ーミアンヌ族ー
目の前の男に礼を言ったところ、彼はかなり喜んでくれた。ニコニコと魔族である私に、爽やかな笑顔を向けてくる。驚く程に邪気が無く、純粋に笑顔を向けてくる男・・・、彼に少し興味が湧いた。
それからは、お礼がきっかけとなって色々と話をした。色々と言っても、私は魔物ではなく魔族だと訂正させたり、ミアンヌ族一の美しさを持っていただとかの世間話をした。軽い雑談から入ったことにより、この男は私が感じたままの性格のようで、とても好ましいと思った。私は魔族の中でも異端的な性格と考えを持っているタイプだが、この男も人間の中では異端的・・・ではなかろうか?魔族である私と、笑顔で話していることこそが、正しく異端的であろう。
そして話は魔王軍のことになり、私は魔王軍というよりはその幹部であるヤクラの配下、というのが正しいだろう。そのヤクラは野心家で、ガルディア王国を乗っ取る計画を立てている、・・・そのことも話してしまった。機密事項ではあるけれど、私は既にヤクラの配下ではない故に気にしない。そもそも乗り気ではなかったし、人間を助けてしまったし、計画を阻止したかったし。
・・・ガルディア王国乗っ取り計画を話した時、彼はかなり驚きこう言ってきた。リーネ王妃は既に、トルース村の裏山にて保護されていると。私は、
「それはあり得ない、リーネ王妃は見張りの監視下にある部屋に閉じ込められている。脱出することは出来ない筈だ、・・・お前のような強者ではない限り。それにリーネ王妃の囚われている場所は山ではない、西の森にあるマノリア修道院だ。・・・助けられたのは本当にリーネ王妃なのか?似ている女と間違えたのでは?」
と返し、その情報は間違いであると教える。彼は目を見開いて更に驚く、・・・私の言葉を信じたのだろうか?自分で言うのもあれだが、よく信じたな?普通は敵側である私の言葉を信じないものだと思うのだが・・・。
彼は、軽く唸ってから此方を見て、
「キミの言うことを信じ、そのマノリア修道院?そこへ潜入して、キミの匿った兵士を救出。協力してリーネ王妃を救い、そのままヤクラを討ち取ろうと思う。・・・それで、キミもその手助けをしてくれないか?マノリア修道院の場所が分からんし、内部のことは詳しいだろう?・・・頼めないかな?キミ。」
なんて言ってきた。私のことを信じ、救出と討伐をすると言ってきたのだ!しかも私に協力まで求めて・・・!
「私が嘘を吐いているとは思わないの?襲われていたのも、計画も何もかもが嘘だと・・・。」
もし、私が逆の立場なら信じない。だって、魔族と人間は昔からの敵。交わることの無い関係なのだと、小さな時から教えられてきたのだから。人間も同じじゃないの?
「・・・全て嘘だとしたら、キミは女優になれるよ!あそこまで傷付いて死に掛けて、・・・出来るもんじゃない。まぁもし、もしも嘘で罠だとしても逆にそれを利用して、・・・皆殺しにするまでだ。王国乗っ取りはやらせんよ、・・・この身が朽ちようとも絶対に!」
にこやかな顔から一転、冷酷な顔とゾッとするような声で言う彼。・・・その顔と声に、私は不覚にも胸が高鳴った。なんて魅力的なんだろうと、・・・彼を知りたくなってしまった。
・・・暫く沈黙した後、彼は再び笑顔になって・・・、
「・・・まぁ本当にそうならの話だけどね、俺はキミを信じるから・・・、絶対にそうはならないさ!逆にキミと仲良くヤクラ討伐ってなるかもよ?王妃を救い共に凱旋、優しき魔族として称えられる。なんてどうよ?・・・その後は一緒に暮らしてみるかい?わははははは!」
・・・コロコロと顔がよく変わる男だ、それにその提案は良い、・・・実に良いと思う。
ーエシャルー
協力を求めた後の彼女の発言に対し、軽い脅し・・・そして冗談めかしにその後を言ったら、時が止まった。正確には、場が凍ったと言うべきか。・・・外しちまったかな?ビビらせちゃったかな?色々思いつつ、彼女の様子を窺うと、
「・・・ぽぉ~っ。」
何やら頬が赤く、若干潤んだ熱い眼差し、身体をユラユラ揺らし、尻尾?をフリフリ・・・。あれ?想像していた反応と、一つも合っていないぞ?どうしたのかな?と思っていたら・・・、
「私、手伝います。協力して王妃達を救い、ヤクラ達を殲滅。その後は貴方と共に過ごさせてくださいませ・・・。」
・・・と言ってきたので、
「・・・一応、元上司で仲間だよ?協力したら、もう魔王軍に戻れないよ?完全に裏切り者だよ、追われる身になるかもよ?・・・因みに、最後んとこ・・・本気と受け取ったり?」
・・・と聞き返してみましたが、彼女は長い舌をチロチロ出して・・・、
「私が同胞を裏切り、人間を助けたのは事実。ここにいる時点でもう戻れません、行く宛の無い私に慈悲を・・・。是非とも貴方と共に暮らす幸せを・・・。」
本気も本気、俺に従う気満々っすわ。・・・もしかしてだけど、俺に惚れちゃったりした?惚れる要素がありましたか?今までのやり取りの中で。うーむ、分からん!魔族と人間の差かね?・・・まぁ、良いか!
