異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第28話   トワビトとの交渉

金属の鱗を持つ巨大な哺乳類型生物を撃破した自衛隊は、死骸を解体して資料としてヘリコプターに吊るし、大陸にある拠点まで移動させた。

その間、ベースキャンプの防備の強化と、更に大口径の60式106mm無反動砲を持ち込み、原生生物の襲撃に備えた。

 

「退役した60式を引っ張り出してくるとは、在庫処分でもするつもりなのか?」

 

「全く、本格的にドンパチでもする感じになってきたな、はたから見ても調査の範疇を超えているだろ。」

 

「あのデカブツの画像を転送した途端これだからな、まぁ分からなくもないが・・・。」

 

「しかし、死骸なんか持ち帰って何に使うんだかな、学者連中が涎たらしそうなサンプルではあるかもしれんが・・・。」

 

「あのグリプトドンもどきを倒してから耳長の連中、村の門を閉ざしてるな・・まぁ普通は驚くし、恐れても仕方がないが」

 

「デカブツとの戦闘を横から見ていた奴が居たんだろ?それも、何か豪華な服を着た偉そうな雰囲気の耳長が」

 

「耳長は失礼だろ、トワビトと名乗っていたんだから、そう呼んでやれよ」

 

「あぁ、確かそんな名前だっけ?で、その耳長・・・トワビトは、此方の接触に応じているのか?」

 

「がっちり閉じた門ごしにお断りされたとさ、文字通り門前払いと言う奴だ。」

 

「困ったな、折角、調査隊の中から大陸語の上手い奴を連れて来たってのに・・・。」

 

 

 

トワビトの村は、未だかつてないほどの危機感と焦燥感に包まれていた。

村の自警団と魔術師隊を総動員して、ギリギリの所で撃退した鋼蟷螂の群れを、荒野から来たと思われる謎の亜人たちが、いとも容易く撃破した上に、大国を亡ぼすとも言われた古代重甲獣を、彼らの操る火を噴く羽虫が一瞬で首を刎ねてしまったと言う。

 

その圧倒的な破壊力と暴力が、そのまま自分たちに向けられるかもしれないと思うと、狂いそうになるほどの恐怖に苛まれてしまう。

 

「これは、我らの歴史の中でも史上最大の危機ですぞ!」

 

「誰だ、魔力を持たぬ蛮族と言ったのは!化け物ではないか!?」

 

「もしや、人食い族の末裔なのでは・・・?あのような大火力、操れるのはそれしか思い浮かばないです。」

 

「人食い族ですらその様な魔術は扱えぬよ、しかし、魔力を持たない亜人では無かったのか?」

 

「・・・・信じられない事に、奴らの放つ魔導弾からは一切魔力を感じず、古代重甲獣の首を刎ねた光の槍の爆発からも魔力を感じなかった。」

 

「それはどういう事だ?アドル魔術長、魔法以外の何だと言うのだ?」

 

「分からぬ・・・全く理解できなかった、魔力を持たない種族と言うだけでも理解の範疇を超えると言うのに、この様な事・・・頭がおかしくなりそうだ。」

 

「それで・・・・奴らに動きはあるのか?」

 

未だに村の外に居座る謎の軍勢の動向を知る事は最優先事項であるため、定期的に伝令が、会議室を出入りしていた。

会議室の入り口に待機していた伝令の戦士は、獣皮紙を広げ、報告する。

 

「何度も彼らの使者と思われる者が訪ねてきます、会議を理由に村の中には入れていないのですが、いつ強硬手段に及ぶか・・・。」

 

「くそっ、忌々しい!一体我らをどうしようと言うのだ!?」

 

「しかし、最初から強硬な手段に出て来ない辺り、彼らにはそれなりの自制心があるのだろう、だが我らと関係を持とうという目的が解らない。」

 

「森にまでその領土を広げるつもりなのでは?我々を身内に引き込めば、森での動きが幾らか出来るようになりますし」

 

「この森は我らの領域、余所者にくれてやるつもりはない!」

 

 

突如、会議室の扉が開かれ、新たな伝令が現れた、しかし、彼の表情は蒼白としていた。

 

