シャルロットの事を聞いた俺は翌日から動くことにした。簪には悪いが試験運転は明日にさせてもらった。こういう問題は早めに解決するに限る。だが頼る相手は決めておかねばならない。このIS業界において多大なる影響力を誇る元世界最強、ブリュンヒルデこと織斑千冬。筆頭として挙げられるのはこの人だろう。次に選択肢として上がるのはこの学園の生徒会長を務める、現ロシア国家代表の更識楯無だ。この学園で問題が発生なら事の解決に当たるのは真っ先にここが上がるほどだ。ならば手を借りる他ない。だが優先順位では織斑先生が先だろう
「あくまでも火の粉が降りかかる前に払うだけだ。後で一夏になんと言われてあーだこーだ言われるのは忍びないからな」
今回の目的として、シャルロットの援護だ。一夏の案に乗るわけじゃないがやらねばならないと思ったまでだ。俺が経験したことを身に受けた奴を放っておけない。だが、あんなことを言った翌日だ。1人でやるしかない
「失礼します」
生徒指導室の中に入る。放課後に織斑先生に約束を取り付け相談を持ち掛けたのだ
「来たか、とりあえず座れ」
「うす」
俺は織斑先生と対面するように椅子に座る。ここからは俺のやり方を見え、伝え、貫くのみだ
「相談事とはなんだ?」
「俺の事じゃないんですけどデュノアのことで」
相変わらず織斑先生の表情は崩れることなくただ聞いているだけだ
「・・・先生はあいつの事はどれくらい知ってますか?俺は昨日、全て聞きました」
「私も知っている。それでどうした?」
「どうか助けてやってくれませんか」
椅子から地べたに正座し頭を擦り付ける。土下座だ
「頭をあげろ、話しづらい・・・とりあえず理由を聞こう」
俺は頭をあげ、正座したまま話し始める
「あいつはデュノア社でほぼ非合法と言っても過言では無い程の仕打ちを受けていたと聞きました。そこに嘘があるかどうかは知りません。ですが強要されてやらされたことが嘘であるとは思いません」
「そうだな。ならなんでデュノアを連れてこなかった?」
これが1番痛い問題だ。昨日の言葉は正しいと思うけど、ここに連れてこられなかったのは大きすぎる。言葉に信用が生まれない可能性すらあるのだから
「それは・・・昨日の事なんですが、有り体言えば嫌われてしまいまして」
主に一夏に、だけどな。シャルロットは知らん。何も言わなかったし
「なら聞くが鏡野、お前は嫌われた人間に対してどうしてそこまでしようとする?」
「ぶっちゃけますと嫌われているとかどうでもいいです。聞いてしまった以上、やるしかないということ」
「・・・ふっ、お人好しか」
お人好しなんかじゃない。万人に好かれるような面倒なことはしない。ただ、ありのままを話し、伝え、理解してもらう。その後は他人次第だ
「それと俺が過去に受けてきたことに類似していたので、見過ごすわけにはいかないということ」
「過去?・・・もしや背中の傷に関係することか?」
「ええ、あれはまだ俺が小学2年の時ですかね。いやそれよりももう少し前、いつからだか忘れましたが俺はまるで奴隷のように扱われてました。病気になろうが怪我をしていようが家の事は何でもやらされました。逆らえば暴力を受けて、ただ死を望むかのような生活を送っていました。そんな境遇に置かれたこともあってかデュノアに共感したんだと思います」
俺が動いた動機はこれだ。奴隷のような扱いを受けたことに腹立たしさを感じ、突き放したとしても動こうと思った。代償として俺が払うわけでは無いがシャルロットがどういう罰を受けるかどうか分からんが
「そういうことか。鏡野もそういう経緯があって私に話してくれたんだな」
「簪達や親父、母さん以外に言ったのはこれが初めてですけど」
「まぁ鏡野が話してくるとは思わなかったな。実はもう動き始めているがな。生徒会の方にも書面で伝わっているはずだ」
・・・実は必要なかったパティーンですかね。こんだけ話して実はもう動いてますよーって、うわ、ナニコレ恥ずかしいんですけど。だが、たかが子供が解決できるような問題じゃないし
