西暦2020年 東京
東京都庁でマモノが発生したという情報が報道され、市民は速やかに避難するようにアナウンスが流された
最近の東京では、よくマモノが出現するようになった。原因は不明。専門家が言うには、地球温暖化で生態系がどうとか言っているのをニュースて見た記憶がある
剣道部の部活を終え、寄り道しながら家に帰る途中だった俺、霧崎 バンも周りの流れに沿って避難するためにシェルターに移動していた…のだが、数台のワゴン車が東京都庁方面へと走っていくのを目撃してしまった
普通なら自衛隊が出動し、マモノを退治するはずなのに、向かって行ったのは普通の乗用車
そのことが気になって、避難する人の列から抜け出し、ワゴン車を追いかけた
人生の分岐点、それは人によっては右手で物を掴むか、左手で物を掴むか、これだけで訪れる未来が変わってしまうのかもしれない
そして、俺にとってのターニングポイントは興味に負けてあのワゴン車を追いかけたことだろう
まあ、車に竹刀袋を脇に抱えながら走っている俺が追付けるはずもなく、すぐに置いていかれてしまったのだが…
東京都庁に着いた時には既にワゴン車が止められており、乗っていた人は東京都庁前に集まっているようだった
あの人集りは一体なんなんだろう…
「それでは、現時刻をもって第75回ムラクモ選抜試験を開始します!…それではガトウ、あとは頼みます。私とキリノは通信で政府に今回の件を報告してきます」
「了解だ」
「それでは。…行きますよ、キリノ」
そう言って、真ん中で喋っていた女の人と白衣を着ているキリノと呼ばれていた男の人は近くに止めてあったワゴン車の中へと消えていってしまった
ムラクモ選抜…?一体どういうことだ、魔物が出たのではないのか?
とりあえず、あの人たちの方へ向かってみるか
すると、ガトウと呼ばれていたガタイのいい男の人が話し始めた
「よォし…!じゃあ、まずは言われた通り3人チームを組め!バランスよく組むんだぞ!それが終わったヤツから都庁のエントランスでチーム登録を行い、その後物資を配布する!」
そう言ってガトウさんは都庁内へと入っていった
すると残った人たちは、
"俺と組まないか?"、"私と組んでくれませんか!"
と、チームを組むために周りの人に声をかけ始めた。みんな、チームを組むのに必死になっているようで、詳しい話を聞けそうな雰囲気ではない
どうしようかと思案していると、ふと目についた。1人の女の子が涙目になりながら周りをキョロキョロと見渡していたのだ
するとふいに女の子と目が合う。気弱そうな、ちょっと父性が働いてしまうような可愛らしい女の子だった
涙目の女の子がこちらに気付くと、こちらにちょっと駆け足で走り寄り、いきなり頭を下げてこう言った
「わ、わ、私とチームを組んでくれましぇんか!……あぅ」
……なにこの子、可愛いんだけど
「…えっと、あの…」
そんなことを考えていると、女の子が顔を上げてこちらを困ったように見つめていた
「あ、あー、えっと、俺は…その…関係者じゃ…」
ちょっとドギマギしながらも何とか返事をしようとすると、
「あ、君たち2人だけ!?ちょっと私もチームに入れてくれないかな!?いやー、私が使うのナイフと銃なんだけど、私が話しかけたチームには既に似たような人がいちゃってさー、溢れちゃって!お願い!」
今度は活発そうな元気な女の子が俺たちに話しかけてきた
すると、さっきまで涙目だった女の子が嬉しそうに笑うと、
「こ、こちらこそよろしくお願いしましゅ!…あぅ、ごめんなさい、初めての人とお話しするのはちょっと苦手で…」
あ、やっぱり噛むのね…っと思ってしまったのは内緒である
「あはは、私、希乃 ヤチェ!よろしく!えっと、そっちのお兄さんは…剣士さんかな?そっちのお嬢さんは…何だろ」
「あ、わ、私!宇田 ナノっていいます!その、念力…というか、超能力?私もよく分かってないんです、けど、研究所の人たちはサイキックって呼んでました」
サイキック、最近のマモノ出現と同時に、超能力が使えるものも現れたという噂を耳にしたことがあった。まさか、本当に実在していたとは思わなかったが…
「おお、サイキック!カッコいい!私はそんな特技はないかなー。あ、的にならナイフでも銃でも当てられるよ!で、お兄さんのお名前は?」
と、ここで俺に話が振られる
「え、えっと霧崎 バンだけど…」
「バンちゃんとナノっちね!よし、覚えた!さ、チーム登録しに行こう!」
「は、はい!バン…さんも行きましょう」
そう言って2人はエントランスの方へ向かっていってしまった
…関係者じゃないって言い出せなかった、しかも状況もよくわからない。てか何でちゃん付け?逆じゃね?
