「……あなた達は……何?」
一足先に冷静さを取り戻したのは霧島だった……すぐさま明久の横に立つと、目の前の存在に”誰”ではなく”非人間”の意味を込めて尋ねる。
気配もなく、窓も扉も開かれた様子もなく出現したということは、超像の存在であるということ。
例がないことではあるが、オカルトと科学の奇跡の融合を果たした試験召還獣というものがある……故にオカルト関係が実在していたとしてもおかしくはない。
故に、オカルトという分類にくくられている存在だと予想付たのだ。
「何……か……ふむ、どこから説明したものか―――」
「うんうんやっぱり自己紹介は必要だよね!いいよやるよ!僕は”アストルフォ”シャルルマーニュが十二勇士の”アストルフォ”!」
ふたりの黄金の鎧の片割れが説明しようと口を開いたとたん、空気を読まず呆気からんと大声で自己紹介をする美少女(?)……その名を聞いて霧島と姫路(ようやく復活した)が目を瞬かせる。
シャルルマーニュの十二勇士はローランを筆頭とする『ローランの歌』により語り継がれている伝説の英雄であり、また史実にも小さくではあるが存在している人物でもある。
そのうちの一人と目の前の存在は言っているのだが……確かアストルフォは―――
「えっと、アストルフォさん……一応本人と仮定してのことなのですけど……男の方ですよね?」
「うんそうだよ……あ、この外見でわからない?ふふん、この格好をしている理由は戦友であるローランを慰める為に仕方なくしているだけなんだからね!」
「「いや、そのローランって人、今居ない(と思う)から」」
「全員制服にする配慮ぐらいしなさいよ」
ふざけた様に振舞っているアストルフォに対して霧島姫路は静かにツッコミを入れる。
ゴーゴンは服装が制服でない事に対してこの場所がどういう場所なのかも含めての突っ込みも入れていた。
ところで他の面々が置いてきぼりをくらい、一人だけがスクワットし続けているというシュールな光景になっているのだが。
「流石は理性が蒸発していると言われているアストルフォか……あぁ、とりあえず君たちも言いたいことはあるだろうが、こちらに敵意はない。一通り自己紹介をしていこうか……構わないかね?」
「……う、うん……呼び方がわからないとどうやって呼べばいいか困るしね」
「それはそうなのだが坊主、他に言うべきことは……まあよいか……では余から行かせてもらうぞ、余は征服王イスカンダル……アレキサンダーという名でも通っている者だ」
アレキサンダー大王……著名な歴史上の人物たちから大英雄とみなされているマケドニアの覇者であり東西4500kmに及ぶ地域を遠征征服した王である。
昔の時代にそれだけの地域を征服したのだから征服王と名乗ってもおかしくないであろう人物だ。
そのような人物だからこそ、デカイと感じ取れたのだろう……というかアストルフォの名が霞むほどの英傑である……アストルフォもアストルフォで見た目のインパクトが半端ないのだが。
「……この
征服王と名乗ったことに対して黄金の鎧……いや鎧だけでなく黄金と形容するのが正しいであろう存在が不快気にイスカンダルを睨み付ける。
その視線に直接さらされていない面々でもひるむほどの眼光である……が、ここに集っているのは紛れもない英雄達であるので動けなくなるということは無かった。
……そのとばっちりを受けてこの場で体調的にも一番弱い姫路だけが足に力が入らず腰を落とした程度だ。
「姫路さん……!」
「駄目だよギル」
そんな険悪な雰囲気を黒い泥状のハリセンで黄金の男をぶっ叩き、黄金の男の事をある程度知っているものは驚愕の眼で貫いていた。
あまつさえ
「……このいい角度、やはりエルキドゥだな」
「あ、僕も自己紹介するね。エルキドゥだよ」
ギルガメッシュ叙事詩に出てきた主人公の唯一無二の親友……ギルガメッシュを諫める為に作り出された存在。
その時よりも人間として近い形ではあるが、纏う雰囲気はこの場にいる者の中でも上位に属している。
