提督(笑)、頑張ります。 外伝   作:ピロシキィ

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後藤陸将さんからの寄稿です。

ありがとうございます。


History was changed at the momentⅡ[前編]《叙》

 

 

 

 

 

「まぁ、しかし、当時の日本海軍からしてみれば、陸軍の航空機を空母に積んで日本本土を空襲し、しかも帰りは中国大陸に逃げるなどというこの作戦は荒唐無稽としか言いようがなかったのでしょうが、それを見事に予測してのけた長野の洞察力もまた、神がかっていたんですね」

「ええ。長野と共に山本に直談判した宇垣参謀長の陣中日誌によれば、当時の聯合艦隊司令部内で長野の懸念を現実のものとしてとらえていた者は皆無だったそうです。確かに、長野の言うとおり、陸軍の爆撃機ならば航続距離は長いですし、それを空母から発艦させることも不可能ではありません。中国大陸に逃走するというのも、出来ない話ではなかった。理論上は可能だったわけですが、それが成功したとしても十数機の中型爆撃機に搭載できる爆弾で日本に与えられる被害の大きさは知れていますし、そもそも爆撃機の発艦前に日本海軍に発見され、攻撃を受ける可能性も、発艦した爆撃機が迎撃を受ける可能性もあります。作戦の成功確率は低く、失敗した場合、下手をすれば爆撃機を運んできた艦隊の壊滅も有り得る一方で、成功したとしても日本に与えられる影響は限られています。長野以外の参謀らからすれば、リスクとリターンがどう考えても釣り合わないこの作戦は、分も悪く旨みもない賭けとしか思えなかったのでしょう」

「しかし、長野はそれでも必ずアメリカ海軍はその分の悪く旨みのない賭けをやると確信していたんですね、一体どうしてそこまで彼は予測することができたのでしょうか?」

「その辺りに関して、彼の予測や行動には謎が多いんです。今回のドゥーリットル空襲にせよ、当時日本海軍が得られた資料から、アメリカが空母に陸上爆撃機を載せて日本本土を狙っているという結論をどのように導き出したのかを考えると、説明のつかない点がいくつかあります。アメリカは、政府や軍の中枢に日本のスパイが多数紛れ込んでいるに違いないと考えて大規模なスパイ撲滅作戦を展開しましたが、めぼしい成果はほとんどあがりませんでしたし、終戦後に日本の諜報機関の活動を全て洗い出しましたが、戦時中にアメリカの中枢にまで入り込んでいたスパイの記録は見つかりませんでした」

「スパイなどから情報を得ていたという線は薄いと言ってもいいのでしょうか?」

「公表されていないのか、それともそもそも存在しないのかは分かりませんが、今のところ、長野とアメリカに入り込んだスパイの繋がりを示すような証拠は見つかっておりません。ただ……その後の長野の実績などから考えるに、長野の洞察力、頭の回転、発想力は日本海軍でも――いいえ、日本史上から考えても、突出していた人物であったことは間違いないでしょう。スパイからの情報提供があったにせよ、なかったにせよ、長野はドゥーリットル空襲に関してはその冴え渡る頭脳を持って時期は不明だけれども、いつか必ず行われると確信していたのではないかと私は考えています。アメリカという国の中で世論が果たす役割と、世論が戦略を大きく左右するというアメリカの戦争形態を長野は良く理解していましたし、不可能を可能にする作戦を立案するのは彼の得意とするところでもありましたから。そして、自らの予想の裏づけを取るために軍令部に入り浸り本土襲撃の兆候となる、山本長官を説得できる材料を探していたのではないかと私は考えています」

「なるほど、資料から相手の狙いを読み解くのではなく、予め相手の戦略をある程度予想して、それを裏付ける資料を探していたということですか。長野は常人とは全く逆の順序で相手の思考と作戦を読んでいたのですね」

「ええ。普通ならばありえない考え方なのですが、長野の戦歴を見る限り、スパイの線がないとすれば、そう考える他ないのです。勿論、常に予測があったわけではないと思いますが。彼の中では最悪の想定はいくつか戦前から考えられていて、それだけは避けるために戦争開始直後から奮闘していたのではないでしょうか」

 

 

 

