遅くなりましたが、まだ怒りが爆発しない
「そういや戦争中なんじゃ……」
「停戦させてもらってる……相手のクラスにも立ち合い教師にも許可は貰ってる」
明久が戦争の最中だと指摘したのだが、他クラスの人間を全校生徒にも認識できるレベルで使用した事への謝罪の為に一時停戦を行ったようである。
「下手人は」
「いや、戦死でこの場には連れてきていな……ヘラクレス!?」
ヘラクレスの言う事に対して坂本が答えようと思ったのだが、ヘラクレスの姿を見た瞬間、叫ばざるを得なかった。
後ろからついてきた面々も呆気にとられながらも「ヘラクレスだ」とか「ヘラクレス……だと……」などと呟いている始末。
転生者という事関係なく、ヘラクレスがヘラクレスであるがゆえにヘラクレスだと認識されているのだ。
「…………一生自分から名乗りを上げれない気がするな」
「有名すぎるというのも考えものね……」
バーサーカーとかなら狂化した影響で化け物じみた状態でばれてなかったかもしれないが、そうすると今度は言葉が話せず、名乗れない。
隠されたスキルで強制知名度補正でもあるのだろうが、今は置いておくしかないだろう。
「……雄二、話の続きを」
「っ!……そう、だな……簡単に言えば船越先生を戦場から遠ざけるために誘導しろと指示は出したんだ」
「俺の居る戦場にな……」
あらかじめ先手を打って坂本よりも野性味あふれる男、
指示を出したはずなのだが。
「途中で命令を別のに変えた愉快犯が居た」
「……戦場から離れさせる事には結果的には成功させているようだが明らかな命令違反だな」
少なくともクラス代表である坂本の命令を改竄して他のクラスの生徒を標的とした行為。
と、そこまで話を聞き考えたところで―――――
「無関係クラスへの攻撃行為に該当すると判断させた?」
「……ああ、だから第三者クラスの生徒への宣戦布告行為と同様の扱いにして戦死扱いにさせた。実行犯も指示した人間もな」
西村先生の補習が恐ろしいのは勉強を好ましく思っていない生徒のみ。
よって、大半の生徒は戦死扱いを非常に避けたいだろう……そしてどのような手段を用いようとしても逃げられないというおまけつきでもある。
(……罰を受けてあるのであれば構わねーな)
アキレウスは怒りを
流石に罰を受けた人間に対してぶつけるのはただの八つ当たりに近い行為だ。
「改めてすまなかった、
「いや、一応害は無かったから大丈夫だよ、
(……やっぱ違うよなあ、この状況)
明久と坂本の会話を同行していた少年が複雑そうな表情で見ていた。
本来であれば、交友関係を結んでいる筈の関係が顔見知り程度になっている事に関して。
とはいえ、相性そのものは良い筈なので何かきっかけがあれば道は交わるようにはなるのだが。
それを行うのは自分ではないと考えていた……己のコミュニケーション能力を考慮してである。
「……ところであの教室からこちらをにらんでるポニーテイルの女子生徒に心当たりは?」
「……目が良いな、おい。十中八九島田だ」
シロウと坂本の会話に明久が若干背筋を震わせていた。
そうして複雑そうな表情も浮かべている……まるで仲の良かった友人が変わってしまった事に関して。
「……明久君?島田さんの事は気にしても仕方が無い事よ?」
「……無理、かな……だって……」
Zクラスでは当事者以外では瑞希、翔子、ステンノの3名が把握しており英霊達は詳細までは把握しきれていなかった。
実際に被害を受けている明久は違った見え方があるようだが、自分でも説明できないものなのか曖昧な言い方になっていた。
そしてシロウは他の者と違い、鈴風の事を見据えていた。
「……俺の事はまた後日な、まあ察しているだろうが」
「……そうだな、まだ機会はあるか」
殺し合いが日常的に行われるような世界ではない、聖杯戦争のような事が起きている筈でもない。
故に、確率の低いであろう事故などが起きない限りは顔を合わせる機会はいくらでもあるのだ。
「話は把握できたし、僕の方はもう何とも思ってないよ」
「そうか、感謝する」
そう言って坂本は連れてきたFクラスの面々を率いて戻っていった。
少ししたら戦争を再開するのだろう……翔子は坂本の後姿を少し眺めた後で目を閉じ、視線を外していた。
* * * * *
「にしても、ペット飼えてたんだな」
「いつの間にか住み着いてたんだけどねえ」
試験召喚戦争が終結せず、その日はそのまま解散になったようであり、Zクラスも解散していた。
その際に明久が漏らしていた犬が元気かどうかという言葉が出てきた。
英雄達に一切なかった情報であり、それは確実に本来の世界の理に属していない存在である。
故に、見極めの為にアキレウス・シロウ・エルキドゥにアストルフォが同行していた。
明らかに過剰戦力ではあるが、比較的目立たない(美形云々や女装は除くとして)面子で構成した結果だ。
服に関してもシロウの投影でひとまずは確保させている。
「餌とかはどうしていた?」
「近所の人の話聞いてる限り鼠とかを狩ってたみたいだけど」
自給自足する犬……本当にペットの分類に当てはめていいのだろうか?
まあ明久の家に帰還しているので家族の分類には含まれてはいそうだが。
「うーん……確かに中に妙な気配があるね」
「家の犬はどうなってんだろうか」
明久の家に到着したときにエルキドゥがチラリとその存在が居るであろう場所を見ていた。
少なくとも明久が言っていた犬とは程遠い『何か』の気配。
……枷が外れていない以上、危険を及ぼす存在ではないだろうがという結論を英雄達は持ち合わせていたが。
「犬の名前って何なの?アッキー」
「アタランテ」
家の鍵を開ける明久に尋ねたアストルフォに対して明久が答えを示すと……アキレウスが苦い表情になった。
己の父親と冒険をした尊敬する人物の名前を扱われているのだ……だがまあ、流石に自分が出る前からの事にいちいち腹を立てるのもおかしい話であるので耐えた。
「ただいま、アタランテー」
「……(フリフリ)」
明久がアタランテという犬に帰還の挨拶を行うと……そこには如雨露を咥えて目線だけを向けて尻尾で挨拶を返す妙な犬?が居た。
「……如雨露咥えて小さい鉢植えに水やりとは」
「賢いとかそういう問題じゃねーぞ」
「……サーヴァントだね、アストルフォ、君ならよく見えるだろう?」
シロウとアキレウスが薄々ながらも何かに気が尽きているが、とりあえず犬に有るまじき行いに突っ込みを入れて、エルキドゥが気配の探知から正体を把握していた。
そうして、警戒心を抱いていないアストルフォに意見をしたがアストルフォは警戒を解くことなく言い放った。
「アッキーに敵意は一切無いよ……令呪で縛られてるみたいだから」
「え?アタランテが何かおかしいの?」
割と警戒をしてる3人としてない1人という状況に明久が疑問を抱くが、それでも怖がることはしない。
何がどうとはっきりしないが、安心できる空気を持っているし……家族を事故で失って数日後に懐いてきた家族なのだから。
「……英霊か」
「……あれ?犬って喋ったっけ?」
「普通は言葉を発さないな……」
敵対の意思は見せないのか、如雨露を置いた後でアタランテがアキレウス達をみやる。
胸中で何を思っているのかは不明だが、明久の敵では無い事が最低限把握できる。
というよりも極貧の生活で共に過ごしていて敵であるというのがそもそもおかしい事ではあるのだが。
「名前のまま、アタランテか」
「肯定する」
その言葉にアタランテに変化の能力があったのかどうか悩んだ。
悩んではいたのだが、そもそもなぜ犬に変化しているのかという疑問の方が強かった。
「ところで何故犬なんだ」
「…………明久に
(―――明久の気配と似通った何かがあるみたいだね)
何処か苦々しい表情を形作るアタランテに令呪の気配を感じつつ英雄達全員はどういう状況なのか把握できていない。
気配に敏感であるエルキドゥは明久とアタランテを見て何か感じ取れたが胸中にしまいこんでいた。
「……えっと、何処かに行くって事は―――」
「無いな……命令や強制力関係無しに今は亡きマスターに誓っている」
明久の言葉に対してそう返してアタランテは何かを思い起こすかのように瞳を閉じた。
明かしたくない姿の事も含めて思いを馳せているのだろうと推測される。
「……なんか僕のペットが重い件」
(それはそれとしてリンゴも一役買ってたのか)
シロウは小さな鉢植えを見て、そこになっている小さな果実に注目していた。
正真正銘な黄金色に輝くリンゴを。
アタランテの姿が本来の姿とは違っております。
予想できる人には予想可能
ちなみにここのリンゴには不老不死の効力まではありません