラアンテナの前身みたいなもんか。

 対してヒュウガの用意したフェイズドアレイレーダーは四面からレーダー波を出して同時に全方位を探知している。仕様そのものが全く別物だ。

 

「先に説明しておくけど、そのレーダーは360度全方位を海上も空中も探知しているわ。探知距離は艦娘になってマストの高さが大幅に低くなったのもあって、水上艦相手だと……そうね、大体10km(6マイル ≒ 2.2(√2 x √1.8))も無いから注意してね。空中なら相手の飛行高度にもよるけど500kmは行けるわ」

 

「「「「「全方位を500km!?」」」」」

「あらあら~……」

 

 水上艦相手だと探知距離が異常に低いのは、探知のための電波は地球の表面に沿うように多少屈折するとは言え、地球の弧よりも大きな角度でしか屈折しないのと大いに関係がある。相手があまりに遠くにいると、電波が相手の上を通り過ぎてしまってしまうのだ。よって船に限らず、レーダーというのは電波を少しでも遠くに届けるために高い位置に備え付けるのである。

 

 大幅に小型軽量化した艦娘だが、水上艦の探知能力だけは艦艇の時と比べて大きく下がってしまうのは見過ごせない欠点だった。

 しかしレーダーの高さが索敵距離に大きく影響しない空中となるとこのヒュウガ容赦しない。探知距離500kmってイージス艦並みのスペックだぞ? 艦娘サイズのレーダーでその探知距離ってどーなってんだ。霧の技術力とは一体……。

 

「詳しくは出撃して実際に試してみなさい。ほら、提督?」

 

 彼女に提督と揶揄されて、苦笑しつつ頷く。責任者がボサっとしちゃいけないよな。

 

「艦隊の出撃を許可する。

 ヒュウガ謹製の装備で勝手が変わったかも知れないが、同時に性能は劇的に向上している。しかし、それを帝国海軍の精鋭が使いこなせないなんて事は無いと、俺は確信している」

 

 ハッ、と、摩耶が笑った。好戦的な笑みだった。やってやるぜ、という気概の見える、いい笑みだった。

 

「出撃システム、正常に稼働中。座標確認。――クリア。転送ゲート、開くわよ」

 

 出撃設備を操作するヒュウガが手を振るい、黒く渦巻く空間の捩れが室内に現れる。捩れの先に見えるのは夜の海。

 

「第一水雷戦隊、阿武隈! 旗艦、先頭! 出撃します!」

 

 クラインフィールドの足場の上に立つ阿武隈が、高らかに声を上げ、捩れに突っ込む。

 

「おう、行くぜ! 抜錨だ!」

「いっきまぁーす!」

「出る」

「皆さん、ご一緒に頑張りましょう!」

「抜錨しまーす」

 

 続いて摩耶が。黒潮が、若葉が、白雪が、山雲が出撃した。

 最後の山雲の通過と同時に捩れは迅速に閉鎖され、代わりに出撃ルームの壁に暗視処理された現地の映像が投影された。プロジェクターもあったのか。

 映像は大画面一つと小分けされた画面が6つで、小画面の映像を見るに各艦に小型カメラが設置されているようだ。レーダーのついでに増設したのだろう。

 大画面は……斜め上空から追随している。どうやって撮ってんだ?

 首を捻っている俺に気付いたのか、

 

「ああ、それ? ドローンを飛ばして現地の映像を拾っているわ」

 

 と教えてくれた。

 

『提督ぅ、聞こえます?』

 

 俺も耳につけてたインカムから阿武隈の声がする。そりゃ、こんな形状してるし通話も可能か。

 

「聞こえているぞ。必要だと思うままに動いてくれ」

『了解しました! ……って、うわ、暗視やっぱり凄い! 夜なのに水平線まで見える!』

『阿武隈さん、空! 空!』

『ふわーっ、天の川がハッキリ……』

『レーダーも、凄いわ~。皆の位置が常に表示されてるわね~』

『……こりゃ、まずは装備の使い勝手を確認したほうがいいな!』

 

 姦しい。大興奮だ。しかし騒ぎながらも湾内を疾駆し、単縦陣、複縦陣、などと阿武隈の指示に従いパパッと陣形を組み替えていっている。急な反転や陣形を保ちつつの旋回と言った艦隊行動もスムーズにこなしており、動きには一分の淀みも無い。

 艦隊運動は歩くようなものと豪語するだけはある。阿武隈の指示に従い動く艦隊はまるで生き物のようだった。

 

『提督、私たちの実力、見てくれました?』

「ああ。艦隊運動は完璧みたいだな」

『当然です! 世界最強の水雷戦隊の名は伊達では無いのです!』

 

 誇りと自負に満ちた阿武隈の声。艦の時の話とは言え、どれだけ厳しい訓練を経て、それを乗り越えてきたのか、という事を感じさせた。

 

『次は砲撃訓練ですけど、いいですか?』

「的は?」

『ヒュウガさんに用意して貰いました!』

「OK。やってくれ」

 

 俺の合図と共に、何も無かった遠くの海面上に的となる小さなボートが出現した。暗視システムの画像処理にCGを割り込んだのだろう。これなら資材を何も使わず様々なシチュエーションの的を用意できるな。

 

『じゃ、まずはアタシからだな』

 

 的から大きく距離を取った艦隊の中から摩耶が一人進み出た。両手の主砲を斜めにかざし、腰を落とすと一斉射撃。爆音と共に放たれた4つの砲弾は、的を掠めて海面を叩く。

 

『……マジかよ。夜間で十分な距離がある標的に初弾から至近弾。ハハッ、考えられねぇ……』

 

 狼のような笑みを浮かべた彼女はやおら急速発進、ジグザグに進みつつ両手の砲を順次斉射。その全てが的を貫くか、的の至近に落ちて水柱で的を大きく揺らした。

 

『ハ。ハハハ』

 

 両手を前に突き出して斉射。推進機も逆転させて、砲の反動と合わせて急停止する。そんな停止ついでの動きでも弾は的に突き刺さる。

 続いて右舷片足だけ全開にして信地旋回に近い動きでスライドターン。ダッキングのように身を屈めて回避動作を組み込みつつ、不安定な姿勢から一発だけ射撃。命中。

 

『ハハハハハハハハハ!!』

 

 後はもう、艦娘になって可能になった人としての柔軟性をフルに発揮しつつ、哄笑しながら駆け回り縦横無尽に砲弾をバラ撒き続けた。

 

「わーお……」

 

 彼女の射撃が終わると同時に、命中率のスコアが出た。100発撃って命中34の夾叉49。外れたのは17発だが、内訳を見ると全門斉発による衝撃波干渉で大きくズレて夾叉にカウントされなかったのが6の、無茶な姿勢で撃ったのが11のだった。

 落ち着いて斉射じゃなく交互一斉打方で狙えば、全弾が夾叉と命中になったかも知れない。

 

『いやー、暗視装置とレーダーすげぇな!』

 

 両手の砲から煙を立ち上らせながら、ご満悦と言った様子で摩耶が言う。

 確か帝国海軍の艦艇は測距儀や測敵盤等で読み取ったデータを機械式計算機の親玉みたいな射撃盤に入力して計算して、それを元に発令所が射撃指示を各砲塔に出すんだっけか? ヒュウガ謹製インカムがあると、より正確なデータがリアルタイムで入手できるって事になるのか。

 通信機越しでも分かる彼女のウキウキ声に、ヒュウガはため息をついた。

 

「私からすると、ロックオンも無いのに勘と経験だけであれだけ命中弾を出す貴女が凄いと思うわ」

『貴女? 違うな、アタシだけじゃ無ぇ。阿武隈!』

『任せて任せて!』

 

 弾かれたように呼ばれた阿武隈が飛び出し、的に向かって両手の単装砲をジグザグに駆けながら撃ちまくる。

 続いて駆逐四人が順次射撃を開始し、総じて命中夾叉8割強という狂ったスコアを叩き出した。

 

 最後に仕上げとして、艦隊運動を取りつつ動く的に向かって射撃演習。阿武隈の指示の元、バカスカ飛ぶ弾が土砂降りの雨のようにジグザク走行する標的のボートに突き刺さるのを眺めるのは、なかなか壮観だった。

 と思ったら、ボートが大爆発した。いつのまにか魚雷を忍ばせていたらしい。夜の酸素魚雷は暗視装置があっても見えないな……。

 

 続いて対空。砲撃の時と同じくデジタル処理された仮想標的に向かって主砲や高角砲、機銃で弾幕を張るが、流石に高速で三次元的な動きをする航空機相手だと命中弾はグッと落ちる。

 

 確か日本の対空砲弾は時限信管のみで、接近信管は技術不足で作れなかったんだったか。対するアメリカは戦時中に開発を成功させて、レーダー網+航空管制+接近信管の合わせ技でマリアナの七面鳥撃ちを起こしているはずだ。

 などと思っていたら、後半になるにつれて有効打判定がどんどん増えだした。何かコツを掴んだらしい。

 

 最後に対潜。ソナーを使って潜水艦の位置を探り、爆発深度を設定した爆雷を放り投げる訓練だ。こっちは問題が発生。イメージとしてはソナーはつま先か靴底に設置されておりスクリューは踵にあるのだが、つま先と踵の距離が近すぎて動いていると雑音を拾いまくって聴音性能が激落ちするという笑えない結果になった。

 停止して聴音、動いてまた停止して聴音、とする必要があるが、停止時は敵にとっては魚雷を打ち込む格好の的になる。それでも位置を特定さえできれば、爆雷は問題無く運用できたようだった。

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