「さぁ、ハルゼーは、常識破りの秘策をもって日本本土空襲に挑みます。それに対し、アメリカ側の秘策を完璧に読んでいた長野は艦隊に直接乗りこみ、本土空襲を阻止すべくハルゼーの前に立ち塞がりました。奇しくも、航空機の可能性をいち早く見抜き、その発展と運用に心血を注いだ二人が、史上初の航空母艦同士の戦いに挑むことになったのです。そして皆さん。いよいよ、今日のその時がやってまいります」

 

 

 

 

 昭和一七年四月一八日 午前四時頃

 

 

 空母加賀に乗り込んでいた長野は、航空機による索敵を主張しました。

「もはや、いつ出くわしても不思議ではない。先手を取るためには、先に敵を見つけるほかない」

 発艦に万全を期すために夜明けを待つべきだという周囲の反対を「自分が操縦するから問題ない」と主張して強引に押し切った長野は、航空本部で同僚だった加賀の艦長、岡田次作大佐の口添えもあって、加賀に搭載されていた零式艦上戦闘機二一型を借り受けることに成功します。

 そして、宣言通りに自らゼロ戦に乗り込み、空母から飛び立ちました。

 その離陸の手際はまさに教科書に載るほどに見事なものだったといわれています。

 

 

 

 午前五時三〇分

 

 日本海軍がアメリカ海軍の襲来を察知するために東太平洋の各地に配備した特設監視艇の一隻、第二十三日東丸が、アメリカ艦隊から発艦した艦上戦闘機の姿を捉えました。

「敵艦上機ラシキ機体三機発見」

 第二十三日東丸は即座に敵機発見の報を打電します。

 そして、そのほぼ同時刻、長野もまたハルゼー率いる空母機動部隊の姿を捉えていました。

 しかし、アメリカ艦隊もまたレーダーで長野の駆るゼロ戦の接近を察知し、迎撃機をエンタープライズから発艦させていました。

 長野は、四機もの戦闘機に追い回されながら、必死に情報を加賀に打電します。

 

「空母ヲ伴ウ水上部隊見ユ。位置、『三宅島』ヨリノ方位二一度、八〇六浬」

 

 

 

 午前六時

 

 上空のゼロ戦や周囲の哨戒艇らしき小型船から電信が発せられたという報告を受け、ハルゼーは艦隊の位置が日本海軍に知られたことを悟ります。

 当初の予定では、ドゥーリットル中佐率いる爆撃機隊を発艦させるのはここからさらに四五〇km西進した地点からとなっていました。現在の地点から、日本本土まではおよそ一二〇〇km余り。

 既に日も昇っており、この地点からでも爆撃隊を発艦させることは不可能ではありません。ですが、予想よりも四五〇kmも離れた地点から発艦するとなれば、アメリカ艦隊発見の連絡を受けて駆けつけた日本陸海軍戦闘機部隊の攻撃に晒される時間が長くなります。戦闘機との交戦時間が長くなればなるほど、日本本土にたどり着く前に撃墜される機体は増えることが予想されます。

 仮に爆撃機隊が日本本土空襲に成功したとしても、中国大陸に離脱するまでに復讐に燃える日本陸海軍戦闘機の激しい攻撃を受けることは間違いありません。激しい空戦で燃料を消費した結果、中国大陸まで飛べなくなる機体もでてくる可能性がありました。

 しかし、既に艦隊の位置を知られてしまった以上、このまま艦隊を西進させれば日本海軍の待ち伏せを受けるだけでなく、日本本土から飛来する陸上攻撃機にも狙われる可能性がありました。もしも戦闘によって空母が損傷を受ければ、爆撃機隊を発艦させることもできなくなります。

 

 ハルゼーは、決断を迫られました。

 長距離飛行と迎撃に晒される爆撃機隊のリスクを承知でこの場で発艦させるか。艦隊全体が敵の攻撃に晒されるリスクと引き換えに日本本土への距離を詰めるか。

 どちらを選んでも、大きな危険を伴う選択でしたが、ハルゼーには迷っている暇はありませんでした。

 ハルゼーは、命令を下します。

 

「襲撃隊発艦セヨ。ドゥーリットル中佐トソノ勇敢ナル隊員ノ幸運ト神ノ加護ヲ祈ル」

 

 ハルゼーの命令を受けた空母ホーネットの艦上から、ドゥーリットルが操縦桿を握るB-25の一番機が発艦します。

 それに続き、続々とB-25が発艦に成功していきました。波は荒く、発艦には大きな危険を伴う条件下にありながら、B-25は次々と発艦に成功、一路日本本土へと向かいます。