「なんか不機嫌な表情からいい笑顔になってるーーーー!!!?」
「……エルキドゥと知り合いで王に関係……」
「ウルクの王、ギルガメッシュ……!」
「この学園の世界史の範囲、広いのよね……」
突然、機嫌よく笑い出した金ぴか―――人類最古の英雄王・ギルガメッシュの反応に明久は裏拳で宙を切る、簡単に言えば突っ込みではあるが。
なお、霧島と姫路は反応などからその人物の名前を見事に導き出していた。
ゴーゴンはギルガメッシュが歴史の授業でも習う点において、そこまで習うのかと若干呆れ気味になったほどである。
「なるほど……最古の英雄ギルガメッシュであるなら余に何かいいたいのも頷ける……余より偉そうな英雄など余り考えられぬからのう」
「ところで並々ならぬ戦意を滾らせている筋肉がいらっしゃいますが……あなたは誰ですか?」
「……スパルタクス」
そう言うだけ言ってスクワットをやめて腕立て伏せを始めるスパルタクス……明久が霧島や姫路を見ると……姫路はわからないようだが―――
「古代ローマに捕えられたトラキア人の剣闘士奴隷で、カンパニアの剣闘士養成所に属していた人物……。第三次奴隷戦争の時の英雄」
どう考えても歴史の授業で習うような人物ではないのにすらすらと出てくる霧島……知識の量はおそらくこの学園でも最高峰なのかもしれない。
1年の時の学園主席は伊達ではないのだろう。
とりあえず明久には汗臭い男とだけ覚えておけばいいやと考えておいた……実際に汗まみれで別の意味では絵になっている。
「……圧制者に対する戦意……とはいえ、貴様が我に挑めぬよう何らかの圧が掛かっているのか」
「仲間割れを引き起こさないため、か……?となればギルガメッシュへの牽制はエルキドゥか」
度々自己紹介が中断されている。
まあ、仕方が無いことかもしれないが、現状の認識も踏まえているのだろう。
そしてギルガメッシュへの牽制役は実力で止めれる存在である別の黄金の鎧をまとっている人物と……先ほどハリセンでツッコミを入れていったエルキドゥである。
「そうだ、ついでに自己紹介しよう……私はエミヤシロウだ」
「…………」
「吉井……こっちを見られても……知らない事だってある……」
「えっと……該当しそうな人物、著名人……」
白髪褐色の男の名乗りに明久が今までの経緯から期待を込めて霧島をみやるが……困ったように首を左右に振るだけだ……姫路も考えているようだが。
それは完全に無駄な行為である……何故ならば―――
「ああ、それと私は著名な英雄ではない……だから知らなくとも問題はないぞ、仕方がないからな」
「……それにこの世界には居ませんからねぇ」
「下手すればオリジナルですわね」
落ち着かなかったのか即席で作ったらしいきつね耳カチューシャを装備した桃色の髪の女性が補足するように呟く。
隣の赤髪の少女も何やら角つきのカチューシャを装備して落ち着かせているようである……当然のことかもしれないが似合っている。
「……俺はカルナだ」
「……インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する不死身の英雄」
日本での知名度は非常に低いが、インドでは絶大な人気を持つ英雄である……誰にも認知されていない赤い弓兵とは大違いである。
出身世界が違って、元となった人物がいない者にいっても仕方がないことではあるが。
「……え?不死身……?」
「残念だが、
「そこの理性が蒸発してる男と英雄王……後は着物の少女は例外中の例外だがな」
不死身の英雄と聞いて咄嗟にカルナを見る明久だが、返答はハッキリと死ぬ可能性があると告げるものであった。
とはいえ、宝具使用不可能というわけでもないし、防御面も現状纏っている服や鎧だけは性能を発揮できているので、素肌にあたりさえしなければ傷つくことはない。
……例外は
「という訳ですので、私は清姫と申します、嫌いなものは嘘です」
「安珍清姫伝説の……」
