異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第150話  強者の傲慢

覇権国家カクーシャ帝国によって情勢が悪化する大陸中央部、国土拡大政策を取り隣接した国々は暴虐なるカクーシャ帝国の影を恐れ、自ら属国としてカクーシャ帝国に付く国も多かった。

 

しかし、自衛隊がC-130 ハーキュリーズを飛ばして大陸中央部の国々にカクーシャ帝国の所業を写真に収めたビラをばら撒いた事で、カクーシャ帝国の属国は大いに動揺し、日本が異形の巨鳥を操る事を含め、本当にカクーシャ帝国について行くべきか悩み、カクーシャ帝国勢力圏の足並みは大いに乱れた。

 

『カクーシャ帝国がまさかあの様な所業を・・・。』

 

『どこから捕まえたのか、ニーポニスは恐ろしく巨大な鳥を操る技術を持つ、もしあれに空から襲われたらどれだけ被害が出るか。』

 

『ニーポニスは確かに魔力の無い種族の国だが、計り知れない軍事力を持つらしい、悪戯に刺激して攻め込まれたら一日も持たず国は滅びるだろう。』

 

『あんなに精巧な絵と文字を寸分の狂いもなく大量に書き上げる技術があるんだ、少なくとも同じような方法で情報伝達をしているに違いない、敵に回すべきでない相手だ。』

 

 

カクーシャ帝国の手段を択ばない侵略と、大森林の奥からの来訪者ニーポニスに恐れを抱いた大陸中央部の国々は、カクーシャ帝国に察知されない様にしつつ今更ながらニーポニスの情報収集を本格化させるのであった。

 

 

 

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ヒシャイン公国にて・・・。

 

 

『ニーポニス、まさかこれ程とはっ!!』

 

山岳部に首都を構える軍事国家ヒシャイン公国は、先日飛来したニーポニスの巨鳥と巨鳥がばら撒いたビラに驚愕し、蜂の巣をつついた様な騒動になっていた。

 

『カクーシャ帝国の事を言えんな、我らもニーポニスを甘く見ていたという事か。』

 

 

元々カクーシャ帝国の遠征部隊が巨大な蟻塚の様な山の内部に広がる洞窟を制覇した開拓地であったが、カクーシャ帝国が内乱で荒れたどさくさに紛れて独立した経緯のあるヒシャイン公国。

現在も鎧虫の襲撃を受ける事が多く、兵士の練度も高いため、彼らも何処か魔力無しであるニーポニス人を侮っていた。

しかし、異形の巨鳥が我が物顔で領土の上空を飛び回り、カクーシャ帝国の闇を赤裸に暴いた絵と文章の書かれた紙を国中にばら撒いた事で、ヒシャイン公国は未知数の力を持つニーポニスに恐れを抱いていた。

 

『カクーシャ帝国の所業は一部我らも掴んでいた事だ。だが、これだけ奥深くに浸透し、かの国の実態を暴くなど既に我らの内情も奴らニーポニスに筒抜けである可能性が高い。』

 

『くそっ、ニーポニスめ、どこだ?どこに潜んでいる?カクーシャ帝国に釣られてニーポニスを刺激しすぎたか?このままでは我らもっ!!』

 

『大変です!カクーシャ帝国に潜んでいた密偵からの報告です・・・!!!』

 

慌てたように兵士が、会議室に勢いよく入室し、懐から羊皮紙を取り出す。

 

『・・・はははっ、あの巨鳥は火すらも吐き出すか。』

 

伝令の兵士が手渡した羊皮紙を読んだ貴族の男は、手を震わせながら他の貴族に羊皮紙を渡し、額に手を当て天を仰ぐ

 

『我らなぞ何時でも潰す事が出来る、という事か?カクーシャ帝国にだけ火を噴いたという事は、我らは眼中にないという事か。』

 

『・・・・・屈辱的です。』

 

伝令の兵士が俯き、肩を震わせる。

 

『致し方あるまい、事実我らは兵士の練度こそ勝るがカクーシャ帝国には敵わなぬ。』

 

『元よりニーポニスはカクーシャ帝国とは比べ物にならない程の軍事力を持つのだ、我らの工作も気休めにすらならんだろうな。』

 

『魔力無しの種族なのに、あの恐怖の象徴であるカクーシャ帝国を凌駕するとは、正直未だに信じられません。』

 

『指示をいい加減変更するべきだろうな、今後ニーポニスに対する工作を中止し、情報収集を優先しろ、可能な限り奴らの取り決めた法に従い問題を起こすな。』

 

『はっ!!』

 

(魔力無しの劣等人種、そんな評価をつけてしまったのがそもそも運の尽きなのだろうな、果たして我らヒシャインは取り返しのつく場所に立っているのだろうか?)