 そして、ハルゼーは搭乗する空母エンタープライズにも可能な限り多くの戦闘機を発艦させる指示を下しました。

 現在艦隊の上空に日本海軍の艦上戦闘機が姿を現している以上、それを収容する空母もすぐ近くにいると考えられます。周囲の哨戒艇から艦隊の現在位置を受信した日本海軍の空母機動部隊が飛来するのは時間の問題であり、艦隊を守るためには一機でも多くの戦闘機が必要でした。

 また、このまま上空から艦隊を捉えているゼロ戦や、情報を逐一発信する周囲の小型船に付きまとわれて艦隊の情報を知られることを避けたいと考えたハルゼーは、これらを戦闘機の機銃掃射で掃討する命令を下します。

 長野の駆るゼロ戦には、エンタープライズから新たに発艦した四機のF4F艦上戦闘機を加え、八機の戦闘機が迫ります。

 しかし、長野は八機もの戦闘機に囲まれながらもゼロ戦の運動性能を活かして翻弄し続け、一発の被弾もしませんでした。

 

 指揮下の戦闘機の思いもよらない大苦戦を見て、ハルゼーは激怒します。

「何故八機で囲んでおいてジャップの戦闘機一機を撃墜できないのだ。ドゥーリットル中佐の部隊がとても難しい条件の中で無事に発艦させているというのに、よくもあのような恥さらしな真似ができる」

 その時、ホーネット艦上にいたB-25は残り一機。ホーネットに搭載されていた残りの一五機は全て危なげなく発艦を成功させており、既に針路を日本本土へと向けていました。

 ハルゼーは、これでドゥーリットル隊を無事に日本近海まで送り届けるという今回の任務の半分の目標は既にクリアされたと確信していたのです。後は、日本陸海軍の攻撃を如何に上手く潜り抜け、二隻の空母を無事に凱旋させるかだとハルゼーは考えていました。

 

 ところが、最後のB-25が発艦準備に入ったその瞬間、アメリカ軍戦闘機の包囲を振り切った長野の駆るゼロ戦が、空母ホーネットの頭上に現れました。

 エンタープライズからはこの時既に三〇機余りの戦闘機が発艦していましたが、空母上空を警戒している機体は一機もいませんでした。艦隊の近くにいる航空機は現時点では長野の駆るゼロ戦一機だけであり、それならばF4Fが八機もあれば過剰戦力だと判断し、それ以外の戦闘機を周囲の哨戒艇の掃討に優先して向かわせていたからです。

 ハルゼーも如何に優れたパイロットでも単機で八機もの戦闘機を相手に長くは戦えないと判断し、ゼロ戦を撃墜し次第、この八機の戦闘機を空母の直掩に回し、残りの戦闘機も発艦させた都度直掩に追加すればよいと考えていました。

 

 

 

 ――昭和一七年四月一八日午前七時四一分――

 

 

 

 空母ホーネットを発艦しようと加速するB-25の頭上から、長野が駆るゼロ戦が急降下しながら襲い掛かり、両翼の二〇mm機銃を発射しました。

 至近距離から浴びせられた多数の二〇mm弾はB-25のエンジンを直撃。エンジンの回転数は不安定になりましたが、最後のB-25はエンジンから煙を吐きつつもどうにか離陸に成功します。

 しかし、長野は離脱の際に二〇mm弾だけではなく七.七mm弾も併せてホーネットの艦橋へと発射していきました。艦橋をズタズタに破壊されたことで、ホーネットは指揮機能に大きな損害を受けます。

 

 

 

 

 午前八時すぎ

 

 長野からの通報を受けた空母加賀と祥鳳から発艦した攻撃機部隊がアメリカ空母部隊の上空に姿を現します。レーダーで攻撃機部隊の接近を察知したハルゼーは、哨戒艇の掃討に向かっていた戦闘機を呼び戻し、全機を艦隊の直掩に回す指示をします。

 両軍の戦闘機は空母の上空で入り乱れ、激しい空戦を展開します。

 長野を執拗に狙っていた八機の内、四機も日本海軍攻撃部隊の迎撃のために呼び戻されました。長野は味方の到着で包囲と警戒が僅かに緩んだ一瞬の隙をついて追撃してくるF4F一機を撃墜。そして、全速力で海域から離脱します。

