艦隊これくしょん 隼の物語   作:緋色の鎮魂歌

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そこは海の上

 まあ、何もない人生だったが、そんな俺でも少しは生に執着はしていたのかもしれない。恐らくだが、今思ってみてもそんな気がする。

 何も無い、いつもと変わらない日常になる筈だった。いつも通り起きて、メシ食って、顔洗って、身支度整えて、仕事に行って、と。そう、何もかわらないいつも通りの日常になる筈だった。

 それがまあ、車に轢かれそうになった女の子を庇って死んだのだが、今思ってみれば相当馬鹿なことをしたなと思ってみる。

 

 

 まあ、それを思ってみても仕方ないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――とまぁ、生前?前世?の前のことを思ってみるんだけど、どう思う?」

 

「どう思うといわれてもですね。そんなの分かるわけ無いじゃないですか、()()さん」

 

 何処までも広がる蒼く高く遠い空の下、()()()()の上で俺は肩に乗っている小さな妖精さんに話しかける。

 『艦隊これくしょん ~艦これ~ 』 それは生前の俺がやっていたオンラインゲーム。隼鷹とはその中で出てきた軍艦。

 旧日本帝国海軍商船改装軽空母、飛鷹型軽空母二番艦 隼鷹。橿原丸級貨客船橿原丸を日本帝国海軍が徴用し航空母艦へと改修した姿である。そして、第四航空戦隊として第二次世界大戦を生き残り、復員船として運用、そして、一九四七年の八月一日に完全に解体されその生涯を閉じた艦艇である。

 勿論、俺も使っていた。何せ、空母レシピをまわして初っ端に出た艦であり、秘書艦の時に流星・紫電改二・彩雲の三機種を初期の段階で、更に連続で引いたから。そして、戦場に出れば唯一無傷で帰ってくる。

 もはや、俺の中での幸運艦であり、最古参の(いなづま)と並ぶ最高練度艦艇となっていた。

 

 

 

 そんな艦艇の娘―――――艦娘となった私事、隼鷹であるが、俺が今いるところは何を隠そう、航空母艦隼鷹の上なのである。

 

「はぁー、何でこんなことになっちゃってるかねー」

 

 そんなことを言いつつ、甲板に立って背伸びをする。周りを見るとそこは見渡す限りの海と空。波穏やか、急激な天候の変化も確認できない。

 だが、いつどこから人類の敵、深海棲艦が現れるとも限らない。だから安心することはできない。

 

「妖精さん。艦の状況を教えて」

 

「船体に異常なし。艦載機五十三機。内分け零式艦上戦闘機十五機、九九式艦上爆撃機二十機、九七式艦上攻撃機十八機、全機異常なし。12.7cm連装高角砲六基、25mm三連装機銃八基、問題なし。(ボイラー)主機(タービン)問題なし。燃料・弾薬共に満杯。それと、高速修復材(バケツ)が二個あるぞ」

 

 高速修復材まであるのは予想外だった。でも、油断はできそうにない。これから先どんな事があるかわからない。できれば艦を隠せるくらいの島か、いっその事どこかの鎮守府へ。

 

「わかんないな、そこの提督がどんな奴か、ひいては今の大本営にどんな奴がいるか…………」

 

 この世界がどんな世界か分からない以上、不用意に鎮守府に接触するのは得策だとは思わない。ネット小説で有ったようなブラック鎮守府が存在するかもしれない。だが、鎮守府での支援が得られないのは艦娘としては致命的だと言ってもいい。でも、それでもそんな鎮守府(とこ)へは行きたくないし、何よりこの世界を見てみたい。

 

「………よし、行くかね!主機始動前進微速!進路東へ!!零戦二個小隊(一個小隊三機)発艦!!一隊は前方の哨戒、もう一隊は直援にまわってくれ!!発進する!!」

 

とは言ってみたものの、どうすっかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先程、艦遺物の一つが消えました」

 

 とある建物の一室で一人の女性が太陽の差し込む窓を背にして座っている一人の男性に向かって話していた。女性は黒い長髪に眼鏡をかけた知的そうな女性。もう一人の男性は七十代から七十代程の見た目で温和そうな顔つきではあるが、その目に宿っている光は鷹の様に鋭く鋭利な光を帯びていた。

 

「そうか、無くなったのはなんだい()()

 

「米国より返還されていた隼鷹の鐘です。()()()()

 

 元帥と呼ばれた初老の男性は椅子から立って窓へと向かう。窓の外には巨大な港湾施設と多くの倉庫、そして海が広がっていた。

 

「今の所、各鎮守府から隼鷹を建造したという報告もありません。また報告してないということを考えまして、各方面の憲兵隊特捜部に確認を取らせています。本土の鎮守府ならばすぐに分かるでしょうが、今はなんとも………」

 

 男性は大淀の報告を聞きながら、外を見ている。窓の先に見えているのは海に面している大きな港湾施設と幾つかの対空兵器、そして停泊している数隻の護衛艦と入港してくる輸送艦とその護衛に付いていた艦娘の軍艦。

 

「今は特捜部の報告を待つしかないのか…………深海の奴らと尻尾掴みきれてない奴らより先に見つけ出したいものだ。潰されるには惜しい」

 

 男性は椅子に座りながら腕を組む。その閉じられた瞳で何を考えているのかは、誰にもわからない。

 

「海上で生まれた(ドロップした)可能性も捨てきれん。一応、ここからも捜索隊を出すべきか……ウチの遠征組にはドロップ艦への一層の注意を払えと。それと、他の鎮守府にも同様の通達を」

 

 了解しました、元帥閣下。と大淀は敬礼をして部屋を退出する。男性は腕を組んだままの姿勢を崩さない。だが、その開かれた瞳には確かな思いの光が篭められていた。

 

彼、いや彼女が、これからどうなってしまうのか?それを知る者はいないだろう。

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