「さて、今日はこれ位にしますかね?ミーティアさん」
「翻訳作業というのは存外体力と精神力を消耗するのですね。」
「私としては未知の言語を調べる事は、とても楽しい事なのですがね、好奇心を満たすには最高の素材です。」
「そうですね、根気のいる作業ではありますが、知識欲をそそられますし、大変有意義な作業でもあります。」
「ソラビトに私と波長の合う人が居て本当に良かったと思いますよ、お互い本の虫、仲良くしようじゃないですか」
「ははは、ニシモトさんは筋金入りですよ、しかし、ニフォンには空の国を超える量の書籍があるらしいのでうらやましい限りです。」
「故郷の世界では世界規模で交流がありましたし、国外の書籍も含めれば、一つの建物では収まりきらない量になりますよ」
「一つ一つが大陸の平均的な大きさを軽く超えるニフォンの建物ですら・・・ですか」
「いやいや、空の国の首都の写真を拝見しましたが、そちらも中々の大きさではありませんか」
「あれは、我々がリクビトだった頃に作られたものですから、今はもうあれ程のものは作れませんよ。」
「ソラビトは昔、大陸の中でも有数の高度な文明を築いていたリクビトだった様ですね、」
「えぇ、さすがに大陸一・・・とまでは行きませんが、技術力は平均を大きく上回ると言う自負はありますね。」
「そもそも、大陸の国々は未だに製鉄技術が未発達で、青銅を扱っている国が殆どだ、良質な鉄が取れる鉱山があるのに勿体無い。」
「魔法技術に関しては目を見張るものがありますがね、そもそも金属自体、魔法と相性が悪いのでそれも関係していると言えます。」
「ほう、金属と相性が悪いと?それは初耳です。」
「魔鉱石を含有する金属ならば、相性は抜群ですがね、しかし、製鉄技術が未熟な大陸の国々には製造が困難で、一振り作るのにも国を傾ける予算が必要になります。」
「・・・となると、作れなくはないのですね?」
「彼らは、その武器を魔剣と呼んでおりますね、鍛冶師と魔術師、そして錬金術師の連携があって初めて生まれる武器なのです。あと、希少素材も必要になりますね」
「希少素材・・・ですか?」
「魔鉱石と銅鉱石が混ざり合った、魔銅・・・オールカルコと言うものが必要になります。」
「ほほう、魔銅ですか・・・。(まんまオリハルコンだな」
「私たちの祖先は、銅鉱石と魔鉱石からこの合金を作り出すことが出来ましたが、彼らは元々混ざっていた鉱石を用いることでしか精製できないのです。」
「私達にとっても未知の金属ですな」
「物質構成的には割とありふれた物なのですが、彼らは魔鉱石との関連性に気づいていないみたいですね、そもそも銅とは別種の金属という認識を持っている様です。」
「成程成程、しかしそんな情報を私に教えて良いのでしょうか?この手の技術情報は国家機密に分類されるでしょう?」
「遅かれ早かれ、ニフォンはこの物質を発見するでしょうし、ニフォンは私たちに色々なものを教えてくれました、この程度では釣り合いませんよ。」
「それはどうも」
「正直あなた達の金属加工の技術に関しては祖先を軽く上回ります、悔しいですが認めざるを得ない。」
「製鉄技術に関しては故郷の世界でも自慢できるものですからね、その内この世界特有の金属を使って新たな合金を開発するもしれません。」
「全く末恐ろしい国です、でも、物作りが出来る体を持つのはうらやましいですね、もし、私たちがリクビトのままだったら・・・。」
「なに、3本指でも出来ることは沢山ありますよ、中指と人差し指と親指、それだけあれば十分です。」
「私たちも物作りに挑戦できると?諦めなくて良いと?」
「そうです、日本でも事故や生まれつき指の数が少ない人でも技術職に就いている人が沢山いるのです。」
「ふふふ、何か勇気をもらった気がします、あなた達と出会って空の民は良い方向で変われるのかもしませんね。」
ソラビト
指の数は5本だが、薬指と小指が長大化し、羽状に変形している。
筋力で飛ぶのではなく、物理干渉力を高めた魔力の渦を発生させそれに乗るようにして飛行をする。
いわゆる生体エーテルカイトである。
好奇心旺盛で、様々なものに興味を持ち貪欲に取り込んでいくのは、元々技術力に優れたリクビトであったが故かもしれない。
高い所に住むがゆえに、肺の機能は高い、魔鉱石の影響で渡り鳥に負けない効率的な構造をしてる。