 そして、激しい戦闘機の迎撃を突破した一五機の攻撃隊が空母に肉薄。ハルゼーが搭乗するエンタープライズは甲板に二発の爆弾の直撃を受け大破しました。

 護衛の艦艇も多数の銃撃を受け、艦上構造物に少なくない損害を受けていました。

 

 

 

 午前九時三〇分

 

 甚大な被害と引き換えにどうにか日本海軍航空部隊の空襲を掻い潜ったアメリカ艦隊に、日本海軍の第二次攻撃隊が迫ります。水上艦艇の対空兵装や直掩戦闘機部隊を第一次攻撃隊の迎撃で磨り減らしていたアメリカ艦隊は、第一次空襲以上の大苦戦を強いられます。

 長時間の空戦で消耗した戦闘機隊は次々と撃墜され、九七式艦上攻撃機の空母への肉薄を防ぎきることはできませんでした。九七式艦上攻撃機は艦橋が長野によって破壊されたことで航行に支障をきたしていたホーネットを目標に定め、次々と魚雷を投下します。

 二発の魚雷がホーネットの左舷に次々と命中し、ホーネットは左舷に大量の海水を抱え込んだことで速度が大きく低下します。

 エンタープライズにも被弾したゼロ戦の特攻と艦上爆撃機の急降下爆撃で二つの大きな穴が甲板に穿たれ、航空機運用能力を喪失していました。

 この第二次攻撃により、アメリカ海軍は重巡洋艦ノーザンプトン、加えて駆逐艦四隻を失うという大損害を被ります。

 

 しかし、戦闘はまだ終わっていませんでした。

 

 

 

 午前一一時一〇分

 

 日本海軍の水上部隊がアメリカ艦隊を補足。

 二度に亘る空襲で大きな被害を受けていたアメリカ艦隊は、ほぼ同数の艦隊であっても不利は免れませんでした。

 ハルゼーは太平洋に残されたアメリカの貴重な空母であるエンタープライズとホーネットだけでも無事に戦場から離脱させるため、駆逐艦ファニングを除く全艦に殿を任せて日本艦隊との決戦に挑みます。ハルゼー自身も重巡洋艦ソルトレイクシティに将旗を移して指揮を執るために残りました。

 エンタープライズとホーネットが離脱するまでの時間を稼ぐべくアメリカ艦隊は健闘しますが、重巡洋艦愛宕の砲撃によって駆逐艦エレットが轟沈したのを皮切りに、次々とアメリカ艦隊の艦船は炎上、あるいは轟沈していきました。

 さらに、戦場を離脱しようと試みるも、九七式艦上攻撃機の雷撃による大量の浸水のために速度が落ちたエンタープライズにも日本海軍の追っ手が迫ります。第七駆逐隊の駆逐艦三隻は護衛についていた駆逐艦ファニングを押さえ込みながらエンタープライズに肉薄し、雷撃を敢行しました。

 三本の魚雷が立て続けに命中したことで、エンタープライズは大火災を起します。

 エンタープライズに搭乗していた攻撃機のパイロット、クラレンス・マクラスキーさんは、甲板が炎上して着艦できず、上空から見守っていました。

 

「エンタープライズの艦首にまず水柱が立ちました。艦橋よりも高く聳え立った水柱を見て、思わず悲鳴をあげたことを覚えています。さらに、艦後部に一回、二回と連続して水柱が立ってエンタープライズの姿は完全に見えなくなりました。水柱が小さくなってようやくエンタープライズの姿が見えてきたのですが、先ほどの水柱と同じくらい大きな黒い煙を吐き出していて、甲板はまるで焚き火でもしているかのように盛大に燃えていました。私は目の前の現実が信じられませんでしたよ」

 

 その後、手負いの状態で数に優る日本艦隊を相手に懸命に戦ったアメリカ艦隊は何とか追撃を振り切り、ハワイ真珠湾への帰路につきます。空母ホーネットも、結果的に日本海軍の駆逐艦を惹きつける囮となったエンタープライズの沈没と引き換えに日本近海からどうにか逃げ切ることに成功します。

 しかし、この戦いの結果アメリカ艦隊は空母一隻と重巡洋艦二隻、駆逐艦六隻を失い、真珠湾へと帰港できたのは、空母一隻、重巡洋艦一隻と、軽巡洋艦一隻、駆逐艦二隻だけでした。

