異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第133話  貨物列車と商売人

大陸沿岸部の日本ゴルグ自治区に隣接するトナーリア商業国、かの国は広大な平原を拠点に大規模なキャラバンを率いて大陸中を横断する移動都市とも言える形態をもっている。

 

一応首都として城塞都市が構えられているが、キャラバンが休息をとるための拠点として用いられることが多く、常に都市の住人は丸ごと入れ替わる。

大抵が、血縁関係を持つ商人が交代で移動と店番をする流れだが、協力関係にある商人が担当する事もある。

 

巨大な山脈と大森林に覆われた大陸中央部までは手を出していないが、キャラバンに属していない独立商人などは、大陸沿岸部の広範囲を移動しているので、どこかの国のどこかの町には大抵、トナーリアの商人が居るのである。

 

そんな彼らは、ゴルグガニアが謎の軍勢に占領されたという情報を極めて早い段階で聞きつけ、ゴルグガニアに嫁いだ親族を殺され怒りに燃える周辺国の動きを伺い、謎の軍勢に手を出さずその成り行きを見届けることにした。

 

一応、トナーリア商業国の人間がゴルグガニアの戦火の巻き添えを食って亡くなるものも居たが、感情を押し殺して情報収集に努めた事で、謎の軍勢を率いていた未知の国、ニーポニアの国力を知る事となった。

 

ニーポニアが接触してきた頃は、警戒態勢が取られたが、いざ話を聞いてみるとゴルグガニアに接触した時に使節を全員磔にされ拷問を加えられたのち全員殺害されたらしく、それの報復でゴルグガニアを陥落させたとの事だ。

使節団を全員殺害するという事は、実質宣戦布告と同義であり、国を滅ぼされても文句は言えない行為である。それで勝てれば良いのだが、魔力を持たないという偏見で動いたのが間違いだったのだ。

 

ゴルグガニアの軽率な行動に怒りを覚えつつも、ニーポニアにもそうせざるを得ない事情があったと知り、戦渦に巻き込まれた同胞の死の悲しみを飲み込みつつニーポニアと国交を結ぶことにした。

 

ちなみに、ニーポニアは戦渦に巻き込まれ死亡した商人の賠償を払う事を提案し、遺族たちに相当な額の賠償金が支払われたという。

 

 

『ニーポニアに奪われたあの人の命はもう戻ってこないけれども、彼らは正面から私達に謝ってくれた。そして独立商人として十分にやって行ける金を賠償してくれた。』

 

『怒りも悲しみも決して忘れることは無い、でもニーポニアの真摯な心だって忘れない。』

 

 

向こうの方からの自発的な動きに、少なくないトナーリアの民の心が動かされ、始まりこそ不幸な事であったが、友好的な交流が続けられている。

 

ニーポニアから齎される商品は、工芸品・武具・道具・乗り物など多彩にわたり、恐ろしい速度で大陸沿岸部に広がって行った。

あらゆる国にコネを持つトナーリア商業国を伝手にニーポニアは、警戒心を抱く大陸沿岸部の国々に商品を売りつけた。

 

交渉窓口になったトナーリアの首都は比較的小型な城塞都市から、一気に広がり、城壁の外まで商店が立ち並ぶ大規模な商業都市となった。

これもニーポニアの建築技術のお陰であり、トナーリアの独立商人も自分の店を持ち定着する事が出来るようになったのである。

 

特に、ニーポニアの人造の鎧虫、ジドーシャは物流を根本から変えた。

扱うのには訓練が必要で、所持するにも操縦するにも特別な許可が必要であり、目敏い商人は真っ先に飛びつき、多額の金をつぎ込み許可証を得るための訓練とジドーシャの購入をした。

 

ニーポニアでは成人したばかりの若者でもジドーシャを所持する者が多く、訓練さえすればよっぽど相性が悪くない限り許可証が得られるようになっているらしい。

現に、操作方法さえ覚えてしまえばトナーリアの商人でもジドーシャを運転する事が出来てしまうのだ。

 

『ジドーシャを購入する事も、許可証を得ることも大変だったさ、でもこれさえあれば他の商人と圧倒的な差をつけられるのさ、もっとニーポニアと交流を持たないと置いて行かれちゃうよ。』

 

ジドーシャは馬車よりも操るのが簡単で、しかも馬車とは比較にならない程の走破性を持つ。

ニーポニアの舗装された道路が一番相性が良いのだが、踏み固めた砂利道でも問題なく走ることが出来るのだ。

 

『今まで月や太陽を道しるべにして旅を続けていたけど、ニーポニアが道路を引いてくれたおかげで随分と旅が楽になったよ。太陽が照り付けて道が熱くなるのは困ったもんだけどね。』

 

ニーポニアは大陸に上陸してから、基盤施設の建設を優先しており、国交を結んだ国々にかなり太くて長い立派な道路を引いているのである。

トナーリア商業国は特に交通拠点として優れた位置にあるらしく、アスファルトと言う砂利を焼き固めた様な道路の他に線路と言う特殊な道を作らないかと持ち掛けられた。

 