魔族とはいえ、こんな可愛らしい美人さんに好かれるのは嬉しいね!助けてから惚れられる、・・・ロマンスだね!そんなわけで、ミアンヌ族の娘が仲間になりました!何だか急展開ですね?穴に吸い込まれて、時代を遡り、魔族の娘に惚れられる。・・・これはあれだな、この時代に骨を埋めよという神のお告げだろ!こりゃあマジで覚悟を決めなきゃいかんでしょ!クロノ達・・・ごめんな、俺はこの時代で生き抜くぜ!俺はこの娘と添い遂げる!・・・俺も単純だよねぇ♪
そして気付く、・・・この娘の名前を俺は知らないし、俺も名乗っていない。
「そういえば、まだ名乗っていなかったな。俺の名はエシャルってんだが、キミの名は何て言うんだい?」
名を知り、名で呼び合うことこそが、コミュニケーションの第一歩となる。せっかく知り合い、共同戦線を張るのだから、名前を知っていなきゃならんだろ。いつまでもキミじゃあ失礼だよね?俺的に名前で呼んでもらいたいと思っているし、彼女もきっとそうだよね?
「エシャルさんと言うのですか、貴方に合ったとても良い名だと思います。・・・後、私には名がありません。ミアンヌと種族で呼ばれていたので・・・、よろしければエシャルさん。この私に名を付けてはいただけませんか?」
・・・名前、無かったんですか。・・・本当なら気まずくなる筈なのだが彼女は気にせず、逆に名の無い自分に名前を付けてほしいと、期待に満ちた目で見詰めてくる。・・・プレッシャーですね?そんなに期待されても困るんですが・・・。名前・・・ね、ちゃんと考えるけど言ってから文句は止めてくれよ?・・・へこむから。
色々と考え迷った俺、最終的に決まった名前は・・・、
「では、今日から私はエキドナと名乗ります。・・・よろしくお願いします、エシャルさん。」
「おう、よろしく頼むぜエキドナ。」
ミアンヌ族のエキドナ、彼女の名前はエキドナに決まりました。何故かって?そんなの俺の頭の中に浮かんだからに決まっているだろ。なんか蛇っぽい名前じゃん?
そんなわけで名前も決まり、リーネ王妃救出作戦インマノリア修道院の前にやるべきこと。それは腹拵えと疲れを癒すこと。万全の状態で作戦を実行せねばならない、そう・・・失敗は許されないのだ!確実に成功させる為に、それは必ず必要である。そんなわけで、彼女・・・エキドナと共に肉を食っとります。獣を捌き、焼いたのを忘れていましたよ。お陰で、最初に焼いていた肉は炭に。気を取り直して新たに焼き、食事をしているわけで。
無言で食うのもあれなんで、色々と話しましたよ。今度はほぼ雑談すわ、仲良くする為のコミュニケーションす。話をしてみると、エキドナは人間と仲良くしたいタイプの魔族みたい。しかしそれは死を意味することで、仲間に知られたら殺されてしまうらしい。弱肉強食の世界観らしく、エキドナと同じようにそれが嫌な魔族も少なくないみたい。・・・が殺されるのは嫌だから、渋々従っているんだって。・・・色々あってヤクラの配下となり、そして今に至ると。俺みたいな人間はエキドナの理想なんだろうな、自分と似たような価値観を持つ俺は。実際、俺は魔族にも魔物にも嫌悪感は無い。魔物ハンターといっても、悪さをする奴しか狩っていないしね。・・・俺達みたいな魔族と人間が増えれば、人魔共存という世界が作れるんじゃなかろうか?
腹を満たして話し込んで、気付いていたら真夜中ってヤツです。流石にこれから潜入ってのは厳しい、故に明日の朝ってことにして今日は寝ます。火を囲んで寝ましょうかと思ったんだが、
「さぁエシャルさん、私の胸の中でお眠りくださいませ。私は低体温ではありませんので、温かいですよ?」
今日出会ってばかりの男女がハレンチな!・・・でも魅力的な提案で、エキドナの美貌も相まって、
「・・・では、失礼しまーす。」
添い寝上等!喜んで寝かせてもらいますよ。それが俺であり、それが男なのである。
・・・ぎゅむっ!
ほわっ!柔けぇ!・・・こいつは良い夢が見れそうだぜ!
「これが人と交わる喜び、・・・エシャルさん、これからの私の・・・帰る場所。」
・・・ぎゅむむっ!!
エキドナさんや、そんなに抱き締めたら・・・幸せの中で死んでしまうっす!
ークロノー
あの奇妙な空間を抜けた先は、山の中だった。魔物が何匹か出てきたけど、兄さんに憧れてそこそこ鍛練をしていたからか、それほど苦戦することなく倒すことが出来た。何となく見える道を辿っていくと、人里へ着いた。ここは何処・・・?
話を聞いてみれば、ガルディア王国暦600年?トルース村?どういうこと?ここは昔なの?考えたところで、ルッカのような頭脳を持っているわけではない。疑問は後だということで、情報収集をしてみた。すると、リーネ王妃様?が裏山で保護されたという情報と、魔物ハンターが魔物討伐に動いたという情報を得た。
無い頭を懸命に動かし考えた結果、
「裏山っていうのは僕が出てきた場所、そこで保護されたというリーネ王妃様は何かを見た可能性がある。あの穴にマール、兄さんを見たかもしれない!」
そうと決まればすぐに出発だ!もうすぐ日が暮れる、のんびりしている暇はない!早く二人のどちらかを見付け出し、再会しなければならないんだ!よく分からないこの状況を一人でいるとかって、僕には無理だ!寂しくて心細くて、最終的に死んでしまうよ!
・・・というわけで、ぼっち化阻止に向けて、僕はガルディア城へと向かった。場所は僕の知るガルディア城と同じみたいだからね、道に迷わず行くことが出来そうだよ。
一応、このミアンヌ族のエキドナはヒロインの一人です。