 対する日本側の損害は、空母艦載機部隊の五〇%の喪失、駆逐艦一隻沈没、重巡洋艦一隻大破、駆逐艦三隻中破。

 アメリカ艦隊の敗北は、疑いようの無いものでした。

 

 

 

 アメリカ海軍の惨状の一方で、空母ホーネットから飛び立ったドゥーリットル中佐率いる爆撃隊もまた、苦難に晒されていました。

 長野からの通報を受け、日本陸海軍は即座に厳戒態勢に入り、多数の航空機をB-25の迎撃に向かわせます。

 房総半島沖でドゥーリットル中佐の爆撃隊を最初に補足したのは海軍横須賀航空隊の二四機のゼロ戦でした。

 ゼロ戦部隊の強襲を受けた爆撃隊には成す術はありませんでした。

 護衛の戦闘機もおらず、自身を守る銃座もない、爆弾を積んで鈍重となったことで運動性を欠いた爆撃機は、ゼロ戦部隊にとっては格好の獲物でしかありませんでした。

 ゼロ戦部隊との交戦で、ドゥーリットルは配下の一六機のB-25の内、一〇機を失いました。

 さらに、ドゥーリットルの苦難は続きます。二〇mm機銃の残弾が尽きたゼロ戦部隊が離脱してまもなく、今度は日本陸軍の航空部隊の襲撃を受けたのです。

 立川飛行場から発進した日本陸軍飛行第五戦隊には、正式採用されたばかりの二式単座戦闘機鍾馗が配備されていました。

 この鍾馗は急降下性能と上昇力が傑出しており首都爆撃を狙う敵爆撃機への迎撃を想定して設計された新鋭機で、まさにB-25にとっては天敵といっても過言ではない存在でした。

 ドゥーリットル爆撃隊は鍾馗との激しい戦闘により、一機、また一機と数を減らしていきます。

 

 

 

 午後一二時二分

 

 ドゥーリットル中佐が操縦桿を握るB-25のコックピットを鍾馗の12.7mm弾が貫き、操縦者を失ったB-25は海面へと力なく落下していきました。ドゥーリットルが撃墜されたことで、一六機のB-25からなる爆撃機隊は全滅しました。

 非常に危険な任務に臆することなく志願し、前代未聞の策に挑んだ勇敢な搭乗員たちが駆るB-25は、一機たりとも日本本土上空にまで到達することなく大空に散っていったのです。

 

 

 

 アメリカ海軍は太平洋艦隊に残された貴重な三隻の空母の内一隻を失い、さらに空母から発艦して日本本土を狙うという奇策を実行した陸軍のB-25部隊も全滅。

 アメリカが起死回生を目論んで行った作戦は、失敗。

 それどころか、未だに戦力の回復が不十分なアメリカは、今後の作戦にも支障をきたすほどの大損害を被ることになったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

本当はもっと戦力充実させたかったんだけどなぁ…。

 

 

「提督ってニュータイプなんですか?」

 

ふと感傷に浸っていると、メロンちゃんが目をキラキラさせて言ってくるけど、

そんな君は偽乳タイプ。

 

「……」

 

「今すっごい不快な感じがしたんですけどっ!?」

 

こいつニュータイプか!?

 

 

 

長野壱業とその周りは今日も平和です。




後藤陸将さんの補足

1 長野の神がかかった采配と、やけに具体的に連合国内の機密をばらまいていたところから、アメリカは政権や軍部のかなり深いところに日本のスパイが紛れ込んでいると想定。アメリカでは戦中、戦後FBIが総力を結集してスパイ撲滅作戦を展開していたと考えています。
  ところが、日本のスパイは見つからず真っ赤な細胞が出るわ出るわ……流石にソ連贔屓な節のルーズヴェルトも放置するわけにはいかず(あれだけ長野がアホみたいな戦果をあげていれば、ソ連から日本へ情報が流れていると疑うのも無理からぬことかと……実際ソ連はドイツとの殴り合いで青息吐息だったとはいえ、日米の殴り合いを高みの見物している節が隠しきれていませんでしたし)、レッドパージが史実よりも早く進み、結果アメリカの対ソ支援(レンドリース)は史実よりもかなり縮小、ソ連贔屓だったルーズヴェルト死亡後は完全に打ち切り?
  日本が無条件降伏を免れたことにも、この時の対ソ不信が多少なりとも関係したのではないでしょうかね。
  余談というか、妄想の類ですが、この幻の長野機関とも言うべき諜報機関の存在を確信していたアメリカは終戦後も徹底的に長野の身辺を洗いますが、当然のことながら長野機関の存在の証拠どころか、影すら掴むことができませんでした。
  そのせいか、現在でも世界では長野が私設の諜報機関を持っていて、今でも世界を影から操り続けているという噂がまことしやかに囁かれているそうな。信憑性はまぁ、史実における「ルーズヴェルト真珠湾奇襲承知説以上、皇族専用秘密地下トンネル以下」といったところでしょうか。
  結果、南米に逃げたナチス残党みたいな役で色々なサブカルチャーにも出演しています。ゴルゴ13には絶対に出ているでしょう。元陸軍軍人だったお爺さんが歴史の闇に迫ろうとする若者に長野機関について説明するシーンが浮かびますね。


