異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第23話   森の民との遭遇

空から舞い降りた斑模様の兵士たちは、数年前に放棄された畑に一時拠点を作り、大森林の集落と接触をしようとしていた。

 

 

「全く、調査だけなのに、この重装備・・・・住民に威圧感を与えないかねぇ・・・。」

「前回の調査で馬鹿みたいにデカい熊が現れたらしいじゃないか?用意するに越したことは無いさ」

「その内、ドラゴンでも現れるんじゃないか?燃える爪を持った生物なんて、おとぎ話でしか見た事ないぞ?」

「ははっ、となると、俺たちはドラゴンスレイヤーと言う奴か?」

「ある意味、この前、イロコイのミニガンでミンチにした、オオトカゲがドラゴンと言えなくもないですね。」

「随分とショボイドラゴンだ事だ、まぁ、青銅の武器で挑みたくない相手だがな。」

「死の森と言っても、青銅器時代相当の文明の軍隊ですからね、我々なら何とかなるでしょう。」

「炎爪熊はロクヨンが効かなかったんだ、油断はするなよ?」

「隊長!天幕の設営が終了しました。」

「よしっ、30分後に接触に移るぞ?各自待・・・・」

「周囲に人影が!包囲されます!」

「何?」

 

 

大森林にすむトワビトの魔術師部隊は、焦っていた、既に何回も強力な幻惑魔法を浴びせているのに、まったく効果が無いように見えた。

こうなったら、接近して飛び切り強力な幻惑魔法を叩き付けるしかない、下手すると狂死するレベルの攻撃魔法に近い物になるが、背に腹は代えられない。

 

 

「アドル、奴らには幻惑が効かないのか?」

息も絶え絶えに幻惑魔法を広範囲に放つ魔術師が、魔術師部隊のリーダーに言う。

「仕方がない、近距離で浴びせるぞ!弓に警戒しろ!」

「追い払うのが目的でなかったのか?これでは、攻撃となんら変わらんぞ?」

近距離で浴びせるという事は、それだけ強力かつ高密度な魔法を浴びせるという事であり、並なリクビトなら精神負荷に耐えられずに死んでしまう魔術である。

攻撃されたと取られてもおかしくないものだった、そうなると相手を追い払うどころか正面からぶつかる事になってしまう。

「これだけ強力な物を浴びせられているのにも関わらず、風でも吹いたのかと言う顔だ、恐らく幻惑魔法にかけられていること自体に気付いていないのかも知れん。」

「この魔法すら効果がないのならば、攻撃魔法に切り替えるしかあるまい、だが、交渉可能ならば、穏便に立ち去って貰いたい所だ。」

「魔法をかけ続けていた相手に、それと気づかず交渉に乗ってくれる連中ならば良いのだがな・・・。」

半ば自虐的に答える魔術師、しかしリーダーのアドルは仲間が傷つかずに済むなら、それでも良いと思い始めていた。

 

 

 

「魔術師の部隊と思われる者が接近中です、包囲されつつあります!!」

「装備は・・・杖に短剣?恐らく魔法が本命なのだろう、魔法攻撃に警戒しろ!」

「いえ、既に魔法の杖が発光しています、何かをこちらに照射し続けているみたいです!」

「人魚の時と同じく幻惑魔法か?向こうとしても正面衝突は避けたいみたいだな」

「あまり気持ちの良いものではありませんねぇ・・・効かないと分かっていても」

「まぁ、我々は勝手に玄関に上がり込んだ不法侵入者だ、警戒されてもおかしくは無いだろう」

「同じようなやり取り、ソラビトの時もあったよなぁ、ま、お約束と言う奴だな」

「幻惑魔法は完全に無視しろ、体の構造上、我々には効果がない、それよりも火の玉や氷の槍のほうがよっぽど厄介だ。」

 

 

『何をしに現れた!?ここは、我らトワビトの領域、リクビトの居て良い場所ではない!』

 

荒野の民が使う言葉と共通した言語で怒鳴ってきた未確認種族、その姿はおとぎ話の妖精の様に、耳が細長く、神秘的な雰囲気を持っていた。

 

『我々は、日本国より派遣された、陸上自衛隊です!未調査領域の探索及び、交渉に訪れました!敵対の意思はありません!』

拡声器によって増量された声に驚きつつも、向こうも交渉の余地がありと認識し、返答をする。

 

『ニーポニア?聞いたことも無い国だな?敵対するつもりが無いならば、即刻立ち去るが良い!我らの領域を侵す者は何人たりとも許しはせん!』

『せめて、話だけでも聞いていただけませんか?我々と国交を結んでもらいたいのです!』

『断る!リクビトのいう事は信じられぬ!』

『我々はリクビトではありません、異世界よりこの世界に来た者です。』

『リクビトではない?いや、確かに魔力を全く感じられぬ、この様な者たちは今まで見た事が無い・・・一体どういう事だ?』

『詳しい事は後で話しますが、時空災害によって元の世界から切り離され、この世界に組み込まれてしまったのです。』

別な世界から訪れたと言う話に驚きつつも、魔法の杖の構えを解かないトワビトと名乗る種族の魔術師

しかし、言葉が通じる相手という事で、僅かにその場の空気が和らいだように感じた。

 

『いいだろう、仮にこの世界の者では無いとするならば、事情を知らなくても仕方あるまい、後ほど交渉役を連れて来よう。』

『有難うございます。』

『だが、我らの集落には近づくな、近づけば警告なしで攻撃するぞ?』

『分かりました、我々は、この草原に待機しています。』

『うむ、だが国交を結ぶことは期待するなよ?我らは、鎖国中でな、今までも自分たちの力だけで生きてきたのだ、他種族と交わる事は無い。』

『貴方達の気が変わる様に努力はしますよ。』

『ふんっ、好きにしろ。』

 

そう言うと笹の様に細い耳を持った未確認種族、トワビトの魔術師たちは集落に戻って行った。

 


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