 

(カクーシャ帝国の次の標的は我らの筈だ、既にニーポニス人の拉致を試みて何度も失敗している、それを口実に攻められても仕方がない、大義名分は奴らにある。)

 

(このままでは、このままでは!!)

 

 

ヒシャイン公国の首脳部は、カクーシャ帝国とニーポニスの戦争の推移を見守りつつ、如何にして自国がニーポニスとの交戦を回避するか苦悩するのであった。

 

 

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カクーシャ帝国にて・・・。

 

 

カクーシャ帝国の首都は先日空を我が物顔で飛び回り精巧な絵が描かれた紙を大量にバラ撒いた巨鳥の事で騒動が起きていた。

 

『あの巨鳥がまさかニーポニスの操る巨鳥だったなんて!』

 

『それよりも本当なのか?ニーポニスの首都の絵はどう見ても神々の住む街としか思えないぞ?』

 

『奴らは魔力無しじゃなかったのか?それとも実は魔力を隠していただけなのか?』

 

『俺たちはニーポニス人の情報を国や行商から伝え聞くだけだ、奴らが言っている事が本当かどうかも分からん、もしかしたら人食い族みたいな魔力の権化なのかもしれん。』

 

『少なくともあの巨鳥が地上に降り立って暴れたら手が付けられない、炎を吹き、人を食らう巨鳥なんて甲獣とは比較にならない程の被害が出るぞ?』

 

『そもそも、あれは鳥だったのか?どちらかと言うと鎧虫の一種にも見えたが。』

 

『どちらにせよ、ニーポニスは片手間で倒せる様な蛮族では無いという事だ、これは我らカクーシャ帝国の存亡をかけた戦いになるに違いない。』

 

『しかし、貴族連中め、裏で人間の体を使った魔道具を作り出していたとは、これで勝てなければ周りの国はカクーシャ帝国に一斉に牙を剥くぞ?』

 

カクーシャ帝国王城は、異形の巨鳥と巨鳥がばら撒いたビラの情報収集を行っていた。

 

『これより御前会議を開始する。』

 

定期的に行われるカクーシャ帝国の御前会議は、平時では税収や作物の育ち具合、属国からの徴収など他愛もない内容で終了してしまうが、今回は事態が事態なだけに重苦しい空気が漂っていた。

 

『先日飛来した巨大怪鳥はニーポニスの使役する魔獣と判明しておりますが、奴が空からバラ撒いた紙片の回収と住民が内容を読むことを禁止しました、残念ながらあまり効果がありませんでしたが・・・。』

 

『ぬぅ、ニーポニスめ侮り過ぎたか・・・。』

 

『それと、周辺諸国の様子がどうにもおかしいです、もしかしたらあの巨鳥が他国にも例の紙片をバラ撒いた可能性が高いです。』

 

『周辺諸国だけでなく属国も反応が鈍いです、やはりあの巨鳥の影響としか考えられません。』

 

『兵の士気の低下も深刻だ、特に属国の兵が顕著だ。』

 

突如扉が開かれ伝令の兵士が息を切らして走って来る。

 

『た、大変です!キョーシャ傭兵国に進軍した制圧部隊がニーポニスを相手に全滅したとの事です!』

 

『なんだと!?』

 

『そ、そんな馬鹿な!!』

 

ある者は勢いよく立ち上がった反動で椅子を倒し、ある者は衝撃のあまり椅子に座ったまま崩れ落ちる。

 

『何と言う事だ、あの巨鳥が現れた事で薄々嫌な予感がしていたが、まさか魔力無しの蛮族を相手に敗れるとは!!』

 

『まさか、あの巨鳥の吐く炎に焼き尽くされたというのか?』

 

『い、いえ、調査隊によると穴だらけの鎧や地面が掘り返された様な窪みが幾つも広がっていたとの事で、どのような攻撃で全滅したのか不明との事です。』

 

『・・・・まだ他にも魔物を従えているという事なのか?』

 

『そう言えば、ニポポ族は鎧虫を使役する術を操ると密偵が報告しておりました。』

 

『鎧虫か、もしかしたら鎧虫だけでなく魔物全般を使役する術を身に着けているのかもしれん。』

 

『成程、ひ弱な魔力無しが魔獣を意のままに操れると言うのならば、この被害も納得できる。気に食わないがな。』

 

魔物の使役、過酷な自然環境と戦っていたカクーシャ帝国にとって、魔物を意のままに操るという事の脅威を本能的に理解していた。

 