2 流石の長野も八機のF4Fに狙われた状態では位置情報を打電するだけで精一杯だったと考えています。以後は全く通信する余裕をなくし、逃げ回っていたのでしょう。
  いつまで経っても長野を落せないので、ハルゼーも周囲の哨戒艇を攻撃するよりも長野を優先して狙うように指示したため、周囲で艦隊の情報を伝えていた哨戒艇への攻撃はややゆるくなり、結果的に史実ではハルゼーに蹂躙された哨戒艇一〇隻の内半数が無傷。
  さらに史実ではドーントレス一機が哨戒艇に返り討ちになっていたのに、二機が返り討ちとなる体たらく(一機は着艦に成功しますが)なったと想定しています。
  なお、第二十三日東丸は史実通りに沈みました。

3 マクラスキーはエンタープライズの航空部隊の数少ない生き残りという裏設定を考えております。というか、彼がいないとミッドウェーの歴史が変わりかねないので……
  この作戦に参加したアメリカ側パイロットで、まともに残ったのはこの人ぐらいなものでしょう。エンプラ沈んで、ホーネットは着艦能力喪失、そんな状態の中蜻蛉釣りやるはずの水上艦は艦隊決戦やってましたから生き残ったパイロットでも無事にアメリカ海軍に救助されたものは両手で数えられるほどしかいなかったと考えています。
  因みに、ドゥーリットル爆撃隊のメンバー八〇名の内、生き残りは八名のみだったと考えています。奇しくも、史実で日本側に身柄を拘束されたメンバーが生き残るも、史実とは違い全機撃墜に成功していたこともあり全員抑留されるも死刑執行者は無し。戦後には全員アメリカに帰国できたでしょう。

4 生き残ったアメリカ艦艇は空母ホーネット、重巡洋艦ソルトレイクシティ、軽巡洋艦ナッシュビル、駆逐艦グヴィン、メレディスとなっております。エンタープライズは大破漂流していましたが、火災が酷く、最後は魚雷が残っていた野分による雷撃処分を受けて沈没したかたちとなります。大火災の原因になったのは、本編でも言及されていたように曙の放った魚雷です。こいつが航空機用燃料タンクを誘爆させたことでエンタープライズは手のつけられない大火災となったと考えています。
  なお、流石に聯合艦隊もパーフェクトゲームとはいかず、巻雲が撃沈、愛宕が大破、曙と漣、野分が中破となっております。
  それでも損害比からすれば日本海軍ちょっと強すぎね?って思われるかもしれませんが、史実ではナッシュビルが特設哨戒艇一隻沈めるのに六インチ砲一〇二発、5インチ砲六三発と一時間を消費して沈めたという錬度から考えるに、一度くらいはこんなパーフェクトゲームがあっていいかな、と思っています。

5 史実ではドゥーリットル爆撃隊を迎え撃った飛行第五戦隊の機体は九七式戦闘機でしたが、開戦前に長野がアメリカのB-17のスペック(特に防御力について)と脅威を航空関連のあらゆる場所で口すっぱく説き続けた結果、又聞きした陸軍上層部が流石に海軍の陸攻にも梃子摺る可能性がある旧式の九七式では帝都防衛に万が一のことがあると(中華民国がそれを供与されて九州北部を空爆してくる可能性を一番危惧しており、北九州に派遣する部隊の機種転換訓練をしていたというのも理由ではある)いけないと考え、迎撃機としては優れた性能を有する鍾馗を配備していたという自作設定です。

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