青く穏やかな海を滑るように走る、純白に塗られた巨大な鉄の船、使節として派遣されたトワビトは、異空の民の地へと向かっていた。
「全く、改めて思うけど、イクウビトは何から何まで常識外れの物を持っているんだねぇ・・・。」
アルティシアが呆れたように呟く
「私も若い頃、森の外でリクビトの振りをして、荒野へ旅をした事があるが、帆が無く、鉄でできた船など初めて見たぞ」
「若い頃と言っても、貴女はまだ十分に若い方じゃないかアドル魔術長・・・ま、リクビトからみたら十分に年長さんだけどね。」
「イクウビト・・・この世界とは違う世界から訪れた民・・本当なのだろうか?」
「別世界から来たか来ないかは、私にとっては、あんまり関係ないね、兎も角、私達とはかけ離れた高度な文明を持つという事は間違いないのだから。」
「そうだな、何にせよ、これから奴らに話をつけるのだ、これ以上の事は陸地についてからにしよう。」
デッキから船内に戻ろうとすると、扉が開き、交渉役の自衛官が現れた。
「どうですか?海は、とても綺麗でしょう。」
「あぁ、ヤナギダ殿、森の中ではとてもこのような光景は見れません、こう言うのも悪くないものですね。」
「そうですね、ところで、素のままで話されても結構ですよ、そっちの方が気が楽ですし。」
「おや、そうかい、すまないね。しかし、ニーポニアは本当に凄い物を持っているんだね。」
「ふふっ、きっと我々の国を見ると驚きますよ、ウミビトもそこで暮らしている方も多いのですよ。」
「陸地で海の民が生活できるのか?ヤナギダ殿」
「えぇ、突貫工事ではあるものの、一部の施設をプールに改造しており、彼らの必要とする物をこちら側で揃えているのです。」
「プールと言うものが何だか解らんが、彼らを助ける事で貴方達にどの様な得があるのだ?不死の力も異空の民には効かないと聞くが・・・。」
「実際に回復魔法の類が効かない事が判明しているので、恐らく、効果が無いと予想されているだけです、未知の部分ですね。」
「試すつもりなのか?」
アドル魔術長が、睨みつけるような目で視線を送る。
「そんな、非人道的な事出来る訳がありませんよ!国を失い、拠り所の無い彼らにどうして、その様な仕打ちが出来ましょうか!」
憤りの混じった声で、思わずと言った感じで柳田が否定する、勢いに押されてややアドル魔術長は引くが、そんな様子を見てアルティシアはにやけていた。
「う・・・そ・・・そうだな、貴方達はどうやらリクビトと根本的に思考が違う様だ・・。」
「珍しく押されているねぇ・・・アドル魔術長。」
「茶化すなアルティシア」
「しかし、リクビトやその他、亜人の国から金銭や資源と引き換えにウミビト狩りを許可せよと言う打診があるのも事実、当然そんな要求は突っぱねておりますが、いつ強硬手段に及ぶか・・・。」
「不死の力に目が眩んだか、荒野の野蛮人共め・・・」
「ウミビトの肉の力と、森の魔力の影響で変異した私たちが言うのも何だけどね・・。」
「貴方達は海の民に借りがある、と言っていましたね、日本に着けば、彼らに会えますが、先ずは国交を結ぶために会談をする事になると思いますが。」
「国交を結ぶことになるかは、貴方達次第だ、我々は基本的に外部と交流を断っている。」
「むしろ国交の方はおまけで、ウミビトと話すことが主な目的だからねぇ。」
「アルティシア!!」
「ひゃっ!?・・す・・・すんません。」
「いや、良いのですよ、ぽっと出の私達より、古い友人のほうが信用できると言うのは理解できますし。」
「気を悪くしないでくれ、柳田殿、彼女はいつもこの様な調子なのだ。」
「別に気にしておりませんよ。ところで、現在の海の民は王族が居ないので、議会制になっており、各都市の有力な者を集って国を纏めているのです。どの代表と話すのですか?」
「王族が存在しない!?・・・そうか、あの戦乱で・・・いや、良い、我々と話が出来るウミビトの議員と合わせてくれないか?」
「えぇ、そう言えば、ある大学で海の国の戦士長とその娘たちが出入りしていると聞きましたな・・彼らも海の国ではそれなりの地位を持つ者ですし、彼らが良いかもしれませんね。」
「戦士長か・・・悪くは無いな、アルティシア、ニーポニアでの活動の予定に組んでおけ」
「はいはい、分かりましたよ魔術長。」
「では、そろそろ船内に戻りましょう、日本に着くまでまだ、少しかかりますし、ゆっくり寛いで下さい。」