『このままでは、不味いぞ。』

 

老齢の貴族が呟く。

 

『もしも、鎧虫の群れが物量で攻めてきた場合は、鋼鉄の鎧で武装していようが巨体に押しつぶされてしまう。』

 

『甲獣の番を相手にするよりも厄介だな。』

 

『それよりもどうすると言うのだ?何も手を打たねば勝機は得られないぞ?』

 

『いえ、希望はあります、今開発を急がせている魔道具が完成間近との事です。』

 

『おおっ!!』

 

新型の魔道具、その原型は大型の鎧虫や甲獣の外殻を砕くための魔導兵器であるが、大量のリクビトの魔石を使用する上に弩砲の様に大型の為、拠点防衛用に使われていた。

それを元に、通常の魔杖と同じ大きさに小型化する目的で研究が進めれれていたが、つい最近入手した人食い族の魔石によって出力の問題が解決し、携帯できる対・甲獣用の決戦兵器が誕生しようとしていた。

 

『実験では、重ね合わせた甲獣の外殻を薄布の様に貫通する威力です。』

 

『素晴らしい、これをさらに改良すればあの巨鳥も・・・。』

 

『直ぐに伝令を出せ!属国の兵を召集せよ!』

 

『蛮族・ニポポ族を打ち破るぞ!』

 

カクーシャ帝国は、トガビトの萌葱色の魔石を魔杖に組み込み、強力な魔導兵器を開発し、人類の敵であるニーポニスをこの世から滅するために行動を起こした。

 

 

 

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とあるカクーシャ帝国の属国にて・・・。

 

 

『はぁ・・・・。』

 

『俺たちは一体何と戦っているんだ?あんな得体のしれない魔物を操るなんて。』

 

『それにカクーシャ帝国もそうだ、俺がニーポニスとの戦いで戦死しても恐らく親父やお袋には俺の魔石は帰ってこないだろうし、全部カクーシャ帝国が持っていっちまう。』

 

『カクーシャ帝国に忠誠を誓ったはずなのに、こんな扱い、一体何のために軍に志願したのか分からなくなっちまうよ。』

 

『何度も隣国をカクーシャ帝国に付くように説得した、その上で応じなかったかつての友好国をカクーシャ帝国軍と一緒になって滅ぼしもした、悲しかったがそのお陰で我々の地位も幾らか上がった、だと言うのに・・・。』

 

『うん?』

 

監視塔の上から兵士が街道を進む影を捕える。

 

『あ・・・あれは・・・。』

 

兵士の額から汗が噴き出す、宗主国であるカクーシャ帝国軍が列を乱さずこちらを目指しているのである。

 

『先触れは無かった筈だぞ!?』

 

『と、兎に角門を開けろ!』

 

重い音を立てて門が開かれ、カクーシャ帝国軍が城下町へと入ってくる。

 

『領主に伝えよ!これよりニーポニス討伐軍を召集する。』

 

『なっ!?』

 

『まさか、あの巨鳥を操るニーポニスを!?』

 

『何だ、不満か?』

 

『いえ、その様な事は・・・。』

 

『ふむ、巨鳥に恐れをなして拒否した属国は消えたぞ?使えぬ者に用はない。』

 

『な、なにを!?』

 

『あぁ、そうだ、人食い族の真似をする野蛮人なぞ宗主国では無い、だったか?下らぬ理由で反旗を翻した愚か者もおったな、だからどうしたというのか。』

 

『・・・・・。』

 

『後で巨鳥のバラ撒いた紙片を全て提出せよ、内容も民に読ませるな。』

 

『・・・・ははっ。』

 

日本が大陸中央部の国々にばら撒いた印刷物はカクーシャ帝国の足並みを乱したが、カクーシャ帝国はそれに対して力で統制した。

 

属国のカクーシャ帝国に対する不信感は高まっていたが、改めてカクーシャ帝国の恐ろしさを再確認した属国と周辺国はその圧倒的な武力に恐れを抱くのであった。

 

 

 

 

 

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キョーシャ傭兵国自衛隊前線基地にて・・・。

 

 

自衛隊は相変わらずキョーシャ傭兵国首都の防壁を改造して前哨基地を強化していた。

 

「カクーシャ帝国に不審な動き?」

 

「あぁ、グローバルホークによる観測で確認したそうだ。」

 

「属国に呼びかけして兵を召集している様だな。」

 

「後は、従わない属国の焼き討ちか、全くえげつない。」

 

「この前バラ撒いた伝単が効果を上げ始めたのかもしれないな。」

 

「潜入捜査部隊によるとカクーシャ帝国に従っていない中小国も、連合を組んで対抗する動きも見せているらしい。」

 

