大陸有数の城塞都市であるゴルグが日本によって新しい防壁が築かれ、機械化が進んでから早数か月、
民間からの大陸進出の要望と圧力がかかり、日本国政府によって試験的に城塞都市ゴルグとその周辺に限り、
民間企業の進出が許可された。
「いやぁ、異世界の大陸でも醤油と味噌が手に入るのは本当に助かるな。」
「地球には無い食材の味を楽しむのも悪くないけど、基本的に味付けが塩だけだしな。」
「まだまだインフラ整備は出来ていないが、日本の企業が進出してきたお蔭で、随分と嗜好品が手に入る様になったよ。」
「ただまぁ・・・・やっぱりと言うか、ゴルグに元々あった屋台とかは端っこに追いやられちまっているな。」
「立地条件の良さそうな所は買い占められちゃっているし、少し気の毒だよ。」
「崩れた建物は重機で撤去されているものの、まだ、新しい建物は建てられていないからな。」
「ゴルグは大陸に進出するための足掛かり、この街にも復興して貰わないとこっちも困るな、現地の人にも協力して貰わんと。」
ビニール袋では無く、支給されたマイバッグに醤油や砂糖などの調味料を入れ、宿舎に戻ってゆく自衛官、その後姿を見つめる者たちが居た。
「斑模様の兵士さん達、自国の店がゴルグに進出して来てから、めっきり来なくなってしまったな。」
「けっ、だから言ったんだよ、ニーポニアの連中は信用ならんし当てにするだけ無駄だと。」
「いやいや、最初の頃は焼き鎧虫とか穀物粥を買ってくれたんだし、今だって少ないけど客として来てくれているじゃないか。」
「アンタの気持ちは解るよ、爆炎魔法で店を吹き飛ばされて働き場所と住む場所を奪われているからね、でも、無償で小屋を提供してくれたのもニーポニアなんだぞ?」
「はぁ!?あんな木で出来た小屋と石造りの家を比べろってか!?一方的に住む場所を奪ったのは斑の連中だろ!!」
「いい加減にしろよ、そもそも戦争に敗れた国の住民は全員住む場所を奪われ、奴隷にされるのが普通なんだよ!」
「ぐっ・・・・。」
「防壁の外にあったスラム街の住民にも新しい木造小屋を作ってくれたんだ、それも端材じゃないしっかりとした木材の奴をな。」
「それによ、前の防壁の外にあるスラム街だった場所を覆うように新しい防壁を作ってくれたんだ、昔よりも安全で心強いじゃないか?」
「だが、俺達の生活を奪った事は事実だろ!奴らが攻めて来なければ、俺は貴族相手に商売を続けられたんだ!」
「もうだめだコイツ・・・・話にならない。」
「貴族お抱えの商人って奴は、傲慢なのが普通なのか?ニーポニアが攻めて来た理由だって、その貴族さまや王族さまだといのに・・・。」
「まぁ、元々王族の連中は腐っていたからな、石投げ遊びをしていた少女に馬車が傷ついたと難癖をつけて、荷台に押し込んで拉致する事もあったし」
「まったく、ニーポニア様々だよ。」
そして日が沈み、辺り一面は暗闇に包まれた。。
昔のゴルグなら既に町全体が静寂に包まれている筈だったが、異世界の国、日本が持ち込んだ魔道具が街を明るく照らし、
特に日本から進出してきた店の内部は、昼間のように明るかった。
「いやぁ、ニーポニアの店は夜遅くまでやっていて助かるなぁ。」
「飯も上手いし、酒も上質だ!狩の後にはこの、ビィル とか言う奴が最高だぜ!」
「姉ちゃん、ネギマ と言う奴もう1本頼む!!」
「はいはい、少々お待ちくださいねー!」
夜とは思えない活気に、多くのゴルグの住民は、心を躍らせていた・・・一部を除いては・・・。
「畜生、奴らさえ現れなかったら、あの客は俺の物だったのに!」
「何なんだよ、・・・何で香辛料が庶民にも届く値段なんだよ、砂金と同じ扱いだったのにっ!」
「(悔しい、妬ましい・・・ニーポニアが憎い、生活を奪った奴らが憎い、仕事を丸ごと奪った奴らが憎い!!)」
「奴らのせいで商売上がったりだ!どうすれば腹の虫がおさまるんだ畜生!」
『ソルディ・ア・オツカマスター・テェンチョー・モ・キョーツケテェー(それでは、お疲れ様でしたー!店長もお気をつけてー!』
「店仕舞いか、ふん、こんな時間にまで商売を続けていたのか?金の亡者め」
「しかし、こんな夜中に帯剣すらしていないとは、無防備な・・・舐め腐ってやがる」
「お・・おい、早まった真似をするなよ?ニーポニアの憲兵がうろついているんだ、手を出すなよ。」
「奴らは大きな建物一か所に集まって暮らしている様だ、なに、ちょっとだけ見学するだけだよ・・・くくくっ」
「厄介事を起こすなよ、何かが起きても俺は関係ないからな。」
「(ニーポニアの民だ、欲しがる所なんて幾らでもある、一人や二人いなくなっても誰も気にやしないだろう・・・。)」
民間の進出で、大きく変化しつつあるゴルグ自治区、表面上は、かつての都市国家時代よりも大発展し、活気に満ちている様に見えるが、輝きが強い分また闇も濃くなる。
治安は回復し始めてはいるが、大陸に進出した日本に降りかかる災厄の芽は人知れず育っているのであった。