スタンバイ中です
桜の花びらが舞い散る春の季節の中を明久は歩き続けていた。
本日は新学期、通うべき学園での新たな生活がスタートし、同級生は誰なのかを心躍りながら考えつつ遅刻ではない時間帯をゆっくりと歩き続けていた。
とはいえ、周りに同じような生徒は一人も存在していない。
おそらくだが、とっとと新しい教室がどこなのかを知りたくなってさっさと登校したというオチなのだろう。
明久は気にすることなく学園への道を歩き続けていた。
「来たか吉井――生徒はお前で最後だぞ」
「みんな新しいクラスが楽しみなんですねわかります……それと待たせてしまってるようでごめんなさい西村先生」
遅刻ではないが、最後ということで待たせてしまったことへの罪悪感があるのか謝罪する明久。
西村先生は特に気にした様子もなく、仕事だからと言い切り、近くに置かれていたダンボール箱から一枚の封筒を取り出して明久に差し出す。
「見なくてもどうせFクラスだってわかりきってるんですけどね……あはは」
「…………吉井、春休み中も観察処分者として学園で仕事をしていたな」
受け取ってから中身を見なくてもどうせクラスはわかりきっていると苦笑いしながら封筒を開けようとする明久に西村先生が若干暗い表情で声をかける。
その雰囲気に圧されたのか明久の動きがとまる……そして西村先生の顔を見ていた。
「たしかに仕事をしてましたけど……」
「……あそこでおざなりな工事をしていたのは覚えてるな?」
「いや、覚えてるというより鉄人が仕事終わりの後そこに連れ出して残業をやらせてたんじゃないですか」
校庭の片隅に立っているボロ小屋を指差す西村先生の指の動きに釣られて明久がその小屋を見てツッコミを入れる。
覚えているもなにも観察処分者としての仕事が終わったあとでそこの工事を手伝わされ続けたのを覚えているのだ……忘れようはずがない。
西村先生がなにか交渉をしていたな~というのと工事関係のおじさん達と仲良くなり終わったあとで妙に寂しくなったのも覚えているのだ。
「あれは今年増設された新クラスの教室だ」
「へえ…………ん?」
西村先生の言った言葉に明久はなんだか嫌な予感がして再び封筒に目を落として硬直する。
これからいわれるであろう言葉に人生を左右するであろう言葉が紛れているような―――
「……獲得点数0点の生徒のみを集めたクラスだ……名称はZクラス―――ZERO(点)クラスとも言える教室だな」
「……て、鉄人……確かあの教室(?)……床が最初の構想ではなくて鉄人が交渉してなんとか一部分だけに設置しましたよね」
「……ああ」
動揺しまくっており鉄人という通称を呼んでいる明久に西村先生は何も言わない。
それだけ驚いているということであると理解しているがゆえに、だ……
「なぜか屋根がほとんどスッカスカでビニールシートを取り付けるだけになったんですよね」
「……それが精一杯だった、床の件もあったせいでな」
明久の確認という名の質問に西村先生も目をそらすことなく向き合いながら答える。
……西村先生に落ち度など一つもなく、実際足りない分を自分の貯蓄を切り崩しながら交渉し、それでも足りない分をある種の越権行為で明久をアルバイト状態として働かせ、自身も手伝いながら交渉していたのである。
工事関係者も最初はなんなのかを知らされておらず、仕事をしていたのだが西村先生が来て初めて場所の詳細を知ったほどである。
「……窓もビニールテープで……カーテンも作業している人の好意で捨てるはずだったものを持ってきてもらってましたよね」
「ああ……」
自分たちの生活もあるので、あまり優遇はできないが、明久が働いているという点を踏まえて譲歩しつつ出来うる限りの協力をしていた作業員や現場監督の方々。
更に上の方では流石に動きがなかったが、現場だけで出来る範囲で行動していたのである。
そうでなければもっと酷いことになっていたが故に―――
「……廃校が決定した学校から黒板も送られてましたよね」
「……監督がほかの現場でそういうところがないかを駆け回って調べて黒板が残ってたので頭を下げて譲ってもらったそうだ」
他の現場のものも理由を聞くことなく普通に記念にもって帰る予定だったけど、使うんならいいよ的なノリで渡していたそうだ。
実際の理由を知ったら知ったでもっと早くに聞いていれば、と後悔するだろうから監督も言わなかったが。
「……教室、なんですか」
「教室だ……在籍生徒数4名の、な……」
0点、4名……そこから連想されるのはたったひとつだけ……あの振り分け試験において途中退出した人数と一致しているのだ。
それはすなわち―――姫路と霧島、それと協力してくれた女子生徒が含まれていることを意味している。
「ちょ―――ちょっと待ってくださいよ鉄人……僕はまだしも女子3人……特に姫路さんは―――」
「俺もそう思った……だから4人とも再試験を受けれるよう掛け合ったのだがな……姫路と霧島とゴーゴンの分しか掛け合ってもらえなかった」
「あ、そうなん―――え?あれ?本気で0点の生徒が3人いるってことですか?」
明久自身が省かれているが、明久としても別に自分だけなら別にいいやと安心していた。
再び試験を受けたのであれば確実にAクラス入りだろう……それなら明久以外に0点の点数を獲得したという生徒がいることになるのだが。