何てゴチャゴチャ考えながら、状況に流されるまま俺もエントランスへと向かってしまう
ここまで来てしまっては、もう流れに乗るしかない
なんて、そのままバックレてしまえない度胸の無さを露見させながら都庁内部へ入ると、そこにはガトウが腕を組んで待ち構えていた
「オゥ!遅かったな、お前らが最後だぜ。ほら、さっさとチーム登録してこい!」
「はーい!行こ、バンちゃん、ナノっち!」
なんだかよく分からないけど、俺が関係者じゃないってことはバレていないらしい
「それでは、こちらに名前を記入してください」
言われるがままに3人とも名前を記入する
「あ、霧崎さん、こちらでお荷物は預からせていただきますよ」
そう言って俺の竹刀袋を持って、資料と一緒にエントランスの外へと出て行ってしまった
…後で返してくれるよね?
「それでは、あちらで今回の作戦と物資の支給を行います」
そう言ってエントランスの中央へと案内された
どうやらさっき外にいた人たちが各々でチーム登録をし、再びここに集められているようだった
「よォし…!全員そろったな。それじゃ、お前らには『マモノ討伐』を行ってもらう!」
…どうやら、この都庁内に発生したマモノ討伐がこのムラクモ選抜試験の内容らしい
ムラクモ機関、これも最近聞くようになったものだ。噂によると、マモノの発生の原因を調査したり、討伐を行ったりする機関らしい。あらゆる分野のいわゆるエリートたちが、ムラクモ機関に所属しているというのを聞いたことがある
つまり、この試験はいわゆるエリートを見つけ出し、ムラクモ機関に引き込もうってことなのか…?
「それじゃ、今からお前らには自分の武器の選択と、補給物資を取りに来てもらう!前にいるヤツから順番に取りに来い!」
そう言って運ばれてきたのはいろんな種類の武器と防具、そして小さなポーチの山だった
みんなの自分の武器の選択とポーチの受け取りの様子を眺めていると、すぐに自分の番がやってきた
とりあえず、武器を見回してみる。洋剣や日本刀、銃、ナイフ、槍、斧など様々な武器が並べられている
とりあえず、というか、真っ先に刀に手を伸ばし、左手用の黄色の小手とポーチを掴んでさっさと元の位置に戻る
すると、俺の後に続いてナノとヤチェが自分たちの武器を選ぶとポーチを持ってこちらにトテトテと駆けてくる
「やっぱりバンちゃんは剣士さんだったんだねー!サムライって言うんだっけ?」
「剣士っていうか、刀が好きっていうか…まぁ使えるのが刀しかないからな。そういうヤチェは…」
「私はこの子達!」
そう言って持っていた武器を見せてくれる。やはりと言うべきか、握られていたのはハンドガンとナイフだった
「ナノっちはどんな武器にしたの?」
「わ、私はサイキッカー…サイキックを使える人たちがよく使うチャクラムにしました。この武器にはサイキッカーの力を増幅するための媒体が埋め込まれている…らしいです」
そう言いながら見せてくれたのは、鉤爪のような腕に装着するタイプの武器だった
なんか変わった武器を使うな…と思ってしまったのは仕方がないと思う
と、そんな雑談のようなものをしていると、
"あのー、マモノって実物を見たことがないんですけど、どんなのもなんですか?"