「反旗を翻した属国も合わさってそれなりの規模になりつつある、カクーシャ帝国包囲網が形成されるかもな。」

 

テーブルに置かれたマグカップのすっかり冷めてしまったムクムルコーヒーを飲み干し、空撮された写真をめくる自衛官。

 

「ふむ、ついにカクーシャ帝国は本腰を入れてこちらを潰しにかかるそうだ。」

 

「まだまだ奴らが動き出すまでに時間がかかる筈だ、一か所とまではいかないが、各基地に敵が集まっている、一網打尽にするチャンスだ。」

 

「大陸沿岸部の国々とは規模が違うな、ルーザニアの城塞と同規模の基地が複数存在するとは。」

 

「伊達に大陸中央部最強の国と呼ばれている訳では無いという事か。」

 

「敵もまさか集まっている所に攻撃を仕掛けてくるとは思ってもないだろうな?」

 

「ルーザニアの時とは違って基地が分散しているから、航空支援で一気に片を付けてしまいたいな。」

 

「だが、空爆で全ての敵を倒す事は出来んだろう、やはり陸戦力が必要だ。」

 

「ケーマニスの飛行場も大分設備が整ってきたが、物資の収集がまだ進んでいない、安価な通常爆弾なら幾らか運ばれてきてはいるが・・・。」

 

「まぁ、敵基地周辺には民間施設の類は殆ど確認されていないから民間人が巻き添えを食う事は無いだろう、LJDMが使えるに越したことは無いが。」

 

「カクーシャ帝国の継戦能力を奪い、敵首都に突入し皇帝の捕縛、そうなれば上出来なんだが、そう上手くは行かないだろうな。」

 

「そりゃそうだろうよ、少なくともロケットランチャーの様な威力の魔法を使う戦力を保持しているんだ、犠牲者が出る可能性だってある。」

 

「トガビトの魔石か、それ程数は揃えていないだろうが、あの威力は脅威的だ、当たれば唯では済まない筈だ。」

 

「類似の兵器が配備されている可能性もある、警戒するに越したことは無いだろう。」

 

「全く、大陸沿岸部の足場を固めて大陸中央部に進出した矢先にとんでもない連中に絡まれたもんだよ。」

 

 

 

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カクーシャ帝国王城にて・・・。

 

 

ニーポニスの使役する巨鳥とバラ撒かれた紙片の調査結果が出た事で、会議が開かれた。

 

『ニーポニスの情報に踊らされおって、愚かな反逆者共め。』

 

『しかし、いつの間に我らの内情を探られたのでしょう?これは由々しき事態ですぞ!』

 

『小賢しい、我らが人類の敵だと?我ら以外に人類など存在せぬ。』

 

『確かに、代々軍務に就いてきた貴族の一部には人食い族の様な力を得る儀式として敵兵の死体を食らうが、それで人食い族の様な亜人に変異した者は現れていない。』

 

『だが、ある程度成果があったのか、世代を重ねるごとに生まれてくる子の魔力が高まって行ったのだ、一体何が悪い?』

 

『左様、万物はカクーシャ帝国の為に存在するのだ、我らの糧になる事は名誉であると言うのに、劣等民は理解せぬ。』

 

玉座に座る皇帝が重々しく頷く。

 

『そうだ、この大陸全土、世界全ては我らの為に存在する。』

 

『この世にはびこる愚かな近縁種共から我らの土地を取り返すために、地の果てまで覇道は続くのだ。』

 

『そして、人食い族の隠れ里を見つけ出し、奴らを絶滅させてこそ、この世界は本来のあるべき形に戻るのだ!』

 

『魔力で青く光り輝く草木と生命の息吹、かつてこの世界に存在した青き世界(アルクス)!!』

 

『それを人類の手に取り戻す事こそ我らに課せられた使命なのだ!!』

 

『人食い族と誼を結ぶニポポ族もこの世に存在するべきではない、魔力を持たぬ人間未満の劣等種族がこの大陸の土を踏む事自体が罪なのだ!』

 

『我らに恭順せぬ愚か者どもを殲滅せよ!魔力を持たぬ劣等民族を蹂躙せよ!そして人食い族を抹殺せよ!』

 

皇帝の号令に歓声が上がる。

 

『おおおおおおぉぉぉぉ!!!』

 

『カクーシャ帝国万歳!皇帝陛下万歳!!』

 

 

カクーシャ帝国は、本格的に日本国を敵として認め、日本人と言う人種を絶滅させるべく動き始めるのであった。

 




ペースを維持するのは大変ですが、テンポよく投稿していきたいですねー。

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