異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第35話   教育の重要性

日本と海の国と森の民・・・3つの国が正式に国交を結んでから、暫くして日本に訪れるトワビトも幾らか増えて来た。

森とは違う環境に慣れるまで戸惑う事も多かったが、元々好奇心の強い種族なので、次第に科学文明に興味を持ち始めて行った・・。

 

 

「アルティシア!!凄い発見をしたんだ!」

 

「ひゃぁっ!?アドル魔術長!?脅かさないでよ!」

 

東京と呼ばれる地方の、とある公園で、材質不明な透明な容器に入った橙色の果物の搾り汁を、飲んでいると、いきなり声をかけられて驚きの声を上げる。

 

「済まぬ、しかし、見てくれ!これは、この国が10を数えぬ歳の子供に教育をするための本なのだが・・・。」

 

息も絶え絶えで、全身から蒸気でもあげようかと汗まみれになりつつも、アドル魔術長の目はギラギラと輝いている。

 

 

「あぁ、識字率が凄いって言うんでしょ?それは、最初に聞いたよ、驚いたけど何度も同じ事では驚かないよ?」

 

「見ろ、りか、と呼ばれる分野が載った本なのだが、植物の解体図や虫の生態系、そして簡単な薬学などが大まかに書かれているのだ!」

 

「え?あ?はぁっ!?確か、この国の子供が義務的に覚えなきゃいけない知識の本でしょ?教科書と言う奴?国民をすべて学者にでもするつもりなの?」

 

「植物が何故実をつけるのか、羽虫が何故季節によって姿を消すのか、我々にも良く分かっていない謎が、このような子供向けの本にっ・・・!」

 

「ニーポニア・・・末恐ろしい国だわ、それに、これだけの本を生まれてくる子供全てに支給出来る力も・・・。」

 

「思うに、彼らの文明をここまで押し上げたのは、知識の向上に国力を惜しまず注ぎ込んだ結果なのかもしれん。」

 

「この国の首都みたいな、石の巨塔の群れが出来るのも、知識を持った人間が、それこそ億単位で居るからこそ、という事かな?」

 

「そもそも、この人口は異常だ、億も人が居るのに、奴隷階級が存在しないという事自体も異常だ。」

 

「えぇ、本当に、彼らの故郷と言う世界は、どの様な世界だったのかしら?」

 

「我々が知る由もないがな・・・・だが、この国は、この世界に大きな変革をもたらすのは間違いない。」

 

「そうね、森の皆にこの国で知ったことを出来る限り伝えないと、他の国に差が付けられちゃうわ。」

 

「あぁ、未知の技術の宝庫で、豊かな文化を持ち、そして、信じられないほどお人好しのこの国の全てを伝えなければな。」

 

「拠り所を失ったウミビトを無償で保護したり、不死の霊薬に興味を示さなかったり・・・本当にリクビトとは大違いね。」

 

「さぁ、ニシモト教授の元に戻ろう、あのウルスラと言う少女と遊ぶ約束もしてある・・・。」

 

「アドル魔術長・・・昔から子供好きだからねぇ・・・。」

 

二人の森の民は、大通りにぽっかりと口を開けた地下道へ向かった、日本が交通機関として利用している鉄の蛇の巣穴に・・・。

 

 

 

 

 

 

 


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