異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第33話   日本に馴染むウミビト

水族館用の巨大水槽が連なる海の民の仮設住宅、廃業した水族館を改装し、海の国の建物に似せた内装に改造された大型水槽に彼らは住んでいた。

最も、海の民の大部分は、伊豆諸島周辺の海域に住居を移しており、都心で生活する者は、海の国の有力者や元貴族階級などである。

 

彼らは、体表が乾くのを好まないが、元々陸から海に適応した種族なので、長時間の陸上生活もある程度耐えることが出来る。

それでも、基本的に水中生活を好むのだが、この元水族館の仮設住宅では、少し事情が違う様だ・・。

 

 

元々客の休憩スポットとして設置されていた広間に置かれた大型の液晶スクリーン、そこに集う車椅子の少年少女たち・・・。

 

「それー!連続切り!」

 

「その技は見切った!スマァァッシュ!!」

 

「ああっーーー!!」

 

長期間の陸上生活でストレスがたまらないようにと、試験的に置かれた娯楽ルームで、海の民の子供たちは、日本の電子ゲームなるものに釘付けになっていた。

 

「ずるい!ずるいよ!ウルスラちゃん!崖に陣取って足払いばっかりするんだもん!」

 

「そういう時は、思い切って接近してメテオを狙うと良いよ。」

 

「ウルスラ・・・そうやって助言しておいて、新手の技で何度も苛めてるでしょ?少しは手加減しなさい」

 

「違うよ!プリシラのねーちゃん!本気で戦わないとダメなの!」

 

「お姉さまはゲームやらないの?テーブルで玉転がして遊んでいないで、一緒に遊ぼうよ。」

 

「わ・・・私は別に良いの!ミーティアとシンジュクを散歩したり、彼方此方食べ歩いたりしている方が楽しいし!」

 

 

ウルスラは、元からジト目気味の目をさらに細め、呟いた。

 

 

「お姉さま・・・ミーティアお姉ちゃんと買い物行く度に、ラムネ瓶とビー玉が増えているけど、程ほどにしておくんだよ。」

 

「そ・・・それは、関係ないでしょ!び・・・瓶は捨ててるし・・・時々。」

 

「そんなにビー玉好きなら、網に入っているの買えば良いじゃない、あっちの方が安くて種類も量も多いし・・・。」

 

その瞬間、プリシラの目に火が灯った!

 

「ラムネから集めるのが良いんでしょう!」

 

「びくぅっ!?」

 

「確かにね、網でまとめて売っているのは、種類も多くてとても綺麗だけど、ラムネ瓶からコロッと出てくる瞬間が堪らないのよ!」

 

「あの・・・お姉さ・・・」

 

「それにね、しゅわしゅわしたラムネが一度に口に流れ込み過ぎないように、栓をして、少ない量なのに長時間楽しめるのよ!」

 

「う・・・うぅ・・・。」

 

「最近気づいたんだけど、水を入れた瓶にラムネのビー玉を沢山詰めると幻想的な色で光り輝くの!網のビー玉とはまた違った趣が楽しめるのよっ!」

 

「はうはうっ・・・うぅ・・」

 

「それにね、それに・・・・え・・?ウルスラ・・?」

 

「うえぇぇぇぇぇん!お姉ちゃんが苛める~~~!!」

 

「びえぇぇぇぇぇん!」

 

気が付くと、娯楽ルームだった子供の憩いの場は、鬼の形相で迫るプリシラによって破壊され、悲鳴と泣き声のオーケストラ会場になっていた。

 

「えっ・・・えっと、ごめんなさい!ウルスラ、みんな・・・泣かないで!」

 

「お姉ちゃんの馬鹿~~~~!!」

 

「う・・・ウルスラ・・・う・・うえぇぇぇん!!・・馬鹿って・・・ウルスラに馬鹿って言われたぁぁぁぁ!!」

 

そこに、15歳とは言え、海の国ではすでに成人扱いの少女がオーケストラに加わる・・・。

 

 

「プリシラさん、海の国の歴史でちょっとお聞きしたいことが・・・って、うぉっ!?なんだこれ!?」

 

「プリシラ・・・何やっているのよ・・・。」

 

 

阿鼻叫喚の娯楽ルームを鎮めるのに1時間半近く費やした西本教授とミーティアは、大学研究所にプリシラを連れて戻るも、

気力を使い果たし臨時会も長続きしなかったと言う・・。

 


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