何故か霧島は清姫に対して妙な親近感を覚えていた。
というのも、古典を学んでいるときに好いた男を追いかけたが手に入れる事が出来なかったという点で自身との共通点があると若干ながらも思っていたからである。
「……で、
「吸血鬼カーミラのモデルのひとりで、600人以上の少女の生き血を浴び、己の美貌を保とうとした悪女と同じ名前でしたので、ちょっと……」
「……少し警戒心が……」
実在が確認されている人物の名前とそれにまつわる逸話を覚えており、ふたりの少女は一歩下がる。
まさか清姫と同様に英雄として出てくるとは思ってもみなかったという感想が強いようであった。
「
「引きますよ、ドン引きですよ、ええ……その点私はそんなに危険ではないですよ~、玉藻の前です、よろし―――あの、お3方、どうして距離をお取りになられて―――」
「漫画とかだとラスボスポジションが多い九尾の狐の名前……」
「……日本三大化生の一角」
ここが日本だということなので、丸分かりであるその正体……とはいえ、この玉藻の前は純粋に人に憧れた神様の表情の一つであるので同一視するのは可哀想な気もするが、三大化生の方が有名なので仕方がないのである。
知っているゴーゴンはフォローしようともせずに明久に守られている状況を楽しみつつ眺めているだけだった。
「……ごめんなさい」
「……いいのよ」
教室の片隅で膝を抱えてブツブツと呟く二人の英雄……呪詛の言葉こそないので、ただただ哀れにしか見えない状態である。
「ハプスブルグ家系譜、元フランス王妃のマリー・アントワネットよ。さあ一緒にヴィヴ・ラ・フランス!」
「ドイツ語は分からな――――」
「……吉井、今のはフランス語」
フランスとついてるのだから割とわかりやすいのだが、明久は堂々と間違えていた。
更に言うならマリー・アントワネットという名前からフランスだとも推測しやすい筈である。
言語を間違えられたにもかかわらずマリーは気にする風でも無かった。
「オルレアンの乙女ジャンヌ・ダルクです」
「女性の英雄と言えば真っ先に浮かぶ代表格ね」
ジャンヌも有名な英雄である……英雄としてハテナが浮かぶようなものが続いてるところからようやく英雄らしい英雄の名前が出てきていた。
女性の英雄と言えば
そして呼ばれたのはいいとしても勉強するのが憂鬱という感情が勉強が苦手な明久に対して謎のシンパシーを感じ取れた存在でもある。
「俺はプティーアの出身のアキレウスだ……おいイスカンダル、何故目を輝かせてこっちを見ている」
「ホメーロスの叙事詩『イーリアス』の主人公で、アキレス腱の語源になった英雄……それと、幼い頃から貴方の英雄譚に憧れて育ったのだから目の前に居たら感動を覚えるのは当然と言える」
駿足のアキレウスと呼ばれる大英雄であり、ギリシャ神話で有名な大英雄の一角。
もっとも有名である英雄の中の英雄である最も著名な大英雄と並ぶほどの武勇を誇っており、英雄らしい秩序を持ち合わせている男でもある。
そして、トリを飾る事になった最も大きな男が口を開く―――
「私の番か、私は―――」
「ヘラクレスだね」
「ヘラクレスだと思う」
「きっとヘラクレスですね」
「だそうよヘラクレス」
何故ヘラクレスと分かったのか……今までの流れで英雄という事がわかり、更にこの中でも最も強大なオーラを持ち合わせているからである。
というよりもぶっちゃけ見た瞬間にヘラクレスだと明久も姫路も霧島も理解していた……ゴーゴンはそもそも3人以上に事情を知りえているので除外。
ヘラクレスは自己紹介をかなり真面目に考えていたようだが、ここにきて知名度が足を引っ張って(?)しまったようである。
* * * *
「……えっと……これで全員?」
「一応、ここのクラスの生徒として参ったのは以上になるな」
自己紹介は全員済んだようであり、名前も顔も覚えたようである……たった4人だったクラスが一気に15人に増えて賑やかに―――
「……生徒?」
霧島が失礼だとわかっていても、年齢は度外視しても……外見がおかしいとある二名をみている。
姫路も明久もその二名に視線を集中させている……スクワットをしている
他の英雄達も言いたいことはわかるという表情になっている……カルナ、エミヤ、アストルフォ、ギルガメッシュなどの英雄は外見的にも問題はないのだ。
「別段、外国人だから成長が早いと通せば大丈夫だろう?」
「……同意だな」
「無理があるがそういう風になってしまっているがゆえに仕方がない」
ふたりの意見に、一同が一斉に手を左右に振っていた……いくらなんでも無理がありすぎるのだ。
ヘラクレスの意見ももっともである。
どうして先生として出てこなかったのか……ではあるのだが、それ以前の問題があるのだけど、と思いつつ……明久がふと思い出したかのように口を開く。
「あ、自己紹介ならこっちもしないと……僕は吉井明久、よろしく」
明久は自己紹介をすると同時に誰に握手を求めればいいんだろうかと思いつつ思い切って手を差し出す――――ギルガメッシュに。
「……どうしてわざわざ
「あ、僕も僕も~!」
教室中に戦慄が走ったが、ギルガメッシュが握手に応じたことで意外に思いつつも胸をなで下ろす。
その空気に便乗しているのか否なのかアストルフォが明久の空いている手を握りブンブンと音が鳴るほど上下に振った。
エルキドゥは最初から心配していなかった……失礼かもしれないのだが世界との情報で明久はよく言えば小学生に溶け込める人柄であるのだから。
「……まだ警戒は解けないけど敵ではないと思うから……霧島翔子、よろしく」
「あ、姫路瑞希です……よろしくお願いしますね?」
明久の行動と英雄達の様子にまだ若干の警戒心だけは残しつつ、霧島が自己紹介をし、姫路もあとに続く。
これで、残りは何故ここに現れたのかを聞くだけになったのだが―――
「……どうして、貴方達のような英雄がこんなボロ小屋教室に……?」
「教室というよりも……特定の人物の下に訪れた、が正しい出来事ではあるな」
「人物……?」
霧島の問いかけにエミヤが返す……冷静に物事を話すにはちょうどいい組み合わせなのかもしれない。
妙にハイテンションだったり、少々寡黙だったりするので必然的に、こうなったのだが―――
「ああ、吉井あきh―――」
「ちょっと待って!!?なんでコレで明久生きてるの!!!!?」
会話をぶった切ってアストルフォが聞き手によっては非道な事を口走っていた……なにげに名前呼びであるのだが、おそらくは彼の性質なのかもしれない。
―――というよりも非常に失礼である……諌めようと思ったエミヤも突如頭の中に知識として刷り込まれた明久の経歴に思わずズッコケた。
……そこからはカオスでしかなかったイスカンダルはエミヤと同じくズッコケ、ギルガメッシュは椅子から勢いよくずり落ち、玉藻の前とエリザベートと清姫は手を口に持っていき、驚愕の表情でかたまり、カルナも目が点になって明久を凝視し、スパルタクスですらトレーニングを中断して明久をすごい表情で見ていた。
ヘラクレス、アキレウスは表情変わってないがなんか恐ろしくなっており、マリーとジャンヌは硬直していた。
明久は明久で何故こうなっているのかを理解できず、霧島と姫路は一体、何を知ったのだろう?と疑問に思いながら首を傾げていた。
「……吉井、どうして君は叔父達に疑問を持っていなかったのかね」
「疑問?叔父さんがどうかしたの?」
「……いや、今はそのような事は関係ない……おい雑種、貴様……何故ほとんど高い割合で
霧島と姫路が心の中で思ったこと……「なにそれこわい」である。
流石に冗談だと思いたくなり、明久の顔を見ていたが……何かおかしいことでもあったのだろうか?という表情をしていた。
「二週間に一回、ちゃんと食事は摂ってたよ」
『『『違う、そうじゃない。問題はそう言う事じゃない』』』
……本当に、なぜ生きているのだろうか?
明久がおかしいレベルに到達しているようです……いや、なんで生きてるのだろうか