「そこらへんは教室に向かってから考えろ―――3年になれば関係なくなるが吉井……お前なら1年間平気だろう」
「どういう信頼をされてるのかわからないですけど……大丈夫ですよ!他にも0点を獲得した男子3人と共に面白おかしく過ごしてみせます……試験召喚戦争は人数的に無理だけど」
「何故男子―――まあいい……時間に余裕があるとは言え早急に向かえ」
「はい……」
そうして明久はボロご小屋教室へと足を運んだ……まだ見ぬ男子(女子は基本頭がいいのが多いから来ないだろうという明久の観点から男子として断定している)に思いを馳せながら。
* * * * * * * * * *
「おはようございま……す!?」
明久が壊れないように元気よく扉を開け放ち、挨拶をして中を見渡すと中には美少女ソックリの男子が3人存在していた。
女子の制服を着ているのでそういう趣味なのだろう―――恐ろしくにあっているから関係がないのだが。
「おはようございます吉井くん」
「……おはよう吉井」
男子(仮)2人が挨拶を返してくる……やけに声が高くて女子の声なのだが、明久の知り合いにも少女と間違えそうな声色を持つ者もいる。
そういう経験がある為か、他にもこういう生徒が居たのだろうと思い直す。
1人はにっこりとただ笑っているだけである……男子(仮)がするにはあまりにも美しい笑顔であり、認識を誤れば魅了されそうである。
0点を獲得するだけあって見事に個性的なクラスメイトだ……明久は窓の外を眺めながらそんなことを思っていたのだが―――
「……あの、吉井くん……何故遠い目をしているんですか?」
「……姫路、多分吉井は現実逃避をしているのだと思われる」
「ふふ、仕方がないかもしれませんわね」
「なんで姫路さんと霧島さんとゴーゴンさんがここにいるのお!!?」
ふたりの言葉に現実に戻らざるを得なかった……男子生徒だと思われる生徒3人は実は女子生徒であったのだ。
しかも明久が振り分け試験の時に助けた2人と補助してくれた女子生徒―――霧島翔子と姫路瑞希、ステンノ=ゴーゴンである。
前者2人は外見でも成績でも非常に有名であり、常にテストの点数で1~2位を争っているような成績の持ち主だ。
外見に関しても日本人形のような美しさと儚げな印象を持ち合わせている霧島と小動物のような愛らしさと抜群のプロポーションを持ち合わせている姫路は双方ともに男子はおろか女子からの人気も高い。
ゴーゴンにしても明久は成績上位だと認識しており、完成したアイドルとしても名高い美貌を持つ留学生だ。
明久の発言はある意味では失礼なものではあるのだが、このような環境に来るはずがない生徒でもあるのだ。
「……吉井と同じ理由、途中退出」
「えっと……私もですよ?ほら途中退出は0点あつk―――」
「鉄人が3人は再試験を受けられたと言ってたんだけど……?」
明久がそう言った瞬間、何故かふたりの美少女が視線を逸らした気がした、残りの1人はニコニコと何が面白いのか明久を見ていたが。
もしかしたら西村先生が吉井を安心させるためだけにすぐにバレル嘘を言った可能性が―――
そう考えていると、真剣な面持ちでふたりの美少女が意を決して話しかけてきたので明久も聞く姿勢に入る。
「あの……ですね……たしかに再試験を受けれたのですけど……」
「……吉井だけが受けれていないと知って辞退した」
「ですわよ?」
あっさりとそのような事を言ってのけた。
辞退したのであれば0点は仕方がないなあ、と考えていたのだが――――
「え?なんで……せっかくのチャンスを――――」
「自分の立場を削ってまでチャンスをくれた西村先生には感謝している……私達の普段の成績を考慮して学園側も判断したのだろうけど」
「でも……吉井くんがいないとわかって私は、抗議しようと霧島さんと一緒に直談判しようと思ったんです……そうして職員室にの前で西村先生の怒声を聞いてしまったんです」
怒声の内容は言われずとも明久にも大体検討がついていた……だが、会話を遮ることなく聞いている。
「……『Fクラスより下のクラスを作り、そこに0点の生徒を集める!!?完全な隔離ではないか!!どうしてそういう判断を!!』って」
「その後にも色々とひどい環境を並べ立てるように淡々と発言する他の先生の言葉を聞いて……助けてくれた吉井くんだけをそのクラスに閉じ込めたくなかったんです」
「乗り掛かったアルゴー船ですわ、ふふふ」
「……気持ちは嬉しいけど、こんな最低環境で――――」
自分ひとりでも大丈夫だと言いたかった……それに姫路は体が悪いのだし、体が耐えられないのではないかという点もあった。
1人ではないのは嬉しいことなのだが、自分のためにわざわざ確実に手に入る最高環境を手放してまでくる必要はなかったのに、と。
―――だが、3人の少女の瞳に宿っていた決意の視線に圧されて明久は何も言うことができなかった。
「…………うん、これから1年間よろしく3人共」
「よろしく、吉井」
「はい、よろしくお願いしますね吉井くん」
「されてあげるわ」
霧島が小さく笑みを浮かべ、姫路が満面の笑みを浮かべ、ゴーゴンは高圧的な笑みから少し穏やかな笑みに変えていた。
その笑顔をみてまあいいやと思ってしまった明久は単純だなあ、と思ってしまっていた。
おい明久、その位置変われ(血涙)…………変わってくださいマジで