ーカエルー
この男を一目見た時思った、・・・コイツは強いと。部屋へ突入した時、目にしたのは圧倒的な剣技であった。・・・ここに来る途中見た魔族の死体、あの見事な斬り口はこの男のもの。その戦う姿を見て確信した、俺と互角・・・いや、それ以上の剣士であると。
それと同時に男が強者だと分かった理由、それは敵の親玉であろう大臣を挑発していることだ。挑発することにより敵の目を自分に向けさせ、王妃様達に向かう魔族の数を減らしている。自分自身の強さに自信が無ければ出来ない大胆な策、そして戦いの中でも挑発を忘れず、王妃様達に気を配る冷静さ、このような男がまだこの国にいたとは!一人の剣士として、この嬉しさ・・・どう表現すれば!
更に驚くことに、この男がクロノの兄であるということ。ここに来るまでに、クロノの実力は見てきたつもりだ。そして思った、コイツは化けると・・・。まだまだ甘い所はあるものの、剣筋も良ければ身体の使い方も良い。この男の弟である、・・・これで合点がいった。確かな素質、クロノにはそれがあると。
俺は何度、驚けば良いのだろうか?男の剣技、あれはただの剣技ではない。遥か昔に人間が忘れてしまったとされ、現在では魔族のみが扱えるといわれる魔法、あれは間違いなく魔法である。俺がこの姿になる前に、この目で見た奴等の魔法と似ている。それを剣技と合わせる離れ技、ただの剣士ではない、言うなれば魔法剣士・・・とでも呼ばせてもらおうか。
・・・面白い、単純にそう思った。あの時に忘れてしまった熱が、再び俺を満たすというのか!気付けば俺は、男・・・クロノの兄と並び立ち剣を構えている。
「・・・お前がクロノの兄か、聞いた通りの・・・いや、それ以上の強者のようだ。奴を倒すのに競い合うのも面白そうだ!」
クロノの兄は俺を見て笑い、そして・・・ヤクラとかいう親玉へと向かっていった。俺も負けてはいられない 、久々に・・・久々に心躍る戦いが、サイラスを失って以降満たされなかった心が、今の俺にはそれを埋めるであろう想いに満ちている。さぁ戦おう、王妃様の為に、俺自身の為に!
ーエシャルー
俺がヤクラに向かって走り出すと、後を追うようにカエルとクロノも走り出す。クロノとはたまに手合わせをするから大丈夫だが、カエルとは今回が初めて。だが、何故かは知らんけど大丈夫、そう思う。
「死ね死ねぇ~っ!!」
ヤクラはそのずんぐりむっくりな身体からは想像も出来ん程のスピードで、俺達に対し鋭い鉤爪で切り裂こうとしてくるが、
「「遅いっ!」」
「・・・わぁっ!!」
俺とカエルは余裕で避け、クロノは咄嗟の緊急回避で何とか避ける。これを避けるとは・・・、クロノの奴・・・成長しているじゃないか!いずれは余裕で避けられるようになるだろう、弟の成長に喜びながらも追撃をさせぬように、
「うらぁっ!」
俺は剣を振るい、ヤクラの鉤爪の一部を斬り取る。・・・流石はボッシュ爺さんの鍛えた剣、予想通りこの程度のモノは余裕で斬れる。カエルも続いて攻撃し、ヤクラは受け止めるも手数が多い為に全ては受け止めきれない。カエルで精一杯のヤクラ、その横からクロノも必死で攻撃をする。まだまだ未熟なクロノの攻撃は、ヤクラの皮に小さな傷を負わせる程度。しかし塵も積もれば何とやら、クロノの攻撃を嫌がるヤクラ。小さな傷とはいえ、傷は傷であり痛いものは痛い。ヤクラは力任せにカエルの攻撃を弾き、カエルはその勢いで後方へ弾き飛ばされる。
カエルを弾き飛ばしたヤクラは、標的をクロノに切り替え襲い掛かろうとするが、
「・・・ところがぎっちょん、やらせるわけにはいかんでしょっ!」
俺の存在を無視するなんて、このヤクラとかいう魔族は・・・未熟よな。自分で言うのもあれだが、一番強いのはたぶん俺。そんな俺を放置するってことは・・・、
ザシュッ!!
「ぎゃあああああっ!!」
このように、無防備な背に一撃を入れられることになるぜ?そしてこのスキを逃す程、クロノはヘタレていないしな!俺の一撃で仰け反るヤクラに、クロノは全力であろう一撃を加える。小さな傷しか与えられなかったクロノが、初めて大きな傷をヤクラに与えることが出来た。
「ぎぃええええええっ!!」
よろめくヤクラ、まぁ・・・当然だわな。多対一は戦闘の基本といいますが、俺とカエルという強者に未熟とはいえクロノの三人。この三人をヤクラのような魔族、魔王軍の幹部だとエキドナは言っていたが、その中でも最弱であろう魔族が敵うわけが無いのである。・・・ほら、飛ばされたカエルも無傷で戦列に復帰したぞ?
最弱だろうと魔王軍幹部、ガルディア王国を乗っ取ろうと考えたヤクラ。往生際が悪く、傷付きながらも四つん這いになり、
「まだまだぁ~っ!これでも食らえっ!!」
背から大砲のような管が伸び、そこから数多くのトゲが放たれた。天井ギリギリまで上がったトゲは、軌道を変えて先端を此方に向ける。そして無軌道に、無差別にそのトゲは降り注ぐ。俺とカエルは目で互いに合図し、その身をリーネ王妃とそれを守る兵士にエキドナ、ルッカの前へ。そして、降り注ぐトゲを全力で弾く。リーネ王妃達は誰一人、傷付ることはさせんよ。そんな気持ちと気合いで、降り注ぐトゲを弾き続ける。・・・クロノ?クロノはたぶん大丈夫、防ぐのは無理だと思うが避けることは出来るだろう。多少は食らって傷付くだろうけど、クロノなら堪えきる筈さ!
・・・なかなかの弾幕に、流石の俺も小さな傷を多数負う。フル装備で良かったと、密かに安堵したことは内緒だ。カエルも俺と似たようなもので、クロノは息も絶え絶えで何とか踏みとどまっていた。因みにリーネ王妃等は無事よ?俺とカエルが頑張ったからね。ついでに言っちゃうと、残りの魔族はトゲに貫かれて全滅です。ヤクラのトゲ攻撃は無差別だったからね、何とも哀れなザコ魔族でした。
攻撃を防がれ、自身のせいでピンチに陥ったヤクラ。乾坤一擲のトゲ攻撃で、体力を使ってしまったようでフラついている。・・・が、まだ目は死んでいないようだ。なら殺してあげようと、追撃開始!先程と同じように、俺とカエルが交互に休みなく攻撃を、クロノは身の丈にあった攻撃を無理しないように加える。完全に劣勢へと陥ったヤクラは、目に見えて衰弱していく。捌ききれない攻撃の連続に、身体中から血を吹き出し動きも鈍くなった。もうそろそろ決着か?そう思い始めたのだが、
「うぎぎぃっ!・・・ただでは死なん、死んでなるものか!引きずり込んでやる、地獄に引きずり込んでやるぅっ!!」
ヤクラは大きく息を吐き、そして大きく息を吸い・・・、
「デロン・・・、デロデロンッ!デロデロデロデロ・・・・・・ッ!!」
と叫びながら、トゲと同じように無差別攻撃であろう体当たりを繰り出してくる。しかもただの体当たりではない、障害物にぶつかると跳ね返ってくる不思議な体当たり。跳ね返る度にスピードを上げる、ヤクラ最強の技ってところか?だが、傷を負いすぎたヤクラにとってこの技は、自身の命を削り取るものとなっている。・・・死ぬのなら、何人かを道連れにって考えか?ヤクラなりに最後の抵抗というわけだ、最弱でも幹部・・・最後は幹部らしく道連れ戦法ってところだな。しかし残念なことに、ヤクラの攻撃は無駄になるだろう。何故かと言うとここに俺が、そしてカエルがいるわけでして、ついでにクロノも。勿論、止めますよね?ヤクラを・・・。
・・・無差別攻撃とは言ったものの、それはフェイクだろうと考える。道連れを考えているのなら、無差別よりも誰かを集中して狙った方が良い。しかしそうすると、俺かカエルがそれを阻むと考えたヤクラが、無駄な動きを交えて体当たりを敢行した。これにより無差別と勘違いした俺達のスキを突いて、誰かを狙う。
この自分自身の命を捨てる覚悟の特攻を、誰に敢行するか・・・。ちょっと考えればすぐに分かる、・・・リーネ王妃に狙いを定めていることは確実だ。この中で一番非力であるし、ガルディア王国の王妃であるからだ。乗っ取り計画を考えてそれが叶わぬこととなれば、せめて王国に大きな悲しみを与えてやろうと考えるだろう。そもそも、最初から殺そうと考えていたっぽいからな。
・・・そう結論付けた俺は、カエルに目配せをする。カエルはそれに気付き、コクリと頷く。・・・うむ、カエルも俺と同じ考えのようだ。・・・でクロノに対しては分かりやすいように、アゴでカエルを指して指示をする。クロノはコクコクと頷いて、カエルの傍に寄っていく。・・・さて、この戦いを終わらせよう。敵とはいえ苦しむことがないように、一撃で終わらせてやる。まぁ既に十分・・・傷付いていますが、せめてもの情けっす。
徐々にスピードを上げてきているヤクラだが俺達には当たらない、・・・リーネ王妃達にも当たりはしない。しかしその軌道を先読みしてみると、確実にリーネ王妃を標的にしている。跳ねる体当たり程、動きが読みやすい攻撃は無いからな。まぁ・・・俺的にだけど!
・・・そして今、
「合わせろ、クロノ!!」
「ハイ!!」
リーネ王妃に直進してきたヤクラに対し、カエルとクロノが立ち向かい・・・、
ズバッ!!
ヤクラと交差し、その身体を切り裂くが、
「うぎぃっ!!リ、リーネェェェェェッ!!死・・・ねぇぇぇぇぇっ!!」
勢いを殺さずに突っ込んでくる。
「「「・・・!!」」」
その迫力にリーネ王妃は硬直し、兵士の二人はその前に立ち自身を壁にして防ごうとする。そんな三人の頭上を飛び越えて、俺はヤクラに剣を降り下ろす。俺は既にカエルとクロノが動いた時、エキドナの協力で密かに飛んでいたのさ。
「その根性は認めるが、・・・あの世でその罪を悔いるがいい!!」
ザンッ!!
俺の一撃は、ヤクラの身体を両断する。両断されたヤクラは物言わぬまま、勢いを殺さずにその身体を床に投げ出した。・・・お陰様で俺の身体は血塗れですよ!
次ぎは・・・と。