「報告します!再び、使者が訪れました・・・し・・しかし!!」

 

「何事だ!一体どうしたと言うのだ!?」

 

「そ・・・それが、何時もの様に数名の兵士ではなく、巨大な鎧虫数匹に兵士が何人も乗って現れたのです!」

 

「何だと?くっ、遂に来たのか!兵士を集めろ!急げ!!」

 

 

 

自衛隊は軽装甲車に乗ってトワビトの村の門の前に訪れていた。城塞都市警備隊の中から特に大陸語が得意な者を引き抜き、交渉役として派遣した。

しかし、大陸語を習得した者は、まだ少なく、大陸と交流をする為、初期段階からウミビトから大陸語を学んでいた者は特に重宝した。

それ故に技術を習得した人員の安全を確保する為、大型ヘリで軽装甲車を運んできたのであった。

 

 

「交渉に当たる我々を守ってくれるのは有りがたいんだが、何というか・・・威圧感凄まじくないか?」

 

「そうか?戦車ならともかく軽装甲車たったの3両だぜ?」

 

「いやいや、この世界の住人は、自動車自体見た事が無いんだ、幾ら軽装甲車とは言え、ごつごつした金属の塊の勝手に動く車を見たら驚くだろ?」

 

「一応馬車自体はあるみたいだが、馬などに牽引させているからなぁ・・・城塞都市の連中も最初ビビっていたし、警戒している相手にこう言うの見せてよいのやら・・」

 

「おっと、噂をすればやって来た様だぞ?歓迎ムードでは無さそうだがな」

 

「仕方ないだろう、さ、腕の見せ所だぞ、交渉役さん。」

 

 

村を囲む防壁から、完全武装したトワビトが数名現れ、自衛隊の前に立ちはだかる。

 

 

『何度来ても無駄だ!その様な鎧虫を嗾けようと、我らは貴様らに組する事は無い!!即効立ち去れ!』

 

『アー・・・エーット・・・交渉役・・・連れて来タ・・・大陸語、上手い人。』

 

『ふん、多少会話が出来る者を連れて来ようが変わら・・・ん・・・?』

 

『初めまして、私は日本国の陸上自衛隊に所属します柳田と申します。』

 

『あ・・・あぁ、ところでお前のつけているそれは一体何だ?』

 

 

トワビトの戦士が、迷彩服に縫い付けられている青い鱗の装飾されたワッペンを指さしながら、驚きの表情を浮かべていた。

 

 

『?・・・これですか?これは、ウミビトの皆様から贈られた、飾りです、大陸語を彼らから学んだ者は、全員これを身に着けているのです。』

 

『ウミビトだと!?貴様らは海の民と交流を持っているのか?』

 

『えぇ、とは言っても、彼らの国は既に滅び、我々が保護している状態ですが・・・。』

 

『滅びた!?貴様ら一体彼らに何を・・・いや、保護したと言ったな?』

 

『彼らの国の中心で、大規模な海底火山が噴火したのです、国の建物は殆ど倒壊し、溶岩に飲み込まれ、壊滅的な被害が発生したと聞きます。』

 

『そんな・・・海の民が・・・ウミビト達が・・。』

 

『あの・・・もしかして、貴方達も彼らと交流を持っていたのですか?』

 

『うむ・・遠い昔、な・・・。』

 

『これ程内陸の、それも人が踏み込めない地で、海の民と交流を持っていた人達が住んでいるなんて・・・。』

 

『我々は元々、あの荒野に住んでいたのだ、それまでは荒野の連中と大して変わらん種族だったのだよ。』

 

『成程、荒野から森に移り住んだわけですね?』

 

『あぁ、しかし、お前たちとは一度話し合いの場を設けるほうが良いのかも知れんな。』

 

『それは、有り難い事です。では、いつ頃になりますか・・・?』

 

『準備が出来たら使者を送る、それまでは、外で待て、貴様等ほどの魔術師ならば、森の獣など追い払えるだろう?』

 

『我々は魔術師ではないのですが・・・・分かりました、森の草原で待機しております。』

 


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