森の奥深くで前時代の遺跡と思われる石碑の調査を終えた我々は、更に森の奥へと向かうために装備を確認した。
すぐにでも出発したい所だったが、遠征に慣れていない異世界人の同行者が居た為、休憩を挟んだ。
荷物持ちと思われるバックパックを背負った従者は、何重にも巻いた布から塩漬けされた乾燥肉を取り出し、カチカチに乾燥させたパンに載せて簡単なサンドイッチを作っている様だった。
一方自衛隊は、白飯や鳥の野菜煮の缶詰を開封し、折り畳み式のテーブルを設置し、昼食の準備をしていた。
一見金属の塊で出来た何かの触媒に見える魔道具の様な物が、実は調理積みの食材を運ぶための物と分かり、驚愕と好奇心の眼差しで同行者の異世界人は見つめていた。
『ア・ タベマス・カー?』
野菜と何かの肉を煮込んだ料理と思われる物を差し出す、ニッパニアの兵士、不安と期待を感じつつ、青銅の器に入った料理を口に運び異世界人の神官は目を見開く。
「おおっ!?か・・かよう美味なる物が、調理したままの状態で持ち運べるとは!」
『シオカラ・ク・ナイデス・カー?』
「塩気が濃すぎていませんか?と仰っているそうです。」
「はははっ、何、そもそも携帯食など日持ちさせるために、塩は大量に使う物であろう?むしろ、良くここまで抑えたものだと思うよ。」
「何というか・・・我々の携帯食が彼らに比べて、少し寂しく見えますね。」
「言うな、まさか大鍋担いで調査する訳にも行かんだろう。」
「あ・・・・・・彼らに交換した塩漬け肉・・・意外と好評ですね。」
『チョ・ト・シオカラ・イ・ケド・ビーフ・ジャーキー・ミタイー』
「最初のうちは美味しく感じるかもしれないが、ずっとこれが続くと、不満が出てくるものなのだがな・・・。」
「ニッパニアの携帯食は、種類も多いみたいですし、飽きが来ない様になっているのかもしれませんね、青銅の容器の料理・・・我々も研究してみる価値が有りますね。」
食事の後片付けをした後、再び荷物を整理して、大森林地帯の奥地へ向かう調査隊一向、暫く歩き続けていると、生えている木々の種類が変わり始め、森の雰囲気が一変した。
こぶが多い、白い大木には、何かの動物の爪痕があり、その傷口から白濁液がしたたり落ちていた。
「妙な木だな、傷がつくと、白い液体が滲み出てくるみたいだが・・・。」
「何とも言えない匂いですね、っと・・・・ほら、ダガーで刺したら直ぐに樹液でべたべたになる。」
「しかし、この爪痕・・・・相当に巨大な野生動物がつけたんだろうな?熊でもいるのかもしれんが」
「妙ですね、この爪痕、少し焦げています。」
「こないだ、殲滅した火吹きトカゲと熊が争ったのかもな。」
「火吹き熊じゃない事を祈りますよ。」
「おいおい、勘弁してくれよ、魔物とかにカテゴリーされている原生生物は、冗談抜きでやばいんだよ、中には銃が効かない固い奴も居るんだし。」
「まぁ、戦車を相手にするよか、よっぽどマシだろう?」
「それはそうなんだが、鎧虫騒動がどうにも頭に残っていてな・・・。」
みしみし・・・・ベキン!!
斜め後ろの茂みから木をへし折る音と共に、赤黒い特徴的な剛毛に覆われた、ヒグマの様な動物が現れ、歯茎をむき出しにして調査隊を睨みつけた。
「で・・・でたっ!おぶっ!」
「馬鹿!刺激するな、視界を外さないで後ずさりしろ、静かにだぞ!?」
「だ・・・駄目です!突っ込んできます!!」
テリトリーを侵された巨大な熊型生物は、地球の熊の様に二足で立ち上がり、両手を広げて威嚇すると、地面を抉りながら、その巨体に見合わない速度で突進を開始した。
「こっちくんなオラァ!!」
安全装置を解除し、連射に切り替え、タタタン・タタタンと一定のリズムで熊型生物を攻撃した。
ぐぼおおおおおおおおっ!!