「と、とりあえずこの話はデュノアとか他の奴らには秘密にしておいてください」
「貴様はそれでいいのか?」
「いいんです。俺にとってもあいつらにとっても、知られない方が互いにやりやすいでしょう」
対立してもやることはやらねばならん。俺がやりたかったからやっただけでしかないのだから
「分かった。これは秘密としよう。話は変わるが鏡野、私から1つ頼まれ事を受けては貰えんか?」
「内容によりけりですが・・・重大な事でなければ」
「何、簡単さ。ボーデヴィッヒの事だ。あいつとは仲良くやってくれないか?」
初日で一夏にビンタした奴か。織斑先生の事を教官と呼んでいたし関係はあるんだろうな
「ボーデヴィッヒも辛い経験をしていてな、鏡野であれば取り持つことができるやもしれんのだがどうだ?」
「やれるだけはやってみます。あんま期待はしないでください。変に期待されても面倒なんで」
「自己評価が低いのか知らんが、私は鏡野を高く評価している。まぁいい、よろしく頼む」
頼まれたのであればやるしかないか。印象が一夏に対してのあれしかないというのはやり辛い。まぁ手段としては色々あるだろう
「それでは俺はまだ用があるんで、これで失礼します」
「どうか頼む」
立って一礼してから生徒指導室を出る。念には念を入れて楯無に頼みに行こう。無駄に終わるかもしれんがやらねばならんことだ。階を1つ上がり3階へ到着し、階段の空き教室を2つ横に進むと生徒会室がある。覚悟を決めノックを3回する
『はい、どうぞ』
中から虚の声が聞こえてくる。生徒会室の中に入ると楯無に虚、本音の3人がいた。少数精鋭でやっているという話は聞いたことがあるが、もう2,3人ぐらいはいてもいい気はする。楯無と本音が対面している机の上には多量の紙束が積み重なっている。虚にはそこまで無いが
「ななみんだ~」
「あら七実君じゃない。こんな時にどうしたの?もしかしてお姉さんに会いに来たのかな~?」
「まぁ、あながち間違いじゃない」
「へ?」
適当に言ったんだろうが当たってるんだよな。楯無の勘も凄いな、姉妹揃ってエスパーなんか?
「え、いや、何言ってるのかな七実君。お姉さんをからかっちゃダメだぞ!」
「別にからかってるってわけじゃないんだが」
「そ、そうなの?ふふん・・・お姉さんに何の用かな?もしかしてデートのお誘い?」
「いや違う」
にこやかな楯無の表情が一転して落胆したように見えた。いや、俺にそういったものを求められても何もできんぞ?
「じゃあ何のようなの?こう見えても忙しいのだけど」
「なら手短に、デュノアについてだ」
ほんの一瞬だが虚の手が止まったような気がした
「ふーん、シャルル・デュノア君がどうしたのかしら?」
「どっかの馬夏がデュノアの正体を俺にバラした。知らなかったら忘れてくれ。知っているなら本名を言ってくれ」
俺がそういうと大きな溜息が2つ零れる。楯無と虚の分だ。本音は・・・ずっとにこやかなままだ
「七実君、鍵閉めてくれるかしら」
どうやら俺を逃がすつもりは無いようだ。それはいい意味なのか悪い意味なのかは別として。ナニカされたようだ、的なことになっても織斑先生に伝えているから問題はないだろう。俺は素直に鍵を閉めた
「虚ちゃん、何か飲み物を用意してちょうだい」
「かしこまりました」
虚は作業を中断して虚は奥の部屋に入っていった。楯無は立ち上がり、隅に配置されたソファーまで移動し座ると俺を手招いた。それに乗って俺も移動し対面するように座る
「まったく面倒なことをしてくれるわ」
「俺が言うべきことじゃないと思うが、すまん」
「フランスの方よ。スパイを送ってくるなんて全く面倒なことをしてくれちゃって」
昨日聞いた限りでは、スパイを送ったは良いけどそのスパイがスパイとして活躍しないという珍事が発生してるがな
「どういう経緯でそうなったのかは聞かないけど話は聞いた?」
「今説明する・・・」
昨日聞いた事をありのまま隠さず説明した。説明とは言ったもののどこまでが本当かなんて分からない。それを前提とした話だ