と質問の声が上がる
「アン?そゥだな、例えば…あれとかな」
ガトウさんが自分の後ろにある階段の方を示す
すると、それに呼応したように階段からウサギのような生物、マモノが飛び出してきた
"あ、あれが…"、"け、結構大きいのね…"、"…可愛い"
と、様々な声が上がる
…最後の奴大丈夫か?油断してマモノにやられてしまわないだろうか…
と、いらぬ心配をしているとガトウさんが大きな声で笑い出す
「…ダハハハッ!良かったじゃねェか、本物が見れて!そいつが『マモノ』だ。だが、そんなにビビるコトはねェぜ?ちっとばかり凶暴な、獣くらいのもンだ。」
そう言ってガトウは俺たちを見渡すと、俺と目があった
…嫌な予感がする
「そうだな…とりあえず、お前がやってみろ。誰かがやらにゃ、他も動きそうにねェしな」
「お、俺ですか?」
「アァ、そうだ。そら、さっさと片付けちまえよ」
そう言って俺と腕を掴むとマモノの方へと放り投げられる
「うぁっとと…危ねぇ…はぁ、やるしかないか」
マモノの前でなんとかつんのめりながらも着地し、そう呟くと俺はさっき受け取った刀を抜刀する。すると、ラビと呼ばれているウサギに似たマモノもこちらが戦闘態勢に入ったのに気がつくと、一気に襲いかかってきた
ラビはこちらに一気に駆け寄ってくると爪を使って引っ掻くように攻撃してきた
俺はその攻撃を少し大きめに回避する。結構余裕はありそうだ
ラビは攻撃を躱されてイラついているのか、少し溜めるような動作をすると一直線でこちらに駆け寄り体当たりをかまそうとする
「せいっ!」
飛びかかってきたラビに対して、俺は冷静に突きを放つ。すると、見事に腹に突き刺さった
ギュイッと鳴きながら暴れていたが、やがて力尽きたのか動かなくなる
ゆっくりとラビから刀を抜き取り、血を拭う。その手は震えていた
マモノとはいえ初めて生きているものを殺したのだから、当然といえば当然なのかもしれない
すると、ガトウさんが俺の背中をバンバン叩く
「上出来だ、なかなかやるじゃねェか!」
ぐぅ、痛い…これ絶対赤くなってる…
と、手の震えが止まっていることに気がつきながらもそんな悪態をついてしまう
「ま、こんな感じでやりゃあいい。その戦いの様子を見ながら、お前らの審査をさせてもらうってワケだ」
そう言いながらガトウは俺の肩を掴み、ナノとヤチェがいる方向へと突き飛ばす
扱いが雑いんだけど…
「バンさん、凄いですね!」
「バンちゃんやるぅー!」
そう言って迎え入れてくれる2人
さっき出会ったばっかりだけど、この2人、すごくいい子達だ…と、自分のことを褒めてくれる2人に癒されながらガトウの説明を聞く
「それじゃあ、審査を開始する。…が、このフロアはマモノが少ないンでな…本格的な審査は上でやる。とりあえず、全員マモノを始末しながら3階まで来い。根性ねェやつはそこでバイバイだ」
そう言って、ガトウさんは1人先に階段を上っていってしまった
"よーし、俺たちが一番乗りだ!"、"私たちも行きましょう"
そう言って周りのチームもガトウさんの後を追いかけていく
「私たちも負けてられないよ!バンちゃん、ナノっち!」
「は、はい!バンさんも、行きましょう!」
そう言って2人も階段を上っていってしまった。…と思ったら2人とも戻ってきて、ヤチェは俺の右腕を掴み、ナノは俺の左側に立つ
「ほら、何やってるの?早く行こうよ!」
「あ、あの、このチームだとバンさんが前衛なので、えと…よろしくお願いしますね?」
と言いながら、俺を階段の方へと引っ張る
「わ、分かったよ!頑張るからとりあえず離してよ!」
こうして、好奇心のせいでよく分からないうちに大変なことに巻き込まれてしまった俺は、歴史に刻まれるような大事件にまで巻き込まれてしまうのだが、この時の俺は知る由もなかったのだった
こんな感じで、気長にやっていこうかなと思います。