思わぬ反撃を受けた熊型生物は、突如咆哮を上げると、赤黒い体毛の特に赤い部分が発光し、折りたたまれていた爪を展開させ、戦闘態勢に移った。
「くそっ!効果が薄い!」
「血を吹き出しているところ見ると効いている筈だ!撃ち続けろぉ!!」
「隊長!あれを!!」
「っ!!おいおい、嘘だろ?」
熊型生物は、展開した爪から炎を吹き出し、赤熱するほど高温になった爪を振り回し、周囲の木々を蹂躙した。
「っぶねぇ!」
調査隊に向かって爪で吹き飛ばした木片を浴びせ、何人か負傷する。
「やろう、血が上ったと見せかけて、中々クールじゃねぇか!ついでに頭も良い」
「!!!来ます!」
両手を広げた状態から、抱き着く様に爪を交差させる・・・・寸前のところで、これを回避すると安全ピンを抜いた閃光手榴弾を熊型生物に投げつける
凄まじい閃光と、轟音が辺りに響き、それを至近距離で食らった熊型生物は、悲鳴を上げながら転げまわった。
両耳を塞ぎつつ、全力で走り、熊型生物から離れると、抱えていたロクヨンを構え、発砲しながら後退する。
「今だ!撃て!!」
「隊長!こいつで吹っ飛ばします!!」
「おい、そいつは・・・いや、分かった、奴から離れろ!」
「これでも食らえ!!」
「っ!!!全員伏せろ!!」
噴射音とともに射出された、光の矢が尾を引きながら直進し、吸い込まれるようにして熊型生物に命中する
断末魔の悲鳴と共に血肉をまき散らしながら下半身を吹き飛ばされ、白目をむいて血の泡を吹き出し絶命した。
「っぷぁ、流石にこの距離は近すぎるか、お前ら生きているか?」
「な・・・何とか・・・。」
「全く、馬鹿でかいハサミムシと言い、火を噴くトカゲと言い、一体何なんだよこの森は!」
「こんなのがうろついていたら、確かに開拓なんて進むわけ無いわな」
「後で、死骸を回収しろ、初めて見る種だ・・・」
『何という事だ・・・炎爪熊を倒すとは・・・。』
『彼らが居なかったら我々全滅していましたね・・・。』
『隣国はよくもまぁ、彼らに喧嘩を吹っかけたもんだよ、確かにこれ程の力を持ちながら侵略してこないのが不思議だが』
『確かに・・・だが、彼らには規律がある、暴力をむやみやたらに使わない自身を律する為の掟の様なものがあるのかもしれんな。』
「協力者の方、驚いていますね。」
「むしろ、俺のほうが熊の化け物にびっくりだよ。」
「確かにあんなの、剣だか槍だかで戦って勝つ自信なんてありませんな、人間の領域では無いと言うのも頷けますよ。」
「そろそろ、この調査もお開きだな・・・周辺の生体サンプルを採集後、撤収準備だ。」
今回の調査で、様々な生体サンプルや、遺物などが回収され、様々な有用な動植物が発見された。
中でも、天然ゴムに加工が出来る木が発見されたのはとても大きな収穫であった。
ガムドロの木 通称、白泥樹
和名.コブアリゴムノキ
異世界の大陸に生息する天然ゴムが採取できる木。
大陸の中心部を覆うように広がる大森林地帯の奥に群生しており、こぶ状の膨らみのある樹皮に大量の天然ゴムの元となる樹液を溜めこんでいる。
花は燃やすと防虫効果のある煙を発生させるため、大陸の住民は、花を防虫剤として利用しているが、天然ゴム自体は発見していないので利用していない。
野生動物のマーキングに樹皮を傷つけられると、白濁液を漏らすので、不吉の象徴として集落に植えたがらない為、人里ではめったに見かける事は無い。
その為、この木の樹液を手に入れるためには必然的に危険な大森林へ向かわなければならないので、入手が困難。
少数人里でも確認されているので、人工栽培が出来ないか現在研究中である。
レディカ・ベルサ 通称 炎爪熊
和名.アカヅメホムラグマ
異世界の大陸に生息する赤黒い体色をもつ、熊の様な動物。
地球でいう熊に近い生物だが、爪が折り畳み式などと、地球の熊とは違う系統の生物という事が判る。
鋭い爪に高い含有量の魔鉱石を有しており、興奮時に折り畳み式の爪が展開し、爪が発火、赤熱するほどの熱量を誇る様になる。
基本的に雑食性で、大型昆虫や木の実などを食べて、食糧が無くなると別の場所に移動する。
番で子供を育てる習性があり、育児中や繁殖期の時期になると、雄雌両方が非常に狂暴化する為、この熊の生息域には近づかない方が良いだろう。