異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第131話  国産魔導船

異次元惑星アルクスを周回する空中大陸、それは大規模な高純度魔石の鉱脈に特殊な処置を施し、物理干渉力を高めた魔力の渦を発生させ揚力を得て空を飛ぶ巨大な人工構造物であった。

 

とは言え、ある程度補強されているとはいえ、空中大陸の大部分は自然物そのものであり、地層がむき出しのまま浮遊するその姿は見る者にある種の威圧感を与える。

現在のところ、むき出しの地表からの落下物は殆ど確認されず、人為的に崩さない限りは空中大陸のかけらが落下する事はないとされている。

 

九州や四国を思わせる巨大な浮島が日本列島上空を通過するので、日照関係の被害が発生しており、苦情もあるが、ソラビトとの定期的な交流の機会である事と空中大陸自体が自力で航路を変更できない事もあり、両国とも問題に真剣に取り組んだ。

現在、反射板を取り付けるなど、ある程度の機械化で問題を解決しつつあった。

 

最終的には、空中大陸そのものを自由に動かせるようにする為にソラビトと日本人が日夜知恵を出し合っている。

 

それらの研究の一端として、マテリアル企業が作り出した高純度魔石を利用した魔石式飛行船、通称:魔導船の試作機の建造が決まった。

 

 

馬の蹄を思わせるUの字の太いパイプと、魔力流を受け止めるためのビート板の様な部品が組み合わさった形状をしており、その下に飛行船のゴンドラを思わせる操船区画が設けられている。

 

「これが日本初の魔石式飛行船かぁ・・・なんか、こう、もっとカッコいいデザインにはならなかったモンかねぇ?」

 

実験機の為に、まだまだ荒削りな外見であり、むき出しのパイプが物々しく我々人類とは物質組成の異なる生命体の内臓を思わせる。

 

「そうかな?昔の丸っこい新幹線みたいで可愛いデザインじゃないか?」

 

丸みを帯びたゴンドラ部分は、古いデザインの新幹線の様な、かつて宇宙開発の期待を一身に受けていたスペースシャトルを思わせた。

 

「今まで誰も試したことのない、新方式の航空機だぜ?地球ではライトフライヤーに先を越されちまったが、玉虫型飛行器の雪辱を晴らしたいものだ。」

 

「この世界初の魔石式飛行物体と言うと空中大陸に先越されてしまっていますけどね。」

 

「はぁ・・・まぁ、そうなんだがなぁ・・でも、あれは浮かせるだけで進行方向の制御はまだ出来ていない、ノーカンでいいだろ?な?」

 

「それは後の歴史家が議論するだろうから、いいんだけど、問題はドローンで成功していた魔石式飛行船が、本当に人を載せて飛行可能かと言う点です。」

 

当然ながら人を載せる前に模型やラジコン機などで魔石を利用した推進機構を何度も実験を行っている。最初こそ実験機の破損や故障を何度も繰り返していたが、改良が進み人を乗せる目処が立ったので有人機の建造がされたのだ。

 

「・・・・ふむ、この手の新技術を使った航空機には事故が付き物だからな、こいつが未亡人生産機にならない事を祈るしかないか。」

 

 

名誉あるテストパイロットが、魔導船に乗り込んでいく・・・。

魔石式推進機構が起動し、Uの字のパイプから魔力流が発生する。

魔力流を受け止める板が、青白い光を反射させながらダウンウォッシュを発生させ、魔導船がゆっくりと浮かび上がり、少しずつ加速し始め、レシプロ機ほどの速度であるがかなりの速度で飛行し、実験場をフライパスした。

 

「おおっ!これは凄い!本当に飛んでいる!!」

 

「魔力流を補助翼などで制御はしておりますけど、一応補助動力として電動式のプロペラも搭載しております。トラブル発生時にベイルアウトが優先されておりますが、緊急着陸の対策は一応設けてますよ。」

 

「魔力流を利用した発電機が搭載されているんだっけ?直接魔力から電気エネルギーを取り出す方式に比べてエネルギーロスはあるが、魔力流パルス式発電は構造があまり複雑でないから安定していると聞くが・・・。」

 

 

海洋生物のエコーロケーションの様な、フルートを思わせる甲高い駆動音を響かせて魔導船の試作機は実験飛行を続けていたが、一通りの動作確認を済ませた後、車輪を下ろして着陸態勢に移った。

 

観測班が固唾を飲んで見守る中、魔導船は緩やかに着地し、徐々に速度を緩めて行き、ついには停止した。

Uの字パイプから発生していた青白い光の渦は徐々に弱まり、やがて霧散した。

テストパイロットが手を振りながら、ゴンドラ部分から降りてくると、大歓声が巻き起こった。

 

異世界初の、いや、人類初の魔石式飛行船の有人飛行の成功は、新聞にも取り上げられ、夢の資源である魔石の新たな可能性に日本中は湧きたった。

 

日本政府は、ソラビトの空中大陸の大規模な機械化に前向きな姿勢を見せ、超巨大な移動プラットフォームとしての用途として使えないかソラビトと協議する事になる。

 

 

 

 

試作型魔石式飛行船 通称:魔導船

 

魔石には物理干渉力を持ったエネルギーを放出する性質があるが、その魔力流を揚力として利用して、物体を浮かせる機構を作れないか?と研究され、その結果生まれたのが空中大陸である。

その技術を航空機に利用できないか日本が独自に研究を続けて、飛行可能なドローン機を作り出すことに成功したが、人が実際に乗れる魔力式飛行船には届かなかった。

しかし、後にソラビトの助言を受けて、魔力流の制御を彼らの体の構造を参考に改良が進められて、ついに魔力式飛行船の建造に着手した。

 

手乗りサイズのドローンで何度も実験を繰り返し、理論上安定性を確保した試作機は何重にも安全対策が施されており、緊急時には電動式のプロペラを補助動力として使用可能。

 

特に事故らしい事故は起こらなかったが、まだまだ魔力流を効率的に扱えていないので、改良が待たれる。


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