「なるほどね」
「説明した後に言うのもなんだが本当かどうかは知らん。それを前提として1つ頼み事をしたい」
「
「助けて欲しいといえばそうなる。だが勘違いはして欲しくない。本当かどうかは知らんが奴隷のような扱いを受けた奴を見過ごしたくない」
楯無だったら全部は分からないだろうけど、俺が今世でどんな仕打ちをされたかは知っているはずだ。別に否定されても文句は言えない。俺にはどうすることもできないからお願いという形をとっているに過ぎないのだから
「そうね。七実君ならそういうと思ったわ。でも彼女自身はスパイなの」
「知った上だ。助けを求められたからとかじゃない、許しを乞われたからでもない。ただ俺がしたいと思ったからお願いしに来てるだけであって拒否されても文句は言えないし言わない」
「それが七実君の決意?」
「ああ」
楯無はどこからか扇を取り出し口元を隠すように開く。そこには不合格の文字が書かれていた
「やっぱりダメか」
「あら?あっさり引き下がるのね」
「俺が言ってもダメなんだろうなとは思っていた。まぁ、織斑先生曰く、この問題について書面で伝えているという話はさっき聞いていたが」
「え」
何、驚いた顔してるんですかね。さっき聞いた情報なんで間違いは無いはずなんだが
「本音ちゃん知ってた?」
「はい~」
「虚ちゃんは知ってた!?」
「知ってるも何もお嬢様の山に入ってますよ。昨日から」
おっと急に心配になって来たぞ。いつものサボり癖のせいで伝わっていなかったのか?いつの間にか置かれていたカップには紅茶が入っていた。ありがたく頂こう
「ん、美味い」
「ありがとうございます。それでお嬢様、どうしますか?」
「今探してるから・・・これじゃない、これでもない・・・あったわ・・・七実君、シャルロットちゃんに伝えれたら、こう伝えておいてちょうだい」
なんかもうね、疲れた顔になってますよ楯無さん。疲れるのはこれからだと思うんですが
「嫌われてるから無理だ。自分から言ってくれ。あとこのことは一夏とシャルロットには秘密にしてくれると助かる」
あれだけ言っておいて勝手に助けたとか思われても恥ずかしいし傍迷惑だ
「なんでですか?」
「あいつらとはそりが合わないのが証明されてな。厄介事に巻き込んだくせに甘いことしか言わないのに腹が立ってな。俺が思ったことを全部言った。そしたら嫌われた、以上だ」
「たは~、昨日の傷は酷かったもんね~」
あれは、やらねばならない事の為の致しかない犠牲だ。謂わばコラテラルダメージだ・・・あれ、これ言うと死ぬんじゃなかったっけ
「へ~、ふ~ん。激しいことをしたの?」
「断じてしていない。そもそも俺は巻き込まれただけだ」
「・・・したの?」
「言い方が悪かったな。厄介事に巻き込まれただけだ」
あの時程、面倒だと思った事はねぇよ。腕を引っ張られながら「俺、これが終わったら簪の料理食べるんだ」とか感じてたと思う。その後で死にかけるという珍事が発生しましたけど
「まぁ、やることは一緒だしやれるだけやってみるわ」
「よろしく頼む」
「でも嫉妬しちゃうわね。ぽっと出の少女に七実君の意識が向くなんて」
「本人目の前で嫉妬とか言うな。生々しい」
別にそういう対象でシャルロットを見ているわけじゃない。嫌われているからこうして一人で動き回っているわけなんだがな
「今日はありがとうな。俺は帰ることにする」
「あー、そうだ。七実君、部活ってまだどこにも入ってないのよね?」
「入る気が無い。強制なのは知ってるが面倒だ」
「なら生徒会に入らない?お手伝いさんでもいいから」
「考えておく」
楯無と本音がサボるから虚が大変なんだろうな。お手伝いさんとか言って勝手に役職をつけそうだから怖い。とにかく俺は生徒会室を後にして寮へと足を向けることにした
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内容はIS学園の夏休みでの話です。3,4話後にアンケートを開始します