トナーリア商業国は今まで聞いたことも無い道路の建設に首を傾げた。

既に立派な焼き砂利の道が開通しているというのに、更に良くわからない金属棒を連結させたような道をトナーリアと結ぶ意味が果たしてあるのだろうか?と・・・・。

 

ニーポニアの説明も理解を超えたものであり、当初こそ困惑していたが、大きな利益がもたらされるという事なので、今までの信頼感もあって、未知の道路、鉄道の建設が共同出資で決まった。

 

城壁をくるりと巻いてしまう事が出来るほどの巨大な金属の大蛇が通る道と言う、鉄道・・・それの積載量はジドーシャの比ではないという。

要するにニーポニアの加工物がジドーシャや馬車よりも遥かに超える量が一度にトナーリアに運搬されてくるという事なのだ、これ程の商談は逃す手はない。

 

『首都を拡張する時も驚いたもんだけど、ニーポニアの鎧虫は凄いもんだなぁ、硬くて工具を跳ね返しちゃう地面がどんどんえぐり取られていく・・・。』

 

ニーポニアは工事をするときにもジドーシャと言う鎧虫を扱うのだが、その種類の豊富さに驚かされる。

平たい牙のついた大あごで土砂や砂利を掬い取るもの、一本腕で土などを掘り返すもの、巨大な車輪とその重量で地面を平らにするもの等である。

 

トナーリア商業国が行うならば数世代に渡って行う大事業の筈であるが、ニーポニアの建設速度は大陸沿岸部の常識を遥かに超えており、トナーリア商業国の感覚であっという間に、開通してしまったのである。恐るべきことである。

 

勿論、ニーポニアから見ても一大事業である事には変わりなく、工事は長期にわたったという感覚である。大陸沿岸部の国々とはそこら辺の感覚が違うのだ。

 

『いよいよ金属の大蛇がこの街に来る日だ。一体どんな姿をしているんだろう?』

 

トナーリア商業国の城塞都市まで続く鉄道が開通し、ゴルグガニアを発ったという大蛇の姿を見ようと住民たちが駅へと集まっていた。

 

『予定ではもうそろそろ到着するらしいけど、そんなに時間ぴったりに到着するもんかねぇ?』

 

『俺たちだって旅をするときの予定が十日くらい余裕でずれるのに、こんなに大胆にお披露目なんてして良い物かなぁ?』

 

地平線まで伸びる鉄道、太陽に揺らめきながら小さな影が地平線の彼方から、ぽつりと現れる。

やがて小さな影はうねり始め、時折光を反射させながら目を光らせ、もの凄い速度でトナーリアへ向かってくる。

 

『うおおおおおおっ!!なんて大きさなんだ!長げぇ!!』

 

『長いだけじゃない!とんでもない速度だぞ!しかもトラックというジドーシャと同じ様な形をした胴体もある!!』

 

『あ・・・ありえない・・これが現実だというのか?夢でも見ている様だ。』

 

『ひぃぃ!目が!目が光っているぞぉ!?く・・食われちまう!逃げろおぉ!!』

 

叫ぶ者、興奮が抑えられない者、腰を抜かす者、茫然と佇む者、悲鳴を上げながら逃げ出す者・・・・ニーポニアが大陸沿岸部に持ち込んだ鉄の大蛇は、些か刺激が強すぎた様だ。

 

荷下ろし専用の設備から、大量の積み荷が降ろされて来る。大蛇の胴体が開いて作業員が運んだり、大蛇の胴体が丸ごと取り出されたり、大蛇の腹部が開き鉱物の山が内部から放出されたり、恐ろしい速度で信じられない量の積み荷が一度でやり取りされるのだ。

大蛇は勿論荷台を空にしたまま帰らない、帰り道にトナーリアに集められた資源を載せて加工施設のあるゴルグガニアへと向かうのだ。

 

大陸沿岸部の国々との交渉窓口となった見返りはトナーリア商業国にとって想像以上に大きなものとなったのであった。

 

「最初はどうなるかと思ったけど、色んな国にコネを持つ国と国交を持てて良かったよ。」

 

「全くだな・・・売りつけるための商品はあるのに、伝手が無い、そんな状況を彼らは打開してくれたんだ。ゴルグの戦火に巻き込まれた商人と遺族たちには悪い事をしたよ・・・。」

 

「あぁ、それでも前を向いて進んでいかないといけないんだ。これからの未来の為にも・・。」

 

・・・・これにより、異世界に転移した日本国は、何とか体制を整えることに成功したのである。失敗すれば息を吹き返す事が出来なかったため日本にとっても大きな賭けだったのである。

 

 

異世界転移によって失ったものを取り戻すために、日本は更に広範囲に散って行く・・・それから山脈と大森林を迂回して、日本の大船団が大陸中央部の国と接触するのは間もなくの話であった。




今回はここまでです。休止していた分何とか取り返したいですねー。
勿論無理はしませんが

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