第1話 ~…ここは何処だろうか?
ークロノー
リーネ広場とトルース村の裏山、そこにあるゲートの中と同じ光景。妙に絡み付く不快感、慣れることのない浮遊感。まだ三回目だけれど、…嫌な感覚は変わらず。しかも今回はこの先、今もだけど兄さんはいない。不安だけれどエキドナさんとマヨネーさん、フリッツさんがいるから戦力的には問題ない。ルッカとマールがいるから、…多少は精神的にも余裕がある。…だけど、兄さんがいないのは…やっぱりなぁ~…。
そんなモヤモヤを胸に秘めて、みんなと共に先へ行く。行くというか流されている、そっちの方が正しいのかな? …まぁとにかく、この先は未知である。…一体何が待っているのやら、…本当に不安だよね。
纏まって流された僕達は、
「「「「「「………!!?」」」」」」
揃ってゲートの外にへと吐き出された。エキドナさんとマヨネーさん、フリッツさんは華麗に着地。それに対して…、
「「……きゃっ!?」」
「ぎゃあああああっ!!?」
僕はルッカとマールの下敷きになった。ラッキー! とは思わない、二人分の体重が僕にのし掛かったのだから。痛い痛い苦しい! 早く退いてくれないかな!? …そう思っていると、
「いったぁ~……っ。」
ルッカは僕の上で腰を擦り、マールは…、
「流石にここまでは、大臣達も追って来られないよね。…で、ここ……何処?」
僕の上から退くこともせず、安心しつつもキョロキョロと周囲を見回している。……あのさぁ~、
「…二人共いい加減に、…僕の上から退いてくれぇぇぇぇぇっ!?」
僕の悲痛な叫びがこの場に響いた。
僕が叫んだことにより、二人は状況を正しく理解。やっとこ僕の上から退いてくれて、
「「…あはは、ごめんごめん。」」
軽く謝ってきた。…もうちょっとすまなそうに出来ないのかな!? 二人の態度に少しだけイラッとした。そんな僕達のことを気にすることもなく、エキドナさん達は周囲を彷徨いている。特にエキドナさんとマヨネーさんは物珍しそうに、フリッツさんも壁に引っ付いているし。…何してるのさ? フリッツさん。疑問に思っているとフリッツさんが、
「こうやってじっくり見てみるとさ、随分と文明が発達しているみたいだね…。」
…壁を調べていたみたい。安易に馬鹿やってるな…、と思った僕の方が馬鹿でした。続けてマヨネーさんが、
「現代で良いんだっけ? エシャルさんの時代とは違うみたいヨネ~。…まるで別の世界に来ちゃったみたいヨネ~。」
と言ってきた。
それを聞いて僕達も、改めて周囲を見回してみる。…確かにフリッツさんの言うように、かなり先へいっているみたいだね。マヨネーさんの感じたように、別の世界…というか星に来たみたいだ。素人の僕から見ても高度な技術であると言い切れる、現にルッカは、
「…ほわっ、ほわぁぁぁぁぁっ!?」
言葉にならない程興奮している、…とりあえず放っておこう。因みにマールは興味がないのか、ツマらなそうにしている。…マールの話し相手をしてやりたいけど、僕も興味があるからね。みんなに混じって色々と見てみよう! そう思って行動しようとしていたら、
「な…何だ!? 何故光るんだ!!?」
エキドナさんの驚いた声に、僕は踏み出そうとしていた足を止めてそちらを見たのだった。
────────────────────
ーエキドナー
大臣から逃れる為にゲートへと飛び込んだ私達、その先で待っていたのは未知なる建物の中だった。エシャルさんの時代は私達の時代より文明が進んでいた、しかし…ここはそれ以上とでも言おうか。私にはよく分からないけれど、フリッツが高度な文明と言ったのだからそうなんだろう。
…だが私には、高度な文明であるらしいこの地が肌に合わない。ゲートから飛び出した直後より感じていた、…ここの空気はとても冷たいと。とても濁った汚ない空気であり、空気中の魔力が中世と現代に比べると物凄く少ない。マヨネーも同じ魔族だからか、その顔が少し歪んでいる。私と同じでここの空気が肌に合わない、そんなところだろう。私は身に感じる不快感を紛らわすように、この場所を調べることにした。
弟くん達がキャイキャイと何かをやっているが、私は気にもしないで見て回る。そして…周囲とは何かが違う、不思議なレリーフが刻まれた壁の前で立ち止まった。…この壁は何だろうか? 他の壁とは違う、何か違う技術が使われているような…。高度な文明とは違う、言うなれば…魔法文明とでもしようか、魔法技術の粋を集めたモノと言っていいような気がする。…ここだけは周囲と違う、…何か暖かい。そう思った私は、不思議なレリーフが刻まれた壁に自然と手を添えた。
…すると突然、ひんやりとした壁に熱を感じ始め、
「な…何だ!? 何故光るんだ!!?」
淡く光り出したではないか! 私は驚いて壁から手を離すと、その光は治まり…ただの壁へと戻った。私が呆然とした顔で光った壁を見詰めていると、
「今、ちょっと光っていたのヨネ~? …何があったの? エキドナ。」
とマヨネーが声をかけてきた。そしてそれを皮切りに弟くん達もこちらへ来た故、みんなに先程起こったことを説明した。
説明し終えると、私以外のみんなが壁を触ってみるも反応なし。だがルッカは…、
「エキドナさんの言うように、この壁は他とは全然違うみたいね! 科学とは違う別の技術、しかも何かしらのギミック付! さっきはどんな仕掛けで光ったのかしら!?」
物凄く興奮しながら壁を調べている。その横でマヨネーも、
「この壁、…なかなかにいい感じヨネ~。何だか落ち着くって感じ?」
壁に全身を引っ付けてニヨニヨしている、彼女も私と同じようにこの壁に何かを感じているみたいだ。…弟くん達は逆に、ルッカとマヨネーに対して多少引いているっぽい。まぁたかが壁にあの反応だからな、…分からんでもないが私もマヨネーと同じ故に何も言えない。
…しかし私以外では何も反応しないか、何でだろうな? そう思うが調べる気はない。あの二人の間に割って入る勇気がないっていうのもあるが、それ以上に何かしらが起きてしまったら大変だと思うから。興味本位で鬼が出たら、ゲートを使って逃げてきた意味がなくなる。故に私は近付かないし調べもしない、それが一番だろう。私も弟くん達と共に二人を見ているだけにしよう、その内飽きるだろうから。
…暫くして、私達はこの建物から出ることになった。あの扉以外、特に気になるモノがなかったからだ。この建物を出るという選択肢の前に、ルッカと私の間で一悶着あったが…。まぁ一悶着と言ってもルッカが私に対して、
「エキドナさん! もう一回、もう一回だけこの扉を光らせて!! 触ってちょうだい、ワンモア!!」
と迫ってきたことなのだが…。凄い形相だったから、情けないことに後ずさってしまったけれど。そんなルッカはフリッツに首トンされて気絶、現在は弟くんに背負われている。…ルッカを背負っている弟くんは、とてもいい笑顔であると言っておこう。
建物の外にへと出た私達は、目の前に広がる光景に息を飲んだ。澱みきった空と大気、荒廃しきったかのような大地に生命を感じることがない。ここは何なのだ、…やはり未知の別世界に来てしまったのだろうか? …ただただ呆然とするだけの私達、暫く…この状態が続いてしまった。
────────────────────
ークロノー
色々と分かったことがあったけれど、分からないことの方が多い未知の場所。ルッカを背負うという役得に対して喜んだ僕なんだけど、…外へと出たら吹き飛んでしまったよ。荒れ果てた大地というのは、こういうのを指すんだろうと思った。建物の外は澱んだ世界だったのだ、…開いた口が塞がらない。
…人の気配どころか生き物の気配を感じない、薄汚れて澱んだ空気の中に僕達はいる。耳に響くのは渇いた風の音、滅びを乗せて吹き荒れるって感じだろうか? マール達四人も同じ感じ、…呆然としている。…とりあえず振り返ってみる、僕達のいた建物はどのような?
そこに佇む建物はドームとでも言おうか、透明なガラスのような物に覆われている朽ちた建物。ガラスのような物もひび割れており、穴の開いた場所も多い。全体的に僕達の時代よりも先にいっている、内部もそうだったが外部も凄い。…僕達の時代よりも先、所謂未来って感じなのかな? たぶん。
澱んだ空気の中に佇む未来的な建物と僕達、現段階で危険はないようだけれど…さて。このまま危険がないとは言い切れない、情報を入手しなければ。兄さんがよく言っていたからね、
『初めての場所へ行く場合、それかなし崩しで行ってしまった場合に重要なのは情報だ。まずは安全を心懸けながら周辺を探れ、最低限の情報を入手してから本格的に行動するんだ。それからでも遅くはない、…基本は命を大事にだぞ!』
とね。だから僕はみんなにそう提案する、命を大事に…ってね!
僕の提案はあっさり通った、特にフリッツさんが大賛成してくれた。まぁ兄さんの弟子だからね、僕の言った命を大事にっていうのを知っていたみたいだし。エキドナさんとマヨネーさんも一応同調してくれた、何故に一応なのか? それはこのお二人さん、外へ出た瞬間に少し調子を崩したようで…。何ていうか頭が回らないみたい、故にフリッツさんが良いと言うならそれでってことになったのだ。…エキドナさんとマヨネーさん、…大丈夫かな?
暫くして、エキドナさんとマヨネーさんの調子が良くなった。自身の魔力を調整したようで、この大気に身体を合わせたとのこと。…魔族って凄い! 素直にそう思った。二人の調子が良くなったということで、早速行動しようか! 未知なる場所だから、別れて行動するのは危険。集団で行動することにして、とりあえずは遠目に見える建物を目指すことに決めた。僕達の背後にそびえる建物と同じようなものだと思う、…何があるか分からないから慎重に行かないとね。
周囲を警戒しながら歩を進める僕達、そんな中で思うことは一つ。…兄さんは大丈夫だろうか? …と。まぁ完璧超人だから大丈夫だとは思うけど、やはりこの場にいないから心配だ。そんなことを思いながら僕達は、遠くに見える建物を目指すのであった。